惜別 の商品レビュー
太宰治が自分の内面をほぼ投影させず、本歌取りというか、言論統制の強かった戦時下に、原案ネタを使って、アタマと文才だけで作り上げた2作品。魯迅のものも、右大臣実朝も、やはり極めて秀才であることを彷彿させる作品には仕上がってる。とはいえ、特に右大臣実朝は公暁との対比で劇仕立てにしたほ...
太宰治が自分の内面をほぼ投影させず、本歌取りというか、言論統制の強かった戦時下に、原案ネタを使って、アタマと文才だけで作り上げた2作品。魯迅のものも、右大臣実朝も、やはり極めて秀才であることを彷彿させる作品には仕上がってる。とはいえ、特に右大臣実朝は公暁との対比で劇仕立てにしたほうがよかったのでは。
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「右大臣実朝」が読みたくて借りた。実朝は、日本化したキリストであり、実朝を殺した公暁がユダの役割、ということらしい。なるほど。
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太宰治の新潮文庫にある作品のうちこれだけ読んでなくて、死ぬまでには読まないとと思いながら、ずっと手が出なかった。これを読んだらもう新しい作品には出会えないと怖かったので。 しかしこのご時世いつ死ぬか分からないからと、読む決意をしたのであった。 「右大臣実朝」は「鉄面皮」で多...
太宰治の新潮文庫にある作品のうちこれだけ読んでなくて、死ぬまでには読まないとと思いながら、ずっと手が出なかった。これを読んだらもう新しい作品には出会えないと怖かったので。 しかしこのご時世いつ死ぬか分からないからと、読む決意をしたのであった。 「右大臣実朝」は「鉄面皮」で多く引用されていたので、読まないといけないと思ってた。しかも熱意をかけて書いていたことを知っていたから余計に。思ってたよりも難しくなくて、実朝の人間性の移り変わりがドラマチック。「駆け込み訴え」に似た感じと解説にはあったけど後半は特にそう思う。そして最後の引用で締め括るとこまで手を抜いているように見えて、全然いない(少し贔屓目に見てるとこもあるけど 鎌倉での描写はちょっとドキッとした。作者の影が少し。 「惜別」は一昨年の日本近代文学館での展示で仙台での取材の資料を見ていたので、作品自体何となく知っていたけど、読んでからまたあの資料見たら違う風に見えるんだろうなとちょっと後悔(特別展だったので 国策?で書いたという異例の作品だけれど、思い通りに書いてやるものかー!っていつもの感じになっていて流石無頼派、そういうとこ好き。周さんの転換に少し悲しみを思いながら、魯迅の「藤野先生」を読もうと思った。 また改めて読み直したら印象変わるかもしれない。
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自分の行く道をなんとか理由付けて納得して生きてきたけど、やはりもっと思想と直接的に繋がった生き方をしたいと思った。医学から文芸の道に進んだ魯迅のように。 あとは、「誰も見ていない人生の片隅においてこそ、高貴な宝玉が光っている」 それを書くのが文芸の価値だ、というのにはなんだか救われる。
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惜別 (和書)2011年03月30日 15:17 1973 新潮社 太宰 治 太宰治さんはこういった作品も書いているのですね。知らなかったです。 意外と良い作品でした。
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おもしろかった。勝手に太宰治は読むと暗くなると思っていたけれどそんなことなかった。藤野先生と周さんの言葉が印象に残った。いちばん気に入ったのは、「文明というのは、生活様式をハイカラにする事ではありません。つねに眼がさめている事が、文明の本質です。偽善を勘で見抜く事です。この見抜く力を持っている人のことを、教養人と呼ぶのではないでしょうか。」
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右大臣実朝◆惜別 著者:太宰治、1909五所川原市出身-1948、小説家、東京帝国大学仏文科中退 解説:奥野健男、1926東京出身-1997、文芸評論家・化学技術者、東京工業大学化学専攻、元多摩美術大学教授・東芝
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太宰治 のイメージ通りのデカダンスな小説 「 右大臣実朝 」 と イメージと違う「 惜別 」の2編。 「右大臣実朝」源実朝 回想記。没落の中でも 風流を貫く姿は 太宰治そのもの。読みにくい。 「明るい=滅びの姿→暗いうちは人も家も滅亡しない」というセリフは 太宰治自身や太宰...
太宰治 のイメージ通りのデカダンスな小説 「 右大臣実朝 」 と イメージと違う「 惜別 」の2編。 「右大臣実朝」源実朝 回想記。没落の中でも 風流を貫く姿は 太宰治そのもの。読みにくい。 「明るい=滅びの姿→暗いうちは人も家も滅亡しない」というセリフは 太宰治自身や太宰文学を思い浮かべた 鎌倉時代の歴史知識が必要 *源実朝=鎌倉右大臣→金槐和歌集 *源実朝=源頼朝と北条政子の子 *相州=北条義時=北条政子の弟 *北条義時に対して 老臣 和田左衛門の内乱→和田家滅亡 *鶴岡八幡宮で 兄 頼家の子 公暁に殺される→源氏滅亡 「惜別」魯迅 日本留学記。国策小説のような日本讃美、中国を見下ろす表現、文明論など 太宰治のイメージと違う 日本論 *日本の愛国心は無邪気〜邪心なく子供のように騒ぐだけ *日本の象徴=女性が真新しい手拭をかぶって〜朝日を浴びて可憐に緊張している *日本には国体という実力がある *日本人の思想は 忠に一元化 文明論 *文明=生活様式をハイカラにすることではない=常に目がさめている=偽善を勘で見抜く
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表題作「惜別」のみ読了。 フィクションにしても私小説的な作品にしても無頼派としての性格がよく出ており、退廃的であったりブラックユーモアが溢れたりという太宰作品が馴染み深いので新鮮でした。 魯迅の日本留学時のことを同級生の日本人が語るという形式の物語ですが、太宰が唯一執筆した国策小...
表題作「惜別」のみ読了。 フィクションにしても私小説的な作品にしても無頼派としての性格がよく出ており、退廃的であったりブラックユーモアが溢れたりという太宰作品が馴染み深いので新鮮でした。 魯迅の日本留学時のことを同級生の日本人が語るという形式の物語ですが、太宰が唯一執筆した国策小説ということで支那に対する想いや愛国心について懸命に描いたのであろうことが伝わってきました。 私自身、まだまだ青い小娘で戦時下の情勢など勉強不足なのですが、ただその時代に支那人を侮蔑も見下しもせず同じ人間として向き合うことを大々的に伝えた太宰は なかなか勇気があり、その優しさも彼らしいと思いました。
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・・・・・・っということで、太宰にしては珍しく、十分なる資料を参考にして書かれた小説である。 こういう小説も書けるのだと、彼の才能にいまさらながら驚かされる。 日本に留学していた魯迅の仙台時代の物語である。 彼を描くのに、彼と友人だった学生の思い出話として語らせている点がとても...
・・・・・・っということで、太宰にしては珍しく、十分なる資料を参考にして書かれた小説である。 こういう小説も書けるのだと、彼の才能にいまさらながら驚かされる。 日本に留学していた魯迅の仙台時代の物語である。 彼を描くのに、彼と友人だった学生の思い出話として語らせている点がとても凝っている。 医学を目指していた魯迅が何で文学に転向したのか、その謎を丁寧に描いている。 本当の彼の内面に切り込みたいとすれば、こういう小説という形式が一番適切なのだと思わざるを得ない。 魯迅が文学に目覚める過程を書くことによって、太宰自らが抱く文学への自信と誇りを感じざるを得ない。 内容とは別に、当時の日本を取り巻く情勢、特に中国との関係が面白かった。 明治維新を経て、ロシアと戦争を継続している最中の空気を感じることができる。 当時の中国は、列強から圧力を受け、植民地化される危機に晒されていた。 そんな中、自らの独立を勝ち得ていた日本に学ぼうと留学生を多数派遣するのは当然のことであった。 如何に中国がだらしないか、日本が優れていたかを魯迅の言葉として語らせている。 もちろん、当時の日本人の自画自賛も含まれているが、中国が独立を保てるよう、日本人が協力していたのもまた事実である。 日本はアジアにおけるリーダーの資格を十分保有していたのである。 それが何故、今のような日中関係になってしまったのか。 そんなことに思いを巡らさざるを得なかった。
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