土の中の子供 の商品レビュー
圧倒的なパワー
第133回「芥川賞」受賞作。両親に捨てられ、引き取られた先では虐待を受け続けた主人公。痛みでしか己の存在を実感できない彼の歪み。物語に引き込むパワーに呑まれます。爽やかな読後感、ではありませんが……。
たいら
明るいこと、楽しいこと、温かいこと、成功体験、人の助け、そういった何かがなければ苦しみを乗り越えることはできないと思っていた。この本はどこまでも暗い。生まれながらに、ずっと理不尽な被暴力に塗れてきた主人公。状況が良くなることなど一切ない。それどころか、トドメを刺す極限の理不尽な暴...
明るいこと、楽しいこと、温かいこと、成功体験、人の助け、そういった何かがなければ苦しみを乗り越えることはできないと思っていた。この本はどこまでも暗い。生まれながらに、ずっと理不尽な被暴力に塗れてきた主人公。状況が良くなることなど一切ない。それどころか、トドメを刺す極限の理不尽な暴力が降り掛かる。だが、主人公は自ら自分に追い込みを掛けて、死にかけ、そしてその結果、過去を乗り越える。不幸と苦しみの極限で、彼は過去を乗り越えられたのだ。この小説は凄い。苦しみしかない境地で生きる人に読んで欲しい。きっと救われる。
Posted by
破滅と消極的な暴力への衝動に翻弄されながら生きている虐待サバイバーの男の話。 特に過去の回想のあたりなど、いまいちリアリティに欠けるようで没頭できなかった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
うーん、短くてすぐ読めるけど、よく分からんお話。全体的に暗くて、でもただ暗いだけであまり楽しめなかった。 2つの物語が入っていて、最初読んでて、これは続きなのか?それとも全く別のお話なのか、よく分からなかった。最初のお話も、時が行ったり来たりだったから。 結論、最後の最後で別のお話で、作者としても元々別だけど、実際並べてみると似たところがあったとのことで、読み手が分からなくなるのは想定内なのかな、という気がするけども。 唯一、最初のお話で、「自分から逆算して、自分がこういうところがあるからきっと親もそうなのでは、と思うことがある」というにはなんだか考えさせられた。
Posted by
読んでしばらく経ったけど この本のあのシーンが抜けない。 凄すぎて、というか怖いというか。 口の中にあの触感が。 でもあぁそのままでもいいや。 ってなんか気持ちわかるかも。 最後 かっこよかったです。 2007年のを初読み。 読み落とさなくてよかった。
Posted by
「まるで喜びを身体全体で表現しているかのような、両手を挙げた仰向けのヒキガエルが、アスファルトの上で平らに潰れていた。」いったい誰がこんな文章を書けるだろうか。この感覚をこんな風に表現できるだろうか。なぜ中村さんの文章はこんなにも僕の感情に寄り添えるのだろうか。 壮絶な設定の「土...
「まるで喜びを身体全体で表現しているかのような、両手を挙げた仰向けのヒキガエルが、アスファルトの上で平らに潰れていた。」いったい誰がこんな文章を書けるだろうか。この感覚をこんな風に表現できるだろうか。なぜ中村さんの文章はこんなにも僕の感情に寄り添えるのだろうか。 壮絶な設定の「土の中の子供」だが、日々のニュースで、それが決して絵空事ではないと知らされる。すべてを背負い、それでも僕らは生きていかなければならない。
Posted by
【土の中の子供】 土に埋められた記憶があるならば、生も死も穿った感覚になるのかな。 その時の気持ちのベクトルで、生と死の狭間を行ったり来たり。 そんな瞬間は、あるから、分かる。 【蜘蛛の声】 本当の自分が、また違う自分に語り聞かせている。 蜘蛛の声として。 暗いとこにいたいなら...
【土の中の子供】 土に埋められた記憶があるならば、生も死も穿った感覚になるのかな。 その時の気持ちのベクトルで、生と死の狭間を行ったり来たり。 そんな瞬間は、あるから、分かる。 【蜘蛛の声】 本当の自分が、また違う自分に語り聞かせている。 蜘蛛の声として。 暗いとこにいたいなら、いればいい。
Posted by
「土の中の子供」と「蜘蛛の声」の2編。 絶望感で終わるのかと思いきや、 本作では最後に主人公に再生の光が差し込む。 どんなに暗く辛い人生を送っていたとしても、 一筋の希望が見えれば救われるものだと感じた作品。
Posted by
もし虐待に耐えて死なずに生き延びたとしたら、その人はこのように世界からの疎外感を感じるのだろう。 死に値すると判を押す自己規定、痛みや恐怖でもってしか感じられない生命。 絶望ではなく再生のラスト。 主人公は強かった。
Posted by
中村文則の作品の主人公の多くは自らの過去、幼少期に大きな精神的傷を負っている。 目も当てられないような、息が詰まるような純粋な狂気。悪。 世界はそのような悪が生み出した惨状を一瞥しただけで何事もなかったかのように過ぎ去り世界の均衡状態を保つ。 多くの人間が通り過ぎ忘れ去られた事件...
中村文則の作品の主人公の多くは自らの過去、幼少期に大きな精神的傷を負っている。 目も当てられないような、息が詰まるような純粋な狂気。悪。 世界はそのような悪が生み出した惨状を一瞥しただけで何事もなかったかのように過ぎ去り世界の均衡状態を保つ。 多くの人間が通り過ぎ忘れ去られた事件の時間、空間の中に被害者はいつまでも取り残され悪意にさらされた精神は歪む。 この作品の主人公も恐怖にさらされ続けたせいでその恐怖に支配されず恐怖を支配することこそが復讐であると考えるようになってしまった。 自らの意思で恐怖の根源、すなわち死へと向かう行動を取ることでしか自らの生を実感できない。 幸せを望むと同時にどこかで破滅する未来を無意識に予感してしまう。 それは同じような境遇を持つ不感症の同居人白湯子も同様である。 自らの過去を内側に封印するのではなく振り返り、白湯子とともに共有することで死を伴わない生を実感できるようになる。 これは悪によって歪められた世界の一部の再生へと向かう物語。
Posted by