琥珀のまたたき の商品レビュー
魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺した別荘で暮らし始めたオパール、琥珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑やお話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に過ぎていく。ところが、ママの禁止事項がこっそり破られるたび、家族だけの隔絶された暮らしは綻びをみせはじめ...
魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺した別荘で暮らし始めたオパール、琥珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑やお話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に過ぎていく。ところが、ママの禁止事項がこっそり破られるたび、家族だけの隔絶された暮らしは綻びをみせはじめる。(e-honより)
Posted by
通勤時間の行き帰りに電車でちょこちょこ読むのではなく、休日に一日掛けてしっかりと向かい合いどっぷりとその世界に浸りたい、そんな風に思える作品。 美しい文章に御伽噺的な世界、文章一つ一つが想像力を引き立て紗のかかった美しい映像となって頭の中に広がっていく。おかげでページ数の割に...
通勤時間の行き帰りに電車でちょこちょこ読むのではなく、休日に一日掛けてしっかりと向かい合いどっぷりとその世界に浸りたい、そんな風に思える作品。 美しい文章に御伽噺的な世界、文章一つ一つが想像力を引き立て紗のかかった美しい映像となって頭の中に広がっていく。おかげでページ数の割には読むのに凄く時間がかかる… ラストは直接的な表現を行わず行間とイメージから出来事を感じるという何か斬新なスタイル。映画「2001年宇宙の旅」のラストシーンを小説に持ち込んだかのような感じ。こういうのが文学なんだなぁと改めて実感。 解説も良かった!
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
自分の末娘を舐め殺した犬を蹴り殺し、他の子どもたちを長年監禁するという、あらすじだけ書くとありがちなヤバイ話。 子の死を受け入れられない母は心を壊し、子どもを別荘に閉じ込めてしまうのだが、幼い子どもたちはその無知により別荘に順化することができた。 でも、長女は小学校高学年ということもあり、母の異常性には気が付いている。また、数年が経過するうちに心はともかく体がどんどん大きくなる子どもたちに対し、時間の止まった塀の中の世界が破綻するのもまた時間の問題だった・・・。という話が、著者独特の世界観で美しく描かれる。 この人の小説は好きで何作か読んでいる。解説にあるように「声の大きいひとの言うことが広く「真実」にされてしまいがちなこの現実において『琥珀のまたたき』のような物語に耳を澄ませる時間が、どれほど貴重で、愛おしいか。」とあるように、世間の少数派・傍流にある人に対し主流の側の論理を当て嵌めずに光を当てる、という視点が作者の根底にあるような気がしている。 この小説はとりわけそれが顕著、というより極端で、母により構築された世界は現実との共存など到底できず、それが綻び崩壊していくまでの道筋を辿ることになる。 この極端な世界は、同著者の小説が好きな人でもかなり人を選ぶのではないかなと思う。確かに、子どもたちは母の世界に幸せを見出し、向かい方は子ども毎に違えど、幸福を保とうとしている。しかし、それは子どもが他の世界を知らないからであって、現代の価値観に照らせばただの虐待である。彼女たちの世界を断罪する権利は誰にもない、という考え方は、絶対に、絶対に間違っている。 映画『おおかみこどもの雨と雪』で、狼との間でできた子供を学校に行かせず、母のもとに児童相談所?の人が来ちゃうエピソードがあった。芸術作品でありそこに虐待だなんだという「正義」を持ち出したところで意味は無いし、母の愛を描いた映画である(と私は解釈している)以上、母の葛藤・苦悩を表す良いエピソードだったなと思っているのだが、この小説では単に子どもの人生が母の慰めに浪費されている、介護離職にも似た哀しさばかりが目に付いてしまった。 とはいっても、世間のこの小説の評からすれば、こうした感想が独善的で偏ったものの見方であることは自覚している。 誰もが情報発信のできる時代、マジョリティの大きな声とマイノリティの大きな声の大合唱で辟易している中で、確かに小さな声に耳を傾けることのは貴いことなのだろう。それは、普段は気付くことのない世界の見え方を提供してくれるから。 それだけに、監禁された子の中で最年長で、自ら別荘を出て行ったオパールからはこの物語がどう見えたのか、とても興味がある。
Posted by