昨日 の商品レビュー
子持ちの人妻になった幼馴染に、亡命先で偶然出会って恋に落ちた話。 解説によれば、愛以上に言語喪失の哀しみを結実させた作品とのことだったが、私にとっては逆であった。 トビアスが愛したのは人なのか幻なのか、カロリーヌは彼を愛したが自分が自分でなくなる怖れには勝てなかったのか。他の読者...
子持ちの人妻になった幼馴染に、亡命先で偶然出会って恋に落ちた話。 解説によれば、愛以上に言語喪失の哀しみを結実させた作品とのことだったが、私にとっては逆であった。 トビアスが愛したのは人なのか幻なのか、カロリーヌは彼を愛したが自分が自分でなくなる怖れには勝てなかったのか。他の読者の解釈が気になった。 それと、亡命先でもまるで社会主義国のような単調な生活を送っているのは皮肉に思えた。
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ディアスポラ。シリア難民の人たちについて書かれているようだと思った。自国語を失なう思いをアゴタ・クリストフは色んな書きかたをした。悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘の三部作と似ているけれど、この作品は哀しみや孤独感が心理描写で書かれている。主人公のトビアスは結局血をわけた家族を失っ...
ディアスポラ。シリア難民の人たちについて書かれているようだと思った。自国語を失なう思いをアゴタ・クリストフは色んな書きかたをした。悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘の三部作と似ているけれど、この作品は哀しみや孤独感が心理描写で書かれている。主人公のトビアスは結局血をわけた家族を失って、最後には自分の子供を持つことになったけれど、リーヌには自分が兄だということを伝えなかった。それはやはりリーヌを妹として愛していたからだと思う。自国へ戻っていくリーヌと、外の世界に残るトビアスはあわせ鏡みたいなものだと思う。決して重なりあうことはなく、でも血をわけたひと。双子とは違う書き方で面白いと思った。また読み返す本になるかも。
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自伝的内容ということだが、主人公の性が男性になっている。悪童日記の双子も男の子だが、男性的な視点のほうが自身の感覚に近いということなのだろうか。 難民として他国で暮らすということがそもそも感覚としては理解しにくいのだが、海外出張などで異国で仕事をするだけでも、意識的にも無意識的に...
自伝的内容ということだが、主人公の性が男性になっている。悪童日記の双子も男の子だが、男性的な視点のほうが自身の感覚に近いということなのだろうか。 難民として他国で暮らすということがそもそも感覚としては理解しにくいのだが、海外出張などで異国で仕事をするだけでも、意識的にも無意識的にも緊張感を強いられることから、精神的には相当に疲れる。そのような環境下での出来事として読むととてもリアルだと思う。
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アゴタ・クリストフにとって読むこと、そして書くことというのは救いそのものであったのだろう。故郷から、母国語から、愛する人から切り離されながらも、それでも身を切るように言葉を紡ぐこと。その両手を祈るためではなく文字を連ねるために用いること。三部作の後に書かれた本作は今まで以上に自伝...
アゴタ・クリストフにとって読むこと、そして書くことというのは救いそのものであったのだろう。故郷から、母国語から、愛する人から切り離されながらも、それでも身を切るように言葉を紡ぐこと。その両手を祈るためではなく文字を連ねるために用いること。三部作の後に書かれた本作は今まで以上に自伝めいており、もはや弱さも嘘で隠そうとすることなく剥き出しに描かれている。最後の一文は図らずも著者のその後の人生と対応してしまった。それは救いだったのだろうか?自分は今も、こうやって嘘のような言葉を並べながら、ただ駄文を連ねてる。
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完成された小説というのはこういうものなのだなと思います。 全て主人公の幻想から始まり、幻想が現実と相まって物語が進んでいきます。 その中で幻想に止まれない「現実」の部分に登場人物たちは苛まれ結局幻想は現実を包含する形で影響を及ぼすことはできず、ただ現実をさらに悲しいものにしてしまう要素と化してしまいます。 主人公は夢を持っていました。ただその夢は様々な偶然が重ならなければ起こり得ない条件下でのみ現実可能な夢であり。主人公は現実から逃避するためだけに夢に寄り添って暮らしています。 本当はそれだけでよかったんだと思います。 ただ夢が意外な形で現実へ向かった時、彼は、今まで期待も全くしていなかった「希望」や「未来」に目を向けるようになります。 夢は現実にかき消され、失われてしまったけれど、希望や未来に目を向けた時、彼は現実逃避ではなく、現実を見始めたのだと思います。 少し諦めに似たような大人への成長の仕方をする、悲しい本なのですが、世界観が少しもぶれずに話が進んでいくところが素晴らしいなと思いました。 人々の悲しさも伝わってくる、良書だと思います。
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戦争の混乱から逃れ、祖国も母国語も、愛する人もやがて失う。憧憬も哀愁、郷愁とも違う、ある断絶を超えて眺める「昨日」という過去。 日本人には理解の届かない暗く深い何かが全体を覆っている感じ。
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※このレビューにはネタバレを含みます
『悪童日記』以下の3部作の後に書かれた小説。物語には特定の地名は出てこないが、前半と後半は、それぞれ東欧にある別の国のどこかだろうと思われる。主人公であり、物語の語り手でもあるトビアスは故国に居てさえ、その出生と、置かれた環境からロマのような存在であった。すなわち、デラシネであることを人生の最初から強いられていたのだ。リーヌこそが、彼を繋ぎとめる(何処に?)唯一の存在なのだろうが、彼女の全的な愛を得る可能性は閉ざされていた。そもそも、本当にそれを欲していたのかもわからない。おそらくはトビアス自身にも。
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なんか読んだな、と思ってたら案の定読んでた。 最初読んだときはアゴタ・クリストフの文体に慣れていなくて、その特異さに飲み込まれていたようだ。 今読むと、重すぎて目を背けたい内容でした。
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異国で物書きになることを夢見ながら、父親が同じ女性を愛する。若干神経症のきらいもある。結局女性は彼のものにはならなかった。彼は他の女性と家庭を築く。夢も諦めてしまった。 この物語全体に漂う虚ろ。
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