破戒 の商品レビュー
初めましての島崎藤村。思っていたよりずっと読みやすい文章で惹き込まれました。文章が情感に富み、美しく、風景描写は映像や絵画を眺めるようです。物語としてはとても胸が痛くなるような、読んでいて私も何処かで誰かを謂れのない差別をしているのかもしれないと思ってしまいました。自分ではどうす...
初めましての島崎藤村。思っていたよりずっと読みやすい文章で惹き込まれました。文章が情感に富み、美しく、風景描写は映像や絵画を眺めるようです。物語としてはとても胸が痛くなるような、読んでいて私も何処かで誰かを謂れのない差別をしているのかもしれないと思ってしまいました。自分ではどうすることも出来ない自出故に蔑まれ、差別される者の苦しみ。部落出身であることを隠しながら生きている丑松の辛さは、事柄が違えど自分にも通じる部分があり尚更辛くなりました。解説にもありましたが、この作品は一種のプロレタリア文学とも読めると思います。今も人種差別や男女差別が絶えない世を見ると差別との闘いが如何に難しく度し難いものであるかを痛感します。
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2020/1/5 初めて島崎藤村の作品読んだけど、読み応え抜群でした。 ストーリーはよく知られている通りで、穢多の出である瀬川丑松という主人公が自分の身分を隠しながら教師として生活する話です。 と、これだけ書くと簡単な話なように思うけれど、主人公の思いや葛藤が書かれた文章に飲み込...
2020/1/5 初めて島崎藤村の作品読んだけど、読み応え抜群でした。 ストーリーはよく知られている通りで、穢多の出である瀬川丑松という主人公が自分の身分を隠しながら教師として生活する話です。 と、これだけ書くと簡単な話なように思うけれど、主人公の思いや葛藤が書かれた文章に飲み込まれたって感じでした。 穢多を隠さず世間に堂々と公表している猪子蓮太郎先輩の本を読んで丑松も色々自分の出自について考えている様子がとても丁寧に描写されています。また、周囲の人々のキャラも中々。銀之助は本当に仲間思いで最後までいいヤツ…!!校長や文平は中々に嫌なヤツに振り切ってるなーという感じです。 まだ、穢多非人の差別があった時代の人々の考えや思い、行動というのはこういう感じなんだというのがありありと伝わってきて、丑松サイドとしてみると最後までやりきれないというか、悔しいというかそんな思いなんじゃないかと思います。丑松がずーっと自分のことについて黙っている一方で、周囲から彼についての噂が広がっていく…というのは村社会に限らず、今の世間や世の中でも多分にあることではないかと。 また、人間の本質というか、内面の醜いところも書かれています。 お志保ー!!!という感じもありますが、だんだんと物語に引き込まれる不思議な感覚で読むことができました。
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この作家は初読であったけども、とても読みやすいし感情移入しやすかった。テーマが差別というところで自分が想像していたものとは大分に違いがあった。それは多分、海外からのニュースで見ていたものが先入観としてあったからだと思う。しかしこの本では差別を問題に考えるというより、1人の人間とし...
この作家は初読であったけども、とても読みやすいし感情移入しやすかった。テーマが差別というところで自分が想像していたものとは大分に違いがあった。それは多分、海外からのニュースで見ていたものが先入観としてあったからだと思う。しかしこの本では差別を問題に考えるというより、1人の人間としての苦悩が書かれているように自分は感じた。巻末の解説も自分にはとても参考になった。ネタバレではないのでここから読んで、本編を読むのもアリと思う。
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正直言って、この本がなぜ多大な評価を受けているのか、よくわからなかった。しかし、教養の一環として読むべき本だとは思う。 解説を読んだ後にもう一度読み返したいと思った。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
思ったより読後感のイイ感じの作品だった。丑松が教室で子供達に告白するシーンは圧巻だった。前振りが長い割には告白の部分の分量が少なかったのが若干残念だった。あそこまで我慢してた読者ならもっと長くてもたのしめたんじゃないか。
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印象は、24の瞳に近い。 しかし、物語が具体的で、悲しく、胸を締め付けるような気持ちになることが多かった。 これが数十年前に当たり前の価値観としてやり取りがされていたというは、、ショック。 現在でも地域性かもしれないが。 小説として、素晴らしい出来だと感じた。
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主人公の丑松は、生徒や教師仲間からも信頼される20代の学校教師である。しかし、周りからは常に考え事をしていて何かに苦悶してるかのようにも思われていた。その苦悶の原因は、丑松の生まれは部落であり、彼自身がその事実について世間から隠し続けてきたことであった。小説の中には、穢多という今...
主人公の丑松は、生徒や教師仲間からも信頼される20代の学校教師である。しかし、周りからは常に考え事をしていて何かに苦悶してるかのようにも思われていた。その苦悶の原因は、丑松の生まれは部落であり、彼自身がその事実について世間から隠し続けてきたことであった。小説の中には、穢多という今では差別用語とされている直接的表現が何度も出てくる。他にも、新平民、賤民などといった言葉が平然と使われており、差別を是としていた当時の時代背景と空気感が垣間見え21世紀に生きる我々にとってはショッキングですらある。 部落民として苦悩とともに生きてきた丑松の父は、どんなことがあろうとも自分の身分を他人に打ち明けてはならないと丑松に戒める。人々から隠れるように山奥で牧夫として細々と暮らしていたその父が死に際に、丑松に残した唯一の遺言は、「忘れるな」であった。丑松は、父のこの戒を心に刻み込みながらも、同じく部落出身で自らを「我は穢多なり」と告白した思想家である猪子連太郎に傾倒する。連太郎と個人的にも親交をもつようになった丑松は、自らの身の上を連太郎に打ち明けたい気持ちと、父の戒めとの間での葛藤に苦しむ。そして、自ら打ち明けざるとも、周辺が丑松の出身について疑問を抱き始めるのである。 タイトルの破戒とは、戒めを破ることだ。周囲が薄々気がつき始めたのと時を同じくして丑松はついに周りに自らの生い立ちを告白するのである。授業中、自分の生徒に対して土下座をし、穢多であることを詫びたのである。穢多であることそのものが罪であるかの如く、人格者としてそして教育者として自他共に認める者ですら差別に抗う事が出来ない現実をあからさまに、かつ残酷にも描き出す。 同じ読みの言葉で破壊という響きが重なり、告白のよって丑松の行く末が破壊的な結末を迎えてしまうのではないだろうかという心配が、読み進むにつれて付きまとう。しかしながら、藤村はそこまでは残酷ではなかった。学校を追われ町を出て行くことになり、その身の上を知っても尚、丑松を慕う、お志保の存在。そして、授業を抜け出し、見送りに来た生徒達。これによって、我々は差別の暴力性に打ち勝つ人間性は存在することを読み光明を見出すことが出来るのである。 有島武郎は、「生まれ出ずる悩み」で、才能があっても不遇な労働を余儀なくされ、搾取される立場から抜け出すことのできない田舎の若い労働者の苦悩を描いたが、この物語もまさしく生まれ出ずる悩みである。有島の描く「悩み」は、健全な資本主義と民主主義の発展によって解決の道が開けるかもしれない。しかしながら、丑松の悩みは、それらを持ってしても解決が困難な問題である事を突き付けるのである。
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「穢多」に対する謂れのない差別にゾッとした後、もしこの「穢多」を「同性愛」なんかと読み替えてみたら、と考え寒気がした。 まだ隠し通す「戒め」を守り続けねばならぬ人々がいる。
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日本版の『罪と罰』だと思っている。 より身近に感じた分、『破戒』の方が考えさせられた。 生まれながらにして、家柄という罪を背負い、差別をおそれ、それを隠しながら生活する様子、戒を破り告白するまでの苦悩、苦痛が、私の中でラスコーリニコフと被った。 努力や根性ではどうしよう...
日本版の『罪と罰』だと思っている。 より身近に感じた分、『破戒』の方が考えさせられた。 生まれながらにして、家柄という罪を背負い、差別をおそれ、それを隠しながら生活する様子、戒を破り告白するまでの苦悩、苦痛が、私の中でラスコーリニコフと被った。 努力や根性ではどうしようもない”家”という罪や、残酷な差別に、やるせなくなる。 救済できるのは、”家族”や、”宗教”や、”お金”ではなく、 ”友人”、”愛情”であるという教訓を得たことも、『罪と罰』と重なった。 ”師弟愛”が『破戒』では加わっている。 また読みたい。また考えたい。
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部落差別自体に興味はないが、藤村の代表作なので一度読んでみたかった。徳冨蘆花の『不如帰』もそうだが、絵に描いたような校長らのヒールっぷり。『坊ちゃん』もそうだが、この頃の教師はみなこんなものか。
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