王とサーカス の商品レビュー
異国の地での殺人事件を、たまたま居合わせた記者が解決に挑む。限定された登場人物の事件への関わり方と目的が読めず、けれども文章にはヒントが隠されているので、論理的な進行で十分に腹落ちする。二転三転するけれど展開が飛躍していない唯一無二の作品。
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"「お前の心づもりの問題ではない。悲劇は楽しまれるという宿命について話しているのだ。人々はなぜ綱渡りを見て楽しむのか。演者がいつか落ちはしないかと期待しているからだと思ったことはないか? ネパールは不安定な国だ。そして一昨日、演者は落ちた。興味深いことだ。これが他国で起きたことなら私も楽しんだかもしれない」 ラジュスワル准尉は言った。 「だが私は、この国をサーカスにするつもりはないのだ。もう二度と」(p.200)" ネパールに取材中のフリーライターの太刀洗万智。町の人々との交流を通じ、この異国の地に流れる穏やかな雰囲気を楽しんでいた。そこに重大ニュースの一報が入る。王宮で国王が王太子によって殺害されたというのだ! 陰謀の影が見え隠れするこの事件の取材に赴く太刀洗だったが、取材の中で、無惨にも"INFORMER(密告者)"と背中に刻まれた死体を発見することに…。 太刀洗は現地の少年に取材のガイドを頼むのだが、最初は彼らを探偵役としたよくあるバディものかと思って読みはじめた。それが、この結末の見事なことよ! トリックは凝ったものではないが、結末の意外性と描写のすばらしさで、良いミステリーを読んだという読後感が残る。 事件を探る中で太刀洗は、彼女の記者としての信念を問われることになる。自らの「知りたい」という心に従って事件を追ってきた彼女だったが、特権的な立場に立って報道を行う権利があるのか、と。本書のテーマの一つは、悲劇をエンターテイメントとして大衆に提供するマスメディアの是非である。もちろんジャーナリスト側だけの問題ではなく、悲劇を流れ作業のように次々と消費していく大衆である私たち読者に対する注意喚起でもある。事件の真相に辿り着いたとき、このような社会構造によって生まれた或る隠された悲劇と、そして悪意を、太刀洗は見出すことになる。 「自分に事件を報道する資格はあるのか?」 この問いに対して太刀洗が出した答えは、多くの人がそれぞれの視点から書き伝えればこの世界がどういう場所なのかがわかっていき、それを通じた認識の深化には価値がある、というものだった。そして、その際生じ得る苦しみについては、生じさせないようできるだけ気を付ける、と。彼女の答えは、現実追認的とも言えるだろうし、根本的な解決にはなっていないわけだが、それでもこの社会構造の中でジャーナリズムを生業とする彼女としては最も現実的で誠実な答えだろうと思う。むしろ、これは何か「正しい」答えを出してオシマイという類の問題ではなく、常に個々人が自らに問い続けなければならない問題だと思うのだ。 "何を書くか決めることは、何を書かないかを決めることでもある。どんな小さな出来事でさえ真実は常に複雑で、複数の立場がそれぞれの言い分を主張する。全ての主張を併記することは公平なことではない。ほぼ間違いないと見られている定説と、一人二人が言い張る新説とに同じ紙幅を割くことを、公平とは言わない。どれが定説でどれが裏付けのない珍説なのかを見抜こうとする時、専門家の意見は大いに役に立つ。けれど最後の判断を下すのは、記者だ。その責任から逃れることはできない。(p.392)"
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ジャーナリズムの本質を問うヒューマンドラマ。 ミステリ部分が良いスパイスとなっていて読み応えが有った。 誰かのかなしみをサーカスにしないように。記者として1度でも。かろうじてでも。そんな瞬間が有ればきっと。 報酬の出ないサーカスの演者には誰もなりたくない。そのサーカスの見世物に...
ジャーナリズムの本質を問うヒューマンドラマ。 ミステリ部分が良いスパイスとなっていて読み応えが有った。 誰かのかなしみをサーカスにしないように。記者として1度でも。かろうじてでも。そんな瞬間が有ればきっと。 報酬の出ないサーカスの演者には誰もなりたくない。そのサーカスの見世物にされたサガルの兄が切なかった。そしてその兄の死によってかなしみの連鎖が子ども達に引き継がれる。でも、 華やかなサーカスの舞台裏を想像する事の出来る観客はきっと居るはず。そんな余韻と期待を残させるような余白の有る終わり方にほろ苦く、でも味わい深い読了感となった。
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ネパールを旅行してる気分になれる小説。 ミステリーというより、ヒューマンに近いかな。 ジャーナリストとしての生き方について考えさせられます。 読みやすく、素晴らしい読了感!
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ネパールのカトマンズで活躍するフリーの女性ジャーナリストの話だった。それが「さよなら妖精」の登場人物だった事を後で知ったが、特に続きの作品ではないので「そうなんだ」だけである。 国王の死を巡って繰り広げられる展開だが、あまり馴染みのないネパールという国、多くの日本人ではない登場人...
ネパールのカトマンズで活躍するフリーの女性ジャーナリストの話だった。それが「さよなら妖精」の登場人物だった事を後で知ったが、特に続きの作品ではないので「そうなんだ」だけである。 国王の死を巡って繰り広げられる展開だが、あまり馴染みのないネパールという国、多くの日本人ではない登場人物に興味深く最後まで読む事ができた。
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ネパールに行ってみたくなる ゴビンやサガルが切ない もっとサガルの生活を見たい 太刀洗は本当にサーカスにしないで記事を書けてるのか?記者って誰かの生活をサーカスにする事で成り立つんじゃないの? 他人の不幸は蜜の味
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2001年に起こったネパール王族殺害事件をモチーフにした、フリージャーナリスト太刀洗万智のシリーズ。往年のアジアの混沌とした雰囲気、実際に起こった事件とフィクションが交錯するストリー。二転三転する展開含めミステリーとしてもエンターテイメントとしても上質。後半に入るとやや真相は予測...
2001年に起こったネパール王族殺害事件をモチーフにした、フリージャーナリスト太刀洗万智のシリーズ。往年のアジアの混沌とした雰囲気、実際に起こった事件とフィクションが交錯するストリー。二転三転する展開含めミステリーとしてもエンターテイメントとしても上質。後半に入るとやや真相は予測が出来、暗躍した彼もしくは彼女の豹変がやや急すぎる感はあるものの、自分を含めて「サーカス」好きの野次馬根性を持つ大衆心理を揶揄するテーマ性もある。
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終盤にかけて加速していく展開が心地良い 刺激を求める読者、つまり俺も共犯だよ 「知る」ことの快楽に溺れるなよ
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作者は「青春の苦味」が持ち味というかそのように書かずにはいられない性質の作家だと思うけれどそれがハマる時もあればそうでない時もある。ただ、本作では主人公はフリーになった直後のジャーナリストとして、職業人としての覚悟を異国の地で問われるという形で苦味を描くので思春期の少年少女のそれ...
作者は「青春の苦味」が持ち味というかそのように書かずにはいられない性質の作家だと思うけれどそれがハマる時もあればそうでない時もある。ただ、本作では主人公はフリーになった直後のジャーナリストとして、職業人としての覚悟を異国の地で問われるという形で苦味を描くので思春期の少年少女のそれとして描くよりもうまくハマるように思う。本作はあくまでもそれらを描くための道具立てとしてのミステリという印象であまり鮮烈な謎解きの魅力は薄いけれどこれはこれで。
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面白かった。ネパールの土埃を感じた。実際におきたセンセーショナルな事件と殺人事件。結びつけたくなるような状況。でも、とどまった。それには「復讐」が忍び込ませてあった。途中、伏線からなんとなく犯人はわかった。サガルの頭のよさは子どもでは難しいような…。
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