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銀の匙 の商品レビュー

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213件のお客様レビュー

  1. 5つ

    64

  2. 4つ

    70

  3. 3つ

    43

  4. 2つ

    6

  5. 1つ

    1

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2011/06/26

明治の作家、詩人であり、当時の他の文壇の影響を受けず常に独創的な作品を志した人である。これは作者が27歳のときに自らの幼少時代を顧みて、そのときの目線で描いたもので、当時では希有な試みだったという。主に自分を可愛がってくれていた伯母さんとの話であり、その描写には、彼女の見返りのな...

明治の作家、詩人であり、当時の他の文壇の影響を受けず常に独創的な作品を志した人である。これは作者が27歳のときに自らの幼少時代を顧みて、そのときの目線で描いたもので、当時では希有な試みだったという。主に自分を可愛がってくれていた伯母さんとの話であり、その描写には、彼女の見返りのない愛情が活き活きとあり、まさに古き良き時代という感じ。 私が一番印象に残った話は、近所の同い年のお惠ちゃんとの触れ合いで、素直になれないところやかわいい嫉妬などは自分の幼少と重ね合わせてみることができ、微笑ましくも切なかった。

Posted byブクログ

2011/06/13

子供の頃の思い出というのは、兎角美化されやすいものである。何しろ、大人になると小賢しい知恵が回る、回るだけの判断基準がつくから。それが良かろうと悪かろうと、その思い出はどこかでデフォルメされてしまう。 けれど、本書には一切の誤魔化しが無い。子供の頃の体験を、事実のままに、そしてそ...

子供の頃の思い出というのは、兎角美化されやすいものである。何しろ、大人になると小賢しい知恵が回る、回るだけの判断基準がつくから。それが良かろうと悪かろうと、その思い出はどこかでデフォルメされてしまう。 けれど、本書には一切の誤魔化しが無い。子供の頃の体験を、事実のままに、そしてその事実において、その時、その小さな身体に宿る心で、どう思ったか、正直に綴られている。誤魔化しがない分、文体に熱っぽさが無く、冷淡で、どこか突き放しているような印象を受ける。しかしそれが、他からの余計な情報の入る余地が無い状況を、ありありと表現していると思う。 ちなみに、『銀の匙』は本編とは全くと言っていいほど関係は無い。しかし、ふとしたきっかけで引出しの小箱から見つけた銀の匙から、自身の幼い頃を回想する。小箱の中には他にも、当時にしては宝物であったであろうものが沢山詰まっているにも関わらず。『銀の匙』とは、そんな主人公の、『幼い頃』の象徴でもあるのだろう。 虚弱体質で、勉強も運動も苦手だった少年時代。伯母に守られるように育てられる。格別に不自由なことは無いにせよ、その時代に生きる子供に降りかかるような特別な事象も無い。 時は日清戦争の時代であったものの、文章には、日清戦争は単にその単語だけで、社会情勢や家庭内に降りかかる何らかの事象は、全くと言っていいほど無い。それは、主人公の家庭が、日清戦争の影響に直結するような状況・状態ではなかったのか、または、主人公が子供であるがゆえに、そこまでの感受性を広げていなかったのか。恐らく後者であろう。遊び盛りの子供『そのまま』の視点で綴られた作品なのに、やれ知ったように当時の時事を含めるのは、それこそ子供時代を『美化』していると受け取られるに違いない。 恋というほどではないが、近所に良く遊ぶ子供もいて、やはりその子供も、その子なりの感受性で遊ぶ子供である。彼にとって、ほぼ伯母が世界の全てであったが、伯母以外の外の世界に触れることによって、様々な人間関係・人間模様が否応無く目に飛び込んでくる。 それによる自身の挫折。ライバルの出現。途端に主人公はメキメキと力をつけていく。いつの間にかクラスでも上位の座に。それでも不安定な上位の座。孤独に苛まれたり、寄りが戻ったり。その時代が、とりわけ特別、と言うわけでもない。子供が身につける感受性は、きっとどんな時代でも同じなんだ、ということを再確認させられた。 やがて大きくなり、久方振りに伯母に会いに行く。しかし、伯母はほとんど耳が聞こえなくなっていた。かつてのように遊んでもらうことも出来ない。残酷な時間の流れを、その身を以って受け止める。 本書の中で、恐らく主人公の感情が最も動揺した瞬間なのではないだろうか。ニヒリズムと言うわけではないと思うが、当時の主人公は、子供特有の熱っぽさが無いように思う。しかしここから先の主人公の感情の流れが、それまでに比べて少し変わったような気がした。やはり、時が経っても主人公にとって、伯母の存在は1つの拠り所なのではないか。そんな風にも思えてならない。 そんな子供時代を、『銀の匙』を眺めながら回想して、大人になった彼自身は、それをどう思ったのだろうか。

Posted byブクログ

2011/06/11

初めて出会った作家だ。今まで読んだことのない作風で、現実から遠い世界の世の中のように感じられた。 読書は私にとって「避難港」の役割をしてくれているので、この作品はその点申し分のないものだ。 病弱な子供が主人公で、実にその心理がよく読まれ、描かれている。 たくさんの知らない言葉も教...

初めて出会った作家だ。今まで読んだことのない作風で、現実から遠い世界の世の中のように感じられた。 読書は私にとって「避難港」の役割をしてくれているので、この作品はその点申し分のないものだ。 病弱な子供が主人公で、実にその心理がよく読まれ、描かれている。 たくさんの知らない言葉も教えてくれた。 読んでいる途中、最後に添えられている「注釈」を何度開いたことだろう。

Posted byブクログ

2011/05/31

読んでいると、自分自身の子供の頃の思い出がつらつらと思い出されてくる。子供の目が観るものは、時代がかわっても変わらないものなのだろうか。もう二度と繰り返されることのない貴重な失われた時間を思って、懐かしいような、悲しいようなしみじみとした情感がみちてくる。

Posted byブクログ

2011/04/25

子供時代は、もしかしたらいまよりずっと世界がくっきり見えていたのかもしれない。しかしこの子供のきかん気の、意気地のないこと!ついついイラッ。 出てくる厳しい兄は、後に確実のあったという兄なのだろうか?

Posted byブクログ

2011/03/04

遠き少年の日々に立ち返って《赤松正雄の読書録ブログ》  中勘助『銀の匙』が称賛される意味が今一つ分からなかった私だが、ようやくその魅力に感じ入っている。  「蟻はあちこちに塔をきずき、羽虫は穴をでてわがものがおに飛びまわり、可愛い蜘蛛の子は木枝や軒のかげに夕暮れの踊りをはじめ...

遠き少年の日々に立ち返って《赤松正雄の読書録ブログ》  中勘助『銀の匙』が称賛される意味が今一つ分からなかった私だが、ようやくその魅力に感じ入っている。  「蟻はあちこちに塔をきずき、羽虫は穴をでてわがものがおに飛びまわり、可愛い蜘蛛の子は木枝や軒のかげに夕暮れの踊りをはじめる」―子供の体験した子供の世界をこれほど真実に描きうる人は見たことがない、と漱石が高く評価したとされる。例えば、この一文に続くくだりを読んで、私も漸く眼の前がパッと開ける思いがした。長く忘れていた子供の頃に感じたあれやこれやが一気に思い起こされてきたのだ。  寒く冷たい冬の日に、かじかんだ手をかざすだけでなく、火鉢の上に跨ったことや、蒲団に入った私の頭や首が寒かろうと言って衝立てを立ててくれた母の心配りがこよなくありがたく、懐かしい。夏休みに、蝉取り、海や川での遊びにうつつを抜かしたあとに食べた西瓜の薄甘い味。子供時代の秘蔵のアルバムをめくってみるように思い出される。  故郷は遠きにありて思うものというのに、故郷しかも生まれた場所の目と鼻の先にまで戻ってきた私は、むしろ意図的に子供の頃の記憶に浸ることを長く封印してきた。それが崩れた。過去の感傷に浸るのは未だ早い、との思いと、この瑞々しい感性こそ今の自分に必要なものだと、相反する思いが今、交錯している。  前回紹介した橋本武先生の灘中、灘高での授業がいかに展開されたかは知る由もないが、その橋本ワールドというべきものがしっかりと体内に築き上げられた人たちは、情緒の安定した生命を持つに至ったに違いない。目的のために手段を選ばない蛮行が闊歩する今、こうした本にしっとりと浸ることは大事なことかもしれない。「小暗い槙の木の陰に立って静かに静かにくれてゆく遠山の色に見とれるのが好きだった」と中勘助氏はいう。瀬戸内の浦曲を見下ろす小高い丘の上に座って、遠景に淡路島が浮かぶなか、行き交う船を眺めるのが好きだった私。遠き少年の日々につい立ち返らせられてしまった。

Posted byブクログ

2012/03/18

あの娘は浴室の窓からやってきた。銀の匙に守られて……(byポール・マッカートニー)てっきりそうだと思ったら、英語の慣用句には関係ありませんでした。 何時だったか、小川洋子さんが日曜日のFMで紹介していたので、遅ればせながら、手に取る。 ちょっとは読みづらいのを覚悟したが、案に相...

あの娘は浴室の窓からやってきた。銀の匙に守られて……(byポール・マッカートニー)てっきりそうだと思ったら、英語の慣用句には関係ありませんでした。 何時だったか、小川洋子さんが日曜日のFMで紹介していたので、遅ればせながら、手に取る。 ちょっとは読みづらいのを覚悟したが、案に相違。奇麗な文章を舌の上に転がすように味わいながら、ゆっくりと読み進めた。 銀の匙の意味は早々に明らかに。生まれつき病弱で、母のひだちも悪く、伯母に背負われて育つ主人公。何故、こんなに子供の時分の気持ちを書き表わせるのだろう。何故、こんなに細かく覚えているんだろう。 学校に行っても、全然読み書きが出来ず、しかし、まったく自覚無く、頓着していない主人公。「びりっこけ」と判って、勉強をしたら、二番になった。それって、過保護過ぎたのでは? 伯母さんはあちこちと主人公を背負って出かける。いくさごっこに延々と付き合ってくれる。友達がいない主人公を近所の女の子の家に背負って行って、仲間に入れてくれるようにしてくれる。子供の遊びが紹介されているが、判らない処多々あり。我々が喪失した文化を知る。 低学年のお隣の同級生の女の子が「ごめんあそばせ」と仲直りに訪ねてくる。可愛いなあ。少女との遊びや諍いが前篇のハイライト。 後編は文章が変わって大人びてくるが、それでも美しい表現は変わらない。そして伯母さんとの再会。 僕を可愛がってくれた大伯母を思い出し、チョッと涙が出そうになりました。

Posted byブクログ

2011/01/12
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

あとがきにあるが、夏目漱石をして「子供の視点で子供を描いた稀有なもの」ということに尽きると思う。 自分が子供に戻ったかのような心情で触れる話は、懐かしく胸を温めたり、ときに容赦なくえぐってきたりする。 こういう作品に出合えてよかった。

Posted byブクログ

2013/07/19

壊れて長いこと開けられることのなかった古い茶箪笥の抽匣。 あるとき好奇心をうごかして、さんざ骨を折って無理矢理に引き出したその中に、銀の匙はあった。 わけもなくほしくなり、母のもとにいって頼んでみると、いつになくじきに許しが出た。 「だいじにとっておおきなさい」 そして、母はその...

壊れて長いこと開けられることのなかった古い茶箪笥の抽匣。 あるとき好奇心をうごかして、さんざ骨を折って無理矢理に引き出したその中に、銀の匙はあった。 わけもなくほしくなり、母のもとにいって頼んでみると、いつになくじきに許しが出た。 「だいじにとっておおきなさい」 そして、母はその匙の由来を語ってくれた・・・ 伯母さんの限りない愛情に包まれて過ごした少年時代の思い出。 当時の日常生活や学校の様子、 子供の遊び、お祭り……。 小さな世界の中で過ぎてゆく静かな日々。生と死、出会いと別れ。 幼少期の日々を美しい筆致であざやかに描きだす、夏目漱石が未曾有の秀作と絶賛した一冊。

Posted byブクログ

2019/01/16

特に前半、子供の時の感覚をそのまま文章が体現しているのに驚くほかない。 散文の形はとっていても、これは詩そのもの。映画でいうなら「ミツバチのささやき」のようなもの。

Posted byブクログ