壁 の商品レビュー
第一部「S・カマル氏の犯罪」と第二部「バベルの塔の狸」を読んだとき、まるでピカソの絵のようだと思った。どこまでもどこまでも突き進む想像力が紡ぐ奇々怪々な世界。その「なんじゃこりゃ」と叫びたくなるような世界は、ピカソの絵がそうであったように、演繹という論理的な思考の展開によって極め...
第一部「S・カマル氏の犯罪」と第二部「バベルの塔の狸」を読んだとき、まるでピカソの絵のようだと思った。どこまでもどこまでも突き進む想像力が紡ぐ奇々怪々な世界。その「なんじゃこりゃ」と叫びたくなるような世界は、ピカソの絵がそうであったように、演繹という論理的な思考の展開によって極めて理性的に導出されているものだ。ただ、論理の出発点となる公理が、我々の常識の及ばぬ破天荒なものであるから、演繹の帰結としてとんでもないものが導き出される。あるいは出口のない堂々巡りを続ける。特に両作品の登場人物たち(「S・カマル氏の犯罪」で言えば裁判官を務める経済学者や数学者、「バベルの塔の狸」なら狸など)の会話は、本人たちが尤もらしい口調と論理展開でハチャメチャなことを言っているだけに思わず笑みがこぼれる。とても面白い。 第三部「赤い繭」には「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」の短編が収録されている。こちらは直接話法で語られる部分が少ない分、前二部に比べてソフトな感じがする。
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「砂の女」が面白かったので、芥川賞受賞作の本作を読んでみた。 名前をなくした男、影を持ち去られ姿が見えなくなった男、家がわからない男と、それぞれがある日突然に大変な状況に陥ってしまう。 とてもシュールで、不思議な世界。 どうにかなるのか。 哲学的な比喩なんだろうけど、 私には難し...
「砂の女」が面白かったので、芥川賞受賞作の本作を読んでみた。 名前をなくした男、影を持ち去られ姿が見えなくなった男、家がわからない男と、それぞれがある日突然に大変な状況に陥ってしまう。 とてもシュールで、不思議な世界。 どうにかなるのか。 哲学的な比喩なんだろうけど、 私には難しすぎた。 シュールで笑える場面も多くあったので、 わからなくても雰囲気を味わえばいいのかな、と言い聞かせてみる。 他の作品も読んでみよう。 安部公房の世界観が見えてくるかもしれない。
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冒頭の「S・カルマ氏の犯罪」はゴーゴリの『鼻』を思わせる。名前を失った男の内なる「壁」が成長し、果ては自身を飲み込んでいく。名前は他者と区別する一つの壁かもしれない。そもそも、生物か否かの条件は、外界と隔てる壁があるか否かだ。人は壁がなければ生きていけないのかもしれない。
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第一部の「S・カルマ氏の犯罪」はある日突然名前を失った男が、周りの人間から迫害され、最終的に壁になってしまう話。不条理小説であるカフカ『変身』の壁バージョンだろうか。いや、あちらは目覚めたらいきなり虫になっていた設定なのでちょっと違うか。でもモチーフは近いものを感じる。 第二部の...
第一部の「S・カルマ氏の犯罪」はある日突然名前を失った男が、周りの人間から迫害され、最終的に壁になってしまう話。不条理小説であるカフカ『変身』の壁バージョンだろうか。いや、あちらは目覚めたらいきなり虫になっていた設定なのでちょっと違うか。でもモチーフは近いものを感じる。 第二部の「バベルの塔の狸」は、量子力学の考え方(タイムマシンが出てくるからアインシュタインの相対性理論か?)が所々にみられるのが印象的だけど、それが作品の本質じゃないことは明らか。じゃあ何?って聞かれるとゴニョゴニョだけど・・・ 第三部の「赤い繭」「洪水」「魔法のチョーク」「事業」は比較的読みやすいけど、それはそれで読後に残るものがあんまり無いという。 何となく凄い作品であることは分かるんだけど、全体を通して『箱男』を上回る難解さで、何を書いてもとんちんかんな感想になりそうで怖い。こういう作品をちゃんと理解して読める人は、きっと頭のつくりが私なんかとは根本的に異なっているのだろうなあ。
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正直よくわからなかった。ある日突然名前を失った人の話と影を失われた人の話。タイトルである壁が何を意味してるのか全体を読んでも分からなかった。
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自分というアイデンティティ、自分と他者とを区別しているもの、自分が社会生活を営むために必要としているもの。 それは、名前だったり、肩書きだったり、影であったり、家であったりする。 それらをなくしたとき、自分は自分といえるのか、社会に存在し続けることはできるのか。 壁は、社会生活...
自分というアイデンティティ、自分と他者とを区別しているもの、自分が社会生活を営むために必要としているもの。 それは、名前だったり、肩書きだったり、影であったり、家であったりする。 それらをなくしたとき、自分は自分といえるのか、社会に存在し続けることはできるのか。 壁は、社会生活に疲弊した自己を確立するためにも必要であるけれど、またその壁によって社会から隔てられ、拒絶され、隔離されたりもする。 ちょっとしたファンタジーやブラックジョークに富んだ揶揄、メタ的な表現もありつつ、深い洞察を必要とする、味わい深い物語でした。
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砂の女を読んで安部公房のミステリアスだが、妙に説得力があり、現実のある語りに惹かれて本書を読み始めたが、今回はあまり惹かれなかった。 解説を見てカフカとの比較が語られていたので、カフカを読めば何かが変わるかもしれない。
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私には安部公房さんは難しいです 解説してる人も少なく、解説すら難しくて 少し残念でした。 しかし、設定はすごく面白くて 意味わからないはずなのに飽きずに読める本です。 設定は全く現実味がないはずなのに 現実に起きたかのように主人公や私の心情を 繊細に動かしてくれます。 バベルの塔の狸という章で 本当の無は無表情じゃなくて微笑だ。 だからモナリザは何考えてるかわからない。 微笑の方程式を作って10000匹の動物が一斉に 微笑するシーンが印象的でした。 飛鳥ちゃんへ 砂の女も壁も難しくて、 スマホを片手に漢字の読み方とか意味を 調べながら時間をかけて読みました。 読み終えてからも ネットで解説を沢山探し、全部読んで、 なんとなく理解を深めていきました。 飛鳥ちゃんはすごいなぁと 思いながら読んでいます! 飛鳥ちゃんのメッセージアプリの開発中の 記事が自分の誕生日に出たので、 誕生日プレゼントみたいで嬉しかったです! 本当にありがとうございます! 最高の誕生日です✨
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登場する主人公はどれも、日常から非日常に放り出される。 次から次へと変化するめまぐるしい展開を漫然と楽しむのもおもしろいし、作者の展開する非日常の論理を考察するのもおもしろい。 ぼく→彼→ぼくの変化はどうにも難解だった。
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簡潔に面白いと評していいのか躊躇われる作品。それは『壁』における主題を私が完璧に捉えられきれていないという不安からくるものだと思う。 しかし、捉えきれなくても、充分楽しめた。おそらく、ところどころに散りばめられた皮肉とコミカルさ(明るさ)がそういう楽しみをつくっているのだと思う。 第三部を除いて難解だった。いや難解だったというより、この作品との世界との距離感を掴みきれずにずるずると世界が進行していく感じ。SFじみたもしも話でとらえるのか、それとも主人公の主観的世界として捉えるべきなのか、多分、後者なんだろうかなあ……。 「名前」と影、第一部と第二部はどちらも内界と外界を隔てる「壁」がなくなるところからはじまる。すると世界はあらゆる論理の土台が壊れてしまう。物が動くし、結果が原因に先んじる。しかしここまでぐらいしか私にはわからない。つまり、第一部の「世界の果て」以降は内容を理解まで落しきれていない。 ただ再読したくなるほどの面白さが隠れている気配はとても感じる。たとえば第一部の裁判のくだり。コインを回されて長々と裏表を見せられる、一見馬鹿馬鹿しい議論。でも裁判は終わらない。だから有罪も無罪もない。しかし有罪になったときの罪はますます重くなる。延々と罪を重ねられ、裁かれ続ける。この意味を理解したい。 第三部はうってかわってかなり読みやすかったと思うし、面白い。
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