倒立する塔の殺人 の商品レビュー
戦争文学✕少女小説✕ミステリー 空襲の脅威に怯えつつ、軍用機などの部品をつくる(特攻隊に死を与えている)という構造、少女たちの利発さの裏に隠された悪意が発露するとき、そして事件の真相…。とにかく美しさの中に潜む毒気にぞくっとさせられる名品。
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戦時下のミッションスクールで流行した「小説の回し書き」から女生徒を巻き込んでいく美しいミステリー。 戦中、戦後の世の中の変わりようが、今なら分かるような気がする。中身のない矛盾した物言いが蔓延っていて、それを受け入れなければならないのはさぞ辛いだろうと思う。 文学・音楽・絵画。お腹は膨れないけれど、少女たちの心をどうしようもなく潤すそれらが随所に散りばめられ、知識欲を駆り立てる。いつ命が失われるか分からない過酷な状況でも、心が求めるものを無視することはできない。 読み終えて喪失感すらある。
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皆川博子さん初読み。一癖も二癖もあるという噂を聞き、ついでにそんな癖の強い作品たちの中でもこの『倒立する塔の殺人』は比較的読みやすいということを聞いて手に取ってみた。確かに、読みづらくはなかったしストーリーの展開も面白かった。 終戦間際から終戦後にかけて、あるミッションスクールに...
皆川博子さん初読み。一癖も二癖もあるという噂を聞き、ついでにそんな癖の強い作品たちの中でもこの『倒立する塔の殺人』は比較的読みやすいということを聞いて手に取ってみた。確かに、読みづらくはなかったしストーリーの展開も面白かった。 終戦間際から終戦後にかけて、あるミッションスクールにおいて行われていた小説の回し書きが主題となる物語。物語は女学生の日常と、ノートに残された手記、そして『倒立する塔の殺人』の創作によって構成されていて、そのバランスが整っていて迷わずに読み進められた。そして戦時中やミッションスクールという設定が余計にこの話をミステリアスに仕立てている気がした。戦時中とはいえ、他所と隔離された少女たちの花園。小説内に登場する「S」や「お熱」などの用語がその特殊な環境の秘匿性を高めていて、その秘密を垣間見させてもらっているような心地で読み進めた。 特によかったと思うのは、物語の中に登場する他作品(ドストエフスキーとか)や絵画、音楽が豊富だったこと。巻末には物語に登場する絵画が絵付きで紹介されていて、随時参照しながら想像を膨らませることができた。そして解説で三浦しをん(大好きです)が書いている通り、ほかの作品への興味までかきたてられる。
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とても面白かったです。 戦争末期の女学校で、ある少女の死をきっかけに、密かに書かれていた「倒立する塔の殺人」という物語の謎解きが始まる…という要約も難しいお話です。 今回も戦争の残酷さとそれでも損なわれない美に惹き付けられました。 YAの作品なのですが、決して子どもっぽくないどこ...
とても面白かったです。 戦争末期の女学校で、ある少女の死をきっかけに、密かに書かれていた「倒立する塔の殺人」という物語の謎解きが始まる…という要約も難しいお話です。 今回も戦争の残酷さとそれでも損なわれない美に惹き付けられました。 YAの作品なのですが、決して子どもっぽくないどころか、登場する絵画・音楽・小説についても知りたくなる知識欲にかられる作品でした。 「どういう小説が好きか、登場人物の誰に惹かれるか、それを明らかにするのは、自分自身の本質を曝すことでもある」という一文に、それではわたしはここでは自分自身の本質を曝してるのか…と思いました。確かに。 空想あるいは物語という水を養いにしなければ枯れ果ててしまう、しかもその水には毒が溶けていなくてはならない…「毒が、わたしたちの養分なのだ」というのもわたしの本質です。 「倒立する塔の殺人」で告発されたのは誰か…カロライナ・ジャスミンという花が気になりました。 Sまではいかなくとも、親密な女学生たちの様子も良かったです。皆川さんの作品の登場人物たちには逞しさも感じます。 三浦しをんさんの解説も良かったです。色々書いても、皆川さんの物語には結局「すごい」の一言を繰り返すのみです。
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再読。まさに万華鏡。 あらゆる要素がはらはらはらはらと振りまかれ、読者はくるくるくるくる回る。 物語の構成が素晴らしいの一言に尽きる。 突然託された一冊の本。中には告白と虚構入り混じる「物語」が描き連ねてある。 それを見つけた少女たちが、順番に書き継いでいく…… ミステリーと...
再読。まさに万華鏡。 あらゆる要素がはらはらはらはらと振りまかれ、読者はくるくるくるくる回る。 物語の構成が素晴らしいの一言に尽きる。 突然託された一冊の本。中には告白と虚構入り混じる「物語」が描き連ねてある。 それを見つけた少女たちが、順番に書き継いでいく…… ミステリーという体裁を取らずとも、十分魅力的な話だ。 作者の筆は、さすがの流麗さで、戦時中という舞台すらもどこか甘やかなものに変えてしまう。 少女たちは、どこまでも凛と可憐で、残酷だ。 けれどここに、上級生の少女の死や謎の死体、「本」というミステリーが絡む。読者は幻惑される。 そしてミッションスクールでの過去がじわりじわりと開示されていく。 読者は、この「本」を託された少女たちと同じく、息を詰めて読み進めるしかない。 完全に「皆川万華鏡」の中に入り込んでしまう。 「倒立」の業の深さと狂気! 謎がほどけた時の目が覚めるような感動。 すべてが乱反射した物語。素晴らしい。 時代の閉塞感と生きるためにギリギリの情勢を描きながら、ふわふわと、意地悪く、けれど逞しく生きる少女たち。 異国の男が持ち込んだ(考えてみれば、少女たちが読んでいるドストエフスキー作品の数々すらも「異国の男」という登場人物なのだ。小道具ではなく)虚無。 虚無と狂気と少女はなんと馴染むことか…… それでも、ベー様こと阿部欣子の生活感と頼もしさは嬉しくなる。 少女たちすべてに幸あれ。
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戦時中に家族や大切な人を亡くしながらも、自分の好きなことや大事なものを見失うことなく、本に夢中になったり歌やダンスを踊ったり、悲しく辛い毎日の中でも、楽しむことを忘れずに必死に生きる少女達は本当に逞しかった。
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幻惑させられる。 倒立する。 この話はどこに行くの? そう思いながら、頁を繰る手はとまらない。 空気を読まない異分子としての「イブ」。 ミッション学校にどこか崩れた感じを残す「ジダラック」。 なんという悪意に満ちた呼び名だろう。まさに女子。 そして、戦争と、その...
幻惑させられる。 倒立する。 この話はどこに行くの? そう思いながら、頁を繰る手はとまらない。 空気を読まない異分子としての「イブ」。 ミッション学校にどこか崩れた感じを残す「ジダラック」。 なんという悪意に満ちた呼び名だろう。まさに女子。 そして、戦争と、その中でただ生きる彼女らは……………もうね、なんというか、すごいわ。これ。 再読したい。
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背景は戦中戦後。 現在と過去を行ったり来たりして混乱しそうになるのは いつもの事だけれど、それが手書きの小説の少女達と 重なって、更には、お嬢様学校とはいえ戦時中の過酷な労働と 質素な食事、クラスメイト同士の友情や軋轢、 女学校特有の密やかな交流や嫉妬や悪意等がリアルだったりする...
背景は戦中戦後。 現在と過去を行ったり来たりして混乱しそうになるのは いつもの事だけれど、それが手書きの小説の少女達と 重なって、更には、お嬢様学校とはいえ戦時中の過酷な労働と 質素な食事、クラスメイト同士の友情や軋轢、 女学校特有の密やかな交流や嫉妬や悪意等がリアルだったりする。 それでも幻想的な部分は相変わらずステキだ。 美しくて醜くて、優しくて残酷で、リアルでシュール。 そして、見事に惑わされ、誘導されましたよ。 書き回しの小説のラストで、これが真相だろうというのが 書き足されるんだけど、本当の結末はその後にひっそりとやってくる。 切ないくらいの執念を感じましたよ。
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終戦間際の時代、ミッションスクールの図書室に置かれていた『倒立する塔の殺人』と書かれたノート。そのノートには手記と終わりのない小説が書かれている。その手記とノートが書き継がれていくうちに徐々にそのノートに秘められた企みが明らかになっていく。 濃い世界観の小説はいろいろありま...
終戦間際の時代、ミッションスクールの図書室に置かれていた『倒立する塔の殺人』と書かれたノート。そのノートには手記と終わりのない小説が書かれている。その手記とノートが書き継がれていくうちに徐々にそのノートに秘められた企みが明らかになっていく。 濃い世界観の小説はいろいろありますが、この作品の世界観はただ単に濃いだけでなく、甘く妖しい芳醇な他の作家さんではなかなか出せない独特の濃さがあるように思います。 それは戦時下から終戦直後という時代設定や、キリスト教系で女子学生だけのミッションスクールという舞台設定に加えて、 女子だけの世界だからこそ起こりうる愛憎を雰囲気たっぷりに描いているからだと思います。勝手なイメージですが読んでいて宝塚音楽学校ってこんな感じなんじゃないかな、という印象を持ちました。 特に印象的だった場面はⅥのピアノの場面。本当に美しい文章で、それでいて彼女の心理を痛々しく描いていて、読んでいてドキドキしてしまいました。 こんな濃い話と文章の作品なのですが、これをヤングアダルト向けのレーベルから出されているというのがまた驚き。出版社の方もよく皆川さんにお願いしようなんて考えたよなあ…。 きっと出版社の方は皆川さんのこの妖しい魅力を若い層に伝えたかったんだろうな、と勝手に妄想してしまいます。
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+++ 少女を殺したのは、物語に秘められた毒――戦時中のミッションスクールでは、少女たちの間で小説の回し書きが流行していた。蔓薔薇模様の囲みの中に『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ記されたその美しいノートは、図書館の書架に本に紛れてひっそり置かれていた。ノートを手にした者は続きを...
+++ 少女を殺したのは、物語に秘められた毒――戦時中のミッションスクールでは、少女たちの間で小説の回し書きが流行していた。蔓薔薇模様の囲みの中に『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ記されたその美しいノートは、図書館の書架に本に紛れてひっそり置かれていた。ノートを手にした者は続きを書き継ぐ。しかし、一人の少女の死をきっかけに、物語に秘められた恐ろしい企みが明らかになり……物語と現実が絡み合う、万華鏡のように美しいミステリー。 +++ 女学校というある意味閉ざされ守られた場所が主な舞台であり、さらに戦時下という特殊な心理状況の下であったからこその物語であろう。物語の中で綴りあげられていく物語と、物語の中の現実とが入り組み互いに影響を与え合ってより不可思議な景色を見せているようでもある。時を隔て、ふとした勘違いを利用し、当初は思いもしなかった事実が明らかにされていくのだが、読むうちにだんだんと現実と作中作のどちらが先なのか判然としなくなってくるのがめまいのような感覚で、タイトルとも相まって不思議な心持ちにさせられる一冊である。
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