ミノタウロス の商品レビュー
ミノタウロスという作品名が物語る通りの、生立ちによって人生が決定されてしまった少年の話です。ミノタウロスのような怪物の話です。そして、時代に、国に、翻弄される人間たちの話です。とにかく切なくてやり切れない話です。 戦争は自分でどうにかできるものではなく、生きるために人間は何だっ...
ミノタウロスという作品名が物語る通りの、生立ちによって人生が決定されてしまった少年の話です。ミノタウロスのような怪物の話です。そして、時代に、国に、翻弄される人間たちの話です。とにかく切なくてやり切れない話です。 戦争は自分でどうにかできるものではなく、生きるために人間は何だってするのです。革命であれ何であれ、戦いは良いことなんてひとつもないです。 最後に殺戮を終えた主人公の少年がこれからの自分を想像する部分があって、生い立ちからあれこれを経てそこに行き着くという構図でこの作品は完成するのだと分かりました。それこそが最も伝えたいことなのではないかと思いました。残念なことに少年の夢は叶うことなく小説は終わってしまうけど。 “ 帰る道々、ぼくは想像してみた。 一人なら、逃げ隠れするのも生き残るのもずっと簡単だ。だから取り敢えずこの冬は、無人を装った屋敷で越す。その後、春が来たら、ぼくは村娘と母親の畑を手伝ってやる。母親は嫌な顔をするかもしれないが、男手は有り難い筈だ。幸い、土地は幾らでもある。主たちは消え失せた。小さな小屋の前の小さな畑を耕して、ぼくはその畑から万事を始める。娘を女房にするだろう。子供だってごろごろ生ませるだろう。何人かがごろつきやあばずれになって家を離れても、何人かは地べたにしがみ付いて家に残るだろう。畑は広がり、うまくすれば作男を何人か雇って耕作させるくらいにはなるだろう。兵隊はやって来ては去って行くだろうが、何、ああいう連中のことは判っている。彼らは過ぎ去っていくものであり、ぼくたちはただ根刮ぎにされないように踏ん張って、頭を垂れていればいいのだ。”
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3年前位に贈呈されて読了。佐藤亜紀さんの受賞作としては3冊目なので期待して読んだら人外の物語。強奪、強姦、殺戮を繰り返す若者が死ぬまでの構成。彼等をミノタウルスだということなのだろう。
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「それでも、ぼくたちはまるで人間のような顔をして生きてきた。」と悟る場面が哀しい。人間っていつの時代も本質は変わらず同じようなことを繰り返してる、現在進行形で。
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未熟の成せる生き方。成り上がりの父親のもとに生まれて途中までは何不自由なく育った主人公。けれど政局が危うくなり戦争が始まると、きれいに坂を転げ落ちて堕落してしまう。偶然知り合ったドイツ人と共に追いはぎをし、人を殺しながらその日その日の生活を送るようになる。明日の見えなさ、それがよ...
未熟の成せる生き方。成り上がりの父親のもとに生まれて途中までは何不自由なく育った主人公。けれど政局が危うくなり戦争が始まると、きれいに坂を転げ落ちて堕落してしまう。偶然知り合ったドイツ人と共に追いはぎをし、人を殺しながらその日その日の生活を送るようになる。明日の見えなさ、それがよくいう目の前が真っ暗な感じではなく、なぜだか絶望的なのにフラッシュの炊き過ぎで白くなった世界のように感じる。内省なんてないから言い訳もしない。けれど最後、彼は自分が「人間」のようにふるまえる部分とそうじゃなくなる境目を思い知る。何をもって人間とするのかという部分を描いていたんだとその時に気付く。だからミノタウロスなのか。
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ロシア革命期のウクライナに地主の息子として生まれた主人公ヴァシリの、強奪、凌辱、殺戮にまみれた生涯。本作はヴァシリの悪党ぶりを描くピカレスクロマンというもののようだけど、個人的には少し穿った読み方をしたかも。つまりヴァシリをはじめとする登場人物は、単にその時代その場所に生を受けた...
ロシア革命期のウクライナに地主の息子として生まれた主人公ヴァシリの、強奪、凌辱、殺戮にまみれた生涯。本作はヴァシリの悪党ぶりを描くピカレスクロマンというもののようだけど、個人的には少し穿った読み方をしたかも。つまりヴァシリをはじめとする登場人物は、単にその時代その場所に生を受けたがためにそうならざるを得なかったのではないか、と。衣食足りて礼節を知ると言うけれど、それらがまったく足りず、笑顔も幸福もない戦時の環境下で、逆にどうしたらヴァシリのようにではなく生き得たのか、とも感じた。
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ロシアの田舎地主の息子が、ロシア革命という混乱の中で次第に人間から何か違うモノへと解き放たれていく様を圧倒的筆力で描いた大河小説。 日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『バルタザールの遍歴』以来、16年でいまだ8作という作家の新作、それも傑作が読めたのは幸せでした。
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旧制ロシア時代の終わりの混乱期に跋扈したやさぐれものたち。 そんな混乱期に生まれた主人公が身を持ち崩し、めちゃくちゃな毎日をすごすようになりついには身を滅ぼすまでのお話。 まず著者が日本人で或る事に驚かされた。知らないで読むとロシア文学の翻訳物かと思うくらい、当時のロシアを生き生...
旧制ロシア時代の終わりの混乱期に跋扈したやさぐれものたち。 そんな混乱期に生まれた主人公が身を持ち崩し、めちゃくちゃな毎日をすごすようになりついには身を滅ぼすまでのお話。 まず著者が日本人で或る事に驚かされた。知らないで読むとロシア文学の翻訳物かと思うくらい、当時のロシアを生き生きと描き出している。 あまりにも惨く醜い男たちのお話なので、ロシア人は描こうとはしなかったかもしれないが。男性のDNAを少しばかりうたがいたくなる、無意味で乱暴な戦争とも言えない醜い争い日々のお話なので、素晴らしい筆致でいい小説と思うが読んで楽しい小説では残念ながらない。覚悟してから読み始めたほうがよいかも。
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一生懸命、紙飛行機を作りそれを飛ばすことで得意気になっていた子どものすぐ横で、「じゃっ!」と言ってジェット機で飛び立っていくパイロット。 子どもはジェット機にあこがれます。そして紙飛行機に失望し、それを捨ててしまう。私はそんな心境になりました。もちろん、パイロットとは佐藤氏のこと...
一生懸命、紙飛行機を作りそれを飛ばすことで得意気になっていた子どものすぐ横で、「じゃっ!」と言ってジェット機で飛び立っていくパイロット。 子どもはジェット機にあこがれます。そして紙飛行機に失望し、それを捨ててしまう。私はそんな心境になりました。もちろん、パイロットとは佐藤氏のことで、私は子どもです。 ただジェット機よりも、紙飛行機の方がいいと思う人もたくさんいるはずですから、とりあえず私は精一杯よく飛ぶ紙飛行機を作りたいと思いました。
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途中で2日ほど間を開けて読んだら、人名が飛んでしまっていた‥ロシア人の名前は鬼門じゃ。一気に読み終えたら、もっと面白かったんだろうな。
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伊坂幸太郎さん推薦本その2。 ロシアを舞台にしたピカレスクロマン。 暴力、襲撃、窃盗の話。 まるでロシア人が書いた小説を日本人が和訳したかのような文体。それくらい世界観がしっかりしてる。 こんなに寒くて暴力と襲撃に満ちた世の中なら、誰もがやけを起こしそうだし、絶望的な気分にも...
伊坂幸太郎さん推薦本その2。 ロシアを舞台にしたピカレスクロマン。 暴力、襲撃、窃盗の話。 まるでロシア人が書いた小説を日本人が和訳したかのような文体。それくらい世界観がしっかりしてる。 こんなに寒くて暴力と襲撃に満ちた世の中なら、誰もがやけを起こしそうだし、絶望的な気分にもなる。 主人公は割と冷静に自分の人生を客観視している感じだが、結局は他の見下していた連中となんら変わらないのではないか。という僕個人の感想。これは多くの読者の共感を得るんじゃないかと思う。 胸に深く突き刺さる小説。
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