リアル・シンデレラ の商品レビュー
倉島泉(せん)について、身近な人に筆者が取材したものをまとめたスタイルの長編フィクション。テーマは「豊かさと幸福」ポール・デルヴォーのシュールな表紙絵に目を奪われた。 プロローグからなかなかユニークだ。 シンデレラは果たして幸せだったのか? 子どもの頃に「シンデレラ」を読んで...
倉島泉(せん)について、身近な人に筆者が取材したものをまとめたスタイルの長編フィクション。テーマは「豊かさと幸福」ポール・デルヴォーのシュールな表紙絵に目を奪われた。 プロローグからなかなかユニークだ。 シンデレラは果たして幸せだったのか? 子どもの頃に「シンデレラ」を読んでも私は全く違和感を持たなかった。恵まれていたからなのか、深く考える習慣がなかったからか… 「むかしむかしあるところに、倉島泉という娘が住んでいました… 」諏訪を舞台に父・柾吉の語りで始まる物語。「不吉な子」と母、登代に疎まれ綺麗な妹、深芳(みよし)と比較される泉は、さしずめ"灰かぶり姫"のよう。 〈照恍寺の先生〉と〈お姉さん先生〉の話。 成績の良い深芳に比べ、泉は勉強が苦手で鈍だけどいじけたところがない。 泉の誕生日に登代の兄、洋平が亡くなった。娘に向かって「死に神!」と叫ぶ登代は本当に母親なのか?あるいは父親が違う? 泉を可愛がっていた洋平が亡くなると、旅館「たから」の板長を宮尾碩夫(せきお)が継ぐ。7年経って洋平の妻だった真佐子と結婚。 泉は片桐夫妻の援助で松本の松商学園に進学し、深芳は一年後、岡谷東高校へ進学する。 「深芳ちゃんの事件」を泉の友人の玲香が語る。泉を訪ねてやってきた深芳に主人の貴彦が関心を示すと、奥様の華子は直ちに深芳を出入り禁止にしてしまう。このあたりから物語の湿度が徐々に上がっていくのを感じた。婚約が決まった深芳は片桐夫妻の息子の潤一と駆け落ちして結婚に至るが長続きはしない。 泉と深芳を軸に人物相関図が広がりを見せてゆく。まさか泉が深芳と婚約していた横内亨と結婚するとは思わなかった。「相手が自分で申し訳ない」と夫に謝る泉が哀しい。逆に母、登代が過去の"あやまち"を筆者に語る場面はやけに鮮明で不思議な気持ちにさせられた。 柾吉との祝言を前に、 これがわたしの人生の双六のアガリ なんだ…と淋しさに襲われた登代は "恋に堕ちる"ということに恋をした。 それは"舞踏会"そのものだった! 最初で最後のロマンチックな思い出の はずが、消せない傷を身体に残す。 ひゃひゃと嗤う男の声を泉を見るたび思い出してしまう。まるで呪いのように! 諏訪の「たから」にやって来た小西奈美と泉の夫の亨が恋に堕ちる。離婚して奈美が新米美人女将になるまでのあらましが語られていく。 諏訪の春は御柱祭。 夏の諏訪湖を自転車で周遊する。 恋愛感、結婚感が今とは違った。 昔の恋愛は自分が結婚して責任とれない人に告白してはいけない。 結婚できないのに深い関係になるのは無責任。肉体的接触を避け清いままの別離が誠実であり純愛なのだ。 登代の過去に関わりがあった戸谷。奈美に関わりがあった小口へと物語は繋がりを見せてゆく。奈美の頼みで探偵をする小口の語りから、泉という女性の本当の姿が見えてくる終盤が良かった。 小さな温かいことが一つ二つ起こる日常が積み重なり過ぎて行くことが幸福! もし、小さな小さな発見やよろこびや夢やうれしさや期待を裏切られたなら… 秘密基地に逃げ込む泉に「生きている人は皆、死に向かって生きている。人の靴を履かずあなたの靴で歩きなさい。大人になったら、生きているのは本当に短い間だと理解できる」と諏訪大社の神(?)は教える。そして三つの願い事をする泉の場面で涙した。 「妹が丈夫になりますように」 「大きくなったらお母さんとお父さんと 離れて暮らせますように」 三つ目はたぶん「シンデレラに… 」 諏訪の湖(うみ)の波の音がした。 泉がやるせない! けれど、三つ目のお願いは違った。 泉はやはり泉だったのだと知り、また涙が止まらなくなった。
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シンデレラストーリー なんて人は言うけれど、 当人が清い心を持って るかなんて関係ない。 たまたま幸運が巡って 華やかな立場に立った 経緯を、 やや大袈裟に言い表す 慣用句としてそう言う のだ。 対して、この物語こそ 紛れもなくシンデレラ ストーリーである。 主人公の泉...
シンデレラストーリー なんて人は言うけれど、 当人が清い心を持って るかなんて関係ない。 たまたま幸運が巡って 華やかな立場に立った 経緯を、 やや大袈裟に言い表す 慣用句としてそう言う のだ。 対して、この物語こそ 紛れもなくシンデレラ ストーリーである。 主人公の泉は不遇の身 でありながら、 月のように清かな心を 失わない。 虐げられても孤独でも、 他人の幸福を喜びとし つつましく生きる。 たしかにシンデレラだ。 彼女の前にも魔法使い が現れる。 そして硝子の靴ならぬ あるモノを授けるのだ。 ─とても清らかなもの 尊いものに触れた気が して、 哀しい話ではないのに 涙が溢れ出ました。
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一般的に不幸、かわいそうとされる人生 周囲の人はそう評価しながらどこか羨ましくて、尊くて、そんな気持ちを抱えていたんだろうなと感じた 個人的にはおじさんの洋平さんが一番好きなキャラかも 人の幸福を喜べるというのはほんとにほんとに素敵で大事なことだと思う 芯のある人になりたい
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内面から滲み出る美人さがあったんだろうな。 不遇すぎて切なくなる。 読了後は不思議な感覚に襲われた。 つい妬んだり僻んだりしてしまうけど 心から人を褒められる 自分のためではなく動くことができる 泉という人間にものすごく興味が湧いた。、、 湧いただけに なんでこんなに不遇なんだろうと 思わざるを得なかった。 周りが不遇だ、 と思っても泉はそう思わないのかもしれないけど。 ちょうど幻影師アイゼンハイムを読んだ後だったので 泉も幻影だったのかと感じてしまった。
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泉という女性にひかれた。他人の幸せを自分の事のように振る舞える人はなかなかいない。 最後の失踪は急展開すぎて驚いた。理由はよく分からず難解であった。
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1人の女性に焦点を当て、真の豊かさと幸福を魅せるシンデレラストーリー。 あまりに辛くて最後まで読めないかと思うほど感情移入してしまった。 やり返さないヒロインのそれは崇高なこと。シンデレラというか、女神のような存在だった。 邪な心を持つ人には本当の清らかさと美しさが見えない。そうならないよう、この1人の女性のことを大事に心に留めておきたいと思う。
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筆者のするどい観察眼が光る。読み進めるほど面白くなる寓話。ただ語り口にリアリティがあるために、かえってラストは納得がいかなかった。他人の幸せを素直に喜べないときにはこれを読むのがおすすめです。女性の印象を描写するのが飛び抜けてうまいと思いました。
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“無私”とはこういうことを言うのだろうな。 最後の最後に語られる主人公の3つ目のお願い。 「自分の周りにいる自分じゃない人にいいことがあったら、自分もうれしくなるようにしてください」 もう一つ、心に残ったのは、 「小さな小さな、取るに足らないほどの小さな温かいことが、一日のう...
“無私”とはこういうことを言うのだろうな。 最後の最後に語られる主人公の3つ目のお願い。 「自分の周りにいる自分じゃない人にいいことがあったら、自分もうれしくなるようにしてください」 もう一つ、心に残ったのは、 「小さな小さな、取るに足らないほどの小さな温かいことが、一日のうちに一つか二つ、よくできた日なら三つか四つほどおこり、夜が来てその日が終わり、その次の日になってまた、一つか二つおこり、次の次の日になって、一週間たち、ひと月がたち、一年が過ぎ、人は暮らしていく。それが何にも勝る幸福である…」
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うーん、けっこう長いのを読んだけどあんまり面白くなかったなぁ。この作家さんは私には新しいタイプで新鮮だったけど、もういいかなぁ。
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諏訪温泉の小さな旅館の長女として生まれた倉島泉。ノンフィクション風に彼女の人生を小説にした。母親から辛い扱いを受け、きれいな妹と比較された彼女。しかし周りが見ていたようには彼女は自分を見ていたのではなかったのかもしれない。
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