夜の蝉 の商品レビュー
『空飛ぶ馬』に続く「円紫さんと私」シリーズ第2弾となる連作短編。 日常の謎としてももちろん良い作品ばかりなのですが、今回の短編集の裏テーマは恋愛と”私”の姉妹関係だと思います。 一話目「朧夜の底」でそのお姉さんが初登場。かなりの美人さんみたいなのですが、一方で”私”はどこ...
『空飛ぶ馬』に続く「円紫さんと私」シリーズ第2弾となる連作短編。 日常の謎としてももちろん良い作品ばかりなのですが、今回の短編集の裏テーマは恋愛と”私”の姉妹関係だと思います。 一話目「朧夜の底」でそのお姉さんが初登場。かなりの美人さんみたいなのですが、一方で”私”はどこかお姉さんに気後れみたいなものを感じているのかな、などとも思わされます。 そして、”私”のちょっとした恋心もなんだかくすぐったいです。この辺の心理描写の細やかさは北村さんならでは! そして、日常の謎としては「本屋さんでなぜか逆向けに並べられた本の謎」がテーマ。情景を想像するとなんだかかわいらしくて、子どもがやっていたら、迷惑だけどほほえましいなあ、なんて思っていたのですが、円紫さんの推理が導き出した犯人像は、何とも狡猾なものでした。 そして、円紫さんの推理を聞いて、”私”が顔もわからない犯人について思いを巡らすのですが、これが非常に的を得ているように思います。犯罪を犯さない程度に倫理を踏み越える冷徹なその表情……。表面に現れない人の裏の顔を想像させられました。 二話目「六月の花嫁」は”私”が友人の別荘にいったときの不思議な事件の真相を、円紫さんが推理するもの。 本格ミステリらしいロジックもあり、聞いてる方が照れくさいような、真相があったりと、とても爽やかな短編です。 そして表題作の「夜の蝉」”私”の姉の三角関係をめぐってのドラマとなります。 こちらも一話と同じく人の悪意を感じる作品でもあります。言葉にできない、ふと魔が差したとしか言いようのない悪意も、そしてためらいもなく嘘をつく、明確な悪意も、一つの謎から浮かび上がってきます。事件の構図と悪意の絡ませ方が秀逸です。そして、円紫さんの落語のエピソードも、こうした悪意の理解の一助になっているのもまた巧い。 そして、姉と”私”の姉妹関係にも注目。私は子供の頃よくお姉さんにいじめられていたらしいのですが、あるときを境にお姉さんはいじめるのをやめたそうです。 それがラスト、タイトルの意味と共に明らかになります。その瞬間、本を読んでいく中でどこかぎこちなく感じていた、”私”の姉に対する心理描写が、雪解けを迎えたように溶けてなくなってしまうのです。この瞬間が、読んでいてたまらなく愛おしく、そして優しく感じました。 自分にも妹がいます。男と女の兄妹なので、一様に比べられませんが、自分たち兄妹の子ども時代や現在の関係性にも少し思いをめぐらせてしまいました。 日常の謎としてももちろん良い出来ですが、”私”をめぐる人間関係に、より面白味と深みが出てきた作品だったと思います。 第44回日本推理作家協会賞 1991年版このミステリーがすごい!2位
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「夜の蝉」が涙が出るほどに良い。姉妹の愛情が素晴らしい。「空飛ぶ馬」に出てきた落語の「鼠穴」を思い出した。 さあ次は「秋の花」だ。
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円紫さんシリーズ2作目。相変わらず文章が心地いい。ミステリーというより普通の?小説として面白いと思う。
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前に「太宰治の辞書」という本のもととなる昔のシリーズ。 本当だ。主人公は女子大生だ。 でも、円紫師匠に会う回数は意外にも学生時代の方が多いのねと思う。 どっちかというと、円紫師匠がいい味というか名探偵。 彼女は意外と語りなのか。 ちょっと「太宰治の辞書」とは違う、何かが。
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人生の師ともいえる、噺家の円紫さんとの関係を縦糸に、友人の正子と江美、そして姉との関わりを横糸に、「私」の毎日と成長を描く、円紫さんシリーズ二冊目。 『朧夜の底』 正子のサークルの発表会をきっかけに、彼女のバイト先の本やさんで起こる不思議。 本屋さんの事件は特に気になる。 本人...
人生の師ともいえる、噺家の円紫さんとの関係を縦糸に、友人の正子と江美、そして姉との関わりを横糸に、「私」の毎日と成長を描く、円紫さんシリーズ二冊目。 『朧夜の底』 正子のサークルの発表会をきっかけに、彼女のバイト先の本やさんで起こる不思議。 本屋さんの事件は特に気になる。 本人は犯罪だと思っていない、いけないこと…本好きとしては許せない。 『六月の花嫁』 江美の知り合いのお嬢様の別荘で起こる、ちょっとした不思議。 別荘というのはいかにも推理小説らしくて良い。 『夜の蝉』 「私」は、美人で派手な姉に対してコンプレックスをはじめとするさまざまな複雑な感情がある。 姉の方もある。 姉の恋愛に絡む不思議。 姉妹が子供の頃からのわだかまりにケリをつけて、それぞれ一歩ずつ大人になる、良いお話。 嫌な女も出てくるけれど、姉妹に重きを置いて読んだ。 だから、とてもいい話。 「私」が、恋愛に対して関心が持てなかったり、洋服で自分を飾ることを恥じているようなところがあったり、という、女としての成長にためらいがあったようだったのは、女らしい姉に対するコンプレックスや胸の奥の反発が原因の一つだったのではないか? そのわだかまりも消えて、きっとこの先、女性として素敵に成長していくのではないかと思います。
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円紫さんと私シリーズ二作目 一作目より「私」の存在感がある。 円紫さんに謎解き以外の役目がまるでなかったからかも。 本屋で不思議なイタズラが頻発。その悪戯にこめられているかもしれない悪意。 クィーン、卵、鏡から連想されるものはーー? 夜の蝉は姉との話だったけど、「私」って印...
円紫さんと私シリーズ二作目 一作目より「私」の存在感がある。 円紫さんに謎解き以外の役目がまるでなかったからかも。 本屋で不思議なイタズラが頻発。その悪戯にこめられているかもしれない悪意。 クィーン、卵、鏡から連想されるものはーー? 夜の蝉は姉との話だったけど、「私」って印象は一人っ子。
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円紫さんと私シリーズの第2作目。 大学生の私が遭遇する日常の謎を、落語家の円紫師匠が解き明かす短編連作集です。 「なぜ本屋さんの本の向きが、何冊も逆なっているのか?」 「なぜチェスの駒が冷蔵庫の中に入っていたのか?」 「なぜ彼氏に送った演劇のチケットの指定席に違う女が座っているの...
円紫さんと私シリーズの第2作目。 大学生の私が遭遇する日常の謎を、落語家の円紫師匠が解き明かす短編連作集です。 「なぜ本屋さんの本の向きが、何冊も逆なっているのか?」 「なぜチェスの駒が冷蔵庫の中に入っていたのか?」 「なぜ彼氏に送った演劇のチケットの指定席に違う女が座っているのか?」 日々出会う不思議な出来事を、その後ろ側にある人間の心の部分を絡めながら、 優しい文章で解き明かします。 ひとつは人の悪意を、ひとつは友人の恋心を、 そしてもうひとつは、んー女って怖いなと(笑) 特に3つ目の「夜の蝉」が好きです。 姉と妹の微妙な関係がするすると良い方向へと向かうような、 幼少期の蝉の話の結末、にどこかほっこりします。 女の怖さ、したたかさをオバケが出たと表現するあたり、 見事です。 最後に「私」がつぶやく言葉、 「・・・おねぇちゃん」が何とも言えない読後感の心地よさよ!
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今回も日常の謎、ザラっとした悪意から憎めないいたずらまで。考えながら読むミステリの楽しみを思い出す。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「太宰治の辞書」から一気に思い立って遡る旅をしている。 遡っているのであるから『私』は当然、どんどん若返ってゆく。そして何たることか、こんなにもリンクしあっていたのだ。「秋の花」では悲しくも登場人物となってしまった少女や気の置けない友人たち。その後をたどる旅ではないそれ以前をたどる旅なのだ、初めから。 今回は噂の姉上もスッキリとそのたたずまいを表してくれた。
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シリーズ第2作。 悪意を隠す「謎」、愛を隠す「謎」。 これはミステリの体裁を借りたビルドゥングスロマンだったのでした。
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