枯木灘 の商品レビュー
熊野古道を訪ねた機会に30年ぶりに読み返した。 やはり圧倒的に面白い。 その地に立つと、今でも「山と川と海に四方を塞がれた町」が実感できて感慨深い。
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高村薫がいかにこの作家に影響を受けたか、と言うか文体をパクっているぞ(必ずしもそれが悪いと言うことでなしに)、というのがよく分かりました。ぶっきらぼうな書き方でところどころ分かりにくいが、とにかく力強い小説。しかし血縁関係が複雑すぎ。。。
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ただ土方仕事をしているだけなら幸せだったのに、血縁や地縁が纏わりついて、秋幸を離さない。それでも、生きる。 読みづらいと感じる箇所はあるが、この力強い文章を体験できてよかった。
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この作品の読後感は「カラマーゾフの兄弟」と同じ大きさであった。「七人の侍」を観終わった後と同じ大きさとも言えるだろうか。そういう比較がナンセンスなのはわかっているが、この日本が誇るべき作家と作品を声を大にして喧伝したい欲求にかられてしまう。 複雑で不可避な血縁にわざと背を向ける...
この作品の読後感は「カラマーゾフの兄弟」と同じ大きさであった。「七人の侍」を観終わった後と同じ大きさとも言えるだろうか。そういう比較がナンセンスなのはわかっているが、この日本が誇るべき作家と作品を声を大にして喧伝したい欲求にかられてしまう。 複雑で不可避な血縁にわざと背を向けるように、主人公の秋幸は毎日太陽の光を受けてツルハシを振るうことに喜びを見出す。単調な繰り返しが、秋幸にとっては心臓の鼓動のように、自分が生きている証となりうる。 だが、日々の単調さから来る充実も、あるきっかけで、本来の秋幸の感情が、まるで昆虫が脱皮するように秋幸の表皮が破れて、秋幸の真の性情が表出する。 個々ばらばらだった物や人が、一気に秋幸の肉体に向かって凝結し、血や土地によって元から秋幸の肉体に刻印されていたかのように、人間の宿命が秋幸の姿かたちとなって浮き出される箇所は、人間の存在意義や歴史や運命といった、人が背負って抗うことのできない業(ごう)が、秋幸という一個の人間を媒介として可視的な形となり、作品から迸り出て読者であるこちら側に伝染し、読者自身の心の葛藤となって心臓をつかみ、読んでいて体が震える。まるで人間を、血管の1本に至るまで、その存在を透かし見たような興奮… 私は今でも、中上が生きていたらノーベル文学賞を授与されたはず、と確信する。 (2008/12/12)
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暗いわー。高度成長期あたりなのか、あのあたりの時代の話ってなんとも暗いような気がするのはなぜなのか。短い文体が立て続けにやってくるのと、何度も同じ話が繰り返されるのが、なんだか妙に癖になる不思議。
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ごめんなさい。僕の読解力が不足しているためか、最後まで楽しめませんでした。登場人物が多すぎるし、それにまつわるエピソードが多すぎる。腹違いの弟の殺人という事件が最後の方であったりして、物語の全体像がつかみきれずに終わってしまった。地方の被差別部落に住む「家族」の物語だということは...
ごめんなさい。僕の読解力が不足しているためか、最後まで楽しめませんでした。登場人物が多すぎるし、それにまつわるエピソードが多すぎる。腹違いの弟の殺人という事件が最後の方であったりして、物語の全体像がつかみきれずに終わってしまった。地方の被差別部落に住む「家族」の物語だということはわかったが、こうしたローカルな話をわざわざ僕か読む意義を感じなかった。関西人なので興味をそそられる話かと思ったが、最後までのめり込めなかった。そのうちまた挑戦したい。 追記:そこにある濃厚な人間関係っていまの日本社会とは全然違う。性生活は奔放、核家族化されておらず、ぽんぽんと子どもが生まれ、子供たちは社会の中で育っていく。そうした人間関係って、赤松啓介の「夜這いの民俗学」とか、フィリピンのスラムとかを連想させる。煩わしくて狭くて濃厚な社会の是非とか、教育の程度の低さとかいろいろ問題はあるかも知れないが、子育てに悩むがあまりに家族関係が破綻した者の側からすると、そういった濃厚な人間関係が羨ましく思えてならない。
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登場人物の感情の濃さと暴力的な感じが強烈で、南紀地方は日本の南米なのだなと思いました。。私小説なので、著者の系譜に負うところもあるのでしょう。 土方をしながらの主人公の感覚描写、個人的には好きでした(退屈という人がいるのも分かるけど)。自分も自転車に乗ってるときや山を歩いてい...
登場人物の感情の濃さと暴力的な感じが強烈で、南紀地方は日本の南米なのだなと思いました。。私小説なので、著者の系譜に負うところもあるのでしょう。 土方をしながらの主人公の感覚描写、個人的には好きでした(退屈という人がいるのも分かるけど)。自分も自転車に乗ってるときや山を歩いているときは似たような感覚をもつので、それが上手く描写されていると感じて。しかし、実生活で同じような感覚を持ったことがない人には、あの文章だけで伝えるのは難しかったのではないかな。
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胃もたれするほど読みづらかった。複雑すぎる消えることのない血縁の中に生まれ、愛憎のなかでのたうちまわる秋幸。蝿の王と比喩される父との血縁という人間の底のない業の深さと対比するように、秋幸が土方の仕事のなかで紀州の豊かな自然のなかで満たされている様子は良かった。これを読むと、昔は良...
胃もたれするほど読みづらかった。複雑すぎる消えることのない血縁の中に生まれ、愛憎のなかでのたうちまわる秋幸。蝿の王と比喩される父との血縁という人間の底のない業の深さと対比するように、秋幸が土方の仕事のなかで紀州の豊かな自然のなかで満たされている様子は良かった。これを読むと、昔は良かったなどと、軽々しく言えるものではないな。親から子へ、幾人もの人の生の末路の果てに、私たちが立っているのだから。
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人間の生き物としてのパワーを、ひしひしと感じました。 読んでいて、なぜか映画の「楢山節考」を思い出しました。 ストーリーは全く違いますが、人間賛歌とでもいうべき作風は共通しているもののように思えます。 血、性、暴力。中上 健次さんお得意の要素が詰め込まれています。 ええ、好き嫌...
人間の生き物としてのパワーを、ひしひしと感じました。 読んでいて、なぜか映画の「楢山節考」を思い出しました。 ストーリーは全く違いますが、人間賛歌とでもいうべき作風は共通しているもののように思えます。 血、性、暴力。中上 健次さんお得意の要素が詰め込まれています。 ええ、好き嫌いは別れる作品ですね。 ストーリーの季節上、うるさく蝉が鳴いている、 夏に読むのに適しています。
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単行本でも読んでいて、でも何度読んでも、身体の中がぐらぐらするような 中から揺さぶられるのだけれど、胸躍る本でもなければ、 楽しい本でもない。 読んでいる間はしんどいほど血が騒ぐように胸に迫ってくるのに 読み終えたらとても静かな作品だと思う。 私にとっては頭より身体に来る。記...
単行本でも読んでいて、でも何度読んでも、身体の中がぐらぐらするような 中から揺さぶられるのだけれど、胸躍る本でもなければ、 楽しい本でもない。 読んでいる間はしんどいほど血が騒ぐように胸に迫ってくるのに 読み終えたらとても静かな作品だと思う。 私にとっては頭より身体に来る。記憶に来る。 故郷や人の思い出は心に残ってるものだと思っていたけれど、どうやら 肉体的にも身の内にあるのだな、とあらためて思った。 それとも、そういうものは繋がっているもので、別のものではないからか。 紀南の出ではないけれど、元は紀南の辺りから出てきたものが多いので なんとはなしにその土地らしい気質や空気を、身内の態度や言葉や そういうものを通してこの身で感じて育ってきたことがよく分かる。 あの複雑な係累の気持ち的なややこしさも、争いのうっとおしさも あの荒くたい言葉使いもハッキリと聴こえてくるようで、それが嫌でもあるけれど 読み終わると、温かい、というにはあまりにも熱い体温のような気もするけれど 優しく懐かしい言葉に思う。 父が亡くなった後に始めて中上健次を読んだけれど 生きているうちに読んでいたら 父にも読ませたかったと、思うことがある。 中上健次の本を読んでいれば、希望を感じられたのではないかと この物語りが希望あふれる結末か、といわれればそうではないと思うけれど それでも生きていく、ということがあると思う。 それで救われはしなくても、光を見つけられたのではないか、と思う。 希望は安易に救われることでも、ハッピーエンドでもなくて 様々な苦楽がありながらそれでも生きていくこと、ではないだろうか? どちらにしても、もう父は読むことも考えることもないのだから 今はわたしが読み、考えていこうと思う それで何がどうなるではなくても 自分の中で答えがいつか見つかればよいと思う。 巻末の「著者ノートにかえてー風景の貌(かお)ー」まで読んでいくと 紀南の海の、強さ優しさ、からんとした明るさと思いがけないほどの寂しさ… 望む風景の広がりまで、しみじみと感じた。 ルポタージュである紀州 木の国・根の国物語も読後にでも読むと より様々なことが感じられるのではないかと思う。 (*荒くたい=関西の方言。乱暴な、荒っぽい、のような意。)
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