自壊する帝国 の商品レビュー
思想の左右問わず、佐藤氏に引き寄せられる人物と佐藤氏とのやり取りは、それを隣で聞いているかのような緊張感で読み進められた。 私も外国で数年間暮らしたことがあるが、佐藤氏ほどその国の人の懐に飛び込めたとおもった経験はそうそうない。佐藤氏の場合、キリスト教に対するバックボーンに加え、...
思想の左右問わず、佐藤氏に引き寄せられる人物と佐藤氏とのやり取りは、それを隣で聞いているかのような緊張感で読み進められた。 私も外国で数年間暮らしたことがあるが、佐藤氏ほどその国の人の懐に飛び込めたとおもった経験はそうそうない。佐藤氏の場合、キリスト教に対するバックボーンに加え、相手の思想に対して先入観を持たず、一人の人間として対峙しようとしていることが、赴任先で出会った人々の心を光らせる武器になったのだろう。 ソビエト連邦の仕組みやキリスト教の思想史などの知識があれば、より楽しめたと思われる。
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四読目、かな? やはり今回もサーシャさんの印象が強い。 神通力とでも言うべきか、深い知識と広い視野が基礎としてあれば、ここまで精度の高い未来予測が可能となるのか? なるほど、確かに「天才」だったのだろう。 あとアルクスニスさん、ポローシンさん、シュベードさん辺りも印象に残ったか...
四読目、かな? やはり今回もサーシャさんの印象が強い。 神通力とでも言うべきか、深い知識と広い視野が基礎としてあれば、ここまで精度の高い未来予測が可能となるのか? なるほど、確かに「天才」だったのだろう。 あとアルクスニスさん、ポローシンさん、シュベードさん辺りも印象に残ったかな。 まあとはいえ、今作の「視点人物」である佐藤さんだからこそ、この「物語」は描けたのだろう。 ソ連(ロシア)の大使館を拠点に現場で活動する外交官として、まずはモスクワ大学で、自らの専門知識と好奇心だけを携えて舞台を拡大していく。 そういえば、「外交官には好奇心が必要だ」と、いくつかの外交本で読んだ気がする。 そのことが本書で分かりやすく描かれていた、とも言えるであろう。 当時のソ連の社会とか、ロシア人を含む様々な民族の人たちの生き様や人間模様、あるいは「歴史的な国際的大事件」を内側から観察し、何が起きているのかこれからどうなるのか分からない状況でリアルタイムで判断・行動しなければならない大変さを疑似体験できたりとか、まあ色々見どころはあるわけだけど……。 かなりの良書なのは間違いないと思う。 今回も良い読書をした。良い時間を過ごした。 時間を置いて、また読み返したい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
ウクライナ戦争でにわかにロシアやクレムリンの論理が騒がれており、積読棚から本書を引っ張り出しました。 とても面白い作品だと思いました。 著者の外務省入省から始まり、イギリスでの研修時代を経てロシアに赴任、ソ連崩壊前後を濃密なタッチで描いています。 イギリス研修時代に出会った裏の顔を持つ亡命チェコ人、ロシア赴任後に出会った知的だが個性の強烈な人々との交流。そしてロシアはペレストロイカを経て崩壊に向けて激動の時代に突入していきます。著者はその当事者として、その出来事を克明に記します。 内容的にはドキュメンタリーの部類に入るのでしょうが、その筆致は多分に物語調。そして登場人物たちはクセが強い一方で非常に魅力的に描写されており、読んでいて感情移入します。 著者の外務官としての職務もまるでスパイのようで刺激的。おそらく活動内容や事件・出来事の表現は盛られていることでしょう。しかしそれを割り引いても国際政治の壮大な物語を語られているようで、かなり面白く読むことができました。 またなによりもロシアやその他ソ連圏諸国の制度、風習、文化(特に食文化)に触れている点も特徴的だと思います。 著者はこれら懐かしい過去を愛おしく振り返っているように感じます。ソ連圏の人間や習慣だけでなく(何となく謎めいているが、観念的でシンボリックな)政治状況も含めて、ソ連圏での生活のほとんどが彼にとってはしっくりくるものだったのでしょう。 ある本で、ハルピンや奉天の特務機関長を歴任した土肥原賢二の行動を指して「外務・軍官僚はしばしば任地を偏愛する」と評しました。個人的にこれは著者にも当てはまるのだろうと思います。 ただそれだけに彼のロシアでの生活描写については非常に読みごたえがありました。
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あっという間に読んでしまった。それほど興味深く読んでいて面白かった。 特殊な立場に立つ人の心情が、ここまで精微に活字化されると読み応え抜群な作品になるとは思いませんでした。
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もともとしゃべり方とか雰囲気とかを見て、失礼な表現になるけれどサイコパスっぽく思っていた。ところが、この本を読んでみて佐藤優さんの印象がガラッと変わった。 人間味溢れて、とても好きな人間だった。 外交官の仕事ってほとんど知らなかったけれど、よくテレビで見るスパイみたいなものだと...
もともとしゃべり方とか雰囲気とかを見て、失礼な表現になるけれどサイコパスっぽく思っていた。ところが、この本を読んでみて佐藤優さんの印象がガラッと変わった。 人間味溢れて、とても好きな人間だった。 外交官の仕事ってほとんど知らなかったけれど、よくテレビで見るスパイみたいなものだと感じた。
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ー 「もしこのクーデターが成功していたら、ソ連はKGBと軍の影響力が肥大しただろう。ソ連は再びとても息苦しい社会になった。しかし、経済的には市場経済、資本主義の方向へ向かっていったと私は見ている。一種の開発独裁国家にロシアはなったと思う」 「社会主義を維持することは不可能だった...
ー 「もしこのクーデターが成功していたら、ソ連はKGBと軍の影響力が肥大しただろう。ソ連は再びとても息苦しい社会になった。しかし、経済的には市場経済、資本主義の方向へ向かっていったと私は見ている。一種の開発独裁国家にロシアはなったと思う」 「社会主義を維持することは不可能だったと考えているのですか」 「不可能だった。これは西側の陰謀が成功したからではない。ゴルバチョフ時代のグラースノスチ(公開制)でロシア人の欲望の体系が変容してしまったんだ。たとえば「31アイスクリーム」だ。ロシアのアイスクリームは『エスキモー』、『スタカンチク』で誰もが満足していた。しかし、ひとたび西側から三十一種類のアイスクリームが入ってくると、子供のみならず大人もみんなそれを欲しがる。車にしてもラジカセにしても欲望が無限に拡大していく。この欲望を抑えることができるのは思想、倫理だけだ。社会主義思想は欲望に打ち勝つ力をずっと昔に無くしていた」 「いつから社会主義思想は欲望に打ち勝つ力を無くしてしまったんですか」 「ずっと以前にだよ。フルシチョフ時代に一時期西側に開かれていた窓をブレジネフが閉ざしたのは、このまま窓を開けておくと、西側の大量消費という欲望の文化が入ってくることに気付いたからなんだよ。ブレジネフは頭がよかった。ソ連人を支配するのは唯物論(マテリアリズム)ではなく物欲(ベシズム)だということを理解していた。非常事態国家委員会の連中もゴルバチョフのことを嫌っていたが、物欲に取り憑かれていた。だからヤナーエフやシェイニンが権力を握ったら、KGBと軍が腐敗して、利権漁りを徹底的に行なったよ。もっとも今のロシアは中南米の腐敗国家みたいになりつつある。ロシアは衰退期に入っているのだと思う。どんなに足掻いても、よい方向には進んでいかない。こういうときは余計なことをせずに世の中の流れをじっと観察していることだ」 ー ソ連崩壊を一外交官からの視点で描いた作品。また、外交官としての彼のビルドゥングスロマン。 〈だからできるだけ早くソ連を破壊するのだ〉 〈ソ連を壊すことでロシアを回復するのだ〉 というサーシャの発言が印象的。 帝国主義の病に冒されたロシアの回復を祈る。
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「国家の罠」に続き読んだ。佐藤優の自叙伝はとてもおもしろく、今回も楽しませてもらった。ただ、ソ連崩壊に関連する、特に哲学的な知識についての余談が多く、通勤中の電車の中で読んでいたが、読み終えるのに1か月近くかかってしまった。しかし、本筋のストーリーはおもしろかった。そのころから2...
「国家の罠」に続き読んだ。佐藤優の自叙伝はとてもおもしろく、今回も楽しませてもらった。ただ、ソ連崩壊に関連する、特に哲学的な知識についての余談が多く、通勤中の電車の中で読んでいたが、読み終えるのに1か月近くかかってしまった。しかし、本筋のストーリーはおもしろかった。そのころから20年ほど経っているが、今のロシアの状況について、当時の登場人物も絡めながら、本として纏めてほしいと思ったりする。興味深い人々がたくさん出てくるので、その後どうなったのか、また佐藤優はその成り行きをどう見ているのか、解説してほしい。
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国家の罠に続き一気に読了。人間考察として面白い。よくここまで懐に入れるなと感心した。そして91年クーデターの記述は面白かったが、案外杜撰だったことに驚きもした。
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ソ連帝国が内部から崩壊していく模様をソ連に深く人脈を築いていた著者の目でそのただ中に生きる人間たちの姿を生き生きと描いている。ラトビア出身でソ連を壊すために決意したサーシャとの交流。またリトアニア独立へ向けた最高会議場の中で共に過ごした日々。エリティンの台頭…。今のロシアでなぜゴ...
ソ連帝国が内部から崩壊していく模様をソ連に深く人脈を築いていた著者の目でそのただ中に生きる人間たちの姿を生き生きと描いている。ラトビア出身でソ連を壊すために決意したサーシャとの交流。またリトアニア独立へ向けた最高会議場の中で共に過ごした日々。エリティンの台頭…。今のロシアでなぜゴルバチョフが嫌われて、むしろあのブレジネフの人気があるのか?それが納得できるように感じた。ソ連において無神論を研究するモスクワ大学の哲学科の学生も教授もほとんど隠れ信者とのサーシャの情報はそうなのだろうと思わせるところがあった。ロシア人の「旅の恥はかき捨て」「避暑地のセックス」という風俗にも驚き。ソ連社会がいかに爛熟し、人々も自壊を予想していたことも頷けた。この著者が本当に深く人脈を築いていたことには圧倒される。リトアニア独立に貢献した叙勲者の発表(1992年1月13日)に著者が入っていたというのは、凄い話だ!
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筆者がその類稀なる機転と才能、そして教養をフルに活用して当時のソ連を駆けるその様子はさながらフィクション映画の様な緊迫感。こちらは終始圧倒される。 大学時代のシーンではこんなふうに体当たりでお互いの議論を交わせる場に身を置けた彼の運と、そしてなによりもその視点や知性の深さに感心す...
筆者がその類稀なる機転と才能、そして教養をフルに活用して当時のソ連を駆けるその様子はさながらフィクション映画の様な緊迫感。こちらは終始圧倒される。 大学時代のシーンではこんなふうに体当たりでお互いの議論を交わせる場に身を置けた彼の運と、そしてなによりもその視点や知性の深さに感心する一方で、純粋に羨ましいという気持ちでいっぱいになる。教養のある人っていいなあ…!同じ世界でも、見えている構造が全く以って違うんだろうな。 図書館で借りて読み始めましたが、ゆっくり時間を掛けて読み切りたくて、文庫版を購入しました。 21.02.20 少しずつ読み進めて、やっと読了! 面白かった〜〜〜!!!ロシア史、そして日本も含めた近現代史もっとちゃんと勉強してからまた読もう…頭のいい人の書く文章、読んでいて全くストレスがない…
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