米原万里の「愛の法則」 の商品レビュー
国や民族について、米原万里ほどの経験で以って、しかもそれを的確に表現できる人もなかなかいないだろう。米原万里の言葉には単に外国に迎合したり、あるいは逆に最近特に多い「日本ってこんなに素晴らしい!」などという井の中の蛙のような日本賛美ではない、世界のそれぞれの国の文化(もちろん日本...
国や民族について、米原万里ほどの経験で以って、しかもそれを的確に表現できる人もなかなかいないだろう。米原万里の言葉には単に外国に迎合したり、あるいは逆に最近特に多い「日本ってこんなに素晴らしい!」などという井の中の蛙のような日本賛美ではない、世界のそれぞれの国の文化(もちろん日本を含めて)に対する強い敬意を感じる。彼女のような、媚びず、けれども自身に強いプライドを持った生き方こそが、今求められているグローバル人材なのではないだろうか。 本書では特に第二章と第三章が面白い。第二章で語られるのは真のグローバリゼーションについて。彼女が説くのは英語一辺倒でアメリカ中心の世界観からの脱却だ。 ◼️世界中の国々の言語で蓄えられた文化は、英語にはそのうち微々たるものしか翻訳されていません。だから、英語を知ったからといって、それぞれの文化にアクセスできるわけではないのです(p87)。 彼女が主張しているのは、英語経由ではなくそれぞれの文化と直接的な関係を築くことが真のグローバリゼーションであるということだ。彼女が亡くなってから10年、果たして日本はそのような国際関係の築き方が少しはできているのだろうか? 第三章では、彼女の通訳経験を基にしたコミュニケーション論。外国人同士という文化もバックグラウンドも違う人々とのコミュニケーションの困難さを味わってきたからこそ分かる、コミュニケーションの不完全性と"分かり合える"という喜びが、読みやすい言葉で述べられている。 ◼️通訳だけでなくコミュニケーションというものが、そのように非情に不確実なものであって、最終的に完全に一致するなどということはあり得ないという、一種の諦念というか、覚悟を持つべきだと思います(p155)。 コミュニケーション能力などという言葉がよく言われるが、コミュニケーションというものの不完全性、ある種の諦めこそが実は重要なのではないかと気付かされる。
Posted by
ロシア語の翻訳者でエッセイストとしても有名な米原万里による一冊。 タイトルから恋愛論を想像するが、実際は比較文化論。 後半は翻訳の魅力と難しさについて語ってる。 トリリンガルらしく、知識の豊富さと頭の柔らかさを感じた。
Posted by
日本は世界というものをとらえるときん、本当の世界ではなくて、日本にとって身近な世界、最強の国を1つ定めて、そこの文化を一心不乱に取り入れようとする傾向があることがはっきりしている。この日本の文化の、あるいは日本人の行動様式というか、習慣はかなり根強くて、日本が外国と接するときにこ...
日本は世界というものをとらえるときん、本当の世界ではなくて、日本にとって身近な世界、最強の国を1つ定めて、そこの文化を一心不乱に取り入れようとする傾向があることがはっきりしている。この日本の文化の、あるいは日本人の行動様式というか、習慣はかなり根強くて、日本が外国と接するときにこの特徴がよく現れている。 読書こそが言葉を身につける最も良い方法。言葉というとなぜか単語を思いがち。
Posted by
日本でいう「国際化」は、世界最強の国一辺倒…と喝破するあたりが、とても身につまされた。英語圏の帰国子女として、ナショナリストと英語偏重と両方を味わったことを思い出した(第2章ら辺)。たとえとして引き合いに出される小噺が具体的でわかりやすく(第3章のシツラクエンじゃなくトシマエンで...
日本でいう「国際化」は、世界最強の国一辺倒…と喝破するあたりが、とても身につまされた。英語圏の帰国子女として、ナショナリストと英語偏重と両方を味わったことを思い出した(第2章ら辺)。たとえとして引き合いに出される小噺が具体的でわかりやすく(第3章のシツラクエンじゃなくトシマエンでした など)、コミュニケーションについて考えさせられた。第二外国語の学習を再開したくなった。
Posted by
飛行機の中の時間つぶしに買ってみました。結局飛行機では寝ちゃって半分しか読めなかったんだけど、帰ってきて寝る前に最後まで読みました。 講演集ということだけど、わかりやすい文章で、多少のリライトはしているのかもしれないけど、しゃべりのプロだなあとしみじみ感じました。面白かった。
Posted by
翻訳の大先輩の言葉として、大変興味深く読みました。ソヴィエト学校での厳しい国語の授業に加え、あの長年の自発的な「読書」の積み重ねが万里さんの才能と魅力の根底にあるのだと実感。もっと長くご活躍の姿を見ていたかったです。
Posted by
作家、ロシア語同時通訳者だった亡くなった米原万理さんの4つの講演をまとめたもの。この本の表題にもなった第一章「愛の法則」も面白いが、ぼくが一番興味深く読んだのは、第二章「国際化とグローバリゼーションのあいだ」。昨今の大学活性化のキーワードのひとつでもある国際化やグロバリゼーション...
作家、ロシア語同時通訳者だった亡くなった米原万理さんの4つの講演をまとめたもの。この本の表題にもなった第一章「愛の法則」も面白いが、ぼくが一番興味深く読んだのは、第二章「国際化とグローバリゼーションのあいだ」。昨今の大学活性化のキーワードのひとつでもある国際化やグロバリゼーションという言葉が、いかにいい加減なものであるかを、歯に衣を着せずに鋭く指摘している。そうだよなという共感をもって興味深く読んだ。
Posted by
ロシア語通訳者としてエッセイストとして活躍された米原万里さんの講演集。男女の愛の生物学的位置づけについて、日本人の言う国際化という概念について、言葉の持つ力とその限界について、皮肉とユーモアたっぷりに面白おかしく語られている。
Posted by
彼女の頭のなかの地図を頼りに、後部座席に乗ってドライブしているような気になる。 米原万里は色んなところへ連れて行ってくれるから、退屈しない。 経験から物を言っているから、薄っぺらくない。 とても面白く、あっという間に読んでしまった。 第一章は男女の愛について語っているが、だんだん...
彼女の頭のなかの地図を頼りに、後部座席に乗ってドライブしているような気になる。 米原万里は色んなところへ連れて行ってくれるから、退屈しない。 経験から物を言っているから、薄っぺらくない。 とても面白く、あっという間に読んでしまった。 第一章は男女の愛について語っているが、だんだんと、語学や同時通訳の話になっていく。 やはり母国語をしっかり持っていることが大事なこと。 英語だけに固執せずに、第3カ国語を身につけること。 同時通訳になるには、小説を楽しめるくらいの語学力。 文学小説を楽しめるぐらいの語学力があれば通訳できる。 外国語と日本語とこの両方で小説が楽しめるようになれたら通訳になるのは簡単。 全50巻の講談社世界少年少女文学全集が礎になったこと。 などいろいろと為になることが書かれていた。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
・日本人が英語一辺倒になって、英語を重要視する最大の理由は、別に英語で蓄えられた文化に対して惹かれているというよりも、その経済力と軍事力に頼って生きていこうとしているからであって、ある意味では非常に打算的で下品なわけです。 ・コミュニケーションというものは、不完全なもので、完璧なもlのにするのは永遠に不可能です。しかし同時に、人間というのは、常にコミュニケーションを求めてやまない動物であるという確信が、私にはあります。 みんなが同時に笑えて、一緒に感動できる。いつもそれを目指しています。
Posted by