破戒 の商品レビュー
身分差別が未だ残る時代、部落出身の教師丑松が父から授かりし戒めとは自身の出自を隠す事。理不尽さに対する義憤、周囲に知られる事を恐れる気持ち、同輩の為に声を上げる者達を横目で見ながら日常を過ごす心苦しさ、内面の葛藤が生々しい。現代においても、辛い過去の経歴、LGBTQ、宗教的な信条...
身分差別が未だ残る時代、部落出身の教師丑松が父から授かりし戒めとは自身の出自を隠す事。理不尽さに対する義憤、周囲に知られる事を恐れる気持ち、同輩の為に声を上げる者達を横目で見ながら日常を過ごす心苦しさ、内面の葛藤が生々しい。現代においても、辛い過去の経歴、LGBTQ、宗教的な信条を持つ方々がおり、彼らの中にはアウディングや差別に苦しんでいる者もいるかもしれません。丑松の苦悩は時代を超えた普遍的な物であり、それ故に価値がある小説だと言えるのかもしれません。
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島崎藤村『破戒』 部落出身の瀬川丑松が、「穢多であることを決して口外してはならぬ」という父の「戒め」を破ってしまうまでの話。 部落出身者であるとカミングアウトするまでの激しい葛藤と苦悩とが緻密に、力強く描写されている。 世間一般の差別の眼が、抗い難く、強力に、瀬川自身に内面化されてしまっている。それゆえ、「理性」の次元では穢多であることを恥じる必要はないと分かっているけれど、「本能」の次元では自らが穢多であるという事実が露顕することをどうしても恐れてしまう。 穢多が差別される現実を目の当たりにし、また「瀬川が穢多である」という噂が周囲に広がっていく中で、「世間の非難」と「社会的放逐」とに対する恐怖が募り、じわじわと丑松の精神を追い込んでいく。 同時に瀬川は、穢多である自分には世間一般の人と同じ幸せを願うことはできないのだという、とてつもない孤独感に苛まれていく。 そういった被差別者の内面に真に迫るような筆致が魅力的だ。 作中の巧い仕掛けとして、「父」と「猪子蓮太郎」という2人の登場人物がいる。 父からの「戒め」は、呪いのように瀬川の人生につきまとう。その一方で、自らの師と仰ぐ、同じ被差別部落出身の思想家である猪子蓮太郎への憧れを募らせ、その人物に自らを同一化させていく。 そのことが「自己の分裂」を瀬川にもたらすのである。 すなわち、「破戒」を《禁忌》だと考える自分がいる一方で、「破戒」を《使命》だと考える自分がいる。 その「二つの自分」の狭間で激しい葛藤に苛まれるのだ。 凄まじいほどの「文学の力」というやうなものを、感じた。 教科書には絶対に載せられないだろうけれど、現代に於いては批判されるべき価値観が小説の中に保存されてはいるけれど、ーいや、むしろそうであるが故に、ーこの作品はスゴいと感じた。 物語の結末はこれでよかったのか。落とし所が他にあり得たようにも思う。
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まだ身分制が残っている時代。身分によって差別されるということが行われた。その階級に生まれるということだけで、人に後ろ指を指される。主人公もそういう生まれの人物である。 主人公が、同じ階級の人々が受けてきた境遇を見てきた。そのような状態に自分も置かれてしまうという恐怖があった。 主人公の同じ人として扱われない自分の身分を見つめている様子は、胸に迫ってきます。
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人には言えない秘密に苦しむ主人公。いい奴すぎる親友キャラと薄幸のヒロイン。古き良きギャルゲの世界。 筋はともかくとして、とにかく文章が素晴らしい。
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穢多という重いテーマの作品、100年以上前に書かれたとは思えないほど読みやすかった。親しい先輩や友人に言い出せない葛藤は読んでいてとても共感できた、どうか救いのある結末になって欲しいと思いながら読みました。
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主人公である丑松の自分の生まれ持った「穢多」という身分に対して、後悔し、懸命に生きていく様子がよく表現されていた。序盤から最後まで暗く重いテーマで非常に読み応えのある本だった。
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思っていたよりも、読みやすかった。 丑松の心情が揺れるたびに、こちらもドキドキハラハラ。 こういった問題は、形は違えど、時代が変わってもなくならないのだろうなぁ、とも感じた。 銀之助やお志保のような心を持ちたい。
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学校の授業ではたまに触れることもあったかと思いますが、島崎藤村の破戒をまともに読むまでは自然主義文学ってなに?という状態でした。 じっくり読んでみると本書が自然主義文学の名作と呼ばれる理由がわかりました。 主人公の丑松だけでなく、恐らく誰にでも抱いたことがある、内にある微妙な...
学校の授業ではたまに触れることもあったかと思いますが、島崎藤村の破戒をまともに読むまでは自然主義文学ってなに?という状態でした。 じっくり読んでみると本書が自然主義文学の名作と呼ばれる理由がわかりました。 主人公の丑松だけでなく、恐らく誰にでも抱いたことがある、内にある微妙な感情を見事に文章だけ表現しきっています。 主人公が抱く、哀しみや怒り悔しさなど克明に伝わります。 島崎藤村のほか作品も読んでみたいです。
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差別がある時代に、自分が差別対象者(穢多)であることを隠して生きている丑松。 同じく穢多でありながら、身分を明かして堂々と活動している思想家・猪子を師と仰ぎ、彼にだけは素性を打ち明けたいと思いつつも中々打ち明けられない状態…。 彼なら受け入れてくれるだろうと思いつつも、父から「絶対言うな」と言われていたのもあり、中々言い出せない気持ちは分かるので、「いつ明かすんだろう」とドキドキしました。 最終的に自分は穢多であると勤め先の小学校にて告白した時、『卑しい穢多なのです。』との言葉に、それが当時の世情だったとしても「そこまで卑下しなくても…」と少し胸が締め付けられる思いでした。ここの告白シーンは強く印象に残っています。 穢多であるとカミングアウトすることで周りの態度がどう変わるかと思いきや、散々穢多を否定していた銀之助は変わらず丑松を助けようとし、穢多の子を煙たがってた学校の子供たちは変わらず丑松を慕い、学校を去る丑松を見送りに来る。思いを寄せていたお志保とはここにきて思いが通じる。素直に良かったなあと思いました。 自分の素性を告白し、今までの世界を破壊した丑松のこれからは明るいなと感じることができる良いラストでした。
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あまり使わない言葉が沢山出てくるので、読了に時間が掛かりました。 文章や内容は、とても素晴らしかったです。 親の教えを破る、勇気あるお話でした。
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