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枯木灘 の商品レビュー

3.9

61件のお客様レビュー

  1. 5つ

    21

  2. 4つ

    16

  3. 3つ

    12

  4. 2つ

    4

  5. 1つ

    3

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2014/03/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

小説中に何度も出てくる「路地」が被差別部落のことだということは別途解説書を読まないとわからない。そういうボキャブラリー上の問題もあるのだが、それより何より非常にエネルギーのある文体ながら、文章としては決してうまくはないところが興味深かった。誰が誰に話しかけているのか、いちいち想像力をはたらかせなければならなかったり。ナボコフを読んだ後だから余計そう思うのかもしれないが、構造だけでグイグイ押していくタイプの小説。細かいことは抜きにして、何がいいたいのか、は嫌でも伝わってくる。夏に読むべき小説。

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2013/12/22

血の束縛。血縁というものは、それが良かろうと悪かろうと決して消えることはなく、その人の一生に付きまとう。とくに狭く小さな街においては、その血縁の糸は複雑に交錯しますます人を束縛する。その逃れることのできない規定要件の中で、それでも血の束縛に依らない自らのあり様のためにもがく主人公...

血の束縛。血縁というものは、それが良かろうと悪かろうと決して消えることはなく、その人の一生に付きまとう。とくに狭く小さな街においては、その血縁の糸は複雑に交錯しますます人を束縛する。その逃れることのできない規定要件の中で、それでも血の束縛に依らない自らのあり様のためにもがく主人公の姿。 それから身体性。中央演算装置とI/Oデバイスのメタファーのような、脳と身体とを統御するものとされるものとして明確に区分することは適切ではない。そうした単純な心身二元論ではなく、人の感覚と思考とは脳と身体の有機的連携による不可分の現象として生起する。それを中上健次は科学的知識としてではなくそれこそ身体的な経験として知っている。

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2013/10/31

「岬」から続く2作目。和歌山の山に囲まれた町の中で、色の濃い血縁関係を淡々とした筆致で書いた名作。ずっと敬遠し、実際に、読むのにも時間がかかった。血縁関係がポイントなのだが、それがわかりづらい。今回は特に、主人公の竹原秋幸と彼の父の浜村龍造の交わりがテーマだった。血の半分はあの男...

「岬」から続く2作目。和歌山の山に囲まれた町の中で、色の濃い血縁関係を淡々とした筆致で書いた名作。ずっと敬遠し、実際に、読むのにも時間がかかった。血縁関係がポイントなのだが、それがわかりづらい。今回は特に、主人公の竹原秋幸と彼の父の浜村龍造の交わりがテーマだった。血の半分はあの男なのだ・・・と秋幸はぼやく。父の龍造は別々の女に子どもを産ませるどうしようもない男で、秋幸とはほとんど面識もなかった。でも、秋幸は「男」の存在を意識せざるを得ない。繰り返し、繰り返し「あの男」の子どもである自分を呪うかのような心中描写がある。異母妹には手を出してしまうし、「アイデンティティーの喪失」みたいなことで、とにかく悩み続ける。その葛藤はやり、血の関係故なのでしょう。

Posted byブクログ

2019/12/07

"その土地は、海沿いを行けば大阪へも名古屋へも、山の道をたどれば奈良へも、通じていた。山が幾つも連なり、山と山のふもとに人が住み、その人口四万弱の土地は、紀伊半島の南東部でも昔から開けていた町だった。いくつもの顔を持っていた。昔、海岸線に港がないため、舟は川口から入り、...

"その土地は、海沿いを行けば大阪へも名古屋へも、山の道をたどれば奈良へも、通じていた。山が幾つも連なり、山と山のふもとに人が住み、その人口四万弱の土地は、紀伊半島の南東部でも昔から開けていた町だった。いくつもの顔を持っていた。昔、海岸線に港がないため、舟は川口から入り、池田の港に舟をつけた。昔から、火の神を産み女陰が焼けて死んだ伊邪那美命を祭った花ノ窟の巨岩は、舟に乗り海から見ると女陰そのものに見えるといわれた。そこはまた、熊野三社へ詣でる人の寺社町、宿場町でもあった。紀州徳川家の家老水野出雲守が治める城下町だった。" 紀州枯木灘は四方を海と山と川に囲まれてる貧しい土地で、その近くの路地に二十六歳の秋幸は土方をしている。 秋幸は狭い町で複雑な血の絡まりの中にいる。 母のフサは死別した最初の夫の四人の子供を残し、竹原繁蔵と所帯を持った。繁蔵には連れ子同士の兄文昭がいる。 フサの最初の夫の長男、秋幸の種違いの兄郁男は、酒を飲んでは自分たちを捨てた母と新しい家族の家に刃物を持って怒鳴り込み、首を括って死んだ。 姉の美恵は母と妹たちが出て行った家で兄郁男の面倒を見ていたが、駆け落ちして妊娠して戻された。郁男と美恵の間にはある噂があった。美恵は子供の頃から体が弱く、母に捨てられ、夫の親戚の間で起こった殺し合いで心を病んだ。 美恵が産んだ娘の美智子は、今では成長してボーイフレンド五郎の子供を妊娠している。 繁蔵の姉ユキは若いころ家族を養うために遊郭に売られていた。弟の仁一郎に買い戻されたユキの現在は、噂と恨み言と竹原の家への執着で固められている。 秋幸には恋人の紀子がいるが、秋幸の背後に実父の姿を見る紀子の両親に反対されている。 秋幸の実父は、馬の骨の男、蝿の糞の王、浜村龍造。永久に勃起し続ける性器のような男。多くの噂がある。故郷の伝説の人物浜村孫一を先祖と語り、二十七で路地に現れ、駅裏やバラックに火をつけ、会社を乗っ取り詐欺まがいで土地を取り上げ人を追い出し、三人の女を孕ませ、博打と詐欺で三年服役した。龍造は今の妻と子供と同居しているが、秋幸に長男としての視線を向けている。 龍造が金で買った先祖、出生地で死んだという浜村孫一の伝説の不確かさがよけいに秋幸の行き場のなさを際立たせる。 秋幸は、父が孕ませた三人目の女が産んだ腹違いの妹、さと子が娼館にいると知り、客を装い関係を持つ。 龍造の今の妻の間に三人の子を設け、二男の秀雄は龍造の乱暴な部分を引き、一緒に暮らしたことはないが父が特殊な思いを向ける腹違いの兄の秋幸を邪魔に思い嫌がらせをしてくる。 秀雄は秋幸の姪美智子の結婚相手五郎に襲い掛かり大怪我をさせる。そのことで秋幸が龍造とその今の家族との間に保ってきたギリギリの距離が縮まる。いらだちを覚える秋幸は、龍造にさと子との関係を告げるが「かまわん、どっちも俺の子だ。アホの子が産まれたってかまわん、土地があるから住人どもを追い払いお前らの代で好きにせい」と意にかいさない。 町は狭く、車では5分もあれば隅から隅へと行ける、そんな路地で彼らは顔を突き合わせ、揉め事を起こし、日々懸命に働いている。 秋幸は日の下で土を掘り起こすのが好きだ。日の下では何もかもが明快だ。しかし人々は秋幸の後ろに蝿の糞の王の姿を見る、その目線、そして男の目線がなによりもが煩わしい。 ……… 物語では、絡まった血筋の説明、枯木灘の土地の説明、浜村龍造に関する噂、龍造が先祖と嘯く有馬に伝わる人物の伝説、日の下で働く秋幸の姿、を繰り返し語る。 語りは終盤までは秋幸目線だが、終盤は秋幸から離れる。そのことで同じことが他者の目線では変わって語れること、秋幸からは見られなかったおとが現れる様相も面白い。 傍から見ると傍若無人でやり方を問わず、自分の血筋を残すことに執着しそのためには子供同士が関係することも厭わない男といえば「アブサロム・アブサロム」のトマス・サトペンの姿が浮かぶ。サトペンは本人の人物像を他の人物が浮かび上がらせる手法で、サトペン自身の意思は少ないけれど、浜村龍造はところどころに現れる子孫への目線や人生のとらえ方、先祖を買うことも遊びと割り切るそのある種の余裕が憎しみながらも人間らしさのある人物像となっている。 巻末に解説に変わった作品のようなエッセイ、「風景の貌」が載っていて、これによると枯木灘の土地柄、秋幸の複雑な血の絡み合いがほぼ自分がモデルと読める。濃厚かつ生命感に満ちた物語。

Posted byブクログ

2013/06/02

田舎の閉塞感よ。ヒロミツから聞いた地元の近況。同級生を騙し金を毟り取る同級生。その同級生は、地元を大事にしたいとインタビューでは語る。そしてその同級生の間抜けな兄は駅近くのバーに通い、そこで弟の自慢話に耽る。そのバーでホステスとして働く同級生、そこへ通うお茶屋の同級生。枯木灘と同...

田舎の閉塞感よ。ヒロミツから聞いた地元の近況。同級生を騙し金を毟り取る同級生。その同級生は、地元を大事にしたいとインタビューでは語る。そしてその同級生の間抜けな兄は駅近くのバーに通い、そこで弟の自慢話に耽る。そのバーでホステスとして働く同級生、そこへ通うお茶屋の同級生。枯木灘と同じ。腐っとる。

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2013/05/22

血と土地の物語。 初めての中上健次でしたが、汗びっしょりだけど不思議とさわやか、という独特な文体がツボにはまりました。 熱病にかかった阿部和重? 物語の中で噂の形をとって物語が重層的に語られる、という何気に実験性もおりこみつつ、そんなそぶりを一切感じさせない純文学然としたたたずま...

血と土地の物語。 初めての中上健次でしたが、汗びっしょりだけど不思議とさわやか、という独特な文体がツボにはまりました。 熱病にかかった阿部和重? 物語の中で噂の形をとって物語が重層的に語られる、という何気に実験性もおりこみつつ、そんなそぶりを一切感じさせない純文学然としたたたずまい。 いやはや面白かった。ゆっくり読もうと心がけているのに、ついつい一気読みしてしまった。

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2013/03/25

重厚で情念にあふれた描写がすごかったです。 著者自身のフィジカルな部分から書かれているけど、自意識は排除されているような・・どう言えばいいんでしょう。 地縁、血縁、愛、暴力、すべてが過剰な紀州・枯木灘を舞台にした小説です。

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2013/01/17

日本版百年の孤独というフレーズに魅かれてこの本を手にとったのですが、 良くも悪くも一面的なこの小説を百年の孤独と呼んでしまうのは、 正直、ちょっとセンスに欠くかなと思います。 残念ながらテーマ、ストーリー、表現、どれも私には合いませんでした。 血縁と地縁というテーマの緊張感で...

日本版百年の孤独というフレーズに魅かれてこの本を手にとったのですが、 良くも悪くも一面的なこの小説を百年の孤独と呼んでしまうのは、 正直、ちょっとセンスに欠くかなと思います。 残念ながらテーマ、ストーリー、表現、どれも私には合いませんでした。 血縁と地縁というテーマの緊張感でもたせる小説なのでしょうが、 自分にとって一向に響かなかったのは、 それらがどうでもよいことに思えているからなのかもしれません。 まあ、でも、テーマに関心がない人を巻き込めるだけの、 ストーリーと描写の力がないのもまた事実です。 表現にしたって、紋切型の文を繰り返す説明調の文体は、 長すぎる文節に由来する読みにくさを抜きにしてもぎこちなく、 フラストレーションがたまります。 ただ、見どころがないとか、何もかもダメとかそういう話ではなく、 たとえば会話文なんかは抜群に上手いですし、 道の描き方も面白く勉強にはなりました。

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2012/12/12

特に面白くはない。 でも、20年後に読んだらまたきっと違う感想だろうし、戦後を代表する文学だと考えると味わいもだいぶ変わってくる。

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2012/12/06

主人公の生まれた路地から連なる紀州の海と山、そして複雑な血脈はあたかもアラベスクのような聖模様でもあり、暴力と性で満つる俗でもある。ごつごつと繰り返される文体は読みにくいがその言葉の斧は深く突き刺さる。中上健次のどうしようもない存在の孤独をまた著書を通じて感じたい。

Posted byブクログ