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菜食主義者 の商品レビュー

4.1

64件のお客様レビュー

  1. 5つ

    19

  2. 4つ

    27

  3. 3つ

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2019/10/20

ハン・ガン、3冊目。 『すべての、白いものたちの』、『そっと 静かに』はエッセイ集なので、彼女の小説はこれが初めて。 彼女が心温まる物語を書くだろうなどとはもちろん思っていなかったんですが、予想以上に壮絶で、中編三作のそれほど長くない小説のわりには読むのに時間がかかりました。 ...

ハン・ガン、3冊目。 『すべての、白いものたちの』、『そっと 静かに』はエッセイ集なので、彼女の小説はこれが初めて。 彼女が心温まる物語を書くだろうなどとはもちろん思っていなかったんですが、予想以上に壮絶で、中編三作のそれほど長くない小説のわりには読むのに時間がかかりました。 『菜食主義者(ベジタリアン)』という言葉のやわらかさとは裏腹に、主人公ヨンへは肉を食べることを拒絶し、植物になりたいと願い、やがては食べることも放棄する。 訳者あとがきでは「私たちの中でうごめいている動物性と静かに揺れる植物性との葛藤」と説明されているのだが、そんなことを言われてもよくわからない。 三作の中ではヨンへの姉の視点から語られる『木の花火』が比較的共感しやすいのですが、ハン・ガンの描く「なにかを失った人の孤独」というものに私は強く引かれるようです。 ここ近年、注目されている韓国文学ですが、「新しい韓国の文学」シリーズ第一作としてこの作品を日本で出版しているクオンの活動はすばらしいですね。 以下、引用。 バスはスピードを上げて雨の中を走る。彼女は何とかバランスをとりながら奥のほうに進む。二つ並んだ席の空いているところを探して窓側に座る。かばんの中からティッシュを取り出して、曇った車窓を拭く。長い間孤独だった人間だけが持つことのできる堅固な視線で、車窓を叩く激しい雨脚を眺める。 さほど時間が経たないうちにふと気づいたのは、彼女が切に休ませたかったのは、彼ではなく彼女自身だったかもしれないということだった。十八歳で家を出てから、誰の力も借りずにたったひとりでソウルでの生活を切り開いた自分の後ろ姿を、疲れた彼の姿に照らし合わせていただけではなかっただろうか。 生きるということは不思議なことだと、その笑いの末に彼女は考える。何かが過ぎ去った後も、あのおぞましいことを経験した後も、人間は飲んで食べて、用を足して、体を洗って、生きていく。

Posted byブクログ

2019/10/18

日本と比べてもほとんど違和感がない。章が3つぐらいに分かれているが、一つの小説である。  夢から菜食主義になり拒食症へ、そして家族は、親せきは、という話である。

Posted byブクログ

2019/10/24
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

菜食主義者、蒙古斑、木の花火。連作である。男の妻は特に変わったところも無く、普通に地味な女性だった。男はそれだからこそ彼女と結婚したようなものだった。その妻がある時から肉を食べなくなった。単にベジタリアンになったというだけでなく、食事を段々ととらなくなって痩せてきた。心配した夫や姉達の心配にもかかわらず、その程度がひどくなっていく。夜中も寝ずに過ごしている。妻のヨヘンは夢を見たという。男の視点、ヨヘンの視点、ヨヘンの姉の視点、姉の夫の視点。それぞれの視点で語られていくヨヘン。ヨヘンはどうなっていくのか。

Posted byブクログ

2020/01/27

とある夢から菜食主義者となった女性の変化が家族にも波紋を広げていく。 まるで真っ白なシーツに鮮血が飛び散るような。

Posted byブクログ

2019/09/15
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

韓国文学を始めて読んだ。今回の本は静観に淡々と生きていた4人の男女が、次女が突然菜食主義になるという行為をきっかけにそれぞれ持つ内なる欲望や違和感、狂気が描かれてる。少しファンタジーぽく村上春樹に近いのかなとも思う。身体や欲望に対して線密に書かれている為、生々しい世界観が文章全体を包む。一般的には常識を離れたような感覚でも、本来の自らの求める姿に気づくこと、そして進むことができる喜びを感じることで、生きるということが始めて実感できるのかもしれない。

Posted byブクログ

2019/08/16

 ある日突然ベジタリアンになっちゃった女性ヨンヘと、それを受け止めきれない旦那や父母、兄弟たちの話。別に最近話題のヴィーガンとかベジタリアンにハマって周りが困ってるとかそういう話ではなく、彼女自身が植物になってゆくのだ。見た目は心の病気にかかってしまった人とそれと上手く向き合えな...

 ある日突然ベジタリアンになっちゃった女性ヨンヘと、それを受け止めきれない旦那や父母、兄弟たちの話。別に最近話題のヴィーガンとかベジタリアンにハマって周りが困ってるとかそういう話ではなく、彼女自身が植物になってゆくのだ。見た目は心の病気にかかってしまった人とそれと上手く向き合えない家族の話、という感じだろうか。  ヨンヘが菜食主義者になった理由ははっきりと語られないが、幼少から現代に至るまで抱えてきた家族の問題が爆発したように見える。  彼女の家は最近の日本の小説ではまず見られないような家父長的家庭。親父は平気で暴力振るう。日本の昭和を描いた映画でどこぞの親父が「戦争にも行ったことないくせに!」と叫んでいたが、今の韓国は徴兵制度ある。日本にかつてあった価値観が、国家の暴力装置(社会学的な意味で)になることが当たり前であることによって、何らかの理由で存続しているのかな?なんて思った。それとも、儒教的には暴力もオッケーなんだろうか。  また、ヨンヘが肉を食べるのを拒んだ際に家族みんなで彼女に無理矢理肉を食わせようとするが、そのやり方も超アグレッシブで、なんと「酢豚を顔に押し付ける」のだ。その光景を見たヨンヘの旦那は「胸に染みる父親の愛情に、思わず目頭が熱くなった。多分、その場にいた皆がそう感じていただろう。」(p.62)と反応。ギャグかな?とは思ったけど、こればかりは他所の国のことだし何とも言えない。キチガイ一家のコメディなのかもしれないし、韓国ではたまに見られる光景なのかもしれない(馬鹿にするわけではなく)。  とにかく、ヨンヘを取り巻く人間はこんな感じで、旦那が彼女と結婚したのも、魅力のない女と結婚すれば自分が矮小な人間であることを意識しなくて済むからというもの。それは人間やめたくもなるだろうと思う。  じゃあクソな旦那と離婚して別の人と結婚するなり結婚とは別の幸せを得ればいいじゃん!と思えれば良いのだろうが、彼女の場合は家族も上述のとおりであり、何というか逃げ場がない。幼少期から自分という一個人の芽を摘まれ続けてきたとするならば、その傷を癒すことなどできるのだろうか?しかもそうした暴力が「親の愛情」という言葉に守られていたら、もうどうしようもないではないか。  ……と、個人への暴力を軸に想いを馳せていたけれど、そうして菜食主義者になったヨンヘに対し周囲の面々が様々な反応を見せていくのがまた面白い。翻弄され破壊されてゆく周囲を他所に、物理的にはボロボロになりながらも静かに植物へと変わってゆくヨンヘが、皮肉にも力強く映った。

Posted byブクログ

2019/07/15

様々な切り口けら読むことができる作品だと思う。 菜食の肯定、否定の面から人類としての生き死にについつ深く考えてみたり、農耕民族と狩猟民族の歴史に思いを馳せてみたり。 自分ね場合は、一個の人間というものは実に絶妙で、不安定なバランスの上に成りだっているものなのだ。という感想を強く持...

様々な切り口けら読むことができる作品だと思う。 菜食の肯定、否定の面から人類としての生き死にについつ深く考えてみたり、農耕民族と狩猟民族の歴史に思いを馳せてみたり。 自分ね場合は、一個の人間というものは実に絶妙で、不安定なバランスの上に成りだっているものなのだ。という感想を強く持った。 何かのキッカケで、自分が彼女のようになってしまうのかもしれないと思って読むならば本作はホラーである。

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2019/05/21

ヨンヘがなぜ突然菜食主義者になってしまったのか、理由は最後まで判らない。読者の想像に任され、答えは読者の数だけあるということなのだろうか。私にはヨンヘの抑圧された人生のせいに思われた。夫からヨンヘは決して目立つ美人ではなく『女として平均よりちょっと下』ぐらいに見られ、それが夫がヨ...

ヨンヘがなぜ突然菜食主義者になってしまったのか、理由は最後まで判らない。読者の想像に任され、答えは読者の数だけあるということなのだろうか。私にはヨンヘの抑圧された人生のせいに思われた。夫からヨンヘは決して目立つ美人ではなく『女として平均よりちょっと下』ぐらいに見られ、それが夫がヨンヘと暮らしていて『緊張せずにすむ』理由なのが、もう痛々しい。それは常にヨンヘを自分よりも下の存在として見てたという事じゃないか。夫当人に悪気なく無意識だとしても、きっとヨンヘは日常的に言葉の端々に侮蔑を感じさせられたことだろう。夫以前にも支配欲の強い実父は肉を口にしないヨンへに対し業を煮やし、力ずくで口に押し込んだりする。いくら心配だからといって、これが愛情から来る行動なのか。従わないヨンヘが気に食わないだけなのではないか。この場面だけで幼少時のヨンヘも、父を止められなかった実姉のインへも、実家での姿が容易に想像出来る。ヨンヘが壊れてしまったのは大きな理由なのではなく、積み重なりなのだろうと思う。物語の主人公を義兄に移しても、この義兄もやはりヨンヘを一人の人間としては見ない。性か芸術の対象。更に実姉インへが主人公となった3章では物語は沼の様だ。「生きてはいなかった。ただ耐えていただけだった。」が全てを表していたのかも知れない。とにかく全く光が見えない物語で、私の心にも沼が広がった。

Posted byブクログ

2019/05/18

最後の数十ページの才気ほとばしる言葉の密度に、息をするのも忘れて読みました。入り組んだ心の隙間を、右に左にぶつかりながら、肉をえぐって暴走する列車が通り過ぎて行ったかのよう。このシリーズは表紙がとても美しいので、手にするうれしさもあります。

Posted byブクログ

2019/05/08

村上春樹の『ノルウェイの森』のテーマとも通底するような人間の危ういバランスと実存を,韓国という国の文化的コンテクストの上に見事に構築した小説で,グッと惹きつけられて読まされた. 翻訳とは思えないすばらしい翻訳で,このような韓国語の翻訳者がいらっしゃるというも嬉しい発見.

Posted byブクログ