負けるのは美しく の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
たまたま乗ったタクシーのラジオのチューニングがAMのNHKにあっていて、たまたま作者が朗読するエッセイというコーナーの時間で、たまたまそのタクシーの運転手が沈黙を好むタイプでなかったら、おそらくこの本を読むことはなかっただろう。もっというとたまたま本屋でこの本の題名と作者の名前を目に留めなかったら、たぶんラジオで聞いた朗読はそのまま忘却の彼方だっただろう。本との出会いはこの本に限らず、ほとんどの場合偶然であるが、その中で必然の出会いを感じてしまうくらい本当に忘れがたい印象が残ったりする。人との出会いも同じであろうが、だから読書は止められない。そんな気持ちにさせてくれるエッセイ集である。朗読で聞いた話だけ紹介。自分ではミスキャストだと思っていた徳川家康の演技が高評価を得たときの話。演じたのはずいぶん昔であるのに、いまでもあの芝居がよかったと言われることに、違和感を覚えながらも、このことに人生の何か大きなヒントが隠されているような気がしてならないと結ばれている。静かな語り口に忘れがたい印象が残る。
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1章から4章までは、文章から児玉さんの人柄を理解するためにある。そしてその理解は5章のためにある。常に冷静、客観的な文を書き、5章でもそれは変わらない。しかし、5章では同じ文体でありながら、心にある想いを痛いまでに感じさせる。こんな気持ちのこもった文章、そんなみれるもんじゃない。
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俳優「児玉清さん」のエッセイ。俳優になった経緯、俳優になってからの事、奥様との出会い、家族の事や娘の死についてなど児玉さんの想いが綴られています。
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児玉清さんが半生を語った、楽しく悲しい、心揺さぶられるエッセイ。抑えた筆致が、児玉清さんの実直さを浮き上がらせる。誠実で温厚そうな紳士が、内面には激しい葛藤を抱えて生きてきたという話に驚いた。亡き母に導かれたような、東宝映画ニューフェイス試験。曖昧模糊として不透明で不条理きわまり...
児玉清さんが半生を語った、楽しく悲しい、心揺さぶられるエッセイ。抑えた筆致が、児玉清さんの実直さを浮き上がらせる。誠実で温厚そうな紳士が、内面には激しい葛藤を抱えて生きてきたという話に驚いた。亡き母に導かれたような、東宝映画ニューフェイス試験。曖昧模糊として不透明で不条理きわまりない映画の現場、役者という仕事。奥さんとなる女優との出会い、結婚。滑稽な霊能者の突然の訪問。亡くなる前の先輩俳優とのひとときの交流。打ちのめされた最愛の娘の発病、そして死。理性的な児玉さんが、翻弄されてきたと語る半生に、宿命という己の意志では動かせないものを意識しだした様子に、私の心は捉えられた。本当はもっと軽い面白本の話を期待して手にした本書だったが、いい意味で違っていた。面白本の話は少ししかなかったけれど、なにより人生における大切ななにかを教えてもらえた。「負けるのは美しく」 苦い人生をどう生きるか、ふたたび考える。
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大変面白かったです。ロマンスグレーの男前俳優 児玉清さんが こんなにも本おたくだったなんて!本に関するエピソードは読んでいて知らず笑顔になりました。あぁ〜できることなら 児玉さんを囲んでとりとめのない本の話をしてみたい!!と思ったのでした。
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