狂人日記 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読んでたときは、主人公の男が感じる幻覚や幻聴、悪夢をどう捉えていいのか探しつづけながら一ページ、また一ページとすすめていった。ここ、いいなととりわけ思った場面はなかった。 でも桂子と対話する最後の場面がおそろしく気持ちを攫っていった。この小説の大半の部分を仕方なく読んでいたような気もするのだけど、仕方なく読みつづけてよかったなとおもう。話に出てくる人たちのことをどうやらちゃんと見ていたみたい。 解説が佐伯一麦でおおお!となった。佐伯一麦が『渡良瀬』のときに読んだ思い出の小説だとおもうととても感慨深い。好き。
Posted by
狂人とはどこからなのか。自分は健常者なのか。境目のあやふやなところを綱渡りのようにぐらぐらしながら歩いている主人公の定まらなさがどうにも切ない。痛い、苦しい、おかしい、怖い、それでも共感してしまう。なんのために生きているのか、生かされているのか考えなければいけない小説。
Posted by
こういう、ああでもないこうでもないとぐずぐず言う人は嫌いだ。繊細なのかどうなのか知らないが些細なことで傷つきやすい。なのに人を傷つけることには敏感ではない。どうしろというのかと言いたくなる。私自身の鏡だと言えないことはない。しかし少なくとも私は諦めている。
Posted by
浅田作品はいくつか読んだが、色川名義の小説は初。少し前の読売新聞に関連記事があり、読んでみた。 読み始めは幻想や夢の話が多く、途中で投げ出そうかと思ったが、次第に引き込まれてしまった。 殆どの場合、狂人も常人も見ただけでは分からない。自分に見えているものと他人が見ているものが...
浅田作品はいくつか読んだが、色川名義の小説は初。少し前の読売新聞に関連記事があり、読んでみた。 読み始めは幻想や夢の話が多く、途中で投げ出そうかと思ったが、次第に引き込まれてしまった。 殆どの場合、狂人も常人も見ただけでは分からない。自分に見えているものと他人が見ているものが同じとは限らないし、自分が狂人でないという確証も持てなくなってくる。 (110)
Posted by
小説を読んでいて「これ、俺のことじゃないか?」と思えることってあると思う。 ちょっとおかしな人だったら「断りもなく俺のことを書きやがって」と著者にクレームを入れる、なんてこともあるだろう(実際にあった訳だし)。 僕はそこまで頭がおかしく……って書くとまずければ……純情無...
小説を読んでいて「これ、俺のことじゃないか?」と思えることってあると思う。 ちょっとおかしな人だったら「断りもなく俺のことを書きやがって」と著者にクレームを入れる、なんてこともあるだろう(実際にあった訳だし)。 僕はそこまで頭がおかしく……って書くとまずければ……純情無垢じゃないから、そんなことはしないけれど、読んでいる間「これ、この狂人、俺にそっくりだよな」とずっと思っていた。 生き方が似ている、というか、他人への接し方、外の世界への接し方、社会との折り合いのつけ方、要するに己自身への接し方、それらがまるで自分を客観的に見ているように描かれている。 そりゃそうだよ、こんな生き方してたら精神が疲れちゃうよ。 実際、僕自身が今、職を探してあえいでいるのは、数年前に精神を壊して、仕事が続けられなくなったから。 この本の主人公みたいに幻影を見ることはなかったけど、幻聴はあった。 入院するまで重くはなかったけど、そこで人生、かなり狂わされた。 そんなこんなの自分の影が本の主人公に重なりあって、読んでいる間、ずっとずっと得体の知れないプレッシャーがのしかかっていたように思う。 そして、とてつもなく「生々しい」。 圭子さんだって、これじゃ浮かばれないだろう。 ずっとずっと彼を助けられなかった、彼を裏切った、そういった自責の念に苛まれながら生き続けなきゃいけないんだから。 彼女の心中を察すると、そりゃ切ないし悲しいし、何とも言えない。 彼女だって精神が異常なんだから……。 つらいよね……つらい。 それでも圭子さんは許されたんだから、母親よりも良かったのかも知れない。 そういえば、同じく色川武大の「怪しい来客簿」に書かれていた印象的なフレーズを思い出した。 『私たちはお互いに、助け合うことはできない。許しあうことができるだけだ。そこで生きている以上、お互いにどれほど寛大になってもなりすぎることはないのである』 まさにそれを地でいったのが主人公なのだろう。 最後の最後に主人公が発する言葉。 「俺もつれてってくれ。おとなしくしてるから」 これこそが、この主人公が、心の底から素直に発することが出来た、生まれて初めての、そして最後の言葉だったのではないだろうか。 最後の最後に、やっと自分に正直に発することが出来たのではないだろうか。 そう考えると、余計にむなしい。 本当に本当に、つらい……つらい……たまらなく、つらい。 この本に巡り合ったことに感謝している。 ただし、後悔することになる可能性も含まれているだろうな、とあくまでも自分自身を客観的に顧みて、嘘偽りなくそう感じている。
Posted by
支離滅裂な譫妄は狂人が常人を装って叙述しているようでそのしっかりした文章は彼が常人であることをはっきり意識させる。退院まではそう思っていた。しかし『狂人日記』の真価は圭子と同棲を始めた以降から発揮される。自身の狂気が自分の意識外で起こる恐怖と、親密なる者を喪失もしくは緊密に成れぬ...
支離滅裂な譫妄は狂人が常人を装って叙述しているようでそのしっかりした文章は彼が常人であることをはっきり意識させる。退院まではそう思っていた。しかし『狂人日記』の真価は圭子と同棲を始めた以降から発揮される。自身の狂気が自分の意識外で起こる恐怖と、親密なる者を喪失もしくは緊密に成れぬ恐怖が巧みに描写されている。時々真理めいたことを独白しながら、常人が欠陥者であることを体感せぬまま実感させられる件は哀しみと孤独を伴い読んでいてなかなかきつい。 本作品は心疾抱えた者が書いた自伝や私小説かと思っていたが、解説で色川氏は『麻雀放浪記』の作者だと知る。「狂人」を推察しながら本書を仕上げるは作者の力量に恐れ入る。
Posted by
読み終わるのが惜しいのに、あっという間に読み終えてしまいました。 精神科にかかったことのある私には共感するところも多く、すっぽりと作品に浸かってしまいました。 私はいま色川武大さんにハマっています。すごく読みやすくて、ずんずんと読めてしまいます。面白いのかというと、よく分かりま...
読み終わるのが惜しいのに、あっという間に読み終えてしまいました。 精神科にかかったことのある私には共感するところも多く、すっぽりと作品に浸かってしまいました。 私はいま色川武大さんにハマっています。すごく読みやすくて、ずんずんと読めてしまいます。面白いのかというと、よく分かりません。作家本人の非凡な人生と神経病による幻視幻覚がベースになっているので類を見ない作品なことは確かですが、果たしてそれが面白いと呼んで良いものか。 『明日泣く』『百』『狂人日記』と読んで、今の時点で感じたことは、色川武大さんは現代の作家さんだなぁということ。昭和四年生まれだから戦争を経験しているにも関わらず、そこはするっと後ろへ流して、でも旧い匂いは残っていて、その匙加減が私は好きです。 そして小説を書くのが本当に巧いと思います。作家の個性を主張しない文章の巧さがあります。言葉がキザじゃないのです。小賢しくないというか、まっすぐな文章というか、正直な文章というか、そういう感じがします。そんなところは大好きな北村太郎さんに通ずるところがあります。 それから、言葉が生きているとでも言うのでしょうか、ほぼ心象描写だけなのにそこに景色が見え、生々しい現実世界が広がります。 主人公が語っていくという形はどことなく太宰治っぽい感じがあります。
Posted by
確かに狂人の日記。読んでると段々しんどくなる。誰しも程度の度合いとは思うものの、やはり、ここまで違うと本人も回りも大変だ。この手の話は基本誰も救われないので、あまり好みではないかな。
Posted by
どこか人間的な回路の一部が壊れていたり、制御出来ないと言う事を知っていて、「自分は普通じゃない」と自覚もある。 それは一時的なものであったり、あるキッカケで発露するものであったりする。常に壊れた状態である訳ではない。仕事もしていた。人とも触れ合っていた。 ただ働いて食って寝る…そ...
どこか人間的な回路の一部が壊れていたり、制御出来ないと言う事を知っていて、「自分は普通じゃない」と自覚もある。 それは一時的なものであったり、あるキッカケで発露するものであったりする。常に壊れた状態である訳ではない。仕事もしていた。人とも触れ合っていた。 ただ働いて食って寝る…そう言った普通の生活を続けていくことが出来なくなったり、出来なくしてしまうそんな自分が好きになれなかったり排他的になってしまったり… 普通に生きようと変わる努力を続ける二人のやり取りを見ていて、普通とは一体なんなのであろうかと考えさせられてしまいました。 普通じゃない。 マトモじゃない。 気が狂ってる。 普通に見えてもみんな何処か狂っていたり普通じゃなかったりする筈… 要するにどんな風に出てしまうかが問題何だろうな。 人の脳裏を駆け巡る思考。それを活字で読んでいるからか本書に異常な印象はあまり受けませんでした。どっちかと言うと遣る瀬無さや諦観を感じた。 頭に中がどうであれ、生きるとは苦しむと言うことか…
Posted by
小川洋子さんのラジオで紹介されていたので知った。 狂人の感じた気持ちや情景がえがかれていたが本にして読むと狂人は自分のような気がしてくる。 人はみななにかしらくるってる。常人のふりをしてしか社会ではいきてはいきにくいのだろ。 ま、幻はみることはできぬが。
Posted by