惜別 の商品レビュー
右大臣実朝がけっこう読みにくい。 自分のあほさ加減を知る。 それに比べると惜別は読みやすくはなる。 が、私にはそこそこの面白さ。
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「右大臣実朝」 源実朝は、鎌倉幕府三代目の将軍である まつりごとに対しては常にあざやかな采配をふるい 風流人にして、その短い生涯のうちに「金槐和歌集」を編んだ才人でもある 鷹揚な性格で、多くの人に愛されたが 海外に旅立つ夢だけはかなえられず 最後は甥の公暁に暗殺された 実朝は、幕...
「右大臣実朝」 源実朝は、鎌倉幕府三代目の将軍である まつりごとに対しては常にあざやかな采配をふるい 風流人にして、その短い生涯のうちに「金槐和歌集」を編んだ才人でもある 鷹揚な性格で、多くの人に愛されたが 海外に旅立つ夢だけはかなえられず 最後は甥の公暁に暗殺された 実朝は、幕府と朝廷の結びつきを深めることで 権力の一極集中を進めようとしていたから それに危機感を抱く人々が公暁をそそのかしたのだ、とも言われる ……「右大臣実朝」は昭和18年の作品 太平洋戦争に敗色の濃くなってきた時期であるが それを踏まえるならば、これは近衛文麿への皮肉ともとれるだろう 進歩主義を唱えながら、結局は開戦に加担する形となった そんな近衛には殺す価値もない、そういうことではないだろうか 近衛文麿は「大政翼賛会」というものの創設に携わったことでも知られている 「右翼も左翼も日本を思う心において同じ」という思想のもとに すべての政党勢力を統合しようとする、大連立構想で作られた組織である それはつまり、理想主義者が臭いものに蓋をしただけの おためごかしの平和にすぎないが 国民向けのプロパガンダとしては強い魅力を放っていた …「大東亜共栄圏」は、その延長線上にあったスローガンである 「惜別」 大政翼賛会の下部組織にあたる「文学報国会」からの依頼によって書かれた作品 大東亜共同宣言をたたえる小説を書きなさい、ってなことで 魯迅の日本留学時代をネタにしている 魯迅は、「狂人日記」「阿Q正伝」などで知られる近代中国の大作家なんだけど 中国共産党からどういう評価を受けているかは知らん 同胞の死をあざ笑う中国人の姿に衝撃を受けて 孫文の民族主義に追随したと言われるが 太宰ならではの視点で、これに異を唱える内容となっている その要点は、やはり「理想を一途に追い求める人々」の欺瞞性だ つまりこの作品は いわば「大きな物語」を欲してやまない人々に対する 痛烈なアンチテーゼなのである こんなもの採用した報国会こそいい面の皮、であると同時に ここでは、晩年の「如是我聞」につながっていく 太宰文学の最終的なテーマをも見て取ることができる
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もう滅ぼうとしているのを自覚しながら、ならば明るく滅んで見せようという実朝は太宰の憧れだろう。最後の最後まで弱音を出してグズグズせず、静に微笑みでも浮かべながら、終わりが来るのを待つ。現代でもこの理想化された実朝に魅せられるのではないか。
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『右大臣実朝』と『惜別』の二作品から構成される。 いずれも文豪と称されるだけある筆力だった。 にわかファンなので、あまり詳しいことは知らないし語れないけれども、説得力のある、ものすごい引力を持った文体だな、とは思った。 もしかしたら語り手が率いる作品だからかもしれないけれど、そ...
『右大臣実朝』と『惜別』の二作品から構成される。 いずれも文豪と称されるだけある筆力だった。 にわかファンなので、あまり詳しいことは知らないし語れないけれども、説得力のある、ものすごい引力を持った文体だな、とは思った。 もしかしたら語り手が率いる作品だからかもしれないけれど、そこに作家のガッツというか意欲というか情熱のようなものが感じられた。 さらさらと流れるように語られる雅やかな『右大臣実朝』 動乱の中を精神的にもたくましく生きなければならなかった『惜別』 二つの異なった魅力と趣をもつこれらの作品は、どこか根底に作家の自信と意気込みがあるように思える。 しかし、物語の展開が急進するあたりでは、思いあまってか確かに己が出過ぎていると指摘されるのも納得がいくのだけれど、当時の戦時中という背景を考えると、むしろよくここまで出せたな、と思わざるを得ない。 いずれにせよ、面白いと一言で終わらせるにはもったいない衝撃を与えられた。
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表題作のほかに『右大臣実朝』が収録された新潮文庫です。 どちらも太宰さん中期後半の作品で、歴史が好きな らじにはとても面白かったです。 『惜別』は戦時中、国家に依頼されて書いたお話らしいけど、中国の魯迅さんが仙台で学んでいたときの物語で、大日本帝国万歳とかいう話じゃないし、中国...
表題作のほかに『右大臣実朝』が収録された新潮文庫です。 どちらも太宰さん中期後半の作品で、歴史が好きな らじにはとても面白かったです。 『惜別』は戦時中、国家に依頼されて書いたお話らしいけど、中国の魯迅さんが仙台で学んでいたときの物語で、大日本帝国万歳とかいう話じゃないし、中国と日本の文化交流について、いろいろ考えさせられたお話でした。 はるか昔は中国の文化を朝鮮経由などで受け入れていた日本が、近代では逆に日本に中国からの留学生が来るようになっていたわけで…。 そもそも中国という土地は不変でも、そこを統治した民族はぐるぐる入れ替わっているからね。 日本のように長いこと同じ民族(混血はあるけど…)が同じ系統の帝を据えて歴史がつながっている国は世界でも超~レアなわけで…。 らじは今の「政治屋」は大っ嫌いだけど、日本に生まれて良かった~♪って思いました。 鎌倉が好きなので実朝さんのお話も良かったです。
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中編の「右大臣実朝」と「惜別」の二作品を収録。一度読んだことがあるのだけど、その時には難しくてよく分からなかったので、もう一度読んでみた。でもやっぱりこの作品(特に「右大臣実朝」)の良さが分からなかった。爆笑問題の太田光をはじめ、これを太宰最高傑作と言っている人は多いので、おそら...
中編の「右大臣実朝」と「惜別」の二作品を収録。一度読んだことがあるのだけど、その時には難しくてよく分からなかったので、もう一度読んでみた。でもやっぱりこの作品(特に「右大臣実朝」)の良さが分からなかった。爆笑問題の太田光をはじめ、これを太宰最高傑作と言っている人は多いので、おそらく素晴らしい作品なのだろう。私には難しかった。
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「右大臣実朝」を読みたくて求めた一冊だけど、表題作の「惜別」も実朝に勝るとも劣らぬ充実感、540円でこれだけのものが読める幸せ。 どちらも第二次大戦末期の言論統制下で書かれただけあって、いかにもそれらしい表現にしばしば出会う。そこはそれとして、両作に共通するのは、太宰の実朝・魯...
「右大臣実朝」を読みたくて求めた一冊だけど、表題作の「惜別」も実朝に勝るとも劣らぬ充実感、540円でこれだけのものが読める幸せ。 どちらも第二次大戦末期の言論統制下で書かれただけあって、いかにもそれらしい表現にしばしば出会う。そこはそれとして、両作に共通するのは、太宰の実朝・魯迅への思い入れの深さ。これが読者を引き込む力になっているんだと思う。
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滅亡の予感の中で超然と雅に耽溺する実朝。饒舌な絶望を突き抜けた果ての、静謐の明るさ。暗さの中には自意識の饒舌がある。それを突き抜ける白痴の如き無風の明るさは可能か。キリスト教と仏教に通じる境地か(「右大臣実朝」)。「・・・誰も知らない事実だって、この世の中にあるのです。しかも、そ...
滅亡の予感の中で超然と雅に耽溺する実朝。饒舌な絶望を突き抜けた果ての、静謐の明るさ。暗さの中には自意識の饒舌がある。それを突き抜ける白痴の如き無風の明るさは可能か。キリスト教と仏教に通じる境地か(「右大臣実朝」)。「・・・誰も知らない事実だって、この世の中にあるのです。しかも、そのような、誰にも目撃せられていない人生の片隅に於いて行われている事実にこそ、高貴な宝玉が光っている場合が多いのです。それを天賦の不思議な触覚で探し出すのが文芸です。文芸の創造は、だから、世の中に表彰せられている事実よりも、さらに真実に近いのです。文芸が無ければ、この世の中は、すきまだらけです。文芸は、その不公平な空洞を、水が低きに流れるように自然に充溢させていくのです。」(「惜別」)
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魯迅の「藤野先生」に基づいた小説。 日中戦争時に「大東亜の親和」を正当化するために書かれた国策小説らしいです。 ただ「藤野先生」を読むと、かなり 太宰による脚色があるように感じます。そこらへんが、評価が低い理由なのかな。周さんの印象もだいぶ違う気がしました。 けど、やはり読...
魯迅の「藤野先生」に基づいた小説。 日中戦争時に「大東亜の親和」を正当化するために書かれた国策小説らしいです。 ただ「藤野先生」を読むと、かなり 太宰による脚色があるように感じます。そこらへんが、評価が低い理由なのかな。周さんの印象もだいぶ違う気がしました。 けど、やはり読み応えがあります。 古い趣きがあってすごく好きです。
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『阿Q正伝』『狂人日記』を書いた魯迅が、なぜ医学から文学へと転向するに至ったか、を書いた作品。 とりあえず阿Q正伝の読後にこれを読むことをお勧めする。理解度が全く違ってくる。 愛国と文学について考えさせられる作品である。 阿Q正伝を読んだ後、果たして魯迅の望んだ「文学による...
『阿Q正伝』『狂人日記』を書いた魯迅が、なぜ医学から文学へと転向するに至ったか、を書いた作品。 とりあえず阿Q正伝の読後にこれを読むことをお勧めする。理解度が全く違ってくる。 愛国と文学について考えさせられる作品である。 阿Q正伝を読んだ後、果たして魯迅の望んだ「文学による精神の変革」は叶ったのか?・・・いや叶ってないよな、と考えていた私が恥ずかしく思えた。 「文章の本質は、個人および邦国の存立とは係属するところなく、実利はあらず、究理また存せず。故にその効たるや、智を増すことは史乗に如かず、人を誡むるは格言に如かず、富を致すは工商に如かず、功名を得るは卒業の券に如かざるなり。ただ世に文章ありて人すなわち以て具足するに幾し。厳冬永く留り、春気至らず、躯殻生くるも精魂は死するが如きは、生くると雖も人の生くべき道は失われたるなり。文章無用の用は其れ斯に在らん乎」 文中にある、魯迅が書いたとされるこの言葉を読んで、彼が文学を志す理由が分かった気がする。 私もその仕事に就きたいと思う。 とても面白いです。激しくお勧めです。
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