鶏小説集 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
『肉小説集』という奇妙な短編集が刊行されたのが、約3年前。坂木司さんの新刊は、『鶏小説集』だそうである。肉の中でも、今回は鶏に特化? 最初の2編は密接な関係にある。「トリとチキン」。見た目は瓜二つだが、まったく違う家庭で育った2人。お互い、相手の家庭に居心地の良さを感じる。こういうミスマッチは珍しくないだろう。しかし、贅沢な悩みであることもわかっている。 「地鶏のひよこ」。今度は父親目線である。嗜好が合わない息子との関係に悩む父。瓜二つの息子の友人と過ごす方が、楽しい。それでも息子を理解したい。だから、あんな父は許せない。大人の対応を崩さないこのお父さんは、偉いと思う。 「丸ごとコンビニエント」。年末年始にコンビニのバイトに勤しむ青年。こだわりの薄さを自認している彼が、強くこだわったこととは? そのこだわりのおかげで、命拾いしたとだけ書いておこう。ホラーのような心温まるような…。 「羽のある肉」。こちらもあまりこだわりがなさそうな、中学3年生。流れで新聞委員を押し付けられた結果、思わぬ展開に。彼自身が気づいていない魅力とは。ああ夏休み。ああ花火大会。ああ青春だねえとだけ書いておこう。 「とべ エンド」。引きこもり寸前の青年にとって、それは転機だったと言えるのだろうか? どんなに嘘がなくても、そんな知り合いは勘弁してくれ。表現のあり方にうるさい昨今である。彼を応援したい気もするし、でも読みたくはないかな。 読んでみればわかる通り、最初の2編以外でも、登場人物がリンクしているのが特徴と言える。彼ら自身の与り知らないところで、それぞれの生き方に、影響を与えているのだった。坂木作品らしい優しさも光る、好編揃いの短編集だ。 でもやっぱり、「鶏」が共通のキーワードである必然性はないような…。
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