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ウエストウイング の商品レビュー

3.9

67件のお客様レビュー

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  3. 3つ

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2014/10/28

冒頭───  誰かいる。ネゴロは思う。今日この場所へやってきてすぐ、自分が持ち込んだチラシなどを置いている灰色のがっしりした事務机の上に、持ってきた記憶のないフリーペーパーが積まれているのを目にした時に確信した。「モノレールニュース」なんて持ち込んだ覚えはない。ネゴロの立ち寄る駅...

冒頭───  誰かいる。ネゴロは思う。今日この場所へやってきてすぐ、自分が持ち込んだチラシなどを置いている灰色のがっしりした事務机の上に、持ってきた記憶のないフリーペーパーが積まれているのを目にした時に確信した。「モノレールニュース」なんて持ち込んだ覚えはない。ネゴロの立ち寄る駅には、「モノレールニュース」は置いていないので、ここにはモノレールが通っている府の北側か、最低でも「モノレールニュース」を置いているネゴロの知らない駅からやってくる誰かが他にいるということになる。ネゴロは南からやってくる。モノレールにのったことはない。 ─── 四階建て地下一階のビルの四階に、かつてあった個人事務所が引っ越したことで、そこが物置代わりになっている空き部屋がある。 そこは、そのビルに入っている会社に勤めている主人公ネゴロの格好のサボリ場所になっていた。 ある日、ネゴロはその場所に自分だけが出入りしているのではないことに気付く。 少なくとも他に二人、何かしらのためにその場所を使っている人間がいることを知る。 一人は熟に通ってきている絵の得意なヒロシ。 もう一人は同じビルの別な会社に勤めているフカボリ。 それぞれ、互いの正体は分からないまま、三人の間で奇妙なメッセージのやりとりが始まる。 その他にも、そのビルには得体の知れない人たちがたくさんいた。 三人には、それまでの平凡な日常が一変して、様々な事件が発生する。 同じ会社の後輩のトイレでの出産。 窓から見える向かいのビルに移る幽霊の出現。 大雨によるビルの孤立。 物置部屋が菌によって汚染されていたこと。 いやあ、面白いストーリーでした。 津村さんの作品にしては珍しく、大きなアクシデントが起こる。 特に大雨でビルが孤立し、フカボリさんが“渡し”業をやる羽目になってしまうところなどは爆笑でした。 最終的には三人とも、大きな危機に直面するのですが、そこも何とか乗り越えます。 そして、その先に待っているのは明るい未来。 “どん詰まりになっても、何とかなるさ。” どんな困難にぶち当たっても、頑張れば、いや頑張らなくても何とか乗り越えられるものだよ。 そう語りかけてくるように私には思えました。 一見、ありふれた日常の中で、色々な悩みや葛藤、悶々とした思いを抱く人々を淡々と描きながら、人間が生きていく上で本当に必要なことは何なのだろうと津村さんの作品は問題提起しているのじゃないでしょうか。 意志が弱いとか、優柔不断とかそういうことではなくて、簡単には決められないことがこの世の中には山ほどたくさんあります。 それでも、最終的には何らかの決断を迫られ、紆余曲折、不承不承ありながら、選択肢を選び生きていかなければならない。 理不尽なことにも、先のことを考えればこの場を耐えなければならない。 でも、それだけじゃ嫌だ。 なんとか打開したい。 そこが読者の共感を得る部分なのでしょうか。 津村さんの作品を読んでいると、灰色の雲から降ってくる霧雨のような茫洋とした情景が頭に浮かんできます。 折り畳み傘を開こうか、うーんでもそれほどの雨でもないし、といつまでも迷っているような気分に覆われます。 でも、それがストレスにはならないんですね。 まあ、ぼちぼちやっていこうか、と軽く突き放すような、関西人特有の根っこにある明るさが作品を支えているように感じます。 だから、一見じめじめした暗い物語のようでありながら、読後感がそれほど悪くないのでしょう。 傑作です。 是非ご一読を。

Posted byブクログ

2014/09/27

同じテナントビルに通い、1つのサボり場所を共有しながらも交わらない3人の話。 テナントビルで働き、同じ建物にいてもそれぞれ違う仕事や 生活があるんだなと日頃思っていたので共感できる視点だった。 でも私のコンディションが悪かったせいか冗長に感じてしまった。 大雨のくだりが「とにか...

同じテナントビルに通い、1つのサボり場所を共有しながらも交わらない3人の話。 テナントビルで働き、同じ建物にいてもそれぞれ違う仕事や 生活があるんだなと日頃思っていたので共感できる視点だった。 でも私のコンディションが悪かったせいか冗長に感じてしまった。 大雨のくだりが「とにかく家に帰ります」と同じだったからかも。 津村さんならではのキラキラしていなくても それなりに真面目に生きている登場人物たちは相変わらず好きなのですが…。

Posted byブクログ

2014/07/06

なんなんだろう、この感動は? ふつうのひとが、ふつうの生活をしていて、でもその中にキラリと光るものがごくごくたまにあって、それが複数交差するととても鮮やか。 お見事でした。津村記久子の作品の中で一番好きかも。

Posted byブクログ

2014/03/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

古いビルにひしめく色んなテナント。塾、占い師、エステ、喫茶店、文房具屋…。 その中の事務系の会社につとめる女性ネゴロと、塾に通う小学生ヒロシは、互いに顔はあわさないものの、物置がわりの空きテナントスペースに寄り、思い思いの時間を過ごすことが好き。 そんなある日、インクカートリッジを物置から拝借したネゴロさんは、置き手紙を残し、そこから文通的なやりとりが始まる。 と、これだけでなんだか面白いんだけど、実は物置に出入りしている人間はもう一人。フカボリくんもいたという展開。 半ばくらいに、豪雨でトンネルが浸水してビルから出られなくなった彼ら三人のそれぞれの過ごした時間がまたどれも楽しい。 テナントにいるその他の人たちも、三人とつかずはなれずに関わりがあってこれがまた良い。 最後のシーンの、あっけないとすら感じるすすみかたも爽やか。 津村さん作品はまだまだ全然未読が多いけど、今のところはこれが一番好きだなあ。

Posted byブクログ

2014/03/26

これといった起伏がないのに飽きずに(嘘です、豪雨のあたりでちょっと中だるみしましたすみません)最後まで読ませる津村さんすごい。 細かいネタ(万年筆のペリカーノジュニアとか、今作だとデスキャブの話題とか)でにやけてしまいます。もしかしたら津村さんと趣味が合うのかも!

Posted byブクログ

2013/12/22

好きだなあ、この感じ。 この人の本どんどん読みたい。 よくいる勤め人の、何てことない日常が細かく書かれていて、退屈といえば退屈なのだけど、同時にそれが魅力であって頻繁にニヤリとさせられる。ああよく私もこういうこと考えるなーとか。 大雨の話のところ、実際に雨の日に読んだので、ぴ...

好きだなあ、この感じ。 この人の本どんどん読みたい。 よくいる勤め人の、何てことない日常が細かく書かれていて、退屈といえば退屈なのだけど、同時にそれが魅力であって頻繁にニヤリとさせられる。ああよく私もこういうこと考えるなーとか。 大雨の話のところ、実際に雨の日に読んだので、ぴったりきておもしろかった。

Posted byブクログ

2013/11/13

 胸が、温水で満たされたような気持ちになる。安心したような、所在無いような。自分は誰かに自分のことを知ってほしかったのだろうか。ここで勉強に立ち遅れているだけが自分ではないのだと。ここにもある子供の序列の最下層の自分にも、できることはあるのだと。 (P.306) 光と光の間に見...

 胸が、温水で満たされたような気持ちになる。安心したような、所在無いような。自分は誰かに自分のことを知ってほしかったのだろうか。ここで勉強に立ち遅れているだけが自分ではないのだと。ここにもある子供の序列の最下層の自分にも、できることはあるのだと。 (P.306) 光と光の間に見える自分の顔が、少し長くなったような気がした。ヒロシにはそれが、別の人間のようにも見えながら、小さな頃に作った深い傷口が皮膚に馴染んでいるのを眺めるような、諦めに似た感慨を持った。 (P.374)

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2013/11/11

関西が舞台なところが津村記久子の小説を読ませる動機にある程度の割合を占めているな、と思う。 結局、物置部屋を共有していた3人は最後まで対面することはなかった。ヒロシに、そうは言ってももうちょっと勉強しなよーーて思う私はいい歳のオトナだなーと。 「人間は思ったより早く大人になること...

関西が舞台なところが津村記久子の小説を読ませる動機にある程度の割合を占めているな、と思う。 結局、物置部屋を共有していた3人は最後まで対面することはなかった。ヒロシに、そうは言ってももうちょっと勉強しなよーーて思う私はいい歳のオトナだなーと。 「人間は思ったより早く大人になることをネゴロは知っている。ただ、障壁に触れて再び子供に戻るのである。そのサイクルを何度か繰り返して、」

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2013/10/20

会社の事務所や喫茶店、文具店、コインロッカー、など色んなお店が入る建物=椿ビルディング。その椿ビルディングに事務所を構える会社で日々雑事に追われるOL、同じく椿ビルディングに入ってる別の会社で単調な日々を送る20歳代の平凡な男性サラリーマン、同じビルに入っている進学塾に通う母子家...

会社の事務所や喫茶店、文具店、コインロッカー、など色んなお店が入る建物=椿ビルディング。その椿ビルディングに事務所を構える会社で日々雑事に追われるOL、同じく椿ビルディングに入ってる別の会社で単調な日々を送る20歳代の平凡な男性サラリーマン、同じビルに入っている進学塾に通う母子家庭の男子小学生が、この物語の主人公。 この3人がそれぞれ、ふとしたことから椿ビルディングの物置部屋を発見し、いつの間にか、この物置部屋が彼らの息抜きの場となっていた。その物置部屋にて、3人は、お互いの顔も知らぬままに物々交換を始める。 そして、この町界隈に降った豪雨を境に、少しずつストーリーは展開していく。 どちらかといえば粛々と淡々と話が進んでいく、まさに津村ワールド。本を読み終えても、まだまだ話は続きそうで、それを読者なりに想像してみるのも楽しいかも。

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2013/09/17

とりたてて、大きな感動や大スペクタクルはないけれどそれが津村記久子作品のいいところ。 雨の描写が、しっとり湿った湿度を感じる。大雨でビルから帰れなくなり、戸惑う椿ビルの人々だけどここぞとばかりに傘を売り出すドラッグストアや、ビルの廊下で酒盛りをしていたり、ドライヤーを使って靴下を...

とりたてて、大きな感動や大スペクタクルはないけれどそれが津村記久子作品のいいところ。 雨の描写が、しっとり湿った湿度を感じる。大雨でビルから帰れなくなり、戸惑う椿ビルの人々だけどここぞとばかりに傘を売り出すドラッグストアや、ビルの廊下で酒盛りをしていたり、ドライヤーを使って靴下を乾かすクリーニングを臨時開業したり、困難な状況を楽しんでいるかのようだ。 作中では椿ビルに集う三人の男女のなくてもいいような、大事なような地味な交流が描かれる。 多分、椿ビルがなくなったとしても三人は流れるように状況に合わせつつ生きていけるのだろう。 でも椿ビルがあるから、日常の理不尽な不満や悩みを少し解消できている。椿ビルの存続がぎりぎりで決まり、三人でビルを眺めるのがいい。 何かが少し変わって、あそこでまた集っていこうとする姿がいいと思う。

Posted byブクログ