屍者の帝国 の商品レビュー
よくぞ続きを書き上げてくださった、と感謝したい。あんな人やこんな人が出てきちゃう、あの映画のアレっぽい、など遊びがいろいろと仕込んである上に、「緋色の研究」にもつなげられる終わり方なので、層がある面白さだった。
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まさに着想・構成伊藤計劃、文章円城塔といった作品。テーマやモチーフはいかにも伊藤計劃だけれども、伊藤計劃らしさを期待すると漂う違う感。 円城塔の思考遊び・言葉遊びが前面に出てるので、より一層ミステリアスであはあるのだけれども、ミステリとしての読みにくさを感じてしまった。 内容は面...
まさに着想・構成伊藤計劃、文章円城塔といった作品。テーマやモチーフはいかにも伊藤計劃だけれども、伊藤計劃らしさを期待すると漂う違う感。 円城塔の思考遊び・言葉遊びが前面に出てるので、より一層ミステリアスであはあるのだけれども、ミステリとしての読みにくさを感じてしまった。 内容は面白い。 これは完全に円城塔の作品だと思った。
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意識とは何か、人間が意識によって規定されるなら、意識がシミュレーション可能となった際に人間の定義とはどうなるのか? 夭折した天才、 伊藤計劃が『虐殺機関』、『ハーモニー』で描こうとしたのはそうした問題系のように思われる。そんな彼が死の間際に残した本作の構想は、円城塔の力によって...
意識とは何か、人間が意識によって規定されるなら、意識がシミュレーション可能となった際に人間の定義とはどうなるのか? 夭折した天才、 伊藤計劃が『虐殺機関』、『ハーモニー』で描こうとしたのはそうした問題系のように思われる。そんな彼が死の間際に残した本作の構想は、円城塔の力によってこの作品に結実した。つまるところ、この作品は冒頭の問いに対して記述された、伊藤計劃と円城塔という2人の希有な作家による共同論文と言えるかもしれない。 物語を実質的に完成させた円城塔が、冒頭の問いに対する結論として出した解は、まさにその解の世界で生き、今はその解を失い「屍者」となった伊藤計劃への餞のように写る。その様が読者に強い感銘を与えるのは言うまでもないこととして。
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『ハーモニー』と同じモチーフが各所にあって、円城さんが頑張って伊藤さんテイストを出しているな…という印象が濃い。もっとも最後は円城さんならではの展開だったと思う。 最後まで遊び心を忘れない登場人物名やその正体にも、随所でニヤリとさせられた。
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早逝の天才、伊藤計劃が遺したプロローグを円城塔が書きついで完成した小説。 19世紀末を舞台に死体を蘇らせた「屍者」たちを労働や軍事面で活用する、というパラレルワールドを設定した伊藤計劃もすごいが、その骨子に肉付けして素晴らしいエンターテイメント作品に仕上げた円城塔もすごい。 ワト...
早逝の天才、伊藤計劃が遺したプロローグを円城塔が書きついで完成した小説。 19世紀末を舞台に死体を蘇らせた「屍者」たちを労働や軍事面で活用する、というパラレルワールドを設定した伊藤計劃もすごいが、その骨子に肉付けして素晴らしいエンターテイメント作品に仕上げた円城塔もすごい。 ワトソン、カラマーゾフ、フランケンシュタインなど、実在、架空を問わずこの時代の人々がどんどん出て来て活劇を繰り広げるのがクラクラするほど楽しい。しかし同時に進化、言語、魂とは、という伊藤計劃らしいテーマを真摯に問いかけてくる。 たぶん私は知識の欠如で元ネタの半分くらいしか気づいていないと思われるが、それでもためらいなく傑作と言える。
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伊藤計劃という死者の遺した物語を、いま生きている作家が書き継いで完成させる。そのことに、まず心動かされる。 本作は、シャーロック・ホームズでお馴染みの語り手にして記述者のワトソンが、動物磁気やら霊素やらがはびこり、屍者たちが日常的に存在、利用されている世界で巻き込まれる冒険の物...
伊藤計劃という死者の遺した物語を、いま生きている作家が書き継いで完成させる。そのことに、まず心動かされる。 本作は、シャーロック・ホームズでお馴染みの語り手にして記述者のワトソンが、動物磁気やら霊素やらがはびこり、屍者たちが日常的に存在、利用されている世界で巻き込まれる冒険の物語。 実在の人物と虚構のキャラクタが入り乱れて、アフガニスタンから日本までスマートさの欠片もないドタバタ活劇であり、魅力あるキャラ(バーナービー無双最高)や、ハリウッド映画に出てきそうなカッコ良くて映像的な描写など、考えなくても楽しめる一流のエンターテイメント小説として作られている。 新しい人物名で知らない名前が出てくるたびにネットで検索していたが、こうしてすぐさま情報を取得できることはこうした物語の作者と読者の相互作用みたいのを変化させているのかも。 虚実入り乱れた固有名詞であっても、ネット上では同一上(wikiとか)にあることもあり、ネット以前の前提知識が必要となるような物語を読む行為と、今の時代で行う読書は別モノなんだと強く感じる。 作中では、現実での世界を瞬時につなぐネットはないけれど、この物語を愉しむためにネットを使うというのがなんだか面白い。 またエンタメとして一流でありつつ、一方でこれは間違いなく『虐殺器官』と『ハーモニー』の次にあるものだ。 屍者の設定は『虐殺器官』の兵士たちの在り様をまずは想起させるし、屍が蔓延している世界は『ハーモニー』の過剰な生に満ちた世界と表裏に思える。 「可能なことはいずれ実現されてしまう」 作中で何度か繰り返されるこの言葉のように、この世界は別の道に進化しているが、そこでも革新や進化は問答無用で進んでいく。 人の意思、人の進化。人類はそこにどれだけ介入できるのか。 SFとして伊藤計劃の描いてきたものの後を描き、とても面白いエンタメであることも成功させたことに賞賛を。 エピローグの最後は、円城さんらしいと思いました。 物語のバトン渡し。
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伊藤計劃未完の長編を円城塔が完成、という作品ですが、うーむ、期待以上の面白さでありました。 屍者を自在に操ることが可能という設定は、懐かしのサイバーパンクな世界観でありますが、そこに伊藤計劃らしい「生と死」や「意識」への問いかけが据えられ、さらに円城塔らしい「言葉」の発現が巡...
伊藤計劃未完の長編を円城塔が完成、という作品ですが、うーむ、期待以上の面白さでありました。 屍者を自在に操ることが可能という設定は、懐かしのサイバーパンクな世界観でありますが、そこに伊藤計劃らしい「生と死」や「意識」への問いかけが据えられ、さらに円城塔らしい「言葉」の発現が巡る。 主人公ワトソンの師はヴァン・ヘルシング、追うのはフランケンシュタイン、出会うのはカラマーゾフなどと、名作キャラのファンタジックな交錯にも単純にワクワクしちゃいました。
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これは凄かった。どの程度のプロットをオリジナルの著者が用意していたか分からないが、全くなかったとすると、プロローグから創造させる世界観を見事に再現した創造力と筆力に素直に脱帽する。登場人物が馴染の探偵の相棒であることと、実在想像の人物が入り乱れる予感と、死体の再生たる屍者というキ...
これは凄かった。どの程度のプロットをオリジナルの著者が用意していたか分からないが、全くなかったとすると、プロローグから創造させる世界観を見事に再現した創造力と筆力に素直に脱帽する。登場人物が馴染の探偵の相棒であることと、実在想像の人物が入り乱れる予感と、死体の再生たる屍者というキーワードから、よくもまあ、ここまでの世界を広げられたものと感心する。芥川賞作家の作品は未チェックで今まで読んだことがなかったが、流石である。SFの醍醐味は虚実を入り混じれて虚が実の様に読者を騙すことであり、読者は虚であるというお約束の下、如何にその虚を楽しむことができるかということだが、本作は本当にどっぷりと世界観に浸り、その余韻を楽しむことができる。ただし、文学的な素養と19世紀の歴史の多少の知識は必要であった方が楽しめる。それにしても本当に多くの虚実を交えた登場人物と歴史、背景、宗教とが、フランケンシュタインという虚を軸に無理なく絡み合い、一つの物語として昇華しているのは見事としか言いようがない。できれば、これをオリジナルの作家で読みたかったというのは読者側の贅沢であり、本作は一つの完成した物語として、まずは楽しみたい。そのうえで、オリジナルの作家であれば、もう少しウェットでダークな語り口と違う結末になったのかもしれないということを想像しながら楽しみことも良いだろう。
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ゼロ年代最高の作家、伊藤計劃の未完の遺稿『屍者の帝国』。 そのプロローグから、盟友円城塔が文章を繋いだ今作。 作中にて架空・実在する人物が物語に彩りを加えていてとても醍醐味。日本国もその中の舞台の一つになっていてなかなか悦に浸れる。舞台は十九世紀に設定されているけど、SF感は全く...
ゼロ年代最高の作家、伊藤計劃の未完の遺稿『屍者の帝国』。 そのプロローグから、盟友円城塔が文章を繋いだ今作。 作中にて架空・実在する人物が物語に彩りを加えていてとても醍醐味。日本国もその中の舞台の一つになっていてなかなか悦に浸れる。舞台は十九世紀に設定されているけど、SF感は全く削がれない。 エンターテイメントとして申し分ない。 今作がもし、伊藤計劃が存命で、完稿までにこぎつけていたらどんな作品になったのだろう? もっと違った終末をむかえたんじゃないか、と考えるのは人間のエゴイズムだし、野暮というものだろう。とても贅沢な思索なので思慕にとどめておくことにする。どのような経緯であれ、過程であれ、ここにあるものが既成事実の完成形であり、全てはこれに帰結する。 「人間の魂の重さは 二十一グラム その質量の重さは 意思の重さ、思考の重さ、想いの強さ」 意識とは何か? 生命とは? 今、わたしは目を開くーーー。
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本書はいわゆるスチームパンクにあたる物語だ。ガス灯と、蒸気機関の世界。階差機関が電信網でつながれたネットワーク社会、フランケンシュタインによる「自動化」が推し進められ、それに依存した経済、軍事。そんな何かで現代を置き換えたようなそんな世界が舞台であり、かの有名だDr.ワトソンが主...
本書はいわゆるスチームパンクにあたる物語だ。ガス灯と、蒸気機関の世界。階差機関が電信網でつながれたネットワーク社会、フランケンシュタインによる「自動化」が推し進められ、それに依存した経済、軍事。そんな何かで現代を置き換えたようなそんな世界が舞台であり、かの有名だDr.ワトソンが主人公だ。 本書のテーマだが、自分の意識が自分自身のものであるのかどうか、他社によって操作された物であるのかどうか自分で気づくことは出来るのか、良く出来た機械の持つ意識は自分の意識とは違うのか。そのような自分が自分であるかと言うこと、意識の確実性に対す恐怖がこの作品のテーマだと思う。 良くも悪くも洗脳社会であるこの社会で、僕ら意識はどこまで自分の物なんだろう。
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