坂の途中の家 の商品レビュー

角田光代(著者)

2024/06/30

2016年第4回新井賞受賞

明確なDVでもなく、何某かのハラスメントに分類されるか否か、危うい境界上の嫌悪感
それを濃厚に繊細に浮き彫りにしていく
誰しも陥る可能性のある家庭や子育ての感情の闇

主人公は幼稚園入園前、イヤイヤ期真っ盛りの娘を育てる専業主婦
彼女の元に刑事裁判補充裁判員の通知が届く
担当する裁判は乳幼児虐待事件
殺人犯となる女性の境遇や結婚生活を　義両親、実母、友人、夫らの証言から探り出していく
事件の背景にある家族らとのかかわりに　主人公の女性は自分自身の抱える結婚生活や育児のストレスや違和感を重ねていく
重ねながら自身の家庭環境の中にある悪意のない支配や傲慢な言動に思い当たる

多くの方がこの小説が描く　言葉にしにくい嫌悪感に思い至るだろうと思う
私なんか、こうして小説になるくらいだから、私だけでなかったのね！って、安堵感さえある

そして、おそらくはこの違和感嫌悪感は、話し合っても無くならない
お互いの気持ちがわかり合えない部分だから
人生諦めも肝心

2024/06/27

娘が貸してくれた。
主人公だけでなく、小さな女の子にも被告の彼女にもそのお母さんにもママ友やら主人公に関わってきた専門職の人にも共感したり感情移入する箇所が満載で、どきどきしながら読み進んだ。角田さんすごい。
そしてこの本を娘からシェアされて、感想を言い合えるようになった今の自分のことを子育てに悩んでた頃の自分に教えてあげたいと思った。エンディングが爽やかなのも救われる。

2024/06/11

途中で何度も読むのが辛くなってしまうほど、感情移入させられた作品でした。
自分は気づいていなかったけど、ある日ふと誰かの静かな悪意によって自分の人生が小さく狭い鳥かごに囚われているような気持ちになること。しかもそこから逃れられずこれからも延々と続いていく未来が見えたとき、ただ絶望を感じること。
今の私にものすごく応える内容でした。
時間を空けてまた読み返してみたいです。

2024/06/10

家族構成、子供の年齢が今の私と重なり親子間、夫婦間の出来事が現実と投影され、鳥肌がたった。
無意識の意識を心掛けたい。

2024/06/10

ミステリスクールから。自分的に好みの作品が多い、社会派の講からチョイス。さらには角田作品ということもあり、これでつまらん訳がない。単純な育児放棄なんて！みたいな展開とは一線を画されていて、事件を通じ、視点人物を通じ、少しずつ丁寧に、ある種のマチズモが抉り出されてくるような結構。ここに書かれる無意識は、本当の意味で無意識になり得る問題だから、かなり根が深い。言葉遣いとか、身につまされる部分も多いし、いくら気にしてもし過ぎることなんてないよな、と改めて。

2024/03/11

本当に頭が重かった。
結婚も出産も経験してないけど過去の恋愛と自分を思い出さずにいられなかった。
真綿で絞め殺されていく感覚ってすごいわかる。
言語化が難しいと思ってた感覚が全部言語化されていて本当にすごいと思った。
いわゆるモラハラってやつだと思うけど、
モラハラしてしまう人って自覚ないし、相手をモラハラにしやすい人も自覚ないんだろうなと思った。

2024/02/06

家族等、何かしら自分ではどうしようもできないことが周りより劣っている、不足していると思っている人間の心情が良く表されていた。

2024/01/30

揺さぶられた。
平成の「春にして君を離れ」だと感じた。あの作品ぶりの、私自身の物語だ、と思えた。
義母の何気ない言葉、表情、夫の否定、態度。
何気ない仕草やタイミングから感じる、説明し難い不快感、不信感、蔑視を、こんな風にわからせるなんて。プロフェッショナルの筆力に驚愕しつつ読了。
育児でいっぱいいっぱいだった当時に読んでいたらどうだったんだろう。ま、とても読む余裕はなかったかもしれないけど。あの頃の主人公のようだった当時の自分には読ませたくない、と思った。
ママを支える手はもっとあっていい。逃げていい。尊ばれていい。

2023/12/10

主人公の旦那さんが本当に怖いと思った。
暴力も暴言もないけど、ちくちく自尊心を削っていく人。本人は無自覚だし、周りから見れば優しい人だから理解もされない。水穂もそういう旦那や周りの人に少しずつ少しずつ追い詰められた結果なのだと思った。
「紙の月」に出てくる旦那さんと同じタイプ。

2023/11/10

子供を殺した母親の裁判で補充裁判員になった主婦が自分自身を重ねて思い詰めて行く様子がリアルで、ずーっとジワジワ怖い心理サスペンス。
話の激しい展開はほとんどないから読むの疲れたけど、おもしろかった。
狂ってるのは誰なのか。何が本当のことなのか。心の動きを丁寧に文章にできててすごい。