獣の奏者(4) の商品レビュー
人は同じ過ちを繰り返す。多くの命が失われてもなお、無くなることはない戦争。その愚かさを心に刻みながらも、その概念が人の記憶から消されることは無い。しかし、結果が同じ過ちであったとしても、その後が同じであるとは限らない。一度目の過ちは、過ちであるかもわからぬままに犯してしまう。しか...
人は同じ過ちを繰り返す。多くの命が失われてもなお、無くなることはない戦争。その愚かさを心に刻みながらも、その概念が人の記憶から消されることは無い。しかし、結果が同じ過ちであったとしても、その後が同じであるとは限らない。一度目の過ちは、過ちであるかもわからぬままに犯してしまう。しかし、二度目は過ちであると知りながら犯したのだ。己の信じる未来のために、希望と共に暮らすことができる世界のために。エリンはその選択をしてみせた。かつて災いを起こし、二度と同じことを起こさぬようにしてきたジェの意思は、既にあった小さな綻びを突いてみせたエリンの手によって崩された。しかし、そのエリンによって、かつて起きた災いの全てを人々の耳に届かせ、真に同じ過ちを繰り返さぬ世界が作られた。新たな世界は、一つの綻びさえ許されず、精巧でいて、堅牢であった。 人と獣。同じ世界で暮らしながらも、決して交わることのない、二種の生き物。互いの尊厳を、生活を、未来を守るために生きてきたエリン。それは苦しく、辛い道のりであった。そんな中で彼女は一際輝く幸せを胸に、これほどのことを成し遂げた。自らを産み、育ててくれた母。命を救われ、身体も心も恩人であるジョウン。知識を求める彼女を受け入れてくれた恩師と、そばで支えてくれた友人。そして、彼女が何よりも大切に思い、長く短い時を共に過ごしてきた夫と息子。多くの点が一本の線として繋がり、この物語は幕を閉じた。しかし彼女が繋いだ確かな線はまだまだ先へと伸びていく。それはジェシの手によって。さらに向こうの知られざる誰かの手によって。 この物語を最後まで見届けることができて良かった。もしかすると、遠い未来にも同じ過ちを繰り返してしまうかもしれない。しかしながらそんな未来は来ないと心から信じられる。それほどまでにエリンが残し、繋げたものは大きいものであり、人々の胸に深く刻まれた。
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後からあとがき読んでやっぱりそういうことかと思ったけど全然違和感なく読了した。上橋ファンタジーに出会うことができて良かった。
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エリンが想いジェシに語っていた通りどのような人であってもその人の人生の短い時間の中でありとあらゆることを解き明かすこと、変えていくことはできない。エリンとリランというこの物語の「現在」にとって特別な存在であったこのふたりであってもそれはやはり同じなのだということを教えてくれるよう...
エリンが想いジェシに語っていた通りどのような人であってもその人の人生の短い時間の中でありとあらゆることを解き明かすこと、変えていくことはできない。エリンとリランというこの物語の「現在」にとって特別な存在であったこのふたりであってもそれはやはり同じなのだということを教えてくれるような結末だった。
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※このレビューにはネタバレを含みます
この方の作品は謎解きやストーリー展開は面白いが、人々の内面的な話がくどくなりがち。 エリンによって、色々な謎が解明し王獣や闘蛇など人間が制御できないものは、使用するなという教訓を得たが、一時的なことで禁忌を犯す者や新しい武器の開発により争いは続くし、生態系や環境も破壊し続けるのは変わらない。 それゆえ、短い期間だが家族や王獣と一緒に過ごせた平和な時が素晴らしい。
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エリンやイアルがジェシに語る際の「分からなくてもいい、何か少しでも分かる部分があればそれでいい」という思いは、児童文学として『獣の奏者』を読む子供への作者の思いと同じなのではないかと思った。
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とても美しく完結している。大人になったジェシが学童たちに語る場面が最初に出来上がったという、後書きの裏話も面白かった。繰り返し読みたい名作。
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ただただ、王獣のことを知りたくて、もっと近づきたかっただけなのに、政治に巻き込まれてしまったエリンの話。 何千年経とうと変わらない人間の性が描かれています。 《人という生き物の群れの、滔々たる流れのようなものが見えた瞬間、これを書きたい》 本来なら2巻で終わるところだったそ...
ただただ、王獣のことを知りたくて、もっと近づきたかっただけなのに、政治に巻き込まれてしまったエリンの話。 何千年経とうと変わらない人間の性が描かれています。 《人という生き物の群れの、滔々たる流れのようなものが見えた瞬間、これを書きたい》 本来なら2巻で終わるところだったそうですが、本作を振り返ったときに、上橋氏はこのように思い、後半2巻を書いたそうです。本当に素晴らしい作品でした。 「知ることで、人は考える。試行錯誤を繰り返しながら、人という獣の群れは、滔々と流れる大河のように、その生をつないでいくのだろう。」(文庫版 p478より) 多くの方に読んでいただきたい作品です。 (本棚に表紙を並べて置きたかったので、読了日を2026/1/19から2026/1/18に変更)
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遂に完結してしまった...。 リョザの戦争の歴史に巻き込まれていくエリンの不遇な人生譚。 人々と獣たちの歴史の物語でありながら、過去から現代へ、そして未来へ滔々と紡がれていく学問の姿についての物語でもあったと思う。 繰り返される諍いの中にあっても、ジョウンおじさんからエリンへ、エ...
遂に完結してしまった...。 リョザの戦争の歴史に巻き込まれていくエリンの不遇な人生譚。 人々と獣たちの歴史の物語でありながら、過去から現代へ、そして未来へ滔々と紡がれていく学問の姿についての物語でもあったと思う。 繰り返される諍いの中にあっても、ジョウンおじさんからエリンへ、エリンからジェシ、そしてその子供たちへ、知識という道標が渡り行くさまを希望と形容するのは軽薄か。 上橋さんの創り出す繊細で壮大な世界にどっぷりと浸かることができて幸せな年末でした。
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読み終わりましたー 壮大なファンタジーだったけど、世界観に入り込めてとても面白く読めました。 政治が絡んできたあたり難しかったけど、王獣と共にあったエリンの生涯が伝わって良かった。 エリンとリランが幸せだったならいいな
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
獣の奏Ⅳ。ファンタジーではあるものの、壮大な歴史小説のように感じ、現実世界にも何か通じるものがあったと思う。エリンと王獣リランが心を通わせているように見えても、やっぱりどこか壁があるという人と獣の限界を感じた。加えて、どうせ最後はハッピーエンドだろ?という斜に構えた見方をしていたので、良い意味で裏切られました。エリンやリランたちも含めた登場人物たちが亡くなったことは、悲しいと思うと同時に物語の深みに還元されているように感じた。
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