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園芸家12カ月 の商品レビュー

4.1

65件のお客様レビュー

  1. 5つ

    23

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2022/01/30

 この本を手に取る前に注意したいのは、タイトルが『園芸 12カ月』ではなく『園芸"家"12カ月』であるところ、つまりこの本の中心は植物ではなく、園芸を愛して止まない人間の方だということだ。  たとえ園芸のことが分からなくとも、何か一つのもの――趣味でも子育て...

 この本を手に取る前に注意したいのは、タイトルが『園芸 12カ月』ではなく『園芸"家"12カ月』であるところ、つまりこの本の中心は植物ではなく、園芸を愛して止まない人間の方だということだ。  たとえ園芸のことが分からなくとも、何か一つのもの――趣味でも子育てでもペットでも――に夢中になって、それ中心の生活を送っている人なら、きっと共感するに違いない。いや、そんな経験のない人でも楽しめる。園芸が、植物が、いや土いじりが大好きで空回りしてしまう彼らを、果たして愛さずにいられようか。  そしてなんといっても好きなのが、軽妙な味わいのある独特な文だ。不思議なことに、文章を読んでいるのに、まるで四コマ漫画かコメディ映画のワンシーンを見ているような気分になる。読んでいると、思わずくすっと笑ってしまう。  こればかりは、本文を読んでもらった方が分かりやすい。以下は「1月の園芸家」の抜粋(p24~p25)である。 ===================  年があらたまるやいなや、園芸家は土を耕しに庭へとび出す。園芸家はシャベルをとりあげて仕事にかかる。石のようにかちかちの土と、やっきになって奮闘したすえ、やっとシャベルをへし折ることに成功する。こんどは鍬がこわれないと思うと、柄が折れる。そこでこんどは鶴嘴(つるはし)をとりあげる。まずそれで、去年の秋に植えたチューリップの球根を、どうにかこうにかたたき切ることに成功する。 ===================  ほら、ちょっと読みたくなってきたでしょう?  ところでこの本は、園芸マニアでない人にとっては馴染みのない植物名がぽんぽん飛び出してくるが、その楽しみ方は人それぞれだ。  興味のある人なら、図鑑やネットで一つずつ調べるもよし。巻末の訳注と並行しながら読むもよし(訳注は、日本の植物しか知らない読者向けに丁寧に書かれている。チャペックの育てていたものと同じ種類の植物を日本で育てた体験談なども載せられていて、これはこれで楽しい)。あるいは名前の響きからどんな植物かを想像し、あなたの頭の中の庭ににょきにょき生やすのも楽しいかもしれない。  また、文章ももちろん、随所にあるユーモラスなイラストも良い。これは筆者カレル・チャペックの兄ヨゼフが添えたもので、そんなエピソードからも和やかな気持ちになる。  とにかく、この本は誰でも気楽に、楽しい息抜きとして読める一冊であることは請け合いだ。

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2021/05/16

チャペック流のジョークがたくさん詰め込まれた園芸エッセイ。1月には園芸家がすることがないとお思いだろう…から12月まで月別で園芸家が行うことと植物についての考察。知らないことばかりだけれど、文体のしなやかさと視点の面白さで決して飽きることない珠玉の日常観察。

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2020/10/27

園芸家の一年をユーモラスに書いた一冊。 園芸に全く興味はなかったが、クスッと笑えるエピソードと、園芸を通して見る世界が、妙に引きつけられて、すぐに読み終えることができた。 私たちは、俯いているか、空しか見てない。 『だれだって、自分がふんでいるものなんか気にかけない。夢中で...

園芸家の一年をユーモラスに書いた一冊。 園芸に全く興味はなかったが、クスッと笑えるエピソードと、園芸を通して見る世界が、妙に引きつけられて、すぐに読み終えることができた。 私たちは、俯いているか、空しか見てない。 『だれだって、自分がふんでいるものなんか気にかけない。夢中でどこかへかけだしていって、せいぜい頭の上に浮かんでいるきれいな雲か、むこうに見えるきれいな地平線か、きれいな青い山をながめるぐらいなものだ。』 土をじっと見てみよう。観察してみよう。 世の中には不思議なことが多くあるが、わざわざ遠くにでかけたりしなくても、今自分が歩いている足下でさえ知らないことは多いのかもしれない。 もう一つ。心に残った「根」のはなしの引用。 『何かと言うとすぐに、根のことに話をもっていきたがる人たちがいる。…たとえば、われわれは根源にさかのぼらなければいけないとか、禍根を残してはならないとか、物事の根本をきわめなければいけないとか言う。』 『…根を掘るということが生まやさしい仕事でないこと、したがって根というものは、すべからく植わっている場所に、そのままそっとしておくべきものだということを、はっきり確かめた。』 根というものは、本物の植物ですら、掘り起こすことがそうたやすいことではないのに、ついつい、これが根っこだの、核の部分に触れようとする。 根を探ることそれ自体が、常に間違っているとは思えないが、私は少なくとも、「ほんとうにこれが根っこなのかな?」という疑問も持ちながら掘り進めること、わからないならそのままにしておくのもいいんじゃないかな、と感じた。 所々に出てくる、挿絵も魅力的でした。

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2020/05/12

何となしに本屋で買った本だけど、大当たりの内容。 約100年前に書かれた本とは思えないほどに小気味良い文章は、現代のコラムを読んでいるようで、あっという間に読めてしまった。 ユーモアたっぷりの少し皮肉を込めた楽しい文章がある一方、「労働の日には労働で得てきたものを祝おう」「秋...

何となしに本屋で買った本だけど、大当たりの内容。 約100年前に書かれた本とは思えないほどに小気味良い文章は、現代のコラムを読んでいるようで、あっという間に読めてしまった。 ユーモアたっぷりの少し皮肉を込めた楽しい文章がある一方、「労働の日には労働で得てきたものを祝おう」「秋には地上の葉や茎が落ちてくるが、決して休んでいる訳ではなく、地中では根が活発に伸びているのだ」等、おもわずハッとする表現も多く、長年読み続けられている理由もうなずかる作品。

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2020/01/08

どくとるマンボウ昆虫記のようなノリで面白かった. 園芸に詳しかったら,もっと楽しめたかも. (これが1920年代の作品であることに驚かされる)

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2019/10/07

チェコの作家カレル・チャペックの園芸エッセイ。植物を熱心に収集して思う通りにならない自然にやきもきし、もっと良くできそうな箇所を庭の隅に見つけては手を入れて…自分自身園芸趣味ではないのですが、趣味に生きることの楽しみは共感するところが多く、国や時代やハマるものが変わってもある種の...

チェコの作家カレル・チャペックの園芸エッセイ。植物を熱心に収集して思う通りにならない自然にやきもきし、もっと良くできそうな箇所を庭の隅に見つけては手を入れて…自分自身園芸趣味ではないのですが、趣味に生きることの楽しみは共感するところが多く、国や時代やハマるものが変わってもある種のマニアの生き方というのは変わらないものだなと感じました。

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2019/04/30

チャペックは好きなのだが、園芸にはあまり興味がなく(ズボラなため。花や木を眺めるのは大好きだけど。)これは初めて読んだが、チャペック好きなら読むべき名作だった。チャペックのユーモアと皮肉の効いた文章が堪能できる。 「園芸家というものが、天地創造の始めから、もしも自然淘汰によって発...

チャペックは好きなのだが、園芸にはあまり興味がなく(ズボラなため。花や木を眺めるのは大好きだけど。)これは初めて読んだが、チャペック好きなら読むべき名作だった。チャペックのユーモアと皮肉の効いた文章が堪能できる。 「園芸家というものが、天地創造の始めから、もしも自然淘汰によって発達したら、おそらく無脊椎動物に進化していたに違いない。いったい何のために園芸家は背なかを持っているのか?ときどきからだを起こして、「背なかが痛い!」とためいきをつくためとしか思われない。」(p41) 8月の園芸家の章での手紙のおかしさ。かと思えば11月では、枯れた植物について「自然は、店をしめて鎧戸をおろしただけなのだ。しかし、そのなかでは、新たに仕入れた商品の荷をほどいて、抽斗ははちきれそうにいっぱいになっている。これこそほんとうの春だ。いまのうちに支度をしておかないと、春になっても支度はできない。未来はわたしたちの前にあるのではなく、もうここにあるのだ。(中略)芽がわたしたちに見えないのは、土の下にあるからだ。未来がわたしたちに見えないのは、いっしょにいるからだ。」と、人間も生きていれば「わたしたちが現在とよぶ古い作り土のなかに」も、根が伸び、芽ができているのだと勇気づける。(p174) しかし、これは訳者の小松太郎の力でもある。小松太郎はドイツ文学者で、ドイツ語から訳しているわけだから、チャペックの元々の文章とは違っている可能性はあるわけだが、巻末の訳注を読むと小松太郎自身が相当の園芸家であり、ユーモアと皮肉の優れたセンスがあることがわかる。つまり作家との相性が良かった。「詩情にあふれた軽妙洒脱な文章」と解説にあるが、同様の才能を訳者も持ってないと、こんな風に訳すことはできない。ケストナーの訳者だから、適任だった。ケストナー、チャペック、こういう知的で洒落ててちょっと軽みもあるような、それでいてあたたかみがあり、人間の深い欲望や悲しみについても知りつくしているような上等の作家が児童文学を書いていた第二次世界大戦前のヨーロッパ文化の豊かさを改めて感じる。(これは児童書ではないけど。) 暇な時に適当に開いたところを読むような読み方で一生読み返したいような本だった。もちろん兄ヨゼフの絵も最高。この絵以外の絵で読むのはナンセンス。

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2019/02/11

1959年に訳出、1975年に出版された文庫本ではあるが、そもそも本書が書かれたのは、おそらく1928年ごろではあるが、全然古くは感じない。完全なる口語文と、奇妙なユーモア、そして普遍的な園芸愛に満ちた愛すべき園芸エッセイである(読んだのは旧版)。 チェコと日本の自然環境は違う...

1959年に訳出、1975年に出版された文庫本ではあるが、そもそも本書が書かれたのは、おそらく1928年ごろではあるが、全然古くは感じない。完全なる口語文と、奇妙なユーモア、そして普遍的な園芸愛に満ちた愛すべき園芸エッセイである(読んだのは旧版)。 チェコと日本の自然環境は違うし、そもそも園芸という趣味を持ち合わせていないので、チャペック特有の細かい所に入る描写で参考になった技術的な部分は無いけれども、戦争前夜の東欧でどのように楽しみを見つけるかは、参考になった。 雲や地平線や青い山を眺める前に、自分が踏んでいる足下の土を眺めたら、それがどんなに美しいものかを発見できる。と、チャペックは云う。「酸性の土と、粘土と、ローム質壌土と、冷たい土と、礫土と、劣等な土を見分けることができるようになるだろう。クッキーズのように多孔質で、パンのようにあたたかで、軽い、上等の土のありがたさがわかるようになるだろう。そして、女や雲をきれいだと言うように、そういう土を「こいつはすばらしい」と言うようになるだろう。」(118p)実際、花の美しさを描写した部分はほとんどなくて、1月のカチンコチンに凍った土の所から、ひたすら土作りの素晴らしさを語るのが、この本の趣旨なのである。私はよく知らないのだけど、これこそ園芸家なのだろうか。 訳注が、訳を飛び越えてほとんどエッセイと化しているのに、びっくりした。特に、マンドラゴーラという神秘的な植物についての一文は、様々な物語を私に想起させる(167p)。 また、このエッセイのもう1人の著者とも言える多数の挿画を描いた兄ヨゼフ・チャペックが、1945年、強制収容所で亡くなっているのを知ると、このへたうまな絵(ちなみに数えたら58挿画もあった)が愛おしくなる。 2019年2月読了

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2018/07/18

近代都市の園芸家の、月々の営みを、時にユーモラスに、時にシニカルに綴ったエッセイ。 レトリックに、政治や、科学用語、軍隊用語などがでてくる。 意外と言葉遣いがごつごつしている。 (翻訳者の問題なのかどうかはわからない。) 土づくりへの飽くなき情熱というか、執念を感じる。 本書...

近代都市の園芸家の、月々の営みを、時にユーモラスに、時にシニカルに綴ったエッセイ。 レトリックに、政治や、科学用語、軍隊用語などがでてくる。 意外と言葉遣いがごつごつしている。 (翻訳者の問題なのかどうかはわからない。) 土づくりへの飽くなき情熱というか、執念を感じる。 本書に出てくる「薔薇マニア」「ダリアマニア」のような、品種ごとのマニアと並んで、土マニアも相当数いるのだろうな。 チャペックは、先日、『ダーシェンカ』を読んだだけ。 彼が広く認められた作品は読まず、言っちゃ悪いが傍流に当たるのかな?というものばかり読んでいることになる。 時代を超えて読み継がれるのがこういう作品だとすれば、ちょっとご本人としては複雑なのかなあ、と思ってしまう。

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2018/05/13

20180513 前から読んで見たかった本。本人は園芸家ではないのだろうが園芸家のツボを押さえていてつい笑ってしまうが違和感無くうなづけたりする。一つの植物の完成には50年や100年の単位がかかる事もあっさりと書いていて希望の実現には長い時間がかかるが楽しんでやればいつかは実現さ...

20180513 前から読んで見たかった本。本人は園芸家ではないのだろうが園芸家のツボを押さえていてつい笑ってしまうが違和感無くうなづけたりする。一つの植物の完成には50年や100年の単位がかかる事もあっさりと書いていて希望の実現には長い時間がかかるが楽しんでやればいつかは実現されるという主張のように思えた。

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