静かな雨 の商品レビュー
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失業したその日に、とびきり美味しいたい焼き屋を営む“真っ直ぐな感じ”の女性、こよみに出会った行助。 やがて言葉を交わすまでになったふたり。 しかし、こよみが事故に遭い… …などというあらすじは、もういいことにしよう。 とにかく手に取って、紙の厚みや、頁の余白をたのしみながら、読んでしまおう。 生まれつきの障害を持つ故に、あきらめを知っている行助。 初めて出会った時から、そのことを行助のなかに見てとるこよみ。 毎朝毎朝、事故の前までの記憶しかないところから再スタートしても、こよみは行助を受け入れてその日一日をあたらしく始めるのだろう。 記憶が積み重ならなくても、その人の在り方は、変わらないものなのかもしれない。 記憶がなくても一日経てば一日老いることから逃れられないように、その人の生きた記憶は、身体や五感に何かが刻まれていくのかもしれない。 “僕の世界にこよみさんがいて、こよみさんの世界には僕が住んでいる。ふたつの世界は少し重なっている。それで、じゅうぶんだ。” 素晴らしい、最後のフレーズ。 生活を共にしたりメールしあったり、多くの部分が重なっているのに気持ちが伝わらず、不満がつのったりぶつかりあったり… 現実の私の図々しいというか、貪欲というか。
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長梅雨なので題名に惹かれて読んでみた。これがデビュー作だったのは知らなかった。100頁少しの本だけど、ピンとくる言葉が沢山あって嬉しくなった。 こよみさんは事故で新しい記憶が出来なくなる障害を負ってしまったけど、芯がしっかりした素敵な女性。「あたしのいる世界は、あたしが実際に体験したこと、自分で見たり聞いたり触ったりしたこと、考えたり感じたりしたこと、そこに少しばかりの想像力が加わったものでしかない」「だけど、新しいものやめずらしいものにたくさん会うことだけが世界を広げるわけじゃない。ひとつのことにどれだけ深く関われるかがその人の世界の深さにつながる」「面白いと思えるものがあったら、それが世界の戸口」「楽器をしっかり身につけておくと、音楽を聴くときの深さが違う。楽器は自分で弾くためだけにあるんじゃないよ」 行助のことを考えるととても切ない。一緒に暮らす人と、日常の些細な記憶の積み重ねを大事にしたいのはよく分かる。それでも忘れても忘れても育っていくものがあること、ふたりの世界が少し重なっているのを実感して前を向く爽やかな物語。「無限の九割の道が閉ざされてしまっても、まだ一割残っている。無限は一割でも無限じゃないのか。」
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記憶をなくすとはどういうことか、状況は想像できても、当人と周りの人の感情はなかなか想像できない。事故によって、一日しか記憶が持たない、たい焼き屋の “こよみさん” と、一緒に暮らす “行助” のお話。認知症もそうだろうけど、記憶をなくしている相手に時には苛立ってしまうことってある。相手は何も悪くはないのに。そして苛立ってしまうのも仕方がない。「忘れるからいい?」そんなことはないだろう。忘れても残るだろうし、何より自分が忘れない。私は行助のようにあるがままを受け入れられるだろうか。☆3
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小説でよくある類のストーリー。 でもこの作家の文体は好きで、そこまで読みながら抵抗はなかった。 ただ読みおわった感想としては、 映画化しやすそうだなーという軽いものになってしまう。
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事故で一日しか記憶できなくなるなんて想像できない。人間は忘れるから生きていけると聞いたことがあるけど、忘れたくないことがあるから生きていけるとも思った。 鯛焼きが食べたくなった。
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忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない…。 短期間しか新しい記憶を留めておけなく なってしまったこよみと、大学の研究室で 働く行助。ふたりの恋を、本屋大賞受賞作家が 瑞々しい筆到で紡ぐ。
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宮下さんの描く世界は、いつも誰かに何かが欠けている。 そして、読むたびに"欠けている"と思ってしまうこと自体が傲慢だと気付かされる。 目に見える部分・あるいは目に見える行動で他人より何かが欠けているのに気付くと"あ、足りない"と無意識のうち...
宮下さんの描く世界は、いつも誰かに何かが欠けている。 そして、読むたびに"欠けている"と思ってしまうこと自体が傲慢だと気付かされる。 目に見える部分・あるいは目に見える行動で他人より何かが欠けているのに気付くと"あ、足りない"と無意識のうちに思ってしまう。普通に見えても人間は必ずどこかが足りないのに。 足りないことを当たり前だと自然に思うことができたのなら、宮下さんのような視点で周りの人を見ることができたのなら、世界はほんのすこし美しくなるかもしれないな。とあらためて感じました。
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2004初出で作者30代半ばくらいの作品。たしかに佳作ですね。パチンコ屋の裏の駐輪場にあるたい焼き屋の鯛焼きが滅法美味しくて、焼いている女性も何故だかとても魅力的。そんな彼女との静かな暮らしの流れが心地よかった。後年の「羊と鋼の森」にも通じるような気がする作品でした。
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宮下さんのデビュー作。 僅か100頁強の薄い本です。ページの上下の余白も広く、短編と呼んでもおかしく無い作品です。 主人公は足に障害を持つ男性。知り合って間もないヒロインは事故によって『博士の愛した数式』と同じ記憶障害になってしまいます。(そういえば『羊と鋼の森』を読んだ時も『...
宮下さんのデビュー作。 僅か100頁強の薄い本です。ページの上下の余白も広く、短編と呼んでもおかしく無い作品です。 主人公は足に障害を持つ男性。知り合って間もないヒロインは事故によって『博士の愛した数式』と同じ記憶障害になってしまいます。(そういえば『羊と鋼の森』を読んだ時も『猫を抱いて象と泳ぐ』を思い起こしました。何故か私の中では宮下さんと小川洋子さんが繋がってしまうようです。) 瑞々しい静寂の中、淡々と語られる透明感のある物語。 優しく、でもそれだけでは無く、時に弱さからくる悪意も顔を出したりする。 こう書くと随分気に入ったよう思われるでしょう。でも「そんなに良い印象か?」と問われればそうでも無い。 いや、上に書いた内容には嘘は無いのですが、ストーリーの建て方なのか文章のリズムのせいなのか何処かでスレ違った印象があり、物語に深く入り込めなかったようです。
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宮下奈都デビュー作はこれだったんですね。イメージで勝手に「スコーレNo4」かと思っていました。 とてもとても短い本で、ゆとりを持った行数で100Pですのであっという間に読み終わります。ボーイミーツガールな青春小説かなと想像して読みましたが、途中から難病ものになるのかと意外な感じが...
宮下奈都デビュー作はこれだったんですね。イメージで勝手に「スコーレNo4」かと思っていました。 とてもとても短い本で、ゆとりを持った行数で100Pですのであっという間に読み終わります。ボーイミーツガールな青春小説かなと想像して読みましたが、途中から難病ものになるのかと意外な感じがしました。 宮下さんの本はとても背景がシンと静かな感じを毎回受けます。これもまさしく静かな本です。感情のざわつきが有っても小さな波紋のまま消えて行き、再び鏡のような水面を取り戻す湖のようです。
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