世界は分けてもわからない の商品レビュー
(2009/9/5) 福岡伸一さんの「難しいことをやさしくわかりやすく文学的に伝える」文章にはいつも感心している。 今回もそういう雰囲気で書かれている。 いくつかの福岡氏の著作を読んで疑問だったことがある。 福岡氏の理論からすれば、 「なぜ切れた指は生えてこないのか」 「体に入...
(2009/9/5) 福岡伸一さんの「難しいことをやさしくわかりやすく文学的に伝える」文章にはいつも感心している。 今回もそういう雰囲気で書かれている。 いくつかの福岡氏の著作を読んで疑問だったことがある。 福岡氏の理論からすれば、 「なぜ切れた指は生えてこないのか」 「体に入った毒はどうして抜けずに後遺症となるのか」 が説明できていない気がしたのだ。 しかし、前者はひょんなことでわかった。 日本テレビの「世界一受けたい授業」 本とは指は復元しようとするのだが、その前に皮が覆ってしまって指ができなくなるそうだ。そこで、皮が出来ない物質「細胞外マトリックス」(豚の膀胱から取る)を傷口につけると、復活するそうなのだ。 福岡理論は成り立っていることになる。 でもほんとに指が元に戻るの? そして後者。水銀によって水俣病で苦しむ人、これもすぐに体が入れ替わるなら何の問題もないはず、、、というあたりを、今回の著作で説明していた。代謝できないものもあるようだ。 と、謎は謎でなくなったが、今回の著作はちと難解だった。絵がでてきたり、モナリザのモザイクが出てきたり、世界を分断する壁が出てきたり、、、最後は似非実験。 うーん、いいたいことがなんだったのか、、、 いつもより深かった。
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本作は私がアメリカ・サンディエゴへの留学から帰国するときに飛行機の中で読んでいたもので、とても印象に残っている。本作は旅行記のような形式で、筆者が自身の専門分野である分子生物学の諸問題について旅先で考えたことを綴っていくのだが、その旅先のひとつにカリフォルニア州サンディエゴが登場したのだ。こうゆう偶然があるのだなと1人でニヤニヤしていたわけだが、自分が見てきた景色とリンクさせながら読むことができて非常に味わい深かった。 さて内容についてだが、扱っているテーマは「生物と無生物のあいだ」と似ていて、著者は一貫して「境界・あいだ」を考え続けている。そこで印象深い一節を記しておく。 「私たちは見ようと思うものしか見ることができない。そして見たと思っていることも、ある意味ですべてが空目なのである。世界は分けないことにはわからない。しかし分けてみてもほんとうにわかったことにはならない。」 この一節は京極夏彦の「姑獲鳥の夏」を思い出させるお気に入りの一節である。
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前半の絵画の話も面白かったが、最後のスペクター事件が全てをかっさらっていった。 著者の教養の広さと深さに引き込まれる感じ。世界は分けてもわからないが、分けてみないと分からない。複雑なプロセスのつながり、生物学の本ではあるが人間関係の示唆も感じる
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確かにビジネスの世界では「解像度を上げよう」などと言うことがあるが、 解像度を上げるとわからなくなることあるね。
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生命現象をめぐる巡っている中で、部分を切り分けても、全体は語れないという主張。研究過程を通じて、それらを表現しようとしている。 マップラバーマインドを持ちがちな現代人への警笛か。
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複雑なものを複雑なまま捉えたいという最近の欲求の一方で、ちっぽけな自分が解釈できる(分けられた)何かを「見たい」という願望は消えない。そんな時に手に取った一冊。 目が良いから見えるものがあれば、目が悪いから見えるものもある。 大抵のことは空目かもしれないけど、そう思いながら夜空...
複雑なものを複雑なまま捉えたいという最近の欲求の一方で、ちっぽけな自分が解釈できる(分けられた)何かを「見たい」という願望は消えない。そんな時に手に取った一冊。 目が良いから見えるものがあれば、目が悪いから見えるものもある。 大抵のことは空目かもしれないけど、そう思いながら夜空を眺めたり細胞を眺めたりするのは、それはそれでワクワクする。趣味としてなら。
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生物を分解して理解する分子生物学でも動的平衡で存在する生命のなぞは解き明かされないが、着実に発見は続く。しかし答えを急ぐあまり捏造の誘惑に負けてしまうことも。科学研究の面白さと生命の神秘、飽くなき探求心を持つ科学者の悲哀が詰まったエッセイでした。
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分子生物学の先生が生命現象について平易に語った書。タンパク質やがん細胞など一般人にも耳馴染みのある言葉をはじめ、人間を構成する様々な要素を説明します。科学知識一辺倒ではなく芸術作品などからも思索を拡げていきます。 生命はより詳しく調べようと細かく分けていってもそれだけでは正しい理...
分子生物学の先生が生命現象について平易に語った書。タンパク質やがん細胞など一般人にも耳馴染みのある言葉をはじめ、人間を構成する様々な要素を説明します。科学知識一辺倒ではなく芸術作品などからも思索を拡げていきます。 生命はより詳しく調べようと細かく分けていってもそれだけでは正しい理解に至らない。周囲との動的な相互作用への視点が大切。そんなことを言っている本かな、と思いました。再読したくなる本です。
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随分前に「生物と無生物のあいだ」を読んで以来の福岡本。 生物学者のエッセイ風読みものだが、とにかく文章が極上の作家並みに上手い。内容も相変わらず面白い。ロードムービーさながら場所と場面を変え、自然科学的切り口から日常の常識を覆し、読者の知らなかった真実を教えてくれる。作中にひとり...
随分前に「生物と無生物のあいだ」を読んで以来の福岡本。 生物学者のエッセイ風読みものだが、とにかく文章が極上の作家並みに上手い。内容も相変わらず面白い。ロードムービーさながら場所と場面を変え、自然科学的切り口から日常の常識を覆し、読者の知らなかった真実を教えてくれる。作中にひとりの写真家が著者のところに来て自分の作品の言語化を依頼するという下りがあるが、確かに福岡氏の文章にはそういった圧倒的な力量とオリジナリティがある。 後半100ページほどはアメリカコーネル大学の名門研究室でのデータ捏造事件のドキュメンタリーが続く。この本の出版数年後に理化学研究所でSTAP事件が起こったのはなんとも予言的だ。 極上の小説を読んだような読後感。オススメです。 「不足と欠乏に対して適応してきた私たちの生理は過剰さに対して十分な準備がない。インシュリンは過剰に対して足るを知るための数少ない仕組みだった。それが損なわれたとき代わりの因子は用意されていなかった」 「生命現象において部分と呼ぶべきものはない。...全体は部分の総和以上の何ものかである」 「消化のほんとうの意義は...前の持ち主の情報を解体するため消化は行われる」 「細胞が行っているのは懸命な自転車操業なのだ。エントロピー増大の法則に先行して細胞内からエントロピーをくみ出しているのだ。あえて分解することによってエントロピー=無秩序が秩序の内部に蓄積されるのを防いでいるのである」
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新年1発目は積んでいた福岡伸一氏の著書。毎回恐ろしいほどの文章のうまさでビックリするけど、それに加えて本著は圧倒的な構成力も加わり、とてもオモシロかった。リリースされたのは2009年だが、このタイトルがこれほどまでに意味ありげに思えてしまうことに隔世の感あり。 12章からなるエッセイなんだけども各章につながりがある。著者がイタリアの学会へ行くところから始まり、そこからの展開が上質なノンフィクションそのもの。(実際、絵画の切断の話と別件のスペクターによるデータ改竄の話は一級品!)生物学まわりのガン細胞とES細胞、食品添加物や絵画や写真といったアートなどさまざまなテーマを取り扱いながら、それらの共通点を見出してエッセイが紡がれている。しかも内容としては難しいにも関わらず、著者の圧倒的な文章のうまさで分かりやすく噛み砕いてくれており興味深く読めた。 タイトルにある「分ける」というのは、全体から部分的に切り取ることに果たしてどれだけ意味があるのか?というテーマ。また視点に関する議論も多くマップヘイター、マップラバーというキャッチーなワードで主観と俯瞰について話していて、それも「分ける」の一種として捉えている。世界と相対するにはどちらか片方だけではなく両方大事という話は当たり前のように思えるが、生物学を通じてこの内容で著者から伝えられると納得感が違った。最近はあまりにも俯瞰の意見が多いから、主観の視点を大切にしたいと個人的に思っていたが、本著を読んで何事もバランスだなと思い直した。
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