完璧な病室 の商品レビュー
主人公の女性の心の闇が伝わってくるようで、苦しく辛くなった。 精神を病み、強盗に殺された母、母の異常を恐れ離婚した父、残り僅かな命を静かな病室で全うしようとする愛しい弟、多忙すぎて午前3時にしか会えない夫。 彼女にとって、病室以外のものは全て汚れた有機質を含むものであり、大きなダ...
主人公の女性の心の闇が伝わってくるようで、苦しく辛くなった。 精神を病み、強盗に殺された母、母の異常を恐れ離婚した父、残り僅かな命を静かな病室で全うしようとする愛しい弟、多忙すぎて午前3時にしか会えない夫。 彼女にとって、病室以外のものは全て汚れた有機質を含むものであり、大きなダストボックスに放り込んでしまいたい衝動に駆られる。 弟を介してしか関係のない抽象的な人間である一人の男性がなぜ心の拠り所となったのだろう。
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他の読者の賛同は得られないかも知れないが、「完璧な病室」は姉と弟との近親相姦の物語である。少なくても、その気配を濃密に漂わせている。そして、S医師とのセックスは、かなわなかった弟とのそれの代償行為にほかならない。あるいは、むしろセックスを経験しないで死んでいく弟への献花といった意...
他の読者の賛同は得られないかも知れないが、「完璧な病室」は姉と弟との近親相姦の物語である。少なくても、その気配を濃密に漂わせている。そして、S医師とのセックスは、かなわなかった弟とのそれの代償行為にほかならない。あるいは、むしろセックスを経験しないで死んでいく弟への献花といった意味があったのだろう。「わたし」にとっては、病室こそが完璧な空間であり、その対極にある日常は汚濁した空間であった。そうしたパラドクシカルな小説世界がこの作品である。「揚羽蝶が壊れる時」は、シュールレアリスムとの親近性を思わせる1篇。
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初期の短編集らしいですね。 主人公がみんな何か病んでます。 私が一番印象に残ったのは最後の《ダイヴィング・プール》。 彩が純を見てたように、純も彩を見ていた。 リエにしていたことも全部知っていたことを告げるラストにぞくりとしました。
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すごく読んで後味の悪い、気持ち悪い本だった。 気持ち悪いというより、不愉快という言葉がしっくり来るかもしれない。 誰もがそういう状況になってもおかしくないという状況を、淡々というより、よりグロテスクに表現しようとしている感じが不愉快であった。 全部で4作収録されているうちの2作目...
すごく読んで後味の悪い、気持ち悪い本だった。 気持ち悪いというより、不愉快という言葉がしっくり来るかもしれない。 誰もがそういう状況になってもおかしくないという状況を、淡々というより、よりグロテスクに表現しようとしている感じが不愉快であった。 全部で4作収録されているうちの2作目の「揚羽蝶が壊れる時」は、不愉快すぎて途中で読むのをやめてしまった。 孤児院を経営する家族で生まれたという設定の登場人物、そして食べ物を汚いと思う登場人物が4作品中2作品に登場しており、悪い意味で期待を裏切らない。 そして、全体的に、不幸にひたりたいタイプが主人公を務める。 この先も、ずっと同じ作風なのだろうなと思った。 4作目の「ダイヴィング・プール」も非常に後味が悪い。 題名からして、気持ち悪く借りるのを迷ったが、借りた後で、「博士の愛した数式」の作者だと見て納得。映画自体を見たことがあり、気持ち悪かったので。 不幸好きの方にはいいかもしれないが、一般人にはお勧めしない作者だと思った。私はもう二度と、この人の本は読まないと思った。 作者の経歴が、医学薬学系出身でない人には、もっとよい就職先があるであろう大学であるのに、病院ということで、色々な意味で納得させられる。
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またしても短篇集。 ・完璧な病室 ・揚羽蝶が壊れる時 ・冷めない紅茶 ・ダイヴィング・プール の4作。 繊細な文章と綺麗な表現がとても好き。 どの話も主人公が少し病的で、冷たさを感じる。
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小川洋子さんの本は沢山読んでいるのに、この処女作が収められた完璧な病室はまだ読んだことがなかった。 最初の作品だから、読む前は雰囲気や読みにくさとかあるのかと思ったけど、違った。 小川さんらしさ、寂しい感じ、残酷な感じ、グロテスクな感じがあり、入りやすかった。 完璧な病室が1番良...
小川洋子さんの本は沢山読んでいるのに、この処女作が収められた完璧な病室はまだ読んだことがなかった。 最初の作品だから、読む前は雰囲気や読みにくさとかあるのかと思ったけど、違った。 小川さんらしさ、寂しい感じ、残酷な感じ、グロテスクな感じがあり、入りやすかった。 完璧な病室が1番良かった。なんだかものすごく泣いた。 ダイヴィング・プールは胸がつまる。
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静かで透明感のある描写なのに、なぜか光の射さないどんよりとした空を感じる。第三者への視線の冷たさに肌寒さを感じる。人間の中に澱んでいる、身勝手なものを、ほら、と見せられて、たじろいでいる。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「彼女の異常さを認めるのは怖い事だわ。自分の正常さが揺らぐんだもの」 「切り抜かれたのは彼女の方なんだけど.じゃあ切り残しの部分.つまり わたしの居る場所が本当に正常な現実なのかっていうと、自信がない。 だから同じ独り言を飽きもせずに繰り返しているのよJ 「それはきっと・・・」 彼は続けた。 「十八人分の死の、涙とか悲しさとかつらさのせいだと思うんだ。そんな ものが.喪服を優しくしているんじゃないかって= Tl ぴったりの場所が見つかると、そこから彼女を眺めていた。ある日、彼 女が本当に眠っているんじゃないかと、心配になってきた。吸い込まれそ うなくらい深い眠りだ。放っておいたら、すうっと渦の目の底に沈んでしま いそうだった。だから僕は彼女に近寄って、肩に手を触れたんだ。彼女を 掌で確かめたかったんだJ 「彼が触れてくれた時、ことん、って鍵がはずれるような感じがしたわ」 彼女は小さな声で言った。 あらかじめ用意され、磨き上げられたような会話だった。
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短編集。「ダイヴィング・プール」の彩が昔の私の行動パターンと心理パターンをなぞりすぎていてぞっとした。 弟に謝りたくなった。 難病の弟は完璧な病室にはいなく、ワーカホリック気味に働いておりますが。
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この作家の初期の作品集。 表題作。 揚羽蝶が壊れる時 冷めない紅茶 ダイヴィング・プール の4作。 独特の比喩表現は、初期にも出ている。 今現在のスタイルの基礎が見られる良書だと思う。
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