名もなき毒 の商品レビュー
大企業今多コンツェルン会長の外腹の娘と結婚した杉村三郎を主人公にした、『誰か』の続編。宮部さんの現代ものということで若干の躊躇があったものの今回は読後感も前回ほどは引きずらず、読了(しかしやっぱり少し引きずる)。テーマはタイトルの通り、人の悪意がどこからくるのか、なぜそういう風に...
大企業今多コンツェルン会長の外腹の娘と結婚した杉村三郎を主人公にした、『誰か』の続編。宮部さんの現代ものということで若干の躊躇があったものの今回は読後感も前回ほどは引きずらず、読了(しかしやっぱり少し引きずる)。テーマはタイトルの通り、人の悪意がどこからくるのか、なぜそういう風になってしまうのか、という、答えの出ない問いにそれは「名もなき毒」である、として見つめるお話。一般家庭に育ちながら逆玉に乗り親兄弟とも距離を置きつつコンツェルン内での権力とも距離を置きつつ、とはいえ財力と名前にはつきまとわれ、という杉村は、真っ当な感覚の人。そんな杉村を通して、普通とは一体どういうことか、ということについても遠まわしに問われているような気もしました。事件は2つ。ウーロン茶の紙パックに仕込まれた青酸カリによる無差別連続殺人と、杉村のアシスタントとして雇われた女性が起こすトラブル。この女性にまつわる話は、ゾーっとしました。怖い。そのあたりのエピソードに潜む毒気が、やはり独特の読後感として残ってしまうので、時代物のようにしみじみ面白い〜、という感じではなく、面白かったけどちょっとしんどい、というような感じ。それでも引き込まれるように読んでしまいます。続きは、、、また読むかな。
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バラバラのピースを拾い集めてまとめるタイプの作品。けど、そのピースほんとにいるの?とも感じた。読みやすくて面白い。人の暗い感情にもスポットが当たっていると思う。
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土壌汚染の毒、毒殺殺人の毒、トラベルメーカーの毒、人間に潜む毒。毒を見つけようとしている人もいる。いろいろな毒の中で、翻弄され、向き合いながら生きている。 「誰か」の1年後を書いた、傑作。
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普通の青年いや、むしろ普通よりも心優しいはずの青年が「名もなき毒」に侵され、殺人事件の犯人となってしまったことにひどく悲しい気持ちとなった。特に格差が広がる現代社会では、彼のように行き場のない想いを抱えた若者は多いのではないだろうか。「どうして自分だけがこんなに苦労をし続けなけ...
普通の青年いや、むしろ普通よりも心優しいはずの青年が「名もなき毒」に侵され、殺人事件の犯人となってしまったことにひどく悲しい気持ちとなった。特に格差が広がる現代社会では、彼のように行き場のない想いを抱えた若者は多いのではないだろうか。「どうして自分だけがこんなに苦労をし続けなければいけないのか?」そういった心の隙間に名もなき毒はじわじわと侵食していくのだろう。 また、現代社会では杉村三郎のような人物は「普通の人間」ではなく「立派な人間」であるという。そして原田いずみのように自己中心的な人間でいつも何かに怒っているような人間が「普通」であるという点。近頃は「自分探し」という言葉が蔓延し、誰もが自分は何者かにならなければいけないという半ば脅迫的に思い込まされているように感じる。 もちろん若いうちはそういう時期も必要だと思う。しかし大人になるにつれて理想の自分とは違う現実の自分も認めてあげなければいけないし、何より思い通りに行かないことを他人のせいにしたり、他人を傷つけていいはずがない。 しかし原田いずみのような人間でなくても、「名もなき毒」に侵される危険性はあるのだ。外立くんには周囲に親身になってくれる人間もいたのに、それを止めることはできなかった。個人の力では限界があるのではないか。彼にとっては残酷で不条理な世の中=名もなき毒であった。彼のような不遇な境遇にあるものに対してはきちんと支援の手が届くシステムを今の政治には期待したい。
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「誰か」と同じ舞台、探偵役も同じ。 「続編」ではないので、こちらから読んでも楽しめると思う。ただ、主人公の境遇がやや特殊で、そのことについて「誰か」では詳しめに書かれているので、できることなら「誰か」から読んだほうがいいかも。 「ミステリ」らしい展開はある伏線になっている電話ぐ...
「誰か」と同じ舞台、探偵役も同じ。 「続編」ではないので、こちらから読んでも楽しめると思う。ただ、主人公の境遇がやや特殊で、そのことについて「誰か」では詳しめに書かれているので、できることなら「誰か」から読んだほうがいいかも。 「ミステリ」らしい展開はある伏線になっている電話ぐらいしかなく、ミステリというより、犯罪がらみの「人情もの」だと思ったほうが間違いない。人情噺はこの作者の十八番なので、安心して楽しめる。 あとは原田いずみの性格描写にひたすら感心した。いますよね、こんな人。しかも、近寄りたくないんだけど、どうしても近寄ったり、話したりしなければいけないぐらいの関係で。 宮部さんもこういう人に苦労させられたのかしら? あと、原田いずみを「うまく使えなかった」ことを最後まで悩む園田編集長の描写もおみごと。 ただ、主人公が探偵をやろうと思うのはどうかと思う。妻子をこんな目に合わせてなお探偵をやるのか?巻き込まれ型のほうがいいんじゃないかな? まあ、続編を読めるのはうれしいことだけど。 【追記】2022/04/01 原田「はらだ」いずみだと思っていたら「げんだ」いずみだと指摘された…。うーむ。
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12月23日~1月12日 今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的...
12月23日~1月12日 今多コンツェルン広報室に雇われたアルバイトの原田いずみは、質の悪いトラブルメーカーだった。解雇された彼女の連絡窓口となった杉村三郎は、経歴詐称とクレーマーぶりに振り回される。折しも街では無差別と思しき連続毒殺事件が注目を集めていた。人の心の陥穽を圧倒的な筆致で描く吉川英治文学賞受賞作。
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毎回こういう作品に触れると、“普通さ”についてつくづく考えされられる。もちろん、自分は普通だと思ってるけど、おそらく今作登場人物の“狂気の彼女”みたいな人も、そう信じながら生きてる訳で。前作同様、義父の存在感が圧倒的に大きくて、その発言もいちいち重くて、カッコいい大人になりたいな...
毎回こういう作品に触れると、“普通さ”についてつくづく考えされられる。もちろん、自分は普通だと思ってるけど、おそらく今作登場人物の“狂気の彼女”みたいな人も、そう信じながら生きてる訳で。前作同様、義父の存在感が圧倒的に大きくて、その発言もいちいち重くて、カッコいい大人になりたいな、とかも思ったり。 色々考えさせられたけど、一気に読み通せるストーリーとしての素晴らしさも兼ね合わさってて、有意義な読書タイムでした。
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2012/1/12読了。「誰か」の前に読んでしまったのは失敗だったのかな?でもすんなり話に入って行けたし、「毒」のもつ強さ、怖さが伝わって来て、面白かった。 ただ、少し長いかな。途中、中だるみしてしまった感がある。 珍しく「解説」も良かった。これから「誰か」を読もうかな。
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普通の人の中にも悪意が沸き起こることがある、その湧き上がるものが、毒。 殺人とか非道な事件は、特殊な人が起こしたもの、自分とは違うという意識がある。 だから、犯罪者はひどい人、だと短絡的に考えてしまう。 犯罪をしたという点でそれは正しいかもしれないけれど、その人のそれまでは、実は...
普通の人の中にも悪意が沸き起こることがある、その湧き上がるものが、毒。 殺人とか非道な事件は、特殊な人が起こしたもの、自分とは違うという意識がある。 だから、犯罪者はひどい人、だと短絡的に考えてしまう。 犯罪をしたという点でそれは正しいかもしれないけれど、その人のそれまでは、実はごく普通の、むしろ良い人だったかもしれない。 でも、そういう評価がでてくると、猫をかぶっていたんだ、とか、そういう見方になってしまう。 ひとつの行為の結果(犯罪)が、その人の全てを否定してしまう。 それは仕方のないことの気がするが、 (それだけ罪というものは重い) 残念なことのような気もする。 日常でも、ずっと真面目にやってきても何かで羽目を外したりしたら、 その羽目を外した時がその人の評価になり得るということ。 常に姿勢をただして生きていかないといけないものなのかなぁ。
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宮部みゆきの作品は、ここ10年無駄に長くて辟易していたのだが、これは良かった。「火車」を初めて読んだときのような充実感を感じた。 ここには、犯罪になるかならないかぐらいの、性質(たち)の良く無い「悪意」が描かれる。一人は、原田いずみ。新人アルバイトでトラベルメーカーである。最初...
宮部みゆきの作品は、ここ10年無駄に長くて辟易していたのだが、これは良かった。「火車」を初めて読んだときのような充実感を感じた。 ここには、犯罪になるかならないかぐらいの、性質(たち)の良く無い「悪意」が描かれる。一人は、原田いずみ。新人アルバイトでトラベルメーカーである。最初は「ミスを指摘すると、以前はすぐに謝って直していたのに、言い返すようになった。手の込んだ言い訳も並べるようになった。やがて、それを通りこして攻撃的になって来た。」というぐらいのモノだった(これでも大変な事だ)。私は似たような人を知っている。ある範囲を越えると、私には、理解不能に成る。 原田いずみは、やがてとんでもない行動も起こす。この作品では、他の人物の殺人などの犯罪も描かれるが、その犯罪と日常の悪意或いは「名もなき毒」との違いは何なのか、私たちに問われる。 そんな「名もなき毒」を相手にしていた「探偵」北見一郎の意思を継ぐかの様に杉村三郎は呟く。 あなたは、事件の後始末に疲れたと言った。もううんざりだと言った。もっと早く、後始末が必要になる前に何か出来ないかと思ったのだと言った。それはいわば、この世の毒を浄める仕事だ。 果たして、杉村三郎がそういう日常探偵を始めるかどうかは分からない。しかし、続編は書かれているという。 そこに「希望」はあると、宮部みゆきも思っているのだろう。
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