マチネの終わりに の商品レビュー
平野さんは新作が出たら必ず読む作家さんの一人。だから内容を特に確認することなく手に取った。 ちょうど読んだときに、僕は失恋の傷をいやしている最中で、今このタイミングでこの本が読めたことに喜びを感じた。お互いのことを思いあっているという部分は違うけれど、不運な偶然から結ばれない二人...
平野さんは新作が出たら必ず読む作家さんの一人。だから内容を特に確認することなく手に取った。 ちょうど読んだときに、僕は失恋の傷をいやしている最中で、今このタイミングでこの本が読めたことに喜びを感じた。お互いのことを思いあっているという部分は違うけれど、不運な偶然から結ばれない二人のやり取りが思いが届かない自分とシンクロして、共感でき、とても励まされているような気持になった。 また、この二人の生活ややり取りの美しさ≒この物語の美しさにかなり酔っぱらうことができた。つらい現実を忘れることができた。 こんなに物語に吸い込まれたのは久しぶりだった。 最後に一番響いた言葉を。 「なるほど、恋の効能は、人を謙虚にさせることだった。年齢とともに人が恋愛から遠ざかってしまうのは、愛したいという情熱の枯渇より、愛されるために自分に何が欠けているのかという、十代ならば誰もが知っているあの澄んだ自意識の煩悩を鈍化させてしまうからである。」
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ギタリスト蒔野聡史、ジャーナリスト小峰洋子。 今までも平野啓一郎さんの作品を他の皆さんのように堪能したかったのだけれど、 翻訳された文章のような咀嚼してから受け入れなければならぬ遠回り感があり、ストーリーに集中出来ないバカな子だった。 でも! ついについにずぶずぶと入り込め、胸...
ギタリスト蒔野聡史、ジャーナリスト小峰洋子。 今までも平野啓一郎さんの作品を他の皆さんのように堪能したかったのだけれど、 翻訳された文章のような咀嚼してから受け入れなければならぬ遠回り感があり、ストーリーに集中出来ないバカな子だった。 でも! ついについにずぶずぶと入り込め、胸をかき乱される作品となる。 しかも恋愛小説で。 まず、その事が嬉しい。 そして、 「未来はつねに過去を変えている」 について。 この本を手にとってよかったと思えた。 胸に響く言葉に出会えた。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
前半はモタモタと 後半は加速的に読了。 主題としては、 過去は未来によって書き換えることができる いま直面している問題も 未来から俯瞰することによって また違った一面をとらえることができる、 ということだろうか。 他にも、イラクの紛争問題、 ユーゴスラビアの民族問題、 リーマンショックに於ける金融危機など 物語を語るにおいて欠かせないテーマだったのだろうと思いつつ、不勉強で知識の足りない私にとって、 話の主筋の他に理解することに努めなければいけないのが少し大変だった。 後半の、洋子とソリッチの話が、 とても重要で大切なことを書かれていると思ったのに、 読み解くに困難で、数カ所読み飛ばしてしまった。 改めて読み返した時に理解できればと思う。 また、しばしば話題に上がる『幸福の金貨』の話が、 この物語と二重写しになっているのではと思ったが、 しっかり理解するにはもう一度読み返す必要があると感じた。 弱さや狡さを抱えつつ、 根本的に悪い人間がいない、 人に対して肯定的な(特に主役ふたりは、悲しいくらい物分りがよすぎる)話だと思った。
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最後のページを読み終わって、自然に「美しい」という言葉が心の裡に浮かんだのは、この本が3回目である。(他の2回は三島由紀夫『春の雪』とヘッセ『クヌルプ』) 「過去は変えられる」というテーマが全体を貫くモチーフとなっている。これは平野氏が提唱してきた「分人」と並んで、人々にとって...
最後のページを読み終わって、自然に「美しい」という言葉が心の裡に浮かんだのは、この本が3回目である。(他の2回は三島由紀夫『春の雪』とヘッセ『クヌルプ』) 「過去は変えられる」というテーマが全体を貫くモチーフとなっている。これは平野氏が提唱してきた「分人」と並んで、人々にとって救いとなる考え方じゃなかろうか。 人は他者との関わりによって、自分が生きてきた人生の意味を変えてしまうことができる。“私”の過去を肯定し、さらにその意味をポジティブな意味に変えてしまう人をこそ、人は心から愛するのだろう。 余談だが、平野氏の文章が好きな理由の一つに、幼児のしぐさが慈愛に溢れた優しい視線で描かれているというのがある。子育て経験のある人なら誰でも思わず目を細めてしまうと思う。
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大人の美しくも切ない恋愛小説、時事的な事や音楽の話も著者のとてもしっかりとした見識で絡めてあって読み応え十分、とても楽しめました。「分人主義」に続く著者の新機軸は「過去は変えられる」のようです。
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私が、何を書こうとも何を言おうとも、浅すぎる書評になってしまうくらい、美しく切なく、大人の、純粋な恋愛小説だった。過去は変えられるもの、と語ったこと。現在を生き、過去を見つめ、過去を変えつつ、狂おしいほどに愛と向き合うふたり。切なく哀しいストーリー。音楽のことはわからないけれど、...
私が、何を書こうとも何を言おうとも、浅すぎる書評になってしまうくらい、美しく切なく、大人の、純粋な恋愛小説だった。過去は変えられるもの、と語ったこと。現在を生き、過去を見つめ、過去を変えつつ、狂おしいほどに愛と向き合うふたり。切なく哀しいストーリー。音楽のことはわからないけれど、溢れる美しい音楽と、美しい言葉。いつまでも、いつまでも、余韻が消えない。きっと、何度も読み返すであろう、物語。
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とにかく面白くて一気に読んでしまった。心理描写がとてもしっくりきて、主人公2人に共感できて仕方なかった。過去は変えられる。本当にそうだな。愛の形をまた新たな角度から分析することができた。
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この小説を読むことによって、読んだ日のタイムスタンプが読者の人生に永遠に刻まれるとともに、それより過去への認識と、それから未来への展望の全てが決定的に更新されてしまうことでしょう。ここで語られた男女(あるいはその周りの人々)の多くの経験は、読者自身の認識と展望にいかようか結びつき...
この小説を読むことによって、読んだ日のタイムスタンプが読者の人生に永遠に刻まれるとともに、それより過去への認識と、それから未来への展望の全てが決定的に更新されてしまうことでしょう。ここで語られた男女(あるいはその周りの人々)の多くの経験は、読者自身の認識と展望にいかようか結びつき、小説と並行して自身の新たな物語が展開され—それは一人称かもしれないし三人称かもしれない—小説の感動的なラストを迎えた時には、余韻に浸る間もなく、自らのまだ終わっていない物語に対峙することになりますが、小説のラストに引きずられるところもあり、この物語の行く先にポジティブな展開を予感させてくれることでしょう。
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久しぶりにその世界に没頭できる小説だった。もうちょっと音楽的、文学的素養があれば、さらに楽しめそう。同世代だから共感できる気持ちも多かった。
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セントラルパークでの再会の後、蒔野と洋子はおそらく結婚するのだろう。 蒔野が妻と娘と別れられるのかというところが読者の意見が別れる点かもしれない。妻はともかく娘に対しては、洋子の存在を感じさせずに育てたいと考えていたほどなので、あきらめることができるのか。しかし、蒔野の相手が洋子...
セントラルパークでの再会の後、蒔野と洋子はおそらく結婚するのだろう。 蒔野が妻と娘と別れられるのかというところが読者の意見が別れる点かもしれない。妻はともかく娘に対しては、洋子の存在を感じさせずに育てたいと考えていたほどなので、あきらめることができるのか。しかし、蒔野の相手が洋子であるというところが決め手になると思う。 洋子はクロアチア人映画監督ソリッチと日本人の母の間に生まれた娘である。しかしソリッチはある事情により間もなく母と娘のもとを去り、別に暮らすようになる。洋子は実質的に母一人の手によって育てられている。 蒔野・早苗・優希という家族は、ソリッチ・洋子の母・洋子という家族に重なるのだろう。蒔野もソリッチもアーティストである。だからなのだろうか、強い相似形が感じられる。早苗も、洋子の生い立ちを知っていたので、蒔野と洋子が再び結ばれることを予見して、洋子(YOKO)に通じる優希(YUKI)と名付けたのではないか。 そういう記号的な裏読みはともかくとして、「未来は過去を変えうる」という考え方、「罪の総量」という考え方、運命論と自由意志、「脇役としての人生」という考え方、PTSD、リーマンショックなど興味深いトピックが多い。
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