たった、それだけ の商品レビュー
私にとっての、「たった、それだけ」を考えてみた(思い返してみた)。たった、それだけ、言われてどんなに心救われたかの言葉(どれだけ幸せな気分になったとか)。 たった、それだけの勇気。行い。後悔。 今さらながらだが、人の一生は、無数の「たった、それだけ」で繋がっていることに気づかせて...
私にとっての、「たった、それだけ」を考えてみた(思い返してみた)。たった、それだけ、言われてどんなに心救われたかの言葉(どれだけ幸せな気分になったとか)。 たった、それだけの勇気。行い。後悔。 今さらながらだが、人の一生は、無数の「たった、それだけ」で繋がっていることに気づかせてもらった。 「たった」とは、ほんの僅かなという空虚さをともなう言葉と捉えがちでしたが、希少だからこそ貴重なもの。そうおもえば、これから些細な出来事、時間も有り難く感じとれるのかもしれない。 贈賄罪が発覚する前に失踪した望月正幸。逃亡を企てたのは社内の浮気相手。正幸に関わる人達がそれぞれの視点で「逃げる」をキーワードに、正幸への思いを回想する。 描かれているのは、主に愛人の後悔、妻の迷い、姉の罪悪感、娘ルイの未来。物語は、うす暗く闇の中にいるようで、装丁の青い絵のような掴みどころがなくい寂しげにかんじた。解説にある、「最後は満ち足りた気持ちになる」は一度でのみこめず、各所(特に第6話)もう一度読んだ。 益田さんは最後自分を顧み、次は前向きに二度目の人生を送るが、だったらなぜ、最初から妻を泣かせ苦労させたのか、と妻の目線で見てしまった。 両親に嫌悪(違和感)を覚え生きてきた、娘、ルイ。逃亡する父のことを待ち続け、働いて働いて・・そして体まで壊してしまう母。そんな母を、しあわせにならずに父の帰りを待つことは父への復讐だと捉える。 母は、そして父はずっとルイの幸せを願っているのに、若いからそう捉えてしまうのは仕方がない。 父は言う。「短い時間だったけど、一緒に暮らした。たった、それだけ。その記憶だけで、生きて行ける。もう決して触れてはいけない、幸福な記憶です」 たった、それだけ、の記憶。あります、思い返せば一日一日生きる張りがでてきそうです。 所々に名言がちりばめられていて、深く心に響きました。帯に、著者は「ずっと読みたかった物語を自分で書きました」とあります。書きたかったというのでなく「読みたかった物語・・」、という所に著者の究極の思いが込められていると感じました。読んで良かったです。
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ちょっとよくわからなかった。結局、彼は何処に?! 登場人物の微妙な心境などはよく描かれていたと思うけど、私には理解しにくいお話でした。
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ー「逃げ」さえも、一歩なのだ。 「逃げて」。当面必要なものを入れたはずのコンビニの袋を押しつけて浮気相手の私は言う。でも、この人を窮地に立たせてるのは自分だ、その上で彼に逃げ切って欲しい。賄賂容疑で彼を告発した。きっと彼はこれから逃げる生活が始まる。妻も娘も置いて。妻はいつまで...
ー「逃げ」さえも、一歩なのだ。 「逃げて」。当面必要なものを入れたはずのコンビニの袋を押しつけて浮気相手の私は言う。でも、この人を窮地に立たせてるのは自分だ、その上で彼に逃げ切って欲しい。賄賂容疑で彼を告発した。きっと彼はこれから逃げる生活が始まる。妻も娘も置いて。妻はいつまでも待ち、姉は困惑し、娘はどこにいても試練が待ち受ける。6話、それぞれ登場人物が語る「彼」そして「逃げ」、そして「幸福」とは。 小説自体は薄いのですが、厚みを感じるお話です。 爽やかな表紙からは想像つかない内容です。 前進することの対義語は「逃げ」だと思っていましたが、逃げることに対する捉え方が変わるお話でした。 「地球は丸いんだから、向こう側から考えたら追いかけてきてるのかも」という言葉にハッとします。 でもなぁ〜やっぱり、悪いことをしたらきちんと向き合って欲しいかなぁ、巻き込まれているんだとしても、その場合は本当に悪い人がいるのだから。……というのは個人的見解です。笑
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短編6話だが 大作の一冊 女性作者の 男性にはない 潔さ これが本だ! と 思わせてくれた本!
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贈賄容疑にかけられている望月さんが逃げるところから、残された妻、娘、姉の物語が紡がれる この本には印象に残ることばがたくさんあった。 ・どうしたの?という問いかけで人は救われる ・やめることは逃げることじゃなくてひとつの選択 ・どんな環境にいたって自分は自分、周りにどんなふうに...
贈賄容疑にかけられている望月さんが逃げるところから、残された妻、娘、姉の物語が紡がれる この本には印象に残ることばがたくさんあった。 ・どうしたの?という問いかけで人は救われる ・やめることは逃げることじゃなくてひとつの選択 ・どんな環境にいたって自分は自分、周りにどんなふうに思われようと自分のやり方を通す、それが楽しむこと そして、 ・地球は丸いんだ。逃げる事は反対側から見たら追いかけてるかもしれない。 たったそれだけのことを言えなかったり、出来なかったり。でも、一歩を踏み出す強さと覚悟で変われることを教えてくれた。
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※このレビューにはネタバレを含みます
さすが、宮下奈都とうならされた傑作。 不倫と横領と内部告発と失踪…波乱含みいや波乱しかない第1話と、夫婦間の油が切れたような金属的キシミを伴ったすれ違いを描いた第2話を読んだ時には「あぁ、こういう不幸話、ダークサイド宮下本を手に取ってしまったか」とちょっと不安な気持ちになったのだが… その不安感、徐々に弱まりつつも持ち続けての最終話。 あれ、エエ話になってる! このスタティックなひっくり返し方が良い。今まで、どんでん返しは勢いよく仕掛ける方が派手で衝撃も大きいと思っていたが、こういうジワジワひっくり返していく「どんでん」もあるんやなぁと。 この物語を構成しているはずの主要な出来事(横領事件主犯格の語りなど)をわざと書き込まず、輪郭をなぞることだけで済ませる。 ある意味歯がゆい手法も、スタティックなどんでん返しを効果的にしている。 「行き詰った日常の方向転換をするには行動しないと」という大切なテーマを内包するこの小説。そのテーマがグサっと心に突き刺さるのは、宮下奈都のこういう技法があるからこそ。技法と主張がかみ合うエエ小説だった。
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宮下さんの本はいつも凄い。 この小説も、構成の斬新さだけでなく、根底にある、人は変われるんだ、ひとっていいな、と思わせる温かいものがみなぎっている。凄い。(ちょっとわからないところもあったけど。またいつか読み返そう!) 解説にある、「ツンと甘えた声」、あぁ、なるほどな、と。きちん...
宮下さんの本はいつも凄い。 この小説も、構成の斬新さだけでなく、根底にある、人は変われるんだ、ひとっていいな、と思わせる温かいものがみなぎっている。凄い。(ちょっとわからないところもあったけど。またいつか読み返そう!) 解説にある、「ツンと甘えた声」、あぁ、なるほどな、と。きちんと読むとまた新しい発見がありそうな、そんなお話です。
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贈賄容疑をかけられて失踪した会社員の望月正幸を軸とした物語。だけど、望月本人はほぼ登場しない。 望月の愛人、妻、姉、娘の担任教師、娘のクラスメイト、そして娘。彼女や彼らを主役にした連作短編集で、ページ数は多くないものの内容は濃く感じた。 著名ではない1人の人間の失踪劇でも、充分に...
贈賄容疑をかけられて失踪した会社員の望月正幸を軸とした物語。だけど、望月本人はほぼ登場しない。 望月の愛人、妻、姉、娘の担任教師、娘のクラスメイト、そして娘。彼女や彼らを主役にした連作短編集で、ページ数は多くないものの内容は濃く感じた。 著名ではない1人の人間の失踪劇でも、充分に影響を受ける人間が周りにはたくさんいる。身勝手な1人の行動が、周りの人間の人生をがらりと変えてしまうことがある。 望月の愛人、妻、姉と続く前半の3章はどちらかと言うと暗めで、妻の章はとくに重々しい。 だけど娘のルイに関わる後半の3章は少し空気が違う感じがする。大変な環境ながらもルイは大人への階段を着実に上り、そして若い彼女にはまだまだ未来がある。そういう希望みたいなものが、重いなかにも漂っている。 言い方は良くないかもしれないけれど、こういうつくりの小説、桜木紫乃さんの作品でよく見かける。話中にはほぼ登場しない人間が中心にいて、その人を取り巻く人物たちが語り部となる連作小説。 だんだんとそのことに気付かせるような仕掛けが私は好きだ。読み進めるごとに繋がっていく快感のようなものが、この手の作風の小説にはある。
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※このレビューにはネタバレを含みます
家族を大切に思っていた… 娘が産まれたとき、涙が出るほど嬉しかった… そう思っていても、妻にも娘にも伝わっておらず、ずっと苦しんでいるのを考えると、想いは言葉にして伝えるべきだと思う。 一方、言葉にして伝えても、言葉に想いがなければもっと虚しい。 人付き合いは、近しい人であっても難しいと思った。
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表紙の美しさに惹かれて読了。 宮下さんの作品は2作目だが、本当に読みやすい文章でサラサラっと読めてしまう。 特に小学生の心のケアの難しさを、教師目線で描いているのが新鮮で面白い。学級崩壊といった、小学校特有の問題がある中で、児童個々人にどれだけ寄り添うか、その配分の差をどうするか...
表紙の美しさに惹かれて読了。 宮下さんの作品は2作目だが、本当に読みやすい文章でサラサラっと読めてしまう。 特に小学生の心のケアの難しさを、教師目線で描いているのが新鮮で面白い。学級崩壊といった、小学校特有の問題がある中で、児童個々人にどれだけ寄り添うか、その配分の差をどうするかなど、教師目線で考えると色々と難しい問題ばかりだ。 特に最近は家庭環境が児童の性格や学習に多大な影響を及ぼすために、教師が児童の生活環境までケアする場合も多い。 自分が小学生の時など一切考えもしなかったことが見え、分かるようになってくると、自分も大人になったんだな、と感じる。
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