1,800円以上の注文で送料無料

河童・或阿呆の一生 の商品レビュー

3.9

133件のお客様レビュー

  1. 5つ

    33

  2. 4つ

    39

  3. 3つ

    35

  4. 2つ

    4

  5. 1つ

    2

レビューを投稿

2021/08/01
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

有名作家に何をいまさら…と笑われる感想かもしれないが。 恐ろしいほどの文章力。 数行のパッセージで映像が喚起される。 儚い、面白い、美しい、悲しい、哀しい、恐ろしいをすべて詰め込んで。

Posted byブクログ

2021/05/28

文アルアニメが面白かったので再読。 ファンタジーのように晩年の作品はDoppelgangerが書いたとは言わないまでも、病んだ自分を客観視して書こうとしているように感じられた。それとも膜一枚隔てた向こうから見ている感覚だろうか。死に抗うよりも、死ぬ根拠を上塗りして補強していくよう...

文アルアニメが面白かったので再読。 ファンタジーのように晩年の作品はDoppelgangerが書いたとは言わないまでも、病んだ自分を客観視して書こうとしているように感じられた。それとも膜一枚隔てた向こうから見ている感覚だろうか。死に抗うよりも、死ぬ根拠を上塗りして補強していくような印象だった。 『河童』と『歯車』ではまだ比喩を用いたお話を物語ろうとしているけれど(特に『河童』はファンタジーと思想の配合、そして信頼できない語り手の使い方が素晴らしい。)、『或阿呆の一生』では物語らしい物語はなく、ただ主人公を「彼」としている部分に異化作用があるのみ。結構生々しい。病んだ中で書けるのは最後の意地か。 『河童』と『或阿呆の一生』はそれぞれ別のアプローチで書かれているが、お産のエピソードなど随所に相関性がある。河童の世界で芥川はトックという河童になっているようだが、異界に於いても彼は死を選ぶ。『さらざんまい』の3人は帰還したのにな。 物語は ここで おわっている…▼

Posted byブクログ

2021/05/06
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「ある若い狂人の話」だと思って読み進めると、あまりの描写の緻密さと精巧さに「この人は本当に狂人なんだろうか」と疑問を持ち、最後には何が虚構か真実か分からなくなりました。流石としか言いようがない。藪の中と少し似た読後感でした。

Posted byブクログ

2021/04/13

 芥川龍之介、最晩年の作品集。  「大導寺信輔の半生」という、冒頭の小説の書出しが好きだ。自叙伝的なものだと思うのだが、「大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だった。彼の記憶に残っているものに美しい町は一つもなかった。…」で始まり、生まれた辺りには、穴蔵大工や古道具屋や泥濘...

 芥川龍之介、最晩年の作品集。  「大導寺信輔の半生」という、冒頭の小説の書出しが好きだ。自叙伝的なものだと思うのだが、「大導寺信輔の生まれたのは本所の回向院の近所だった。彼の記憶に残っているものに美しい町は一つもなかった。…」で始まり、生まれた辺りには、穴蔵大工や古道具屋や泥濘や大溝ばかりで美しいものが何もなかったにもかかわらず、信輔は物心ついた時からその町を愛していたこと、毎朝、父親と家の近所へ散歩に行ったことが幸福だったことが書かれている。  美しくないと断言しているのに、幼い時から愛着を持った町は、回想することが美しい。映画の回想シーンのように、淡い光に包まれている感じがする。  標題作の一つ、「河童」は登山中に河童を発見し、追いかけた所、河童の国に迷い混んだ男の話。目が覚めると河童の医者が彼を診察しており、以外にも彼は河童の国で好待遇で歓迎される。河童の国にも医者も社長も技術者や詩人も音楽家も哲学者もいる。人間の暮らしと殆ど変わらないのだが、河童の国では、雌が気にいった雄を見るとなりふり構わず、追いかけて飛びつくことなど、人間と異なる部分もある。 人間より技術が進んでいるので、次々新しい機械が発明され、工場の生産が上がると要らなくなった労働者は解雇されるどころか、殺され、食肉にされてしまうなど、残酷だが河童からすると「合理的」らしい面もある。解説にスウィフトの「ガリバー旅行記」のようなジャンルに属する作品らしいが、なるほど、異世界から人間界を風刺、批判しているような作品である。芥川龍之介という人はこういう作品も書いていたのだ。面白かった。  「或阿呆の一生」は多分死を決意し、作品を友人の久米正雄氏に託している。自叙伝みたいなものらしいが、詩的で私には分かりにくかった。  短い生涯だったが、年代によって作品の色が随分変わったいるのだろう。今度は若い時の作品を読もう。  

Posted byブクログ

2021/03/29

表題作と「大導寺信輔の半生」が良かったです。芥川は教科書以来触れるのは初めてでしたが、とても面白かった。

Posted byブクログ

2021/02/21

河童という架空生き物がおりなす社会設定がこまかく、おもしろい。読みやすい。最後に語り手が「統合失調病」であることから、すべての物語が彼の狂気からつくられたものなのか、と理解したときには予想はしていたけど鳥肌が立った。とてもうまくできたアイロニー小説。 ポイント ・皮肉ー人間の愚...

河童という架空生き物がおりなす社会設定がこまかく、おもしろい。読みやすい。最後に語り手が「統合失調病」であることから、すべての物語が彼の狂気からつくられたものなのか、と理解したときには予想はしていたけど鳥肌が立った。とてもうまくできたアイロニー小説。 ポイント ・皮肉ー人間の愚かさを河童社会という架空の世界に例えて書く ・自殺という概念 ・生まれてくる前に生死の選別が子に与えられるという発想

Posted byブクログ

2020/10/06

全編を通してどうしても自死狂死に惹かれているのが解る。お金についてかなり悩んでいるのに、身を切り売りするような文章を作っているので苦しそうに感じる。 「蜃気楼」 蜃気楼と真っ暗な海岸でマッチをつけること。夢の中で全く意識していない人が出てくること。意識の閾の外の見えない部分を表...

全編を通してどうしても自死狂死に惹かれているのが解る。お金についてかなり悩んでいるのに、身を切り売りするような文章を作っているので苦しそうに感じる。 「蜃気楼」 蜃気楼と真っ暗な海岸でマッチをつけること。夢の中で全く意識していない人が出てくること。意識の閾の外の見えない部分を表現しているんだなあ。 「河童」 河童はファンタジー世界を作っていておもしろい。でも現実の思想、作家、音楽などが浸食している。 「歯車」 私も偏頭痛の閃輝暗点を感じることがあるから、解るぞこの感じ!と思った。歯車とは言い得て妙で動くチカチカするものが終わってくると頭痛が酷くなる。

Posted byブクログ

2020/08/23

現実的な生々しい小説を読んでいて、目を背けたいぐらい頭が混乱していたので、河童のようなある意味、設定が人間世界と逆の話を読むと、風刺とは思えないぐらいホッとした気分だった。勿論意味を全てわかって読んでいたわけではないが、河童と言う、人間世界に似ても似つかない、不合理な世界が日本で...

現実的な生々しい小説を読んでいて、目を背けたいぐらい頭が混乱していたので、河童のようなある意味、設定が人間世界と逆の話を読むと、風刺とは思えないぐらいホッとした気分だった。勿論意味を全てわかって読んでいたわけではないが、河童と言う、人間世界に似ても似つかない、不合理な世界が日本でも何となく起こっていたことが垣間見えた。河童の世界でも、色んな小説家や哲学者が頻用されていたのが面白い。 或る阿呆の一生、歯車と3作品全て読んだ。 河童を読むと、そこまで辛い描写は出てこなくて、児童が読んでも飲み込めるような作品だと思う、 或る阿呆の一生から自伝的要素が強くなっていき、 歯車では最後のシーンで下界から夭折してしまいたい、というような彼の思いがヒシヒシと伝わってきて、幻覚や妄想が多く出てくる。 彼の義理の兄が自殺したことがかなり尾を引いている気がする。何もかも全てを背負い込んで作ったような。 

Posted byブクログ

2020/05/15

 「河童」の感想。「入れ子構造」が効果的です。著者の“生活”から滲み出た「こと」が描かれています。冒頭に、この物語は「第二十三号が誰にでもしゃべる話」と書かれています。これは、語り手(病院に入院されている方)の“悲劇”が、現代ではありふれていることの表現だと思います。河童たちの「...

 「河童」の感想。「入れ子構造」が効果的です。著者の“生活”から滲み出た「こと」が描かれています。冒頭に、この物語は「第二十三号が誰にでもしゃべる話」と書かれています。これは、語り手(病院に入院されている方)の“悲劇”が、現代ではありふれていることの表現だと思います。河童たちの「職業」が、「人間社会」の人々を風刺する記号になっています(いわゆるタイプ名)。裁判官のペップは物語終盤で病気になってしまったことが分かりますが、そのことの伏線が多少張られていました。  物語前半は「人間社会」へのダイレクトな風刺が多いです。けれど中盤からもう少し込み入った風刺が出てきます。興味深かった風刺は、演奏会を「熱心に」聴いている河童たちが出てきますが、彼ら(河童たち)には「耳」(文字通りの意味です)がありません。また、「超人クラブ」の「超人ぶり」が、想像と違うベクトルを向いていました。この物語では、著者の女性への風刺(嫌悪?)が強烈に描かれていると思います。  「十七」で、再び「入れ子構造」が挿入されます。「河童の国の言葉」は、彼(第二十三号)が罹患した病気の症状の一つとも解釈できると思います。「ある事業の失敗」が、彼がこの病気になった原因でしょう(いわゆるトリガーになっている)。語り手の視点から、“河童たち”は彼にしか見えていないことが分かります。興味深かった表現は、彼は「月のある夜」に河童たちが何匹もやってくると言っています。「月」は“狂気”の意味をも表現するので、これは彼の“症状”が深刻なことの隠喩だと思います。

Posted byブクログ

2020/04/13

 芥川龍之介最晩年の作品集。「河童」を除けば全体的に陰鬱で鬼気迫る短篇が多く、気分が沈んでいる時に読んだら危険かもしれないと思うほどに、負の引力が物凄かった。  一番印象に残っているのは、「歯車」。世の中の様々なものに対し語り手は不吉な予感を抱いてしまい、どんどん追い詰められて...

 芥川龍之介最晩年の作品集。「河童」を除けば全体的に陰鬱で鬼気迫る短篇が多く、気分が沈んでいる時に読んだら危険かもしれないと思うほどに、負の引力が物凄かった。  一番印象に残っているのは、「歯車」。世の中の様々なものに対し語り手は不吉な予感を抱いてしまい、どんどん追い詰められてゆく。自分の中の無意識が自己を破滅させようとする極限の精神状態が描かれている(気がする)。 「或阿呆の一生」と共に、何かに絡め取られている感は、絶望している時に強く感じるもの。かなり危険な物語だけど、好みでもある。

Posted byブクログ