族長の秋 の商品レビュー
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権力の破綻、独裁者の孤独。 舞台は南米、軍事力にまかせた独裁政権のもとにある、とある架空の国。 視点というか、語り手のいったりきたりする、独特の文体です。主人公である独裁者本人の言葉によってその場面が語られたかと思ったら、突然その続きをそのままほかのキャラクターが語りだしたりするんですけど、そのときに章立てや場面転換を示す空行などはありません。というか、改行さえなく、なんの前触れもなく語り手がつぎつぎにスイッチ……というより、錯綜している。話の時系列的にも行きつ戻りつ。過去と現在、願望と現実のあいだをめまぐるしく行き交って。 独特の文体です。かろうじていくつかの章にわかれているけれど、段落変えというものが、いっさい存在しません。ページをひらくと文字がぎゅぎゅぎゅっと詰まり、そのあいだを読点が小刻みに分割しています。 そのうえに文脈もめまぐるしく移り変わり、一文のなかの語順さえ倒置されていて、読んでいてとまどう箇所は多数。人はどんどん死ぬし、悲惨な事件はばんばん起きるし、主人公は絶えず不安と孤独にさいなまれているし、とっつきやすい小説とはいえません。 が、美しい。 独善、虚栄、猜疑、欲望……。見たいものだけを見つめ、己を鏡に映すことをしらず、奪うことしか知らない、子どもじみた、独裁者。孤独に怯え続け、醜く老いた哀れなひとりの男の物語です。
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本の帯から推測して、自分はこの本を、独裁者自身の傲慢さによってもたらされた孤独、哀れさとかを予想して読み始めましたが、予想を上回る孤独で哀れさがあって恐怖しました。 大統領は元々、民の一人ひとりを知っていたりと「大統領」というより、よき「族長」という感じだったようです。それが、仕...
本の帯から推測して、自分はこの本を、独裁者自身の傲慢さによってもたらされた孤独、哀れさとかを予想して読み始めましたが、予想を上回る孤独で哀れさがあって恐怖しました。 大統領は元々、民の一人ひとりを知っていたりと「大統領」というより、よき「族長」という感じだったようです。それが、仕方ない理由、運命に流されて、民に憎まれるようになり、信用できない部下たちと権力に守られるしかなかった、というより、囚われています。 唯一信用できる母も死に、惨めな様を晒す大統領の姿は見ていられません。 ただ、マジックリアリズム?の表現と大統領の妄想の区別がつかないのが残念です。 例を出すと、大統領は民の一人ひとりを記憶していたり、最期のシーンで 病人を治したりとありえない事が起きました。が、自分が気になるのは大統領の友、ロドリゴ将軍が裏切っていたと分かったシーンです。 疑心暗鬼、妄想にとらわれた大統領が無実の人間、友を殺したシーンとも思えますが、終盤の方に、 大統領に媚びていた(違う表現だったと思います)ロドリゴ将軍 という文が出てきます。読了した後も、本当に裏切っていたのか、裏切っていないのか今でも分かりません。 しかし、孤独に沈んでいく大統領の姿、見事に表現されたラテンアメリカ、もっと読まれるべき面白い小説と言うほかありません。
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生きているか死んでいるか、ひとりなのか世襲なのかわからない、独裁者大統領の物語。読み始めた途端、われわれ読者は迷宮の森に迷い込む。おふくろよ、ベンディシオン・アルバフトよ、誰もわしのことをわかっていないのだ。そうよ、あのじじいったら、制服姿のあたしを見たら興奮しちゃって大変だった...
生きているか死んでいるか、ひとりなのか世襲なのかわからない、独裁者大統領の物語。読み始めた途端、われわれ読者は迷宮の森に迷い込む。おふくろよ、ベンディシオン・アルバフトよ、誰もわしのことをわかっていないのだ。そうよ、あのじじいったら、制服姿のあたしを見たら興奮しちゃって大変だったのよ。このような、改行のない文体の途中に主語がコロコロ変わる物語を読んでいる方もだんだん混乱してきて、それでも最後まで夢中にさせるところは、さすがにガルシア・マルケスだと、僕は単純に思うのであった。
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改行もなしに延々続く異様な文体は主語を「われわれ」としてしかも語り手が時折錯綜する。しかしその語りの直線的な複数性、とでもいうべきものがエピソードを展開する様がすごい。あるいは複数的なものをすべて直線のうちに包摂してしまっているからなのかもしれないけれど、それぞれのエピソードが...
改行もなしに延々続く異様な文体は主語を「われわれ」としてしかも語り手が時折錯綜する。しかしその語りの直線的な複数性、とでもいうべきものがエピソードを展開する様がすごい。あるいは複数的なものをすべて直線のうちに包摂してしまっているからなのかもしれないけれど、それぞれのエピソードが爆発しながら次の起爆剤になっていくこの感覚は、絶対に一度体験しておきたい未知の面白さである、と思います。 海が持っていかれたり生きながらに腐っていく人間がいたり幽霊のようにさまよう姿で大統領を誘惑する女がいたりと超現実的なエピソードが混在する中で、極悪非道な大統領が翻弄されているように見えてくる、その巧みさ。大統領に感情移入させるという倫理意識にもしびれますけど、その倫理意識をこうやって表現することができたのか、というのにもまたしびれます。やっぱり最大公約数をうまくつかむっていうのは大切なことで、そのつかみ方も一つの面白さ足りうるのだなあと。 それにしてもすさまじいまでの自由。
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ノーベル文学賞を受賞したコロンビアの作家ガルシア・マルケスの独裁者を扱った長編小説(「100年の孤独」の作者) 様々な人が口々に語るというスタイルなので、主語がコロコロ変わること、物語に登場する牛やニワトリなどの様々な動物が人の表象であること(たぶん)から、とても難解な作品でし...
ノーベル文学賞を受賞したコロンビアの作家ガルシア・マルケスの独裁者を扱った長編小説(「100年の孤独」の作者) 様々な人が口々に語るというスタイルなので、主語がコロコロ変わること、物語に登場する牛やニワトリなどの様々な動物が人の表象であること(たぶん)から、とても難解な作品でした。 大統領(独裁者)は個人であり、国そのものでもあるのだろうなぁ(たぶん)と思いました。
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この大統領というのはまったく憎たらしく、汚らしく、情けなく、どうしようもないヤツで、ページには文字がひたすら埋まってて舞台となる町の暑さや湿度や臭気まで漂ってくるようで本当に辟易するのですが、終盤になると不思議にいとしくなってくる。腹立つけど。
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この文体は辛い。段落というものがない。さらに語り手がごちゃごちゃである。 最後まで読み通せるかは疑問 殆ど2ヶ月の中断後,120ページ辺りから10月10日から読書を再開
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ノーベル文学賞を取ったので読もうと思った。 スペインやポルトガルの文学との接点は感じた。 コロンビアは行った事がないので、ピンとこないところがある。 南米固有の文化はよくわかっていないからだろうか。 読んでいて飽きるということはない。 立場の違いからの難解さが乗り越えられないのかもしれない。 自分の好きな作家では、カミュが一番近いような気がした。
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語り手はどんどん替わるし(しかも唐突に)、ほとんど改行もなく、セリフも括弧でくくられてないからものすごく読みにくかったけど、読み応えがありました。
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圧倒的な言葉の饒舌によって生まれた靄は、ある定まったイメージに収斂することなく、と云って、まったく拡散するわけでもなく、大きなうねりを持続したままカリブ海の国や島々を覆い尽くし、、大統領の死と断定できない死でもって、消えて無くなったのである。
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