イノセント・デイズ の商品レビュー
第68回 日本推理作家協会賞受賞作。 放火による火事で双子の姉妹とその母親、そして母親のお腹にいた子供が亡くなった事件で、父親の元交際相手である田中幸乃が逮捕され、死刑判決が下る。なぜ彼女はこんな事件を起こしたのか。 まず、章のタイトルが「覚悟のない十七歳の母のもと」「証...
第68回 日本推理作家協会賞受賞作。 放火による火事で双子の姉妹とその母親、そして母親のお腹にいた子供が亡くなった事件で、父親の元交際相手である田中幸乃が逮捕され、死刑判決が下る。なぜ彼女はこんな事件を起こしたのか。 まず、章のタイトルが「覚悟のない十七歳の母のもと」「証拠の信頼性は極めて高く」など、判決文の中の節で作られているのがおもしろい。これを読んでいき、それぞれの時代で一番幸乃と関わりの深かった人物の証言を聞いていくと、どれにもすべて裏事情があり、幸乃が好んで犯罪に手をそめたわけではないことがわかったり、時には完全な冤罪であることもわかる。しかし判決が下った後も幸乃はそれに反発しようともせず、静かに死刑執行までを待つ身となることを望む。それを知ったかつての仲間が、なんとか幸乃の死刑執行を止めようと動くが、結論からいうとその声は届かず、幸乃の刑は執行されてしまう。なぜ幸乃がもっと救われるラストではなかったのかと思うけれど、死刑回避こそがそれまでの幸乃の人生を否定することにもなってしまうのかと思うと切ない。
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人は誰かに必要とされていないと生きていけない。 でもどう手を差し伸べればいいのかわからない。 辛く悲しい話だった。
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結局、彼女に触れられたのは、元彼のみであったのだろうか、と思う。それが良き形では無いにしろ。彼が去った後は、圧倒的な孤独である。誰 も彼も、彼女を可哀想と思いつつも決して触れない。 面白いし読ませるんだけど「何という他人行儀だ! それが現代だっていうのか!」と叫びたくなる。 しかしながら、彼女もなんやかんや言って、他人から依存されるように(頼られるように)仕向けてはいるけれど、他人に触れていないように思 う。 正直、彼女のイノセントさは、私には謎だ。男性作家だから書けるタイプのヒロインではあるなぁと思う。正直、都合良すぎる。 ただ、これ以上生々しかったら、きつすぎて読めない話である。そして、周りの登場人物たちの多面性(ただ「悪人」、「善人」だけではなく、 ありえる生々しさ)と同じ密度でヒロインを描いたらイノセントさは際立たないだろうし、冗長になるだろうなぁとも思う。そういう意味ではもの すごいきれいなバランスである。
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いつも聴くラジオのオススメで買いましたが、積読の期間がだいぶありました。 それでも読み始めたら一気読み。 文章の構成が巧みで「死刑」のありきの状況から それを色々な人の話から紐解いていく過去。 とにかく先が気になってしょうがない内容でした。 かすかにあった希...
いつも聴くラジオのオススメで買いましたが、積読の期間がだいぶありました。 それでも読み始めたら一気読み。 文章の構成が巧みで「死刑」のありきの状況から それを色々な人の話から紐解いていく過去。 とにかく先が気になってしょうがない内容でした。 かすかにあった希望もすぐに失う切なさ。 彼女の人生を思う時、心が張り裂けるような気持ちになります。 娘がいるからこそ、突きささるものがある小説でした。
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通勤と仕事の移動時間を使って1日半くらいで読んだ。 ダンサーインザダークみたいという感想に納得はするのだけど、描き方からか私は有吉佐和子の悪女を思い出した。いろんな角度からいろんな時代に幸乃を描写しているのだけど、幸乃本人の口から語られることが少ないので、飲み込めない感覚が残った...
通勤と仕事の移動時間を使って1日半くらいで読んだ。 ダンサーインザダークみたいという感想に納得はするのだけど、描き方からか私は有吉佐和子の悪女を思い出した。いろんな角度からいろんな時代に幸乃を描写しているのだけど、幸乃本人の口から語られることが少ないので、飲み込めない感覚が残った。 それでも、仲間内の、あるいは親子、恋人同士、 夫婦の間の、おかしな力関係や理不尽な役割、こういうムードにはまってしまうことがあるなぁとよく知った日常をなぞられるような感触をところどころに感じた。 出会いとは悲しみの種子を胸に抱くこと、悲しみの花をいつか刈り取ることになるという、今朝のバスの中で反芻した言葉を思い出す。 誰かに必要とされること、そのことの持つ力を、美しい夕焼けを眺めながら想った。
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「絶叫」「ロストケア」と続いたので、次回は少し軽めのを読みたいと思っていたところに、書店で発見! またまたくら~~い世界を覗いてしまいました。 4分の3くらいまでは、たんたんとすすんできたのですが、残り4分の1からは、こちらの呼吸も、幸乃の発作時のように早く心臓が鼓動を打ち出してしまい、「まさか?」「どうなる?」とちょっと期待して読んでしまいました。。。。
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生きる価値とは何か、罪とは何か、必要とされるとは何か。言葉にしてしまうと陳腐だけど、それを強く突きつけられる一冊だった。ミステリー要素もあるかもだが、やはりひとりの女死刑囚の人生の物語。結末までに見せられる社会と人の不確実さに恐怖する。
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読み進むうちにどんどん辛くなる。 30歳という若き女性が、こんなにも死を望まなくてはならない人生を思うと胸がつぶされそうになる。 何処かに救いはないかと思ったが、それも彼女の生きようとする思いには繋がらなかった。 何を裁いたのか、心に重く残る。
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死をのぞむ女性確定死刑囚。 「生まれてきてすみませんでした」 元彼の妻子を焼き殺した罪で裁かれるが、服役中も反省の言葉はなし。ただ淡々と牢の中で残る人生の火を灯すのみ。 それには理由があった。 死刑判決文の理由から彼女の人生が過去から立ち上げられていく展開が面白かった。 死にたいと願い、死刑確定囚となり、死ぬ。 不幸な人生を過ごさざるをえなかった彼女なりの最後の幸せが死。 あまりにも侘しい。
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惨たらしい事件を引き起こし、死刑判決を受けた一人の女性。世間ではあたかも怪物のように語られる彼女だが、それははたして彼女の本当の姿なのか。 事件前の彼女の人生が、それぞれに関わりのあった人物によって語られていきますが。読み進むごとに、真実とはいったいなんなのか、と疑問に思えてきま...
惨たらしい事件を引き起こし、死刑判決を受けた一人の女性。世間ではあたかも怪物のように語られる彼女だが、それははたして彼女の本当の姿なのか。 事件前の彼女の人生が、それぞれに関わりのあった人物によって語られていきますが。読み進むごとに、真実とはいったいなんなのか、と疑問に思えてきます。タイトルの通り、幸乃はあまりに純粋で健気でやりきれなくて。なぜあんな事件が起こってしまったのかも疑問。 そして世間一般で認識される、「被害者は善で加害者が悪」という図式はとんでもなく不愉快なものだと思いました。誰だっていい面と悪い面があるはずなのに、それを無視して、一面だけを自分の都合の良いように解釈してしまうのはとんでもないことだなあ。
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