めぐらし屋 の商品レビュー
急いで印象を書き付けておきたくなる本と、後からじんわりとそういう気分になる本がある。とは言っても「何を」書きたいのかは、書き出してみるまで実はよくわからないのだが。それでも何かと何かがやんわりと結びついたような感覚が読んでいる内に生じて、その一つのきっかけを忘れないように心の中で...
急いで印象を書き付けておきたくなる本と、後からじんわりとそういう気分になる本がある。とは言っても「何を」書きたいのかは、書き出してみるまで実はよくわからないのだが。それでも何かと何かがやんわりと結びついたような感覚が読んでいる内に生じて、その一つのきっかけを忘れないように心の中で呪文のように唱えながら、それを早く紙の上に降ろしてしまいたくなる本があるのだ。堀江敏幸の小説ではそんな想いに駆られる確率が高いように思う。 「めぐらし屋」を読みながら、彼の「雪沼とその周辺」を思い出すのは自然なことだと思うが、この2冊に共通しているのは、一つの土地の中で人々を繋げてゆくゆるやかな交わり、というような括り方ができる設定だけではない。むしろ堀江敏幸が長けていると言われる文章の魅力に根ざしているもので、単純に言えば一つの言葉からの広がりを常に堀江敏幸が意識しながら書いているのだろうということが、容易に想像できる表現だ。 簡単に言えば、巧みな伏線と言ってしまえるようなリンケージ。しかし、其処此処に無数に押し込められている、吊り上げられるのを待っているエピソードの断片に、心を奪われながら読み進める内に、それはあらかじめ計算された伏線というようなものではなくて、堀江敏幸自身がふらふらと彷徨った心持ちを、後から掬い上げているだけなのではないか、という気になってくる。 そんな勝手な考えに至ると、彼の残したエピソードの端々の行き先がにわかに自分の中で広がってくる、あの堀江敏幸特有の印象の元を見つけたようで、うれしくなる。
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色々悩みごとを考えながら寝転んでいて、突然目の隅に、帯の一文が飛び込んできた。わからないものは、わからないままにしておくほうがいい、なんだか、世の中からずれてるけど、それはそれで静かに生きてる蕗子さんに諭されたようで、はっとした。コンプリート百科事典の世界、私は好きだなあ。
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不思議な空気感の漂う小説でした。 この方の小説は初めて読むのですが、女性が書く以上に、おんなっぽい筆致。 色っぽいっというのではなく、何のとりつくろいもない等身大の女性という意味で。 子どもの頃に両親が離婚し母親に引き取られ、父が亡くなる。その父が暮らした部屋で、父がやって...
不思議な空気感の漂う小説でした。 この方の小説は初めて読むのですが、女性が書く以上に、おんなっぽい筆致。 色っぽいっというのではなく、何のとりつくろいもない等身大の女性という意味で。 子どもの頃に両親が離婚し母親に引き取られ、父が亡くなる。その父が暮らした部屋で、父がやってた謎の商売「めぐらし屋」によくわからないままに取り組むという、時間の経過だとか人間関係だとかがあいまいなままに、物語が進んでいくのがおもしろいと思う。 私は電車に揺られながら読んでしまいましたが、不思議な空気感を味わいたい人は、家でのんびり読むことをお勧めします。
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2007.09. よいです。情景が人物が、頭の中にするすると浮かんでなじんできて。蕗子さんがなぜか“ルキさん”のように思えて仕方なかった(ちょっと抜けてて、でもマイペースなところとか)。思い出されるエピソードも、なんだかほのぼのしていて、優しい。これからのめぐらし屋に蕗子さんに、...
2007.09. よいです。情景が人物が、頭の中にするすると浮かんでなじんできて。蕗子さんがなぜか“ルキさん”のように思えて仕方なかった(ちょっと抜けてて、でもマイペースなところとか)。思い出されるエピソードも、なんだかほのぼのしていて、優しい。これからのめぐらし屋に蕗子さんに、ゆっくり期待したくなった。
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「福をまく」と言う行為が、どれほど人として暮らすのに、楽しいことか大事なことか改めて感じ入った。「めぐらし屋」という摩訶不思議な仕事をしていた父のことを主人公はきっと嬉しくそして楽しく思い、ふわふわしながら、やっていくんだろうなあ。
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何度か手にとっては止めて、初めて読んだ堀江敏幸の本。毎日新聞の日曜版に連載されていたそうで、そういえば、週末気分。
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わからないことはわからないままにしておくのがいちばんいい。記憶と謎に導かれ、蕗子さんが向かった先は…。 ・・・可もなく不可もなくという感じでしょうか・・・依頼人探しのところは面白いかなぁと思いましたが、結局良くわかりませんでした(汗)
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ゴメンなさい。すごく好きだ、この作品。ストーリに奇抜なものがあるわけではないのだが、作品に流れるまったりほっこりした空気感がものすごく好きだ。 細かいところと抜けてるところが共存してあって、周囲からちょっとズレてしまっている蕗子さんが、とってもチャーミング。蕗子さん自身と、そん...
ゴメンなさい。すごく好きだ、この作品。ストーリに奇抜なものがあるわけではないのだが、作品に流れるまったりほっこりした空気感がものすごく好きだ。 細かいところと抜けてるところが共存してあって、周囲からちょっとズレてしまっている蕗子さんが、とってもチャーミング。蕗子さん自身と、そんな蕗子さんを上からにっこり温かい視線で見守る2種類の口調と、語り口もいい。 亡き父の遺品を整理していたら、たまたまかかってきた一本の電話。電話から「めぐらし屋」の存在を知り、その挙句、娘なのに(だから?)知らされていなかった父の一面を知っていくことになる、、、。 思いがけない記憶と時間と人との出会いが絡みあう物語。読み終えて「人間同士って、不思議な縁で結ばれているんだあ」胸の奥からこみあげてくるものがある物語かと。 蕗子さんの世界と父の世界とが交錯するラストが秀逸だと思ったー!
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