傷痕 の商品レビュー

桜庭一樹【著】

2012/01/18

少女を描かせたら、この人の右に出る者はいないんじゃないかと思う。
少女、それも「人生にけっして弱みを見せない」「いつだって”勝ってる”ふりして、歯を出してニカニカと笑ってみせる」少女を。

しかもここに出てくる少女の1人の名は「傷痕ーキズアトー」だ。
なんと勝気で同情を寄せ付けない名前か、と思う。

それにしてもなぜ、キング・オブ・ポップを題材に選んだのだろう？
かのMJを日本に置き換えた設定で、私たちの知る彼のスキャンダルそのものに、かなり近い。

孤独と言えば陳腐になってしまう。復讐についての物語なのかもしれない、と思う。
ここに出てくる「復讐ーベンデッター」（これもいい名だ）という名の少女のことではなく、「この世で最大の、そして永遠のスーパースターこと、神さまーーに対する、いちばんの復讐」についての。

（読書家の著者のことだ、「優雅な生活が最高の復讐である」（カルヴィン・トムキンズ）もたぶん読まれてますよね。）

相変わらず、比喩は弾丸のように冴えている。

2012/01/17

小説現代で連載されてた桜庭さんの新刊。
サイン会とかあるようなら買っても良いなーて思っていたのですが、発売日になっても新刊情報出ないし我慢できなくてリブロカフェの持ち込みで読んできてしまった。

世界中から愛されたキング・オブ・ポップと、その周辺の人々の話。

連載時は「伝記っぽいかんじなのかな？」と思ってあんまり期待してなかった。読み始めてみたら、ふつうにおもしろい桜庭さんらしい物語でとっても満足。

周辺と言っても、娘から記者から一ファンから、語り手はいろいろだけど、みんなキング・オブ・ポップを昔からよく知ってる友達みたいに語る。読んでるうちになんか自分もキング・オブ・ポップのこと昔から知ってたみたいな気分になってくる。

読み終わった後思わずwikipediaでアノ人に関する項をひたすら読み漁ってしまったこともあって、ますます親近感が。曲は全然聞いたことないけど。
伝記を読むよりも物語で読んだ方が親しみが湧くのかなーよくわかんない。

本の最後の参考文献にはマイケルジャクソンに関する本がズラっと挙げられていて、まあそうだよねって思いました。いっぱい本出てたんだなー。機会があったら読もうかな…とも思ったけど、wikipedia読んでるうちに、「傷痕のなかで描かれてるキング・オブ・ポップがかなり好きになってしまったので、これ以上マイケルジャクソンについて調べてその気持ちを薄れさせるのもやだなー」って気分になったのでたぶん読まない方が良いんだと思う。

久しぶりに登場人物がいっぱい出てくる現代ものの桜庭作品を読んだ気がします。どの語り手の話もとってもおもしろかったー。
絶対バッドエンドだと思ったけど、最後はどの人物も好きになれたし、ちらほら散りばめられてた「あれ？」って思うエピソードもきれいに回収されていたので読後は結構な充実感で満足したー。

おもしろかったし、久しぶりに「これは読み返すかも」って思う本だったので、サイン会あるようなら買いに行っても良いかも。

2012/01/12

フィクションのような、ノンフィクションのような、キング・オブ・ポップを取り巻く人々の物語。
参考文献からしても確実にマイケルジャクソンを意識して書かれた作品なので、かなりのリアリティはある。
ただ、それがいいか悪いかは微妙なところ。

でも、ひとつ言えるのは、桜庭一樹の作品に共通する“家族”についてはしっかり描かれている。

彼の娘である傷痕がどう育つのかが気になった。