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重力ピエロ の商品レビュー

3.9

2486件のお客様レビュー

  1. 5つ

    672

  2. 4つ

    864

  3. 3つ

    624

  4. 2つ

    108

  5. 1つ

    28

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2022/06/01

春が二階から落ちてきた。こんな言い回しから始まる本書は究極の家族小説だ。 冒頭の「春」は季節の春のことではなく、主人公である泉水の弟の名前を指している。彼らの血は半分しか繋がっていない。春は母親が少年にレイプされたことででき、産まれた子供だ。犯人は少年法に守られ、名前も世間に知...

春が二階から落ちてきた。こんな言い回しから始まる本書は究極の家族小説だ。 冒頭の「春」は季節の春のことではなく、主人公である泉水の弟の名前を指している。彼らの血は半分しか繋がっていない。春は母親が少年にレイプされたことででき、産まれた子供だ。犯人は少年法に守られ、名前も世間に知られることなく、兄弟が大人になった今ものうのうと生きている。春を産むことを決めたこの家族が、ずっと好奇の目にさらされていたことも知らずに。それでも血縁なんて関係なく、ずっと彼らは仲の良い家族であり続けてきた。遺伝子関係の会社に勤める泉水と自分の出生から性的なものを病的なまでに嫌い、ガンジーをこよなく愛する春、そして癌に侵されながらも明るい父。彼らは仙台市で起こっている連続放火事件の犯人を追いながら、それぞれの思惑を交錯させ、もっと大きな何かに巻き込まれていく。 家族に血の繋がりはいらない。本書を読んで一番に思ったことだ。生みの親、育ての親とはよく言うけれど、彼らの前では生みも育ても関係ない。泉水が、春が、彼らの両親が、家族だと思った人が家族なのだ。だからこそ、春は自分の母親を犯した犯人や性的な事柄を一切許せない。泉水にしても同じだ。しかしいずれの場合にも母親がレイプされなければ春が産まれることはなかったというパラドックスが付き纏う。そこが苦しい。母がレイプされた過去と春の誕生が結びつくこと、そして許せない相手が今もずっと反省せずに生きているのはどんなに辛いことだろう。 この家族を救ってきたのは父親の存在だ。春を産む決断をしたのも父親だった。家族の中でひとりだけ絵が上手く、それは血が繋がっていないせいだと思い込んだ春を救ったのも父の「お前はピカソの生まれ変わりだから絵が上手いんだ」という言葉だった。本書にでてくる父親の台詞ひとつひとつに当たり前に家族と思っているよという気持ちがあらわれている。 いま、世の中では「毒親」という言葉が普通に使われるようになった。実親でも過度に期待を押し付けられたり、子供を利用したりする「毒親」はいて、そういう親を持つ子供は血縁関係があっても離縁することが珍しくなくなってきている。だが、その反対の構造もあるのだ。血縁関係があっても家族じゃないひとは家族じゃないし、なくても家族は家族だ。血の繋がりを飛び越えた家族の繋がりをこの小説に見た気がした。

Posted byブクログ

2022/05/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

敢えて☆5つ。 理由は、「救い」のあるラストにしてくれているから。 起こり得るが、あり得ない条件の重ね方。 28年前の事件に端を発し、 ・身籠もった子を生むという夫婦の決断 ・事件が周囲や生まれた本人にまで知られていること ・犯人が名を変え、この街に舞い戻ってきていて、それを被害者家族が知るようになること この3つが重なり、ラストへと導かれていく。 自分の「生」そのものに向き合い続けなければいけない”春”の心情を考えると、いたたまれない気持ちになった。 この作品を気に入ったのは、 小説として描写される以前のこの家族の様子が、ちょっとのエピソードで浮かび上がってくる点と、 語り手である兄”泉水”の、一連の落書き・放火事件の中での推理の、真実を避けているかのような『もたつき』。 それ自体が、弟”春”に対する深い、家族としての情愛を示しているように思われるから。 このような受け取り方ができるのは、僕がこの事件のような経験や苦しみを味わったことがないから。 本作は虚構の世界であるが、 現実に被害に遭う方を減らすためにも、厳罰化や教育、再犯防止のシステムなどの取り組みが必要だと思う。

Posted byブクログ

2022/05/24

ミステリーといえば、乱歩が好きなのでこういう爽やかなのは新鮮だった 冒頭文の秀逸さは言うまでも無いけど 自分の好み的にはもっと生々しい苦しみが見たかった でもそんなのばっかだと、胃もたれしちゃうもんね

Posted byブクログ

2022/05/19

【血の繋がっていない兄弟が放火事件を解決していく物語】伊坂さんならではの独特なテンポ。言葉の掛け合いが気持ちよかった。文章の見せ方も面白いな、と思うこともあり、なかなか良かった。伏線回収が仕切れてない部分があるように感じたが、それは私の理解力の欠如なのだろうか…。最初と最後の一文...

【血の繋がっていない兄弟が放火事件を解決していく物語】伊坂さんならではの独特なテンポ。言葉の掛け合いが気持ちよかった。文章の見せ方も面白いな、と思うこともあり、なかなか良かった。伏線回収が仕切れてない部分があるように感じたが、それは私の理解力の欠如なのだろうか…。最初と最後の一文が良かった。

Posted byブクログ

2022/05/10

爽快感、という言葉がぴったりだなと思う。 社会から見れば狂人とされてしまう出来事でも、真実の蓋を開ければ清々しい行い。 葛城に道場できないからこその感想であり、主人公たちに同情してしまうからこその感想だ(笑)。 同時に世の中にある生きづらさをごっそり取り除いてくれるような...

爽快感、という言葉がぴったりだなと思う。 社会から見れば狂人とされてしまう出来事でも、真実の蓋を開ければ清々しい行い。 葛城に道場できないからこその感想であり、主人公たちに同情してしまうからこその感想だ(笑)。 同時に世の中にある生きづらさをごっそり取り除いてくれるような安心感がある。特に最後の方なんて……。 また読みたいと思える、素敵な話だった。

Posted byブクログ

2022/09/02
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「正解なんてないんだろうな」と、主人公の父は言った。 私はうーんと考え込む。 『重力ピエロ』 伊坂幸太郎 (新潮文庫) 「春が二階から落ちてきた」 解説でも触れられているが、この書き出しには虚を突かれる。 この「春」というのが人物の名前であり、語り手である主人公「泉水」の弟であることは、読むうちにすぐに分かるのだが、その春がバットを構えて二階から飛び降りる、というこの現実離れしたシーンは、「春」という、可愛らしくものどかで、しかも男性には珍しい名前とともに、どこかふわふわした掴みどころのなさを、読む者に感じさせる。 春は、28年前、母が強姦魔にレイプされて妊娠した子供である。 春を産む決断をした両親は、周囲の好奇の目をものともせず、長男の泉水とともにたっぷりの愛情を注いで春を育てた。 兄弟の絆は強く、温かい家族の中で春は成長した。 そうか。 これは、出自がどうであろうと、流れる血が何であろうと、愛の力で過去を消し去り、人は幸せになることができる、という小説なのか…。 …と思ったら違った。 そりゃそうよ。 伊坂幸太郎だもの。 なんと、あんなにも家族の愛に包まれていながら、春は自らの出自に長い間苦しみ続けていたのだ。 泉水が遺伝子技術を扱う会社で働いていることもあり、物語中、遺伝子やDNAの話題がたくさん出てくるのだが、そんな作中の言葉を借りれば、「春は強姦魔の設計図を身体に巻きつけている」ことになる。 さて、泉水たちの暮らす街では、このところ連続放火事件が立て続けに起こっていた。 なぜか放火現場の近くには必ずグラフィティーアートが描かれているという。 英語で描かれたグラフィティーアートの頭文字と、火災現場のビルや店の名前の頭文字が、DNAの配列の法則に則って奇妙にリンクしていることに気付いた泉水と春は、癌で入院中の父とともに事件の真相を調べ始める。 犯人は誰なのか。 なぜ放火場所が遺伝子の配列になぞらえられているのか。 あえて語られない、兄・泉水の胸のうちと、弟・春の奇異な行動の意味するものとは? 「ラッシュライフ」の泥棒の黒澤が、えらくかっこいい探偵になって登場したり、「オーデュボンの祈り」の伊藤くんが、主人公に“神様のレシピ”の話をしたり、ニヤリとさせられる仕掛けもあって面白い。 さて、レイプ事件から28年、春の苦しみは、その重さに見合う結末を、この家族にもたらすことになる。 私はこれを読んでいる間、やっぱりどうしても春の両親が無責任に思えて仕方がなかった。 堕胎が正解だとは思わないけれど、彼らに身勝手な正義感や自己満足は全くなかったと言えるのか。生まれてくる春の本当の幸せを命がけで守る覚悟はあったのか。父親の言った「正解なんてない」は、“逃げ”ではないのか。 しかし、物語の後半の父のセリフに、私は思わず唸ってしまった。 父は、泉水の言う「私たち兄弟を救済する最高の台詞」を、春に向かって放つ。 「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」 やられました。 ここが伊坂作品のいいところなのよね。 扱う内容は残酷な暴力なのに、何てことのない何でもないような一言で、読んでいるこっちが救われるような。 前後を一行ずつ空けて書かれていることからも、作者がこの台詞に込めた思いが伝わってくる。 春がどれだけ育ての父を好きだったか、ラストまで読むとすごくよく分かる。 優しい春の気持ちに感動する。 しかし、同時に実の父を殺したいほど憎んでいた春がいたことも事実だ。 「春がいつまで無事なのか、私には分からない」 と、泉水が言うくだりがある。 この“無事”という言葉は、いろんな意味で怖い。 それは、この小説が単純な家族の物語でないことを示しているし、それは、「正解なんてないんだろうな」という父の言葉にも還っていく。 重力を消せるサーカスのピエロの姿に、二階からふわりと飛ぶ春が重なる。 とても爽やかなラストシーンは、ピエロの顔に描かれた涙のように、少し悲しい。 やっぱり正解なんてないのか。 とても心に残る物語だった。

Posted byブクログ

2022/05/04

父と兄弟の会話が面白かったです。所々、知らない著名人の名前を検索しながら読み進めて、知らなかった知識が増えた楽しみもありました!

Posted byブクログ

2022/05/02

兄弟のトークが賢すぎ!笑 正しさを求めすぎず、生きてさえいればよし! 人を悲しませるようなことはしない!これで良し となんか思ったな

Posted byブクログ

2022/04/29

春が二階から落ちてきた。 インパクトのある冒頭と最終行。 同じ分でも受ける印象が違う。 何が正義で何が悪なのかを考えさせられる内容。 癌を患いながらも強く優しい父親がかっこいい 俺に似て嘘をつくのが下手くそという一文に全てが詰まっているような気がした。 遺伝子をよりも大切...

春が二階から落ちてきた。 インパクトのある冒頭と最終行。 同じ分でも受ける印象が違う。 何が正義で何が悪なのかを考えさせられる内容。 癌を患いながらも強く優しい父親がかっこいい 俺に似て嘘をつくのが下手くそという一文に全てが詰まっているような気がした。 遺伝子をよりも大切なのは絆 でもやっぱり春が放火犯か・・・ってなってしまった。

Posted byブクログ

2022/04/24

本編の合間合間に番外編が入ってるみたいな構成で最初は慣れなかったけどだんだんテンポがつかめてきました。 この兄弟の会話、高尚すぎて「こんな日常会話する人見たことない」って感じで面白かったです。 冒頭とラストが同じ1文でしたが受ける印象が全く違くて素敵でした。

Posted byブクログ