小さいおうち の商品レビュー
1930年頃から人生の大半を女中として過ごしたおばあさんの手記。 という体で進むなんだか切ないおはなし。 第143回 直木賞受賞作。 根底には戦争へと突き進む当時の日本社会の変貌があるのだけど、 そこを家庭を主戦場とする女中の視点から眺めていくのが面白い。 日本が仕掛けた戦争...
1930年頃から人生の大半を女中として過ごしたおばあさんの手記。 という体で進むなんだか切ないおはなし。 第143回 直木賞受賞作。 根底には戦争へと突き進む当時の日本社会の変貌があるのだけど、 そこを家庭を主戦場とする女中の視点から眺めていくのが面白い。 日本が仕掛けた戦争は事変であり、 そこでの勝利はデパートが安くなる日だった。という。 家庭の中心にありながら決して主役にはなり得ない女中さんの 主人家族へ向けられる暖かい気遣いと忠誠。 それをちょっと超えた所にある特殊な愛情。 昭和を生きたおばあさん特有の殊勝さとすっとぼけ具合もうまく出ていて 終盤までほっこり読めます。 ただ最終章は手記ではなくなって、全く別の角度から語られるので ここで改めて「小さいおうち」の物語が始まると言ってもいいくらい。 だから目次の書体もここだけ違っていたのか。 おばあさんが手記として書けた事、書けなかった事、 それらと現代をつなぐ、切ない答え合わせの物語。 田舎から体ひとつで東京へやってきた若い女中が 終の棲家と決め、何よりも愛した2畳の小部屋と、 赤い屋根のおうちが戦後どうなったのか。 知りたいような。知りたくないような。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
西武にて購入 直木賞受賞作品・映画化決定 昭和初期から戦争前後に女中奉公に出た少女タキの思い出から現代へと続くお話。 大きな事件は起こらない。 当時の庶民の戦争時における「日常生活」。 好みとしては、後半部分、もう少し 話が膨らむと良いなと思ったが どうだろう?
Posted by
女中時代の思い出を書いた大伯母の手記を譲り受けた甥の息子が、不思議な偶然にあいながら、大伯母の知人に会っていく。 ほんわかと優しい気持ちになります。
Posted by
昭和初期 戦争の影濃くなる中、山形から女中奉公に出てきたタキさんが晩年、回想録を書き綴るという形式で、当時の東京と家庭の風景、そして奥様を廻る人々の想いが綴られる。 回想ノートに書かなかった部分を感じさせながら、最終章でタキさんの秘密が明らかになるが、最後まで読者の推理を促す。...
昭和初期 戦争の影濃くなる中、山形から女中奉公に出てきたタキさんが晩年、回想録を書き綴るという形式で、当時の東京と家庭の風景、そして奥様を廻る人々の想いが綴られる。 回想ノートに書かなかった部分を感じさせながら、最終章でタキさんの秘密が明らかになるが、最後まで読者の推理を促す。 すべてを白日の下にさらすことない、電球色の景色がそこにある。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
昭和初期、モダンな赤屋根のお宅で女中奉公に出たタキという少女が味わった、上流家庭の生活が半分以上。戦局が進んでも、いまひとつピンとこないフワフワとした甘く鈍感な小さなおうちの日々。 タキが実家に帰り、疎開児童の世話をするあたりで一気に文章がゴタゴタと暗く重く窮屈になり、それがそのまま生活に色がなくなったことを表しているようだった。 時子との束の間の再会から、また現代の甥の視点へ一気に跳ぶ。ここでまた終始自省的だったタキの思いがけない一面が強く心を掴んだ。小さいおうちの秘めた激情。 いいものを読んだ。よかった。
Posted by
昭和初期の東京で、山形から出てきた女中さんの目を通して、間少女のような奥様との日々が描かれています。第二次世界大戦へと突入するちょっと前の日本は、暗いイメージがありましたが、ちょっとイメージが変わるような内容でした。
Posted by
途中までは、タキの語りでどこか引き付けられるもあった。このまま終わるのかなと思っていたけど、最終章で舞台が現代へと移ったことで、曖昧だった事柄がすべてつながり、目から鱗でした。 タキの語りでは、主人(奥様)に対して、賢くて機転の利く女中であろうとする姿が頻繁に出てきます。最終章...
途中までは、タキの語りでどこか引き付けられるもあった。このまま終わるのかなと思っていたけど、最終章で舞台が現代へと移ったことで、曖昧だった事柄がすべてつながり、目から鱗でした。 タキの語りでは、主人(奥様)に対して、賢くて機転の利く女中であろうとする姿が頻繁に出てきます。最終章を読み、文庫表紙イラストをながめながら、タキの忠誠心の強さを感じました。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
働き者の女中さんが語る、戦前から戦後にかけての山の手のおうちでの物語。 あとがき?にもあったけれど、まず語り手が「おばあちゃん」であること、おばあちゃん特有の視点による小さいユーモアや強さが好き。 そして戦時中の話につきものの悲壮なイメージとは別の、情勢に巻き込まれていきながらも生き生きとした日常。 昭和の台所の工夫はやっぱりなごむ。 子どもを、ぼっちゃん、って呼ぶ、のどかさ。 結局手紙は読まれたかった人に読まれなかったわけだしおばあちゃんの真意もわからないけれども、 おばあちゃんにとって全てだったおうちが、作品の最後にある一作家の中にあった「守られるべきもの」として、また違った意味合いを持たされていることに・・ひとつすっきりとおおきな気持ちになって読み終えられた。 ぼっちゃんも素敵なおじいさんになって幸せのようで、 よかったよかった。 でも最後になって作家の存在が重く興味深くなってくるのは、すごいとも、ずるいとも思った。
Posted by
聞かなかった問いの答えを求めて、ひとつの物語を辿っていく健史が羨ましく思えた。物語の最後に奥さんと女中ではないもう一つの関係が見えてくる。 当時の戦争に対する楽観的な世論も感じることができる一冊。
Posted by
戦争を知らない世代が抱く戦中のイメージと現実がいかに解離しているのか、を知る事の出来る作品です。 確かにフィクションのお話ですが、戦時中とはいえどそこには庶民の生活があり、その庶民は自分達の祖父母でもある事に気づかされます。
Posted by