たった、それだけ の商品レビュー
贈賄事件を犯して失踪してしまった男と 彼にまつわる人たちの連作短編小説。 愛人、奥さん、お姉さん、娘、娘の担任、同級生。
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贈賄が発覚前に逃げ出した望月正幸をめぐる人々、贈賄を告発した望月の愛人、望月の妻や姉、一人娘などを主人公にした連作短編。 詞藻豊かな表現ながら、余りに物語の余白が広いために、最初の1・2話は戸惑いの方が大きく。読み進めるうちに物語の流れは判ったものの、登場人物達の性格が捕まえきれ...
贈賄が発覚前に逃げ出した望月正幸をめぐる人々、贈賄を告発した望月の愛人、望月の妻や姉、一人娘などを主人公にした連作短編。 詞藻豊かな表現ながら、余りに物語の余白が広いために、最初の1・2話は戸惑いの方が大きく。読み進めるうちに物語の流れは判ったものの、登場人物達の性格が捕まえきれず、その「思い」に置いてけぼりを食わされた感覚が続きます。 回収してない伏線も沢山あるのだけれど、最終章で物語は見事に円環を閉じ、そうした事はどうでも良くなってしまいました。 お見事です。
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本を選んだ動機が不純で、読み終えて自分が嫌になったし、却って吹っ切れた部分もあった。 やっぱり宮下奈都さんの書く文章は美しくて胸を打つ。大好きだ。 「相手の幸せ」ってなんだろうね。 夫婦や愛人や友達恋人。 それを一番に考えられて、行動できるって、わたしにはできない。 この物語に出てくる人たちは、みんなそれぞれ一生懸命で、相手のことを考えていて、きっといつか救われてほしいと読んでいて思わされる。 いつか、あの家族は出会えるんだろうか? 幸せになれるんだろうか?? 終わり方が秀逸。 だけど、そんな人でも不倫するんだな… 誠実そうな、結局家族が一番なひとでも…。 どうしてそうなってしまったんだろうね。 このお話の中では重要度はあまり高くないとは思うのだけど、宮下先生ならどう考えて、どう表現されるのか、気になる。 私は作家さんを人生相談のプロだと思ってるところがあるらしい。笑
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収賄罪を犯し、逃亡、失踪する男性の周りの人たちの物語。 と書くと、この本とは違うものを想像してしまうかな。 前半は彼の周りの大人の女性たちの語りだけど、後半は、一転して彼の失踪時には赤ちゃんだった娘・ルイの物語になっている。 いろいろある・・・その中で、大人への階段を上ってい...
収賄罪を犯し、逃亡、失踪する男性の周りの人たちの物語。 と書くと、この本とは違うものを想像してしまうかな。 前半は彼の周りの大人の女性たちの語りだけど、後半は、一転して彼の失踪時には赤ちゃんだった娘・ルイの物語になっている。 いろいろある・・・その中で、大人への階段を上っていく彼女の姿が愛しい。彼女のBF・トータくんが素敵だ。
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逃げる弱さと逃げる強さ。その先にあるものとは...。前半3編は重く苦しいが、4編目以降は一歩を踏み出す勇気をもらえる。秀逸なプロットと最終話での心温まる展開にふっと落ちてくる安堵感...。いいね! すごくいいですよ!
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電車の中で読んでいたら、見知らぬおじさんに「いいですねぇ。『たった、それだけ』、深いなあ。とてもいいタイトルですねぇ」と言われた。 分かります。いいタイトルですよね。物語もすごくよかったです。
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後半に向かっての物語の加速度が半端ない。後書きも含めて素敵すぎる。 人生って本当に色んな人と、その方からもらった言葉とその時の感情と一緒に生きてる。 ルイちゃんの未来がとても幸せで素敵なものとなりますよぉに。
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死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いなら、そこから逃げてもいい。そして、もし死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いのではないかと思うような人が近くにいれば、「どうしたの?」と声をかけてみる。悲痛な声を聞いてあげる。「たったそれだけ」のこと。あなたが聞くことで、もしかしたらそ...
死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いなら、そこから逃げてもいい。そして、もし死んでしまうほど、壊れてしまうほどに辛いのではないかと思うような人が近くにいれば、「どうしたの?」と声をかけてみる。悲痛な声を聞いてあげる。「たったそれだけ」のこと。あなたが聞くことで、もしかしたらその人は苦しみから逃げることができるかもしれない。もしあなたが声をかけることができず後悔してしまうことになれば、それは将来、自らの苦しみとなる可能性がある。もし声をかけたることができたら、それは将来、自らを苦しみから逃すことになる…そんなメッセージが本作から伝わってくる。 「逃げるということは、むしろ前へ進む方法かもしれない」この言葉に妙に納得して、ずっと頭から離れない。非難するのではなく、受け入れる気持ちを持ちたい。 賄賂の罪を不倫相手から告発され、失踪する望月。 14歳の夏休みに自殺をした同級生・加納くんに声がかけれなかったことを今もなお悔やむ夏目。不倫相手の望月正幸が賄賂で苦しんでいると思い、その苦しみから逃すための行動であったのだと思った。 一方で、好きな人を裏切った行為に夏目の複雑な気持ちもわかるような気もする。 失踪した望月正幸の妻・可南子。夫の不倫、夫の失踪…夫のいない家に可南子と残された子供ルイ。そこにもう一人の彼女が現れる。 悶々とする日々で彼女が出した結論は、もしも夫が変わらないことで可南子たちを守ろうとしたのであれば、「私も変わらずにあの人を待つ」。 「ただ、待っている。笑顔じゃなくていいから。あの人が無事に生きのびて、私とルイも無事に生きのびて、どこかでまた会えることを。」 それほど強い精神力を持っていない彼女が、この決断をしたことに、なぜか誤った方向に向いているような気がしてならなかった。 純粋無垢な望月の少年時代を5つ違いの姉・有希子の視点で回想する。 有希子の元に警察が来る。横領の罪で失踪していることを知った有希子。やさしい弟。まっすぐな目をした弟。涙を必死に堪えたいた弟。弱い弟。そんな弟が失踪、贈賄?ありえない。 少年だった正幸が姉に投げた言葉「辞めなければよかったの?辞めたら逃げたことになるの?あきらめちゃだめなの?」が、今の望月自身の行動にリンクしているように感じて、悲しくなった章であった。 小学三年生のルイが田舎の学校に転校してきた。担任の須藤は、前学校で訳ありの退職をしている。そのせいでどうしてもクラスに馴染めないルイに一歩踏み込んで話をすることができない。 ルイの差し出した手がたったそれだけで須藤の葛藤と克服の一歩の助けとなるところに、ちょっとした勇気とタイミングの大切さを改めて感じた。ちょっとしたきっかけ、ちょっとした言葉で、知らない間に人を助けているともあるのだと思えた。 高校生になったルイ。「クール」なルイに黒田トータが突然告白する。大きな身体、ごつい手、太い眉。見た目はいかつい、いかにも喧嘩の強そう高校生のトータ。が、見た目とは異なりルイに向ける言葉はとても誠実で、いつしか心ごトータにむいていくルイ。 きっと、寂しかったのであろう。幸せにならないことが、父への復讐だと思っていたところに、それを否定するトータ。その言葉をルイは待っていたのではないか。父を恨まなくてもいいよとそう言ってくれる人を待っていたのではないかと… だからルイはトータと一緒にいるのだろう。 介護施設で働く大橋の同僚にベテランの益田という男性がいる。大橋の観察では「歳はとっているけれど、整った顔立ちをしている。朝から晩まで、ときに夜勤まで、決して楽ではない仕事を黙々とこなし、それでも一切不満を口にすることはないこの人の端正な顔が俺は少し怖い。」 この益田が、実はルカの父親、失踪している望月ではないかと思うのだが…ただ、名前も違うし、町の運営する介護施設であれば身元をだますなんてこともできないだろう。でも、やっぱり望月のような気がする。 ここでも、黒田トータの言葉と行動が大橋の人生を変えたことを知る。 ちょっとした言葉、思いやりで人の人生は、大きく変わるのだと感じた作品であった。自分の発した言葉によって時に背中を押されたり、引き戻されたりと、もしかしたら知らず知らずに人の人生に大きく関わっていることがあるかもしれないと感じる一冊であった。 私が今まで感じていた宮下奈都さんとは違ったイメージの作品であった。
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あきらめてもいい。むしろ勇気の要ることだと思う。いくらでもあきらめて、また始めればよかったのだ。 きっと、この世界には、俺にもできることがある。そう思うと、遠いはずの道のりも光って見えた。 「正直に生きることです。自分に正直でいれば、すべては自分で選んだことだと納得することができます。どんなことが起きても、責任を取ろうと思えるでしょう。自分にとことん正直であるなら、後悔しない。それが自分なのだから後悔のしようもありません。失敗しても、人を傷つけても、それはもうしかたのないことでしょう」 たった、それだけです。その記憶だけで、生きていけるんです。
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原田マハさんの『独立記念日』にそっくり!びっくりするくらいそっくり。みんな何か抱えている、どうにも変えられない過去や運命みたいのを背負ってそれでも生きていく。たぶんマハさんのほうがその生きていく力強さはあったのだと思う。独立ってそう書いてあるし。 この作品は力強く生きていくがテー...
原田マハさんの『独立記念日』にそっくり!びっくりするくらいそっくり。みんな何か抱えている、どうにも変えられない過去や運命みたいのを背負ってそれでも生きていく。たぶんマハさんのほうがその生きていく力強さはあったのだと思う。独立ってそう書いてあるし。 この作品は力強く生きていくがテーマじゃなくて、どうやって前向く?頑張る?を丁寧に日常を切り取りながら紡いでいるのだと思う。 小学校3年生の描写は生々しくて心がいたい。あんな短い章で先生の苦悩がすごく伝わってきて素晴らしいなと感じた。どうしてあんな緻密な描写をかけるのだろう! 『たった、それだけ』というタイトルは簡単に言えないのに簡単にタイトルになってしまっている気がして言葉の重みとのバランスが取れていないように感じる、私だけかな。でも敢えてそれだけのそれが難しいんだ!っていうのを強調するためなら理解する、とっても強調されてるから。 この作品を読んで、じゃあ何を大事に生きていく?って言ったら最後の正直さとか、一歩だけでいいから踏み出すっていうことなのかな。それがポジティブかネガティヴかのジャッジは別として「逃げ」であっても。 宮下さんの本はこれが初めてだけど、第5話のトータとルイの恋愛の描写は私が好きな書き方というか設定できゅんとした。こういう恋愛の書き方をするなら他の宮下さんの恋愛系の小説も読んでみたい!!!
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