たった、それだけ の商品レビュー
贈賄容疑にかけられている望月さんが逃げるところから、残された妻、娘、姉の物語が紡がれる この本には印象に残ることばがたくさんあった。 ・どうしたの?という問いかけで人は救われる ・やめることは逃げることじゃなくてひとつの選択 ・どんな環境にいたって自分は自分、周りにどんなふうに...
贈賄容疑にかけられている望月さんが逃げるところから、残された妻、娘、姉の物語が紡がれる この本には印象に残ることばがたくさんあった。 ・どうしたの?という問いかけで人は救われる ・やめることは逃げることじゃなくてひとつの選択 ・どんな環境にいたって自分は自分、周りにどんなふうに思われようと自分のやり方を通す、それが楽しむこと そして、 ・地球は丸いんだ。逃げる事は反対側から見たら追いかけてるかもしれない。 たったそれだけのことを言えなかったり、出来なかったり。でも、一歩を踏み出す強さと覚悟で変われることを教えてくれた。
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さすが、宮下奈都とうならされた傑作。 不倫と横領と内部告発と失踪…波乱含みいや波乱しかない第1話と、夫婦間の油が切れたような金属的キシミを伴ったすれ違いを描いた第2話を読んだ時には「あぁ、こういう不幸話、ダークサイド宮下本を手に取ってしまったか」とちょっと不安な気持ちになったのだが… その不安感、徐々に弱まりつつも持ち続けての最終話。 あれ、エエ話になってる! このスタティックなひっくり返し方が良い。今まで、どんでん返しは勢いよく仕掛ける方が派手で衝撃も大きいと思っていたが、こういうジワジワひっくり返していく「どんでん」もあるんやなぁと。 この物語を構成しているはずの主要な出来事(横領事件主犯格の語りなど)をわざと書き込まず、輪郭をなぞることだけで済ませる。 ある意味歯がゆい手法も、スタティックなどんでん返しを効果的にしている。 「行き詰った日常の方向転換をするには行動しないと」という大切なテーマを内包するこの小説。そのテーマがグサっと心に突き刺さるのは、宮下奈都のこういう技法があるからこそ。技法と主張がかみ合うエエ小説だった。
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宮下さんの本はいつも凄い。 この小説も、構成の斬新さだけでなく、根底にある、人は変われるんだ、ひとっていいな、と思わせる温かいものがみなぎっている。凄い。(ちょっとわからないところもあったけど。またいつか読み返そう!) 解説にある、「ツンと甘えた声」、あぁ、なるほどな、と。きちん...
宮下さんの本はいつも凄い。 この小説も、構成の斬新さだけでなく、根底にある、人は変われるんだ、ひとっていいな、と思わせる温かいものがみなぎっている。凄い。(ちょっとわからないところもあったけど。またいつか読み返そう!) 解説にある、「ツンと甘えた声」、あぁ、なるほどな、と。きちんと読むとまた新しい発見がありそうな、そんなお話です。
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贈賄容疑をかけられて失踪した会社員の望月正幸を軸とした物語。だけど、望月本人はほぼ登場しない。 望月の愛人、妻、姉、娘の担任教師、娘のクラスメイト、そして娘。彼女や彼らを主役にした連作短編集で、ページ数は多くないものの内容は濃く感じた。 著名ではない1人の人間の失踪劇でも、充分に...
贈賄容疑をかけられて失踪した会社員の望月正幸を軸とした物語。だけど、望月本人はほぼ登場しない。 望月の愛人、妻、姉、娘の担任教師、娘のクラスメイト、そして娘。彼女や彼らを主役にした連作短編集で、ページ数は多くないものの内容は濃く感じた。 著名ではない1人の人間の失踪劇でも、充分に影響を受ける人間が周りにはたくさんいる。身勝手な1人の行動が、周りの人間の人生をがらりと変えてしまうことがある。 望月の愛人、妻、姉と続く前半の3章はどちらかと言うと暗めで、妻の章はとくに重々しい。 だけど娘のルイに関わる後半の3章は少し空気が違う感じがする。大変な環境ながらもルイは大人への階段を着実に上り、そして若い彼女にはまだまだ未来がある。そういう希望みたいなものが、重いなかにも漂っている。 言い方は良くないかもしれないけれど、こういうつくりの小説、桜木紫乃さんの作品でよく見かける。話中にはほぼ登場しない人間が中心にいて、その人を取り巻く人物たちが語り部となる連作小説。 だんだんとそのことに気付かせるような仕掛けが私は好きだ。読み進めるごとに繋がっていく快感のようなものが、この手の作風の小説にはある。
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家族を大切に思っていた… 娘が産まれたとき、涙が出るほど嬉しかった… そう思っていても、妻にも娘にも伝わっておらず、ずっと苦しんでいるのを考えると、想いは言葉にして伝えるべきだと思う。 一方、言葉にして伝えても、言葉に想いがなければもっと虚しい。 人付き合いは、近しい人であっても難しいと思った。
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表紙の美しさに惹かれて読了。 宮下さんの作品は2作目だが、本当に読みやすい文章でサラサラっと読めてしまう。 特に小学生の心のケアの難しさを、教師目線で描いているのが新鮮で面白い。学級崩壊といった、小学校特有の問題がある中で、児童個々人にどれだけ寄り添うか、その配分の差をどうするか...
表紙の美しさに惹かれて読了。 宮下さんの作品は2作目だが、本当に読みやすい文章でサラサラっと読めてしまう。 特に小学生の心のケアの難しさを、教師目線で描いているのが新鮮で面白い。学級崩壊といった、小学校特有の問題がある中で、児童個々人にどれだけ寄り添うか、その配分の差をどうするかなど、教師目線で考えると色々と難しい問題ばかりだ。 特に最近は家庭環境が児童の性格や学習に多大な影響を及ぼすために、教師が児童の生活環境までケアする場合も多い。 自分が小学生の時など一切考えもしなかったことが見え、分かるようになってくると、自分も大人になったんだな、と感じる。
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うおーーこれはすごい。何よりも自分の複雑なぐちゃぐちゃ飛び散ってた感情がひとつひとつ丁寧に整理された気分。場面と登場人物の心情がマッチしてて想像できた。人間の深い闇を包み隠さずみれた。自分だけじゃないんかとも思える安心感と共感もたくさんあった。ルイの生きていくことが機械的になってたところが、黒田の出会いで変わっていった。嬉しかった。益田さんはルイのお父さんではないよなー。黒田の会いに来た人て誰やったんだー笑 色んな逃げの形で繋がってたことを解説で読んだ時はなーるほど!となりました。この人の本はまたぜひ読みたいな。
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犯罪者となって失踪した人とその家族や周囲の人の様子がそれぞれの視点で綴られている。全体的に辛い話ではあったが後半につれてルイが明るく変わっていく様子に心が温かくなった。
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読み終わった瞬間に頭に浮かぶもの、時間をかけて振り返ると色々見えてくる場合もありますが、読み終えた直後の第一印象、これはその本の印象としてずっと残り続けるように思います。私がこの本を読み終えて最初に頭に浮かんだのは『?』でした。猿蟹合戦の話を読んでいたのが、桃太郎だったというよう...
読み終わった瞬間に頭に浮かぶもの、時間をかけて振り返ると色々見えてくる場合もありますが、読み終えた直後の第一印象、これはその本の印象としてずっと残り続けるように思います。私がこの本を読み終えて最初に頭に浮かんだのは『?』でした。猿蟹合戦の話を読んでいたのが、桃太郎だったというような感じ。例えが最悪ですが、要は最初と最後で全く別のお話を読んでいたような不思議な感覚に襲われました。例えで言えば猿が共通だという点だけ、そんな不思議な印象を受けました。 6つの話から構成されている連作短編集です。連作短編というと一つの出来事を人を変え、色んな視点から描くことで、真実に迫ったり、それぞれの人物像を浮かび上らせたりします。この作品は『うちの会社、大がかりな贈賄の容疑がかかってるのよ。その実行者が望月さんってことになってる』というところから始まります。贈賄容疑をかけられた望月。『人がよくて、やさしくて、だけど気が弱くて流されてしまう。プレッシャーに耐えられず、かといって逃げもせず、妻子があるのに同じ職場の複数の女性と親しくなる』、浮気現場の描写。宮下さんの作品では珍しいこともあって、妙に緊張してしまいました。 贈賄容疑が発覚後、望月は姿を眩ませます。そして、ストーリーは、愛人の夏目視点から、望月の妻、望月の姉…と視点が移っていきます。前半の視点移動は分かるのですが、後半になって、愛人から始まった視点のリレーがどうしてそんな人にバトンが渡るのか?これは青春学園ものだったのか?という全く予想外の展開を見せていきます。第一話と第六話だけを読んだ人がいたら、恐らく同じ作品とは思えないだろう、全く印象の異なる世界がそこにあります。 その異なる印象を繋ぐのが、いつもどおりの宮下さんの言葉の数々。作品冒頭の『誰だって一度は人を傷つけてる。たぶん、自分で思ってるよりも深く。でも、普通は致命傷までは負わさない』の鋭角な始まりにはドキッとしましたが、やがて『変わらないものをずっと好きでいるのは簡単なことだ…変わっていくものを好きでい続けるほうがむずかしい。私たちは生きている日々、新しいものに出会って変わっていく』と、後半に行くに従って、前向きに穏やかに安心の宮下さんの世界が広がり始めます。一番惹かれたのは、『逃げてるように見えても、地球は丸いんだ。反対側から見たら追いかけてるのかもしれない』という言葉でした。こんな風に発想を転換できると随分と生き方も楽になるように思います。この言葉が含まれる第六話はそういう意味でも雰囲気が一変しています。動から静へ、嵐から凪へ、世俗を捨てて無我の境地へ。 思いもよらぬ人物視点で描かれる第六話。核心がぼかされていながら、現実だけはリアルな描写が続きます。さらっと読めてしまう分、核心を見逃してしまいそうです。それは実は私のこと。唐突に本が終わってしまった、これは落丁か?と感じて、第六話だけ読み返してしまいました。 そして、読み返すと気づく真実。一度目には唐突だった『?』な結末が、二度目に『えっ!』と変わる瞬間がありました。 「たった、それだけ」人によって、大切なものはそれぞれです。他人から見たらたわいのないことでも、その人にとっては譲れない一線である場合もあります。また、『たった、それだけ』と言われてしまって、その人が初めて気づくこともあります。でも、それが人なんじゃないか、『たった、それだけ』、他人から見ればそう思えることでも、それだけで生きていける人もいる。幸せになっていける人がいる。『たった、それだけ』のことにかける人それぞれの想い。 全く予想外の展開と、結末のあまりの唐突さに少し戸惑いましたが、そこに未来が見える、結末の先に未来が続いていくと強く感じさせるそんな作品でした。
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ひどい残酷な話なのに、その話題に対してひたむきに向き合い続けている印象を受けました。悲しい話なのになぜか、ほっこりとする作品でした。
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