グレイメン の商品レビュー
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パイロット版プレゼントに当選し、発売に先駆けて読ませていただきました。 ありがとうございました。 著者の石川さんからの手紙に、 「この作品は、弱者が強者に抗うということをテーマにしており、閉塞感のある現代に向けて書いたものです。」 とありましたが、色々と感じるものがありました。 「被害者の立場になって考えない。弱者の立場になって考えない。それが今のこの国です。我慢しろ。殺されたことはもう仕方がないじゃないか。死んだ人間は戻ってこない。憎しみに捕らわれていないで生きなさい。明日を見て歩け。傍観者はそう言って、遺族や弱者を丸め込み、なかったことのように扱う。弱者は常に我慢し、自殺者は自業自得。不幸も、貧困も、犯罪に巻き込まれることだって自己責任という言葉で片づけたがる」 「強者は常に守られる立場にあり、弱者は切り捨てられる存在なのです」 この言葉が心に突き刺さりました。 現実の世界で私も傍観者の一人でした。 グレイはその状況を「再配分」しようとします。 「弱者に強者に抗う可能性を与え、強い者に恐怖心を植えつける。そうすれば傾きすぎたシーソーを戻せるのです。」と。 しかし、そう言いながらその行為を是としなかったグレイ。 それが人の心なのだと思います。 そしてグレイに見届ける役目として選ばれた遼太郎。 遼太郎のスカウトは偶然で、必然。 グレイは遼太郎に「人を救うことを手伝って欲しいと思っています」と告げますが、きっと救って欲しい「人」の中に自分も含まれていたのでしょうね。 最後に遼太郎はグレイに「この国の成り行きを見届ける。そして、見届けるだけではなく、行動する」と誓います。 「まずは身近な人から守ろう。初めは、そこからで十分だ。」と。 私もまずそこから行動していこうと思います。
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パイロット版を読了。 はじめは面白く読んだ。 先の展開が読めず、文章も軽めなのでさっくり読める。 だが、社会が悪い、国が悪いという言葉が出始めてから 雲行きが怪しくなってきた。 日本という先進国で平和であるこの国で 年間3万の自殺者がいることは知識としてある。 戦時中の国よりも死者数が多いことの問題について考えるべきだという 戦場カメラマンの言葉を以前読んだことがあり その言葉自体はとても胸に響いた。 大抵の問題が、実際のところお金があれば解決できる というのも同意である。 だがしかしだ。 そんな平和など見せかけだけのこの国で 酷い目に遭っている人間がどれだけいて その人間は、彼らが思う「そうではない人間」に 復讐をしても良いものなのか? よく、たとえばスプラッタ映画が好きな人間が 人を殺して捕まれば映画のせいにされる風潮がある。 そうした”社会”は確かに自分も苛つく。 だが、同じようにスプラッタ映画が好きでも人を殺さない人間はたくさんいる。 それもまた”社会”である。 持っている者と持っていない者、その線引きはどこにあるのか。 どんなに絶望しても自殺を選ばない人間だっている。 自殺を選ばない人間は強いとか、そこまで絶望していないのだ というのならそれはもうまた逆に線引きし、選別していることになる。 個人的には、自殺をするのは弱い人間だと思っている。 本人が悪いかどうかとはまた別の問題で。 そう言えるのは私が勝ち組だからか? とんでもない。 かなり波乱万丈な人生を送ってきている。 それでも生きている。 当り前だ。自分の生を無駄にしたくない。限りある宝だからだ。 この世の中で、なんの非もないのに死んだほうがマシだというほど 酷い目に遭わされることというのは残念ながらある。 グレイたちはそれは確かに、”可哀想”ではある。 だが、敵を犯人とするなら分かるのだが 国にしてしまうのはどうにも同意できないし浅はかに感じる。 刑事もひとり話をしている者がいたが 彼以外にもグレイたちに同情する人間は当然いたはずだし 仲間かどうかの線引きはあやふやだ。 グレイにしても、自殺したい人間全てを救えた訳ではあるまい。 勿論、助けた訳ではなく利用しただけだとは言っているのだが。 グレイも初めは不思議でそれが魅力になっていたが 身の上が明かされてしまうと、復讐心が強かったとはいえ ただの人である彼が、なぜ自殺したい人間が見抜けたのか というのも特に理由があるわけでは無くいつの間にかであるし お金を稼いだ過程もいまいちしっくりこない。 再分配といっても結局今ある国家のシステムをぶち壊すことで 確かに国を標的にして復讐しようとしていたのだから それで正解なのかもしれないが 大多数の国民にとってはいい迷惑だし 混乱している間に国を外的に乗取られたり潰されたりするかもしれない。 再分配とはそんな結果を望んでいることなのだろうか。 フィクションとはいえ不可解な点も多く 結局この後「この国は滅茶苦茶になった」では済まない現実が 待っているはずなのだが。 幕末には、これ以上の内乱は本当の意味での国家の崩壊を招き 外国に乗取られ植民地にされてしまうからと 己の誇りも何もかも曲げて国民の為に敵に降った武士たちがいたが そんな理想や誇り高さではなく、 痛みを知っているはずの人間たちなのに ただただ復讐と破壊が目的のようで 序盤ではどんなオチになるか楽しみだった グレイの正体や犯罪の方法、目的、全てが肩透かしに感じてしまった。
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■真っ白いままの装丁のされてない本。作者の石川さんからの手紙。出張中に読もうと思っていた本と入れ替えて、この本をビジネスバックに押し込んでわくわくしながら出張へ出かけた。 ■空港へ向かう電車の中で読み始めた瞬間にぐぐっと引き込まれて、どっぷりと嵌まってしまう作品。ストーリ展開や...
■真っ白いままの装丁のされてない本。作者の石川さんからの手紙。出張中に読もうと思っていた本と入れ替えて、この本をビジネスバックに押し込んでわくわくしながら出張へ出かけた。 ■空港へ向かう電車の中で読み始めた瞬間にぐぐっと引き込まれて、どっぷりと嵌まってしまう作品。ストーリ展開や舞台設定、登場人物の過去と現在といった作品上のあらゆるパーツが「えっ?なんで... 」という意外性と「なるほど〜」「そうだったんだ」って納得感が繰り返されるような造りになっているから、分量を感じないまま読み進んであっという間に読了してしまった。 □いつもは帰りの飛行機で読了するぐらいのペースなのに、行きのフライトで殆ど読み終わってしまい、その後、出張先で読むものがなくなってしまったぐらい。(笑 ■細かい部分の整合性とかそれって現実的なの?ってことを言い出したらきりがないけど、そんなことを考える必要がないほど、エンターテイメント小説としてすごく面白い。ぐちゃぐちゃした部分もたくさんあるけど、読んでいるとそんなのが全部吹っ飛ぶぐらいにストーリは爽快だったしね。これ、すぐに映画化されちゃうんじゃないか?って思った。 ■弱者が強者に抗うこと....グレイも作中で「再配分」という言葉で語っているけど、どこまでも計算された行動がとても痛快で、なにもかも信じられないような事件がとても理不尽で、だからこそ弱いものの意思を操ることで、パワーが発揮されることもあるんだなぁ...なんてことを思ったり。 ■今の日本が置かれている現状に対する「やるせなさ」とか現状に対して「どうするのさ?」という問題提起を突きつけてくれてるような気もした。こういう作品は個人的にも大好きなので、もう既に次回作が楽しみ。早く次の作品を出してください。(笑 --- ■今回はこのような素晴らしい作品を発売前に読ませていただく機会を与えていただきありがとうございました。作者の石川さんの今後の益々のご活躍を期待しています。
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2012年3月22日読了。第2回ゴールデン・エレファント賞受賞作。絶望のあまり死を考える人々の前に現れた灰色づくめの男、グレイ。金と多くの同志を操る彼の真の目的とは・・・?国は国民を守るために存在するものだが、国が国民を守れないときに国はどうあるべきなのか?国が裁けない悪をどう裁...
2012年3月22日読了。第2回ゴールデン・エレファント賞受賞作。絶望のあまり死を考える人々の前に現れた灰色づくめの男、グレイ。金と多くの同志を操る彼の真の目的とは・・・?国は国民を守るために存在するものだが、国が国民を守れないときに国はどうあるべきなのか?国が裁けない悪をどう裁くか?という疑問に対し、「じゃー国をブッ壊してやる!悪いやつはオレ様がブッ殺してやる!」だけでない、真面目な回答を提示しているように思う。ただ、登場人物全員が抱く死を思うほどの絶望、悪に対峙するために悪を超えた男の執念、などについてはもっともっと細かく描写がほしいところだが、26歳のデビュー作にしてはよくできているというべきか。 不思議な後味だ。 この本を読み終わった時に、3つの「灰色(グレイ)」を感じていた。 まず、主人公の「グレイ」の周りに配置される人たち。彼らが「グレイ」に会うまでの逃げ道のない日々が描かれているが、彼らはあれだけの仕打ちを受けている人生を送りながらも、感情をあらわにすることも、反撃することもなく、ただあきらめモードで、行き場のない日々を送っていた。普通、人にはそれぞれ「色」があり、光や個性、独自性などが見えるが、この登場人物たちの姿には、「色」が感じられなかった。そういう意味での「グレイ」。 次に、物語の中に出てくる日本が灰色だ。舞台は日本、東京、池袋、川崎などが出てくるのだが、「塔」も、小百合がお金を使う「銀座」も、日本銀行も、最後の森中も、グレイの基地である友寸証券や商事が入っているビルも、色のないコンクリートで固められた「灰色」。 最後に、一番「灰色」らしくない主人公。ただ盲目に「グレイ」についていこうとする登場人物たちに囲まれ、復讐だけを生きる目的に生きて、感情をあらわにせず、淡々とこなす「グレイ」に、実は私は一番人間らしさを実感させられた。灰色の本の中にぽつんと乗せられた絵の具のような主人公。 国家勢力、刑法、裁判、売春、自殺、家庭内暴力、いじめ、、、、自分がどちらの立場の人間なのか、いつか「グレイ」が自分の前に立ったときに、どちらの宣告をされる側の人間なのか、考えさせられる。
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職場からの陰湿ないじめを受けながら毎日の仕事をこなしていた 遼太郎だったが、その生活に耐えられなくなり、ついに自殺を決意する。 そして、いよいよ死ぬ場所を決めた遼太郎だったが、突如全身や雰囲気までが灰色の男が現れる。遼太郎は男を「グレイ」と呼び そこから遼太郎の運命はこの男によって変えられていくのであった。。。 とにかく非常に読みやすい。文章が軽いのでサクサク読める。 時間さえあればおそらく1日で読みきっていただろう。 小説を初めて読むという人には分かりやすいので特にオススメできる。 ただ、分量の割には全体的に内容が薄く登場人物の心理描写も弱い。 かなり強引と思える展開が多いのも気になった。 著者は弱者が強者に抗うとはどういうことかを 本書全体を通して訴えかける。 扱っている事件の内容に現実感がないので、なかなか登場人物に 感情移入するのは難しいが、世の中には理不尽に家族を殺され しかもその判決が当事者にとって納得しがたいものであるというのは 多くの人が感じるところであろう。 日本は「失われた20年」を未だに抜け出せず 社会全体に閉塞感が漂っている。 その原因は著者が本書の中で悪役とした「強者」であるというのは ひとつの見方であるかもしれない。 この国の政府の情けなさを見れば、それが事実である部分も 少なからずあるであろう。 現にこの国の再分配機能が歪んでいるのは事実であり 既得権者が新規参入や規制緩和を阻みその地位に 居座り続けているのもまた事実である。 雇用の流動化も必要だろう。 しかし、原因をそれだけに求めてしまうと本書の中のグレイのように 暴力によって訴えるしか方法がなくなる。 しかもそれが成功する確率は極めて低い。 本書のような非現実的な設定でさえ、ほとんどの者が逮捕されるのだ。 結局のところ最終的に頼れるのは自分しかいない。 ・・・・・・・・ 今回、発売前に期待の新人作家の作品を読む機会に恵まれたことは 大変光栄でした。 著者の今後の更なるご活躍を心より願っています。
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○一人の男・グレイが国や強者に対して、たちあがった。 復讐のためとはいえ、人間はここまで強く、純粋に、凶暴に、なれるものなんだろうか。 全ての人に立ち上がる理由は存在しないだろうから、立ち上がる必要はないとは思う。 しかし、泣き寝入りすることが、当たり前で多数を占める世の中で、...
○一人の男・グレイが国や強者に対して、たちあがった。 復讐のためとはいえ、人間はここまで強く、純粋に、凶暴に、なれるものなんだろうか。 全ての人に立ち上がる理由は存在しないだろうから、立ち上がる必要はないとは思う。 しかし、泣き寝入りすることが、当たり前で多数を占める世の中で、立ち上がり、弱者救済までしてくれる人物がいたら、憧れる。 今のリアルな日本。震災が起き、原発事故が発生。 国の対応、大企業の対応… 多くの人が不満不信を抱いている。 そんな日本に、グレイがあらわれて欲しいと感じてしまった。 でも、本からかんじたことは、自分ができることをやるということ。 他者に期待し、何もしないのではなく、自分ができることをやる。やり始める。 ○理由はなんであれ、人に期待されたり、必要とされるのは、とても嬉しいことだし、生きるチカラをくれるよなーと思いました。 ○自殺の問題、行方不明者も含めると、何十万も年間に亡くなっているかもしれない。そんなこと少し考えてみれば分かることなのかも知れないし、多くの人が気付いているのかも知れない。 でも、私は知らなかった。 戦争をしているような状態と書かれていて、本当にそうだとおもった。戦争をしない国なはずなのに。 本の内容が面白くて、先が気になり、読み進めてしまうだけでなく、有益な情報まで、含まれていた。 グレイメンを読む機会に恵まれて良かったです。ありがとうございます。 これから、お読みになる方も400ページを越す大作を、あっという間に読み終えてしまうと私は思います。
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