ソクラテスの弁明 の商品レビュー
神を信じない罪と若者を堕落させた罪で告発を受けた哲学者ソクラテスの、裁判での弁明(告発者との問答を含む)、判決、そして判決に対する「遺言」をまとめたものです。 訳者解説によればこれはプラトンが著したソクラテスに関する真実であり、裁判記録ではありません。実際、おもにソクラテス側の言...
神を信じない罪と若者を堕落させた罪で告発を受けた哲学者ソクラテスの、裁判での弁明(告発者との問答を含む)、判決、そして判決に対する「遺言」をまとめたものです。 訳者解説によればこれはプラトンが著したソクラテスに関する真実であり、裁判記録ではありません。実際、おもにソクラテス側の言い分が書かれており、告発者との問答も、ソクラテスがいかに反駁したかに重きが置かれているようでした。 最低限必要な知識はまえがきに書いてあり、註もあるので読み進めるのに支障はありませんでした。 読み終えて思ったのは、ひとつには神を信じていないのはソクラテスではなく告発者と民衆(裁判員)だということ。ふたつには、これを過去のこととして素通りしてはいけないということです。 都市国家では守り神を信仰するのが当たり前だったそうですが、裁判当時は形骸化していたのではないでしょうか。本当に皆が守り神を信仰していたなら、神を信じていないと告発されることもなかったでしょう。自分と同じようにソクラテスも神を信じていると実感できただろうからです。 ソクラテスがおこなった弁明や問答も、至極真っ当な内容だと私には思えましたが、裁判員には当時跋扈していたソフィストの言うことと区別がつかなかったのかもしれません。ソフィストの語は現代でも、詭弁を弄する人という意味合いで使われます。しかしその場にいる全員が神を信仰していたなら、ソクラテスの真に言おうとしていることが理解できたのではないかと思うのです。 罪をでっち上げられて告発され、有罪になってしまうことは、現代でも十分あり得ます。当時の裁判では有罪か否かを判断したあとに量刑が判断されていたそうで、告発者が死刑を求刑したのに対し、ソクラテスは当時のVIPにのみ許されていたことを刑罰として提案するなどしたため、裁判員の反発を招いてしまいます。 弟子たちの助言もあってソクラテスの主張は最終的に罰金に落ち着きましたが、それまでの悪印象を拭い去ることはできず、告発者の求刑どおり死刑が決定します。 現代でも、「心証が良くなる/悪くなる」と言います。神ならぬ身の人が人を裁く難しさは古代ギリシャの時代から少しも変わっていないのだなと、ため息が出ました。 この著作はプラトン哲学への入門書ということで、あらためてプラトンが何を言いたかったのかを考えると、ソクラテスがいかに真理の探究に熱心だったか、ではないでしょうか。それが神の意志に叶う生き方だと信じていたのです。 とはいえ自分の生き方を貫くのはとても勇気の要ることで、ともすれば日和ってしまいがちになります。プラトンは師の生き様を記すことで、自分が哲学の道を歩む際にぶれることのないよう、自身への戒めとしたかったのではないかと思いました。 解説も充実していて、本編を読み、解説を読んで、再度本編を読むといっそう理解が深まるように感じました。 プラトンのほかの著作についての案内も巻末に載っています。続編は「クリトン」と「パイドン」だそうなので、探して読んでみようと思います。
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読みやすい。饗宴や国家は長いので、まずは初期のものから。プラトンによって書かれたと言っても、2500年も前のソクラテスの人間性、温かみ、真実を探求し述べる声が伝わってくる。 「無知の知」「ソクラテスの産婆術」などよく耳にする用語が、こういうことだったのかと、短い対話ながら理解でき...
読みやすい。饗宴や国家は長いので、まずは初期のものから。プラトンによって書かれたと言っても、2500年も前のソクラテスの人間性、温かみ、真実を探求し述べる声が伝わってくる。 「無知の知」「ソクラテスの産婆術」などよく耳にする用語が、こういうことだったのかと、短い対話ながら理解できた気がする。善きことをする、金や名声ではなく、魂や徳を多くするよう生きる、知らないと思っている。 一方で、有識者を問い詰めたり刑罰に会食を望んだり、場所を弁えていないかのような応対に、市民の反感を買うのも納得した。この本に「クリトン」も収録されていれば良かったのに、それだけが残念。 「死というものを誰一人知らないわけですし、死が人間にとってあらゆる善いことのうちで最大のものかもしれないのに、そうかどうかも知らないのですから。」 「そして、私にとっても皆さんにとっても最善になるように、私について判決を下されるよう、あなた方と神にお任せします。」
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ソクラテスの裁判とはなんだったか記されたプラトンによる創作。ソクラテスは「真実」を語ると繰り返す。それは死刑を逃れるためなどではない、むしろ死刑判決がソクラテスが真実を語っていることを明かす。ソクラテスは死をおそらく全くおそれていない。哲学しつづける生か哲学しつづけて死を迎えるか...
ソクラテスの裁判とはなんだったか記されたプラトンによる創作。ソクラテスは「真実」を語ると繰り返す。それは死刑を逃れるためなどではない、むしろ死刑判決がソクラテスが真実を語っていることを明かす。ソクラテスは死をおそらく全くおそれていない。哲学しつづける生か哲学しつづけて死を迎えるか、という生き方を貫こうとしているからだ。それをソクラテスは神の与えた使命という。神は「善、美、正義」などの知恵をもっている。ソクラテスはそれらを知らないので、知らないと思っている。
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※このレビューにはネタバレを含みます
哲学入門者ですが、非常に読みやすかったです。 解説があるため、より理解が深められました。 また、プラトンの作品一覧もあるため、今後何を読めば良いが分かりやすかったです。 無知の知という言葉が間違いだと初めて知りました。
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プラトンの初期作。ソクラテスの没年が前399年で、この執筆時期が前390年だという。プラトンの師であるソクラテスが、アテナイの市民から不敬罪により訴えられて裁判にかけらた。その裁判において、原告や判事とのやり取りが描かれる。 ソクラテスは死を恐れない。人間にとっての不幸とは肉体...
プラトンの初期作。ソクラテスの没年が前399年で、この執筆時期が前390年だという。プラトンの師であるソクラテスが、アテナイの市民から不敬罪により訴えられて裁判にかけらた。その裁判において、原告や判事とのやり取りが描かれる。 ソクラテスは死を恐れない。人間にとっての不幸とは肉体の死のことではなく、魂の死であると。自らの思想は神託であるとの信念から、毒杯をあえて仰ぐに至るまでの雄々しい彼の姿が描かれる。一般にきかされるソクラテスの生涯のポイントが、この作品で本人の口を通して語られている。 このような場においても、ソクラテスはソクラテスであり、この「魂への配慮」があって、弟子のプラトンが生まれたのだとじっと考える。ソクラテスは思想家というよりは宗教家に近いかもしれないが、そのソクラテスの思想と信念をプラトンが体系化し、学園を築き教え説いたということが重要。いろいろと思い巡らす一冊。とっても読みやすかった。 17.9.23
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目次→訳者まえがき→本文の順で読み始めたところ、訳の言い回しがまわりくどいのか、原典がくどいのか、ソクラテスが何を言いたいのか良くわからない印象でした。 でも、解説→本文の順で読み直したところ読めるようになりました。 「徳について対話・吟味のない生は人間にとって生きるに値しない...
目次→訳者まえがき→本文の順で読み始めたところ、訳の言い回しがまわりくどいのか、原典がくどいのか、ソクラテスが何を言いたいのか良くわからない印象でした。 でも、解説→本文の順で読み直したところ読めるようになりました。 「徳について対話・吟味のない生は人間にとって生きるに値しないもの」と言い切るソクラテスはかっこいい。でも、吟味のために全てを切り捨てる必要があるのか? プラトンの他の著作も含めて哲学の歴史を辿ってみようと思います。
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昔学生のころ絶対に読んだのだが。(読んだことだけは 覚えているのだが)全く覚えていないもので。 大まかな内容は当然しっているのだが、詳細は全く 思い出せなかってです。でもまた読めてよかったと思います。 光文社のこの文庫シリーズは非常にいいと思うので、 もっと多くの古典を新訳で発売...
昔学生のころ絶対に読んだのだが。(読んだことだけは 覚えているのだが)全く覚えていないもので。 大まかな内容は当然しっているのだが、詳細は全く 思い出せなかってです。でもまた読めてよかったと思います。 光文社のこの文庫シリーズは非常にいいと思うので、 もっと多くの古典を新訳で発売してほしいと思います。 ソクラテスの無知の(知)恥の本来の意味合いが、 少しわかったような気がします。
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知を愛し求めるかぎり、人はより良く生きている。 無知の知。 人は「死」を知らないのに、なぜ恐れるのか。 恐れはダークサイドの入り口。。。
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フィロソフィア:「智を愛する」とはどういうことか。ソクラテスはその命を懸けて証明した。わかりやすい。 ソクラテスも知識人らしく、他人の気持ちを読めない空気を読めないアスペルガーっぽい所があったっポイな。でも、他社に迎合しないその姿勢は、高潔で、勇気があるようで、強い意志を感じる。 しかし、それだけでもなかったんだろうな。やっぱり対人関係が不自由だったんだろうな。でもそれゆえに死ぬことになった。 ソクラテスが最も愚かと言ったのは、「無知の恥」 知ったかぶりの人間ほど醜い物はない。「智識は無限」である。どんな知者でも、何でもは知らない。知っていることだけを知っているのである。羽川翼もそう言っている。持てる知識の多少をひけらかすのは愚か。謙虚に自分の知識を増やし続けること、学びを愛することが正しい態度。 「無知の智」を自覚しよう。学び続けよう。
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岩波文庫版に親しんで、よく知っていると思っていたけど、それ自体がとんでもない間違い、まさに無知であったことがわかりました、この新訳と充実した解説を読んで。無限に続く真理の探究、知を愛し求める哲学の実践、飽くなき自己吟味と魂への配慮にまさに命を賭した一人の人間が、自己の生死のかかっ...
岩波文庫版に親しんで、よく知っていると思っていたけど、それ自体がとんでもない間違い、まさに無知であったことがわかりました、この新訳と充実した解説を読んで。無限に続く真理の探究、知を愛し求める哲学の実践、飽くなき自己吟味と魂への配慮にまさに命を賭した一人の人間が、自己の生死のかかった裁判で、人々に人間として生きることの意味を問い続けます。 本書はまさに人類の宝というべき古典だったのです。
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