日の名残り の商品レビュー
真のイギリス紳士に使える執事の物語。執事が過去をあれこれ振り返りながら、語られるが、語り口が紳士的で丁寧で読んでいて心地よい。執事としてのプロフェッショナルを発揮せんとするばかりに、自身の恋愛感情や政治観などを置き去りにし、仕事に専念する。その結果、時間が流れ、執事という仕事自体...
真のイギリス紳士に使える執事の物語。執事が過去をあれこれ振り返りながら、語られるが、語り口が紳士的で丁寧で読んでいて心地よい。執事としてのプロフェッショナルを発揮せんとするばかりに、自身の恋愛感情や政治観などを置き去りにし、仕事に専念する。その結果、時間が流れ、執事という仕事自体が古くなり、自身も老いてきた時、夕日のような哀愁に包まれる。過ぎ去ったイギリスにおける古き良き伝統と品格が感じられる一冊
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凄かった。 スティーブンスの不器用さ 執事としての執務への入れ込み様が 読んでいて切ないほどだった。 ミス・ケントン側の方からの物語も読めたらもっと、もどかしてく泣いちゃうような物語だったかもね。 辛くて、切ないのに読了後は「読んで良かった!」としみじみと思えた小説だった。
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終始、表紙のイラストのような哀愁漂う雰囲気のお話です。 自分の執事としての人生を誇らしく思う一方で、徐々に明かされていくある一つの後悔。自分の人生が無価値だったのではないかと思い知らされたくない。そんな思いで隠されている真実を、主人公が少しずつ受け入れていきます。この絶妙で複雑に入り組んだ心情描写がカズオ•イシグロさんの好きなところです。 その心情をゆっくりと辿っていくことで物語の世界に没入していく感覚が好きです。 自分が欲しかったもう一つの人生。旅の終わりにそこに辿り着きます。しかし、やっとの思いで辿り着いたそこは既に手遅れの状態でした。 何もかもが完璧に手に入る人生なんてないと思います。選択した先に起こる後悔も自分の人生の一部。 その美しさがこの小説の醍醐味だと思います。
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外国ルーツを持つイギリス人であるカズオ・イシグロがイギリスの伝統を描いた作品。 後に彼が「生きる」の英版脚本を手がけると思うと一層感慨深い作品でもある。 時代の移り変わりで、アメリカ人の主人を迎えた老境の執事。 彼のかつての主人は、戦間期に戦前よりのドイツのlordとの絆からベ...
外国ルーツを持つイギリス人であるカズオ・イシグロがイギリスの伝統を描いた作品。 後に彼が「生きる」の英版脚本を手がけると思うと一層感慨深い作品でもある。 時代の移り変わりで、アメリカ人の主人を迎えた老境の執事。 彼のかつての主人は、戦間期に戦前よりのドイツのlordとの絆からベルサイユ条約を親子の協定ではないと嘆き、ドイツの立て直しのために各国の有力者の結社を作るという立場にあった。 戦中は敵として戦うが、終われば紳士の友情という世界観。だが実際にこういう結社の在り方もあっただろう。 奇しくもこの辺り、キングスマン:ファースト・エージェント見てると実感が湧いてくるというか.. あちらは第一次世界大戦が舞台だし、ロシアの階層ラスプーチンとドイツをぶっ倒せ!という脳筋状態の結社ではあったけど.. 執事らが関与する形で、国同士というか貴族同士の国境を超えた外交(shadow cabinet ならぬshadow Abby)が重要な選曲を握るという状態は面白い。
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夕方は一日の終わりで後ろ向きな印象、前を向くなら日の出の朝がいい気がした。スティーブンスはこれから前向きになれるのか。ジョークを学ぼうとしてるから、前向きではあるのかな。
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AIのような、私情を挟まない完璧な執事スティーブンスが、かつての女中頭のミス・ケントンに屋敷への復帰を打診するために旅をする話。回想形式の部分が多いが、品格ある真の執事を目指して滑稽なまでに淡々と執事業をこなすスティーブンスと周囲との微妙なズレにクスッとさせられる。 スティーブンスは品格ある執事を目指すあまり、主人ダーリントン卿を盲信して、自分で考えて行動することがなかった。そのうちにダーリントン卿はナチスに取り込まれ、無自覚のうちにナチスのイギリスにおける傀儡として利用されてしまっているのだが、周りからどんなにそれを指摘されても、そうとしか思えない指示をされても、スティーブンスはそれに気づかない。最終的にはダーリントン卿はそれを新聞で糾弾されて、名誉を失い人生を終えていく。また、ミス・ケントンはスティーブンスを愛しているのに、それにも気づかず二人のやりとりは空回りとすれ違いばかりでもどかしい。他の人と結婚して、もう今はその夫と共に生きる覚悟をして孫まで生まれようとしているミス・ケントンが奥ゆかしくその頃の思いをほのめかす場面が美しかった。スティーブンスは、敬愛するダーリントン卿も失い、無自覚ではあったかもしれないが愛していたミス・ケントンも失い、自分は自分の判断で行動していたわけではなく主人を信じていただけの品格を欠いた人間であったことに気づき、夕日に向かって涙する。 夕方が一番美しいんだ、と見知らぬ男から言われる最後の場面は、そんな人生の絶望を優しく勇気づけてくれる言葉に思われた。ミス・ケントンに会う直前の「四日目午後」まではかなり長く、というかこの作品の8割くらいを占めるのに、その後記述が再開されるのが「六日目夜」だから、それだけ打ちひしがれていたんだろうなと思うが、最後に見知らぬ人々がジョークを言いながら親交を深めているのを見て、ジョークの練習をしようと改めて思うスティーブンスで締めくくられているのが前向きでよい。
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初カズオ・イシグロ ドラマで観た「私を離さないで」が重くて暗かったので、なんとなく遠ざけていた。この「日の名残り」は静かだが暗くはない。謹厳実直な執事には可笑しみさえある。日の名残りの頃「夕日が一日でいちばんいい時間なんだ」と教えてくれた。今まさに人生のその時間辺りにいる私にはタ...
初カズオ・イシグロ ドラマで観た「私を離さないで」が重くて暗かったので、なんとなく遠ざけていた。この「日の名残り」は静かだが暗くはない。謹厳実直な執事には可笑しみさえある。日の名残りの頃「夕日が一日でいちばんいい時間なんだ」と教えてくれた。今まさに人生のその時間辺りにいる私にはタイムリーな作品だった。
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スティーブンスは父を偉大な執事だったと言う。そう思う理由の一つに、兄を無駄死にさせた将校を完璧にもてなしたエピソードを挙げる。そして自分が仕えたダーリントン卿が外交の深みにはまって溺れかけそうになっていた最悪の瞬間に、自分は執事として最高の車輪の中にいると感じて、幸福感ではなく「...
スティーブンスは父を偉大な執事だったと言う。そう思う理由の一つに、兄を無駄死にさせた将校を完璧にもてなしたエピソードを挙げる。そして自分が仕えたダーリントン卿が外交の深みにはまって溺れかけそうになっていた最悪の瞬間に、自分は執事として最高の車輪の中にいると感じて、幸福感ではなく「勝利感」を得る。正しいことをしたからだとは言わず、品格を保ち続けられたからだと言う。スティーブンスは、主人が間違っていることを知っていたかもしれない。だから、ベンチに座って「ご自分が過ちをおかしたと……言うことが〝おできになりました〟」と泣いたのではと思う。だが、主人に忠告することは「わきまえた」ことではないし、執事としての品格も保てたものではない。主人を信じてはいたけれども、結果として見捨てたとも言える。自分の品格を保つために「正しい」ことをしてきた人生だったのだと思う。当然、女中頭との駆け落ちなどあり得るわけがない。アメリカ人の主人に仕える今になってベンチで泣くことさえ、「執事」としての品格を保った結果だと思う。この悲しさが美しいのだと思っていることも大いにあり得そうである。だが「人生、楽しまなくっちゃ」とアドバイスをもらったのも確かである。楽しい人生だった、でいいのだろうと思う。
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今現在就活中ということもあって、複雑な気持ちになった。あたたかくも痛く苦しくなる。スティーブンスの生き方は後悔するものではないと思うしらしくて好きだが、本人が涙を流すのもわからんでもない。 最後のところ、何度でも読み返したいと思う。 というか全体的に何度でも読み返したい。
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執事という職業に誇りを持ち、人生をかけてきた主人公。そんな主人公が旅をしながら、過去を振り返っていく。 品格とは、他人の前で衣服を脱がないことだと主人公は言う。 執事という衣服を常に身に纏った彼は、父親の死に際しても、女中頭の涙に際しても、執事としての仕事を全うしようとする。 執事としての主人公は、確かに素晴らしいものだった。 だが歳を取り衰える父親に対して、女中頭に対して、執事ではなく一人の人間としてもっと向き合うことが出来たはずだ。あの日、あの時、もっと違う選択をすれば、より良い人生があったかもしれない。 そんな悲しみ、もどかしさを抱えながら、それでも人は前を向いて歩んでいくしか無いのである。人間は完璧な存在ではないのだから。日は昇り、いつか沈みゆく。日が沈む前の夕日を前に、あなたは何を思うだろう。あなたの隣に、ジョークを言い合える存在が居たとしたら、それはどんなに幸せなことだろう。 人生を振り返り、またこれからの人生を豊かにする一助となる一冊。
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