ゴールデンスランバー の商品レビュー
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『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎 (新潮文庫) 私は伊坂さんの小説を全部読んでいるわけではないのでよく知らなかったのだけれど、この作品はこれまでの伊坂作品とはちょっとタイプが違うのだそうだ。 巻末の解説に作者本人の言葉が引用されており、それによると、この『ゴールデンスランバー』での新たな試みというのは、「広げた風呂敷を畳まない」ということらしい。 それはつまり伏線を回収しないということだ。 物語がラストに近づくにつれてどんどん物語が収束していき、最後はパズルのピースが寸分の隙間もなく綺麗にはまり、それこそ一本投げをくらったかのように、ぐうの音も出ないほどに納得させられてしまう。というのがこれまでの伊坂作品の特徴だった。 今回のこれは、あ、ここは伏線かな、と思うような意味深な描写も、結局よく分からないまま終わっており、分からないことが分からないままになっている。 実はちょっともやもやしている。 正義は勝たない……? うーんと唸ってしまった。 主人公は、元宅配ドライバーの青柳雅春という青年である。 凱旋パレード中の首相が、爆弾を積んだラジコンヘリによって暗殺されるという事件が起き、なぜか青柳が犯人の濡れ衣を着せられ警察から逃げる、という話なのだ。 最初から“警察は正しい”という先入観を持って読んでいた私は、自分が犯人でないのなら、コソコソ逃げずに警察にきちんと事情を話し、調べてもらえば疑いは晴れるんじゃないの?と思っていた。逃げたら余計不利になるんじゃないかと。 でも全然そうじゃなかった。 “首相公選の日本”というバーチャルなこの世界は、私たちの知らない異常な世界なのだった。 そこには私たちの考えている当たり前の正義はない。 警察関係者が(児島さんを除いて)皆一様に無表情なのが、その異常さをさらに際立たせている。 何を信じればいいのか。 ヒヤリと寒くなる。 しかし、逃げる青柳と、彼を助ける人々の温かさやユーモアが、“青柳を陥れようとしている顔を持たない何か”とより対比されて浮かび上がり、物語に血を通わせている。 犯人捜しや真実を明らかにすることが目的のミステリーとは、基本的に違うのだ。 “習慣”も“信頼”も、人間がつくるものだからね。 「事件のはじまり」「事件の視聴者」そして逃亡劇の中心となる「事件」。 その間に「事件から十年後」という章が挟み込まれている。 一人のノンフィクションライターの目線で書かれたルポの形式をとっているその章は、物語全体の中ではかなり異質だけれども、これがあることによって物語がピリッと引き締まっているように感じて、私はいいと思った。 これで風呂敷を畳んだことになるんじゃないかとも思った。 一方「事件から三ヶ月後」は、伊坂さんらしい優しさに溢れている。 「そうだと思った」も「痴漢は死ね」も「たいへんよくできました」も、とても温かい。 青柳を陰で助け、無実を信じ続けたこの人たちが、彼が生きていることを知り、よっしゃあ!と小さくガッツポーズをする光景が頭に浮かんで、嬉しくなってしまった。 日本って昔から“敵前逃亡は士道不覚悟”なんていう武士の血みたいなのってあるよね。 勧善懲悪とか。 でも、そこのところをあえて外しているというか、逆行しているような、日本人的でないようなところが、あのラストを生んだのかなと思う。 辻褄が合わないことや納得できないことが世の中にはごまんとある。 抗えない大きなものにぶつかったとき、とにかく逃げる。 とにかく生きる。 それもきっとアリだ。 特に今、大きな災害を目の当たりにして、生きていることがものすごく大事なことだということを痛感する。 「生きててなんぼ」は、時として「正義」より重い。
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いいな!!! スピード感!訳のわからん流れ!予測不能! 伊坂さんはやはりこういう事書かせたら天才だわ。 何より親父がよい。あれはなける。泣いてないけど。 9 / 10点満点中
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名作。最初から最後までずっと面白い。ページ数が多くても気にならない。最後まで直接的に交わることのない2人の関係が「信頼と習慣」によって繋がっているのがたまらない。今から社会に出る高校生や大学生に特に読んでほしいと思える作品。小さくまとまるなよ!
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ハッピーエンドではない。 というか最悪は逃れたもののほぼバッドエンドでした。伊坂幸太郎はストーリー自体はスッキリするオチじゃないものが多いけど、場面転換する際の繋ぎのキーワードだったり、言葉のチョイスが気持ちいいのでまた違う作品も読みたいと思います。
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中盤からラストに向けては続きが気になってしまって仕方なかった、自分も追われているような臨場感あふれる流れで没入感がすごかった!! 日頃の行いって大事だなと考えさせられた。 そしてまさかの心温まる最後でした。
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そもそもは『黄金を抱いて翔べ』と間違えて購入。 その後、読もうと手に取るも、グラスホッパーとの勘違いに気付き再度本棚へ収納。 やっと、読みました。 タイミング悪く、なかなか読書の進まない時期に読むこととなり、1週間とかかかってしまうなど。。。とにかく、反省仕切りの678ページでした。 いやーーーーーーーーー!素晴らしい作品! 世界中全ての人に読んでほしい!!!。。。今更感がすごいけどw こんなに素晴らしい作品だとは、正直思っていなかった。 てか、映画(見てないけど)の印象?予告の雰囲気??からは、とても想像できない、濃厚で壮大なお話だったからびっくり。 むしろ、この内容を2時間だか3時間だかに収められているのか?本当に??どこ端折っても面白くなくなっちゃうよね???って、気が気じゃない。 今更だけど、映像も見たい!と思ってしまったくらい。 そのくらい。本当に素晴らしい作品でした! 小説を読んでいれば、ある程度の頻度で「伏線では?」と思いながら進んでいくものですが、こんなに全てを美味しくいただく、あんこうか!?ってくらい、何処も捨てるとこのない、骨も皮も何もかも全てを美味しく使い切ってしまう、この膨大な文字数の中でそれをやってのける伊坂先生の偉大さに、改めて脱帽っす。 あれかー!これ前に言ってたやつー!ここでかーーー!って、後半は、本当にずっと思わされていて、テトリスで空けてた一番左の一列に、長い棒が落ちてきたかのように、それはもう見事にガンガン撃ち込まれる活字の全てが楽しくて、嬉しくて、幸せだったー! 森田とかカズとか、三浦とかタムロする若いおにいちゃん達とか、七美ちゃんとかお父さんとか、欠点もあって、でもいいシーンも描かれていて。そう言うありえないリアリティが、体温を持って、気づいたら肌に触れる部分にある、読んでいる間のたった数日間に親しみを感じ、亡くなることに切なくなるほど思い入れができるくらい、きちんと人物が浮かび上がってくるのがすごい。そこは、過去読了の殺し屋シリーズ3作に通ずる、伊坂先生の好きなところかな。 そして、サクッと人が死んじゃうとこも、嫌だけど、好きなのかもしれないw 構成としての「現在からの過去、からの未来」であるとか、人が入れ替わりながら時系列を無視して進んでいく流れとか、そう言うとこも、割とありがちな気がするけれど、そこがそれでもしっかりと繋がって、違和感なく描かれありがちに見えない表現ってのも、やっぱり感心して尊敬するね。 そして、何より!きっとこんだけヒッチャカメッチャカ、それこそありえないお話をさもノンフィクションであるかのように思わせる絶妙な設定や展開にも感動するけれど、最もリスペクトなのは、結末。 似たような物語で、圭吾先生のプラチナデータがあるけれど、あれも、言ったら同じような結論なんだけど、なんだか自分の感想として認めたくはないけれどw圭吾先生のプラチナデータよりも、こっちの方が好きでした。(2022年5月26日プラチナデータ再読で前言撤回済み) 決して「伏線回収」然としていない、でも確実に全てのつながりを認識するからこそ解決し感動し、理不尽な不幸でありながら、読者を幸せにする本当にこれ以上にない素晴らしい作品でした。 いつかまた、忘れてから読みたい。 伊坂先生の作品を、制覇することをここに宣言しよう!w
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突如、首相爆殺犯として追われることになった青柳。 息を呑むような展開の連続なのに、軽快なテンポと突き抜ける疾走感によりエンタメ作品としての面白さが全面に押し出されている。 彼の逃亡を手助けする人々の台詞や行動にも、思わずグッときてしまう。 実在の事件を題材に書かれたこの作品がどん...
突如、首相爆殺犯として追われることになった青柳。 息を呑むような展開の連続なのに、軽快なテンポと突き抜ける疾走感によりエンタメ作品としての面白さが全面に押し出されている。 彼の逃亡を手助けする人々の台詞や行動にも、思わずグッときてしまう。 実在の事件を題材に書かれたこの作品がどんな結末を迎えるのか、ドキドキしながら読んだ。
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内容(「BOOK」データベースより) 衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ?何が起こっているんだ?俺はやっていない―。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠...
内容(「BOOK」データベースより) 衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ?何が起こっているんだ?俺はやっていない―。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 伊坂/幸太郎 1971(昭和46)年千葉県生れ。’95(平成7)年東北大学法学部卒業。2000年『オーデュボンの祈り』で、新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、デビュー。’02年刊行の『ラッシュライフ』が各紙誌で絶賛される。’03年『重力ピエロ』、’04年『チルドレン』、’05年『グラスホッパー』、’06年『死神の精度』、『砂漠』が直木賞候補に。’04年『アヒルと鴨のコインロッカー』で吉川英治文学新人賞受賞。洒脱なユーモアと緻密な構成で読む者を唸らせ、近年稀にみる資質の持ち主として注目を浴びている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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物語を仙台に設定し、 箱庭のような世界観の中、 過去・現在、 ビルの屋上・地下道、 子供・大人、 個人・国家、 等々たくさんの対比を 上下、左右、斜めに構成し、 想像力を豊かにさせる描写力で 読むものの心に、危機感と優しい何かを残して抜けていく。 また、物語は主人公が「逃げる」...
物語を仙台に設定し、 箱庭のような世界観の中、 過去・現在、 ビルの屋上・地下道、 子供・大人、 個人・国家、 等々たくさんの対比を 上下、左右、斜めに構成し、 想像力を豊かにさせる描写力で 読むものの心に、危機感と優しい何かを残して抜けていく。 また、物語は主人公が「逃げる」あらすじだが、 状況により逃げることを選択する事は、 状況に向かい合っているからであり、 それは「逃げる」という方法を使った 逃げではない選択である。 大きな力と個人の関係を考えるきっかけになる作品である。
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首相殺しに仕立てられた青柳雅春。 第一部 事件のはじまり 第二部 事件の視聴者 第三部 事件から二十年後 第四部 事件 第五部 事件から三ヶ月後 以上の5部構成で色々な角度から事件を視る。 ストーリー自体は『ん?伊坂幸太郎?』て感じですが、やはり、ちょっとした表現はさすが伊坂...
首相殺しに仕立てられた青柳雅春。 第一部 事件のはじまり 第二部 事件の視聴者 第三部 事件から二十年後 第四部 事件 第五部 事件から三ヶ月後 以上の5部構成で色々な角度から事件を視る。 ストーリー自体は『ん?伊坂幸太郎?』て感じですが、やはり、ちょっとした表現はさすが伊坂先生です。 後半、スピード感がありハラハラドキドキ。 まだ映画も観てないので、是非みてみます!
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