転がる香港に苔は生えない の商品レビュー
香港返還時期に立ち会った生き証人。生々しく生きる人々から学んだ香港の光と陰。著者は「日本はいい国だ」という言葉の意味は、自分たちが無防備でいられることだという。単一のほうが楽だから、楽な方向に向かおうとし、異物を排除しようとする。 「今我々に必要なのは誇りではなく、多様性だと...
香港返還時期に立ち会った生き証人。生々しく生きる人々から学んだ香港の光と陰。著者は「日本はいい国だ」という言葉の意味は、自分たちが無防備でいられることだという。単一のほうが楽だから、楽な方向に向かおうとし、異物を排除しようとする。 「今我々に必要なのは誇りではなく、多様性だと私は思う」 今から16年以上前に著者が感じたことだ。そして現在、我々はその時から変わっているのであろうか。世界を震撼させ続けている疫病を理由に再び楽な単一を選ぼうとしているのではないだろうか。
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香港返還の瞬間に立ち会うため、返還の前後2年間現地で過ごした筆者による記録。 政治的、経済的に不安定な中でもたくましく生きる香港の市井の人々の人生が、筆者との交流を通して瑞々しく時に生々しく描かれている。 現在の、この不安定な日々の中、勇気をもらえた作品。長編が苦手だが、読みやすい文章&電子書籍だったおかげで、どんどん読めた。 「すべてのものは変わってゆく。永遠に変わらないものなど何一つない。予期しない変化を嘆いたところでどうしようもない。ただその中で自分が生き残ることだけを考えて前に進む。」
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著者の留学時代の友人は香港返還前にカナダへ移住し、念願のパスポートを取得したが、香港の大学で学んだことは全然活かせず、単純労働しか得られず。失意のまま香港に帰国したら、香港に残った元同級生たちは出世していてる。そのイラつきを出身大学のプールや図書館で過ごすことて晴らす。なんか よ...
著者の留学時代の友人は香港返還前にカナダへ移住し、念願のパスポートを取得したが、香港の大学で学んだことは全然活かせず、単純労働しか得られず。失意のまま香港に帰国したら、香港に残った元同級生たちは出世していてる。そのイラつきを出身大学のプールや図書館で過ごすことて晴らす。なんか よく分かる感情。昔の自分は輝いていた。あまりの時代の変化のスピードに、たまたま動けなかった人が結局得をするみたいな事はよくある。株や土地も売れないまま、持ってたら何十年かたったら瀑上がりしたり、投資したいと思いながら出来ずいたら、バブルが弾けて現金持ってた人が得する…ほんとに運とタイミングだと思う。大陸出身と香港に前から住んでいる人との格差。結婚できないまま故郷に仕送りをし、小さな部屋でずーと暮らす人々。そこに、人民解放軍が、かつての境界線を越えてきた…
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これ、本当にいい本でした。星野さんの目線がすごく素敵なんだなあ。フラットなんだけど時に感情的で、突き放しているようなんだけれど急に個人的になる、そのバランスがとても独特な文章で、わたしも香港にいるかのような、わたしも彼らと友人になれたかのような、そんな気持ちになる。行ったこともな...
これ、本当にいい本でした。星野さんの目線がすごく素敵なんだなあ。フラットなんだけど時に感情的で、突き放しているようなんだけれど急に個人的になる、そのバランスがとても独特な文章で、わたしも香港にいるかのような、わたしも彼らと友人になれたかのような、そんな気持ちになる。行ったこともない異国の地の匂いや温度に触れるようで、たしかな文章の力を感じる。 それにしてもーーこんなに人がいるのに、誰にも出会えないという感覚は、東京にいてもありますよね。そんな中、ひとつひとつ細い糸をたぐり寄せて、少しずつ他者と出会っていく星野さんの営みそれ自体がわたしにとっては大いなる希望だ。人と関わるということ、都市に生きるということ、東京に生きるということ、日本に生きるということ、香港を読むことで、逆説的に浮かび上がってくる構造が面白くて、本当にすごい本なんだなあ、と。
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1997年にイギリスから中国へ返還された香港で、返還前後の約2年間を現地で生活したノンフィクション作家、星野博美氏の著書。最初の1年は就学ビザのため語学学校へ通い、2年目からは1か月間の観光ビザを取得するために入出国を繰り返すという、実に気合いの入った生活ぶりである。 ちょうど...
1997年にイギリスから中国へ返還された香港で、返還前後の約2年間を現地で生活したノンフィクション作家、星野博美氏の著書。最初の1年は就学ビザのため語学学校へ通い、2年目からは1か月間の観光ビザを取得するために入出国を繰り返すという、実に気合いの入った生活ぶりである。 ちょうど歴史的転換点を迎えた香港の様子を描いているのだが、政治的な話はほとんど登場しない。一緒に語学学校へ通うシスターや、大学時代に留学していた中文大学のエリート同級生、借りたアパートの近所の人々とのエピソードを通じて、街の喧騒や匂いが存分に伝わる内容となっている。 大陸との関係や移民問題、密輸や密入国者が多い事、不自由な住宅事情などなど、もちろん彼女の目線で見る香港が香港のすべてとは思わない。ただ約20年前の作品である事を差し引いても、あまりにアジアの隣国に無知な自分にとっては充分に興味深く、そして刺激的な作品だった。
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この本はジャーナリズムではなく、香港での生活記というほうがあっています。著者は当時、まだ思春期を抜けきれない、ちょっと浅はかで感傷的で怒りっぽいところのあるアラサー女性。彼女のいくぶん偏った世界観による独りよがりな生活記がだらだらと続き、いい大人の読者ならば最初の数十ページでさす...
この本はジャーナリズムではなく、香港での生活記というほうがあっています。著者は当時、まだ思春期を抜けきれない、ちょっと浅はかで感傷的で怒りっぽいところのあるアラサー女性。彼女のいくぶん偏った世界観による独りよがりな生活記がだらだらと続き、いい大人の読者ならば最初の数十ページでさすがに「もういいかな」という気になると思います。それでも最後まで読まされたのは、文の上手さと、だんだん心配になってくるんですね。この人これからどこまで成長するんだろうとか、逆に、どこまでとんがって生きていくんだろうとか、結末が気になってきてしまうのです。その意味では読ませる力はあるんだろうと思います。 一方、香港の人の(20年前の)価値観や生活感は、肌感覚で伝わってきました。日本人とは180度違うと言っていいくらいなので、すごく面白かったです。
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昔から香港という土地に不思議と興味をひかれていて、香港に関わる書籍を読もうと思ってまず手に取ったのがこの本。 読んで本当に良かった。 リアルな香港が作者目線で瑞瑞しく書かれていて、香港という場所がどういうところか、よくわかった。 香港へ旅行することになったときに読み返したけど、旅...
昔から香港という土地に不思議と興味をひかれていて、香港に関わる書籍を読もうと思ってまず手に取ったのがこの本。 読んで本当に良かった。 リアルな香港が作者目線で瑞瑞しく書かれていて、香港という場所がどういうところか、よくわかった。 香港へ旅行することになったときに読み返したけど、旅行でも役に立つことが多くあったし、本当、読んで良かった本。
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タイトルは日本の国歌「君が代」の歌詞のもじりから。 返還前後の香港で暮らした30代前半の日本人女性の、瑞々しいレポート。こんな文章書けたらいいのになぁと思う。 何が良いかって、彼女自身がしっかりと媒介になっている点がブレずに徹底している。人と人との生々しいコミュニケーション...
タイトルは日本の国歌「君が代」の歌詞のもじりから。 返還前後の香港で暮らした30代前半の日本人女性の、瑞々しいレポート。こんな文章書けたらいいのになぁと思う。 何が良いかって、彼女自身がしっかりと媒介になっている点がブレずに徹底している。人と人との生々しいコミュニケーションの軌跡、街の喧噪やごみの臭いがこちらに届きそうな描写、身を切るような筆者自身の自省を含め、すべてがストンと腑に落ちるように読めるのは、彼女の等身大レンズを通した街や人が丁寧に描かれているからだと思う。それも、留学を機に築かれた10年ものの関係を温め、そして新たな人々の出会いを追いながら、丹念に人の姿を追っていくやり方で。 根底には、時に憤ったりしながらも失われない、人々への温かい目線。おかげで今まで漠然と捉えていた香港と本土の違いも、いま香港が向き合う課題の背景も、今後は具体的な形を伴って目の前に立ち現れて来るように感じられる。
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香港返還が、現地ではどのように感じられていたのか。 物事は、どちら側から見るかで変わってしまうのだと、当然の事を思う。
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香港の返還には興味はあったが、旅行者としての視点を持っていなかった。 だから、返還がお祭り騒ぎのようであり、しかも香港の在住の人に対して、言い尽くされた「返還をどう思う?」という疑問でしかなかった。 それが、10年来の友人たちの今を通して、生活や考え方の変化、さらに広東語で近...
香港の返還には興味はあったが、旅行者としての視点を持っていなかった。 だから、返還がお祭り騒ぎのようであり、しかも香港の在住の人に対して、言い尽くされた「返還をどう思う?」という疑問でしかなかった。 それが、10年来の友人たちの今を通して、生活や考え方の変化、さらに広東語で近隣の顔見知りに本音を聞くことで、表層でなく、個々の人間に魅力を感じるほどまでに、迫ってくるものがある。 そこに生活する人のバックグランド、毎日の生活、人つながりで支えあう人々、土地、金、パスポートへの欲。そもそも移民の流入先として成り立っていた香港の、その大陸からの流入時期によって、オールドカマーが、ニューカマーを下に見る構図。 英語>広東語>北京語 という構図は、今はどうなのだろうか? どんな解説書を読むより、当時の香港という街が理解できたように思う。
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