ミノタウロス の商品レビュー
なんというか、感想に困る。 革命という時代を、政治的・社会的なものを一切そぎ落として、その時代のうねりの中で生きる、フツーの立場の人を描くと、こういう物語になるのかもしれない。革命の意味なんて、起こしている人間はともかく、巻き込まれている大多数の人間にはわからないものだ。とにか...
なんというか、感想に困る。 革命という時代を、政治的・社会的なものを一切そぎ落として、その時代のうねりの中で生きる、フツーの立場の人を描くと、こういう物語になるのかもしれない。革命の意味なんて、起こしている人間はともかく、巻き込まれている大多数の人間にはわからないものだ。とにかくひたすら、何をしてでも生き延びようともがいている。 泥と血とあらゆる汚物の臭いがただよう荒廃した時代、転落してゆく主人公。淡々と一人称で語られる「ぼく」の獣性と人間性。手加減も容赦もなく描かれていく暴力に支配された世界なのに、乾ききって見えるのは、主人公の視線(と心情)のあり方のせいか。そんな若者のロードムービー的物語。まさに疾走。 どばどば人が死んでいくのに、あまり陰惨な感じはしないし、人の命の重みも感じられない。人が人であるというのは、いったいどういうことなのか。けだもののように残虐で非道な行いを繰り返して生き延びようとする側からも、ぼろきれみたいにあっさり殺されて捨てられる側からも、そんな問いを投げかけられているかのよう。残虐なのに、たまに繊細なところが見え隠れする。結末は見えているけれど、ラストシーンの文章に衝撃。すごい。 世界文学全集のどっかにするっと載っていそうな、そんな重厚で壮大な物語。
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書評や評判は高かったけど、正直なところ、良さはあんまり分からん。最後の方は読み終えるために努力した、って感じ。 書評をする人たちはいろんな作品に触れてるから、こんな感じの暴力が支配する物語もフラットな視点で読んで評価を下せるのかもしれないけど、この手の全編ブチ抜きで暴力以外に大したトピックが出てこない小説は、個人的には苦手ってことが分かりました。 あともう一つ、スラブ系の名前は小説の中で時間をおいて出てこられると、もう誰だったか全然分からなくなる(笑)できれば、登場人物一覧表が欲しかったなー。 たぶん、自分のリアル本棚には並ばず、古本屋行きになってしまうと思います。
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冷静な主人公の語り口がその内容のおどろおどろしさをさらに突きつけてくるような感じを受けました。ミノタウロス、半獣、というより獣そのものよりすごいぞ、と思いました。著者の初期作『バルダサールの~』を読んだ時の衝撃を思い出しました。後味がとても悪いです。
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血と泥のにおいのする小説。圧倒させられた。何で今の日本に生きてる人がこんな物語をかけるんだろう。 ロシアを舞台にしてミノタウロスというタイトルがついているのに不思議に思ったけど、荒廃した時代に解き放たれる獣性と、捨てきれない人の心を半人半獣にたとえたものだったんだと納得した。濃密...
血と泥のにおいのする小説。圧倒させられた。何で今の日本に生きてる人がこんな物語をかけるんだろう。 ロシアを舞台にしてミノタウロスというタイトルがついているのに不思議に思ったけど、荒廃した時代に解き放たれる獣性と、捨てきれない人の心を半人半獣にたとえたものだったんだと納得した。濃密に人物を描いているのに、それを読むほどに人の本質というものがどこにあるのか分からなくなっていく奥深さがすごい。この人の小説をさらに読んでいきたい。
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Twitterでの佐藤氏の率直な発言に興味をもち手にとってみた。 陰惨な物語だけれど、そうは感じなかった。主人公の育ちのいいお坊ちゃまっぽさが、陰惨ではあるが非人間さのぎりぎり手前で踏みとどまってる感を与えるのかも。実際、全然踏みとどまってないけど。 20世紀初頭ロシアという、...
Twitterでの佐藤氏の率直な発言に興味をもち手にとってみた。 陰惨な物語だけれど、そうは感じなかった。主人公の育ちのいいお坊ちゃまっぽさが、陰惨ではあるが非人間さのぎりぎり手前で踏みとどまってる感を与えるのかも。実際、全然踏みとどまってないけど。 20世紀初頭ロシアという、なじみのない入り込みにくい舞台でありながら、人物描写の鮮やかさによって、ぐんぐん読ませる。 とか言ってたら、佐藤氏に軽蔑されそうだな、と思いつつ。
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この本の書評はこちら。 http://d.hatena.ne.jp/ryo0818k/20100920/1284990797
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タイトル一本釣り。「ミノタウロス」ですよ、半獣半人ですよ。ものすごい示唆的。物語の設定は20世紀初頭、ロシア帝国南西部(現ウクライナ)。主人公の一人称で語られる混迷の時代、荒涼とした大地、そして堕落する自分への自己言及。 一代にして財を成した父親が没落し、兄が首を吊り、故郷を...
タイトル一本釣り。「ミノタウロス」ですよ、半獣半人ですよ。ものすごい示唆的。物語の設定は20世紀初頭、ロシア帝国南西部(現ウクライナ)。主人公の一人称で語られる混迷の時代、荒涼とした大地、そして堕落する自分への自己言及。 一代にして財を成した父親が没落し、兄が首を吊り、故郷を逃げるように離れた主人公「ぼく」は、ただひたすらにその荒野を生き抜いていく。人を殺し、強奪した食物を喰らう。次第に「人間性らしきもの」はすべて削ぎ落とされていく。折りしも時代は第一次大戦の勃発した1914年。しかし、世相などまるで無関係に「ぼく」は堕ちていく。 「人間性らしきもの」は消えつつも、「ぼく」が「ぼく」として言葉を繰り出していく様は、人間と獣の狭間をいったりきたりしているようで、その不安定さに、読者は惹き付けられていきます。で、結末、意義なき暴力への傾倒、そして死。ここは人それぞれの解釈になるでしょうけど、「ぼく」が人間として「ぼく」であり続けるための手段ではなかったか、と私は思うわけであります。生物中最も不条理な生物が人間であると仮定するならば、意義なき暴力なんてものは、まさに人間性を表現しているような気がするのです。そう書くとA・カミュの『異邦人』のテーマみたいなのだけれども。 「読む」という行為が、思惟を伴うものであること、また、それが興奮するほど「楽しい」ことを感じさせてくれる作品です。
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「人間を人間の格好にさせておくものが何か、ぼくは時々考えることがあった。それがなくなれば定かな形もなくなり、器に流し込まれるままに流し込まれた形になり、更にそこから流れ出して別の形になるのを――ごろつきどもからさえ唾を吐き掛けられ、最低の奴だと罵られてもへらへら笑って後を付いて行...
「人間を人間の格好にさせておくものが何か、ぼくは時々考えることがあった。それがなくなれば定かな形もなくなり、器に流し込まれるままに流し込まれた形になり、更にそこから流れ出して別の形になるのを――ごろつきどもからさえ唾を吐き掛けられ、最低の奴だと罵られてもへらへら笑って後を付いて行き、殺せと言われれば老人でも子供でも殺し、やれと言われれば衆人環視の前でも平気でやり、重宝がられせせら笑われ忌み嫌われる存在に なるのを辛うじて食い止めているのは何か」(269ページ) この一文が「ミノタウロス」という題名の所以ではないか。 淡々と書かれていく主人公の心情の中で、とても印象に残った文章。
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純文学…なのかな。 よくわかんないけど。やたら評判が良かったから読んでみた。 燃えるわけじゃないし、心に響くわけでもないし、感情移入することもない作品だったけど、確かに密度は凄かった。 いろいろ評判を照らし合わせてみたけど、「乾き」は感じないし、「文章のうまさ」もそこまで際立っ...
純文学…なのかな。 よくわかんないけど。やたら評判が良かったから読んでみた。 燃えるわけじゃないし、心に響くわけでもないし、感情移入することもない作品だったけど、確かに密度は凄かった。 いろいろ評判を照らし合わせてみたけど、「乾き」は感じないし、「文章のうまさ」もそこまで際立ってるとは思わない。 俺のデフォルトが宮部みゆきだからなのかもしれんけど。。。 「なんか溜まる」っていう感想が一番しっくりきたな。 総じて、案外悪くなかった。 もうちょっと読んでみよう。
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この乾きぐあい。乾燥しすぎてなんのにおいもしてこないのがすごい。途中ドイツ兵が絡むあたりはコミックと思ったけれど、この話に笑いを感じる自分が不安になる。残酷さの扱い方にロイヤルテネンバウムを感じたからなんだけど。。。
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