ペスト の商品レビュー
ある街を突然襲った伝染病ペスト。無慈悲に人命を奪いさるその疫病と戦った市民たちを描いた作品。市中で不条理な現実を見てきた者の手記をもとに読者へ紹介する形式。現在のコロナ禍におかれている者として、ペストによる不条理さは十分伝わってくる。しかし、できる限り客観的な描写に押さえている作...
ある街を突然襲った伝染病ペスト。無慈悲に人命を奪いさるその疫病と戦った市民たちを描いた作品。市中で不条理な現実を見てきた者の手記をもとに読者へ紹介する形式。現在のコロナ禍におかれている者として、ペストによる不条理さは十分伝わってくる。しかし、できる限り客観的な描写に押さえている作風らしく、逆に私の中では、人間の無感動で無慈悲な部分が印象づけられた。そして淡々とした語り口で心動かされる場面が少ないため、500ページ弱のボリュームは少し冗長に感じた。
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まず訳が合わないなと率直に思った。あまりにも直訳的すぎやしないか?カミュの文体を忠実に再現しようという熱意は感じるけれど、私の読解力のなさと相まってなかなかページが進まないし、何度読んでも意味を掴みかねる箇所が散在した。時代のせいもあろうが、、、ただその中でも分かったこと、これはあまりにも大著だということ。一度読んだだけでは消化できない、どころか多分充分に味わうこともできない類の作品だということ。今後の人生において何度も再読すべき作品であるという印象のみが今回の初読において得たもので、あとは口に入れて舐め転がしてみたら苦かったなぁ、という感じだけ。 ペストという大きな不条理が戦争を暗示しているものだという解釈は、実際著者が戦時の体験を基にしていることからも外れたものではなかろうが、読者という受け手側からすると、この不条理はペストにも戦争にも、もちろん今現在この作品が注目される原因となった新型コロナやその他流行り病にも限定されない、人間が生きるうえであらゆる場面に立ち現れる理不尽に当てはまり、そしてそれこそが、国や世代を超え名著として広く読まれる所以だろうと思う。生きる限り降りかかる大小様々な不条理を前に人はどう立ち振る舞うのか、医師や神父、市庁の吏員、異国の新聞記者、はたまた犯罪者まで、様々な立場・視点・角度からその様相を緻密に描き出した、ある種思考実験的なものと捉えることもできるが、作品全体に通う血潮の生々しさ、その温度が、それだけではない何かを訴えるーーように思えるけどその先は考えるの疲れたのでやめた。まあ最初は謎の第三者視点であくまで客観的に進んでいた物語が、段々感情が透け出してリウーと同一化し始め、より「小説っぽく」なったのでそう感じるのだろうと思うけど、これも著者の手のひらの上なんだろうなあ。それぞれの登場人物が具体的にどういう役割でペスト=不条理に対峙したのか、その結果も合わせて言語化したかったけどこれも疲れたから再読時の課題にする。 明瞭なのは、あらゆる不条理も理不尽も、なかったことには決してできないということ。物語には具体的なペストの終焉が描かれているのにも関わらず「愛するその女に会いに飛んで行こうとしていたあの自分に、できればまた戻りたいと思った」ランベールのように、元の生活にそのまま立ち返る人はひとりもいない。歓喜の声に街が包まれ、祝賀の花火が上がる夜に、「黙して語らぬ人々の仲間にはいらぬために」物語を綴ろうと決心する人間が存在するのである。受け入れても、受け入れられなくても、起こった事実はなかったことにはできない。私たち自身にも重くのしかかる真理だろうと思う。 それにしても腺ペストが段々と肺ペストに置き換わっていく様子は変異株みたいで興味深かった。いや、変異株なんだろうけど、情勢と相まってリアルに感じられて、さすがだなと思った。いやこうはならんやろ、みたいな展開もちょいちょいあったけど、主題に関係ないし瑣末ごとなので割愛。とりあえず新訳が出てるみたいなので絶対にそれも読むという決心だけここに。
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新型コロナ禍、立ち寄った書店の店頭近くに平積みされていた文庫。 第二次世界大戦における不条理な死をペストによる非日常的な死へと象徴的に置き換え、ナチスに侵略されたフランスに生きる著者の心情、思索を哲学したような小説である。 ペストのパンデミックをストーリーの中心に据えたサスペンス...
新型コロナ禍、立ち寄った書店の店頭近くに平積みされていた文庫。 第二次世界大戦における不条理な死をペストによる非日常的な死へと象徴的に置き換え、ナチスに侵略されたフランスに生きる著者の心情、思索を哲学したような小説である。 ペストのパンデミックをストーリーの中心に据えたサスペンススリラーなどではない。 カミュであるからにして、そのようなもののはずはないのである。 読み応えは充分。但し翻訳は・・
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今この時代に読むべきかと思い。 (でなければ洋書名作への苦手意識できっと読もうと思わなかった) 結果読んでよかったです。 思ったより読みやすく、そして、今更この時代だからこその共感というか理解ができる部分があった気がする。 一人称視点の記録の体で、こうすべきだとか何が悪だとか...
今この時代に読むべきかと思い。 (でなければ洋書名作への苦手意識できっと読もうと思わなかった) 結果読んでよかったです。 思ったより読みやすく、そして、今更この時代だからこその共感というか理解ができる部分があった気がする。 一人称視点の記録の体で、こうすべきだとか何が悪だとかの啓蒙ではない、ペストに襲われる街で何が起こり、書き手を取り巻く人々は何を思いどう行動したかをひたすら描いていく。 どうしたって今の状況と重ねて考えさせられる。 基本淡々と進むものの、所々の登場人物たちの関係や熱い思いもまた小説として見所でした。
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幸せな日々は突然奪われる。 新型コロナウイルスが世界の話題の中心になり1年半近くが経とうとしている。それまでの当たり前の生活ができなくなり、いつ感染するか分からない恐怖に包まれている。どこかそんな現代に通じる話であるのがこの作品である。 作中では突然の都市封鎖により、強制的...
幸せな日々は突然奪われる。 新型コロナウイルスが世界の話題の中心になり1年半近くが経とうとしている。それまでの当たり前の生活ができなくなり、いつ感染するか分からない恐怖に包まれている。どこかそんな現代に通じる話であるのがこの作品である。 作中では突然の都市封鎖により、強制的に愛するものとの交流が絶たれる。現代みたいにスマホがあるわけではなく、やりとりは電報での数文字でのやりとり。ただでさえ、ペストとともに監禁状態にされているのにこの仕打ちは想像を絶するものであろう。 徐々にまずい状況に陥っていることを悟った街が活気を失っていき、もはや何に望みを託せば良いのか分からなくなる。それは未来?それとも神?きっとこの二つ以外にも各々が何かに望みを託していたであろう。それを失った時、ペストが隙を見て体に忍びこむ。そんなことはないのだが、ペストが一つの意思を持って絶望した人間から命を奪っているのでは、、と少し思ってしまう。 未曾有の感染症は多くの犠牲者を出すと同時に生存者も生み出す。残された人に残るものは何だろうか。記憶、困窮、愛するものを失った事実などたくさんあるだろう。生き残った人々の義務とはなにか。新型コロナウイルスの渦中にある今だからこそ考えていくべきことなのかもしれない。
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戦争という不条理なものを疫病に見立てて書いたというけれど、そういうバックボーンを抜きにして疫病に侵食される社会を描いた小説としても、なるほど、と思わされることが多く、とても面白かった。 オルテガの大衆の反逆でも書かれているところだけど、無知であることが最も救いのない悪徳である、と...
戦争という不条理なものを疫病に見立てて書いたというけれど、そういうバックボーンを抜きにして疫病に侵食される社会を描いた小説としても、なるほど、と思わされることが多く、とても面白かった。 オルテガの大衆の反逆でも書かれているところだけど、無知であることが最も救いのない悪徳である、というのがものすごく突き刺さった。
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アルジェリアの街をペストが襲う、という設定だけを聞くと、エンタメっぽい小説を連想させますが、純文学っぽい内容です。 フィクションの物語ですが、ドキュメンタリータッチで描かれているので、リアリティーを感じさせます。 登場人物が多く、視点も目まぐるしく変わるので、内容を理解するのが難しかったです。 昨年、感染症の拡大にともなって、本作が売れたと聞いていましたが、どれだけの人が内容を理解したできたのでしょうか・・・。 ラストにペストの猛威が治まる描写は、現在の我々も望むところではあります。しかし、この物語のラストでも描かれている密かなる不穏は、永遠になくなるものではありません。 自然界に生きている限り、共生していかなくてはいけないのです。
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読んでいる最中に岩波から新訳も出たがそのまま読了した。 一部内容が難解な部分があったが、概ね楽しめた。 コロナの時代が故に現在の状況と重ね合わせて読んでしまい、コロナ禍でない時に読むのとでは異なる読み方になってしまっているが、これは致し方ないか。 心に残る場面も多い。特に状況や...
読んでいる最中に岩波から新訳も出たがそのまま読了した。 一部内容が難解な部分があったが、概ね楽しめた。 コロナの時代が故に現在の状況と重ね合わせて読んでしまい、コロナ禍でない時に読むのとでは異なる読み方になってしまっているが、これは致し方ないか。 心に残る場面も多い。特に状況や音、景色といったことを表現するその細やかな筆致は流石と感じ入ってしまった。 岩波の新訳も是非読んでみたいと思う。
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令和2年3月の送別会で田仲先生がペストを読んだ話をなさっていたので購入した。自分には少し難しく、登場人物の名前をメモしたり、別の本に浮気したり、話の筋が混乱して最初から読み直したりしたため、読み終わるのに1年2ヶ月を要してしまった。 新潮文庫版は、昭和44年初版なので50年以上前のカミュの代表作だがコロナで再度注目されたようだ。 1940年代、ペストで隔離されたアルジェリア、オラン市を舞台とする群像劇。主人公であり著者(記録者)であるリウー、次席検事の息子で死刑執行を目撃し死刑廃止論者となったタルー、恋人に会うためオラン市からの脱出を試みる新聞記者ランベール、ペストを神の懲罰と看做し人々に懺悔を説く司祭パヌルー、一人息子をペストで亡くす予審判事オトン、別れた妻を思い夜な夜な小説の執筆に勤しむ老官吏グラン、物語の最初に自殺未遂を図り最後には民衆に発砲し逮捕されるコタール、血清をつくった老医師カステルなど様々な立場の人々がペストの影響を受ける。 巻末の宮崎嶺雄氏の解説では、神の正義として司祭パヌルーを、社会の正義として予審判事オトンを、人間の正義として新聞記者ランベールを登場させることで、正義の問題がいかに深く人生への理解、愛につながっているかを示しているとのこと。 また、リウーとタルーは表裏一体の関係にあり、リウーの記述とタルーの手帳を物語の主流として位置づけるとともに、老官吏グランは妻の家出により、タルーは死刑執行を目撃したことにより、喘息持ちの老人は老年に達したことにより不条理に目覚めた不条理人の3つの小島(サイドストーリー?)と位置づけている。 その上で、ペストを「人生の根本的な不条理に基部を浸し、頭部を歴史の雲の中に突っ込みながら、なかんずく現在の幸福に生きようとする一都市の住民の闘いの記録」とまとめている。 その他にも、ペストの影響を受けて考え方や行動を変容させた人物と変わらなかった人物の比較など宮崎氏の鋭い視点と深い洞察に感銘した。 そもそも、どうしてカミュは、ペストを書いたのだろうか?伝えたいことがあれば、実用書やビジネス書、啓発書のように箇条書きにすればよいのに、そうはしないで複雑な450頁余りの長編小説という形式を選んだのか。書きたいテーマが複雑で深い内容だからか?それとも物語を創作することに意義を感じたからか?ふと、そんなことを思ってしまった。 いずれにせよ消化不良な部分が多く、時間を置いてまた読み直したい作品である。
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自分にはやや読みづらかった。現代語訳でもう少し平易な表現だととっつきやすい気がする。 コロナの今だからこそ響く内容であり、病という不条理に翻弄されあらゆる別離に苦しむ人類の姿は現実とリンクしている。 この不条理の中での闘う姿、動機、心情の移り変わりは各登場人物によって様々であるが...
自分にはやや読みづらかった。現代語訳でもう少し平易な表現だととっつきやすい気がする。 コロナの今だからこそ響く内容であり、病という不条理に翻弄されあらゆる別離に苦しむ人類の姿は現実とリンクしている。 この不条理の中での闘う姿、動機、心情の移り変わりは各登場人物によって様々であるが、個人的にはランベールに対して最も人間らしさを感じた。 「際限ない敗北」にならないよう、どう生きるか。
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