夫婦善哉 の商品レビュー
タイトルだけは知っていて未読だった「夫婦善哉」、たまたま古本屋で昭和25年発行平成元年四十刷の新潮文庫版を見つけて読んでみた(著者は 1947年没で現在は青空文庫でも読める)。夫婦の情愛を描く…と言えば月並だが、蓮葉で気風のいい蝶子と、蝶子と駆け落ちしたことを理由に勘当された実家...
タイトルだけは知っていて未読だった「夫婦善哉」、たまたま古本屋で昭和25年発行平成元年四十刷の新潮文庫版を見つけて読んでみた(著者は 1947年没で現在は青空文庫でも読める)。夫婦の情愛を描く…と言えば月並だが、蓮葉で気風のいい蝶子と、蝶子と駆け落ちしたことを理由に勘当された実家への未練が抜けず、芸者遊びの癖も抜けない実に典型的なダメ男の日々の暮らしを当時の大阪の風俗を折り込みながら描く。商売をやっては失敗し、お金を溜めては(芸者遊びで)散財しの単調な繰り返しにも見えるが、何故か不思議な魅力があり、根強い人気を誇る作品というのはそういうものか。 故郷と京都吉田の不思議な邂逅を描く「木の都」、出来の悪い弟がしかしそれなりに行きていく「 六白金星」、青春時代に好いた文子を追いかけて東京まで行った挙句に手酷くフラれて帰ってきた、その後の希有な人生流転物語「アド・バルーン」、著者自らがナレーターとなり大阪の街や阿部定事件に小説のネタを探す「世相」、最愛の妻の死と競馬の興奮を重ねた「競馬」の 6篇を収めるが、出色はやはり表題作か。 戦中、戦後一貫して大阪の風俗を描き続けた著者は、それしか取り柄のないことに小説家としての限界を感じる(「世相」)が、しかし、世相を切り取り記録することも文学の重要な役割で、こうして今読み返してもいきいきとして魅力的だ。
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オダサク節炸裂。大阪への惜愛が十分に感じられる。数字や地名、職業名が溢れかえった独特の作風はオダサクの目指した具体性を感じられる。
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地名や店名など固有名詞の行列でたしかに独特、最近の作家さんで似たような書き方の人もいた気がするがここまで溢れかえってないよね
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1940年くらいの大阪周辺にいきている作者と その周囲にあるひとたちを描いた作品 大衆のためでない大衆を描くという 現代小説の流れ上流にある作品として価値があるかもしれないが 現在としては技術的に素朴良いところあるけれども 埋もれるつくりであり その舞台に価値を置く時代小説として...
1940年くらいの大阪周辺にいきている作者と その周囲にあるひとたちを描いた作品 大衆のためでない大衆を描くという 現代小説の流れ上流にある作品として価値があるかもしれないが 現在としては技術的に素朴良いところあるけれども 埋もれるつくりであり その舞台に価値を置く時代小説としてしか読めない
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感覚が合うような合わないような。。。テンポの良さは現代でも通ずるが、さりとて刺激的とまではいかないし。「競馬」はよく書けているし、どの短編も面白みはある。
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松竹新喜劇を思い出さる単純なプロットなのに、何度読んでも、何故、心地よい気分がするのか考えてみたい。既婚の男が芸者をしている女と恋仲になり、駈落ちし、ハプニングにあい、苦難な生活をする。そして、やり直し、また、挫折をする。この繰り返しの末、大団円をむかえそうなところで話は終わる。...
松竹新喜劇を思い出さる単純なプロットなのに、何度読んでも、何故、心地よい気分がするのか考えてみたい。既婚の男が芸者をしている女と恋仲になり、駈落ちし、ハプニングにあい、苦難な生活をする。そして、やり直し、また、挫折をする。この繰り返しの末、大団円をむかえそうなところで話は終わる。それだけの人情話だ。 しかし、読み始めると引き込まれてしまう。 この作品は、文章がリズムがあって、ワンフレーズが短くも長くもない。テンポが良い。 実にイキイキした大阪言葉が、リアリズムを支えている。天麩羅の値段まで書き、実在する店舗が昭和初期にしっかりと戻してくれる。 田中康夫『なんとなくクリスタル』がカタログ小説と騒がれた時代より約40年に、書かれていることに注目したい。 昨者は、現実をよく見ている。性格の違う男女が、長く生活していく。男が身勝手で、優柔不断で、持続力がない。まるで子供だ。女は几帳面で努力家。一見、あわないように思うが、女が少し引け目があり、男が理屈ぽく、後先を考えないタイプは、他人が見るより本人逹はしくっくりきていると思う。 私小説ではなく、本当のリアリズムはこういうものだと訴えている気がしてならない。 最終章の蝶子が、柳吉の浄瑠璃でとった2等の座布団の上に座っている姿は、甘味処「夫婦善哉」に飾らてある阿多福に重なって見えるのは、微笑ましい。 短編なのに長編を読んだ気がする作品だ。 谷崎潤一郎の初期作品の大阪言葉が、霞んでしまう。
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又吉さんのオススメ。本当にダメすぎて泣けてくる男性との生涯。でも、ラストのぜんざいのシーンでので泣きそうになるのは、何故だろう。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
何をやっても駄目な柳吉と、彼に折檻するほど怒りながらも離れられず苦労する蝶子の話。 いま流行の共依存などではなく、「この男を一人前にしなきゃ!」という心理が蝶子に感じられるのが、よい。 駄目息子に翻弄される母、という構図が裏に隠れているように思える。 だから何度も借金に奔走して、店を始めたりするのだと思う。 柳吉の「遊びの虫がうずく」という感覚は、よくわかる。 いまの生活が実にくだらない、つまらない、辛気臭い。 それよりも酒を飲んで芸者と遊ぶほうが断然面白い。 そして大事なのは、それをある程度許してくれる蝶子がいる、帰る場所がある、ということである。 かくして柳吉は何一つ成長することもなく、蝶子も見限ることなく、なんとなく善哉を食べるシーンで終わる。 とても素朴で美しいシーンだと思う。 村上春樹の「風の歌を聴け」を少し想起した。 「時は過ぎ去り、大切な何かはいつの間にか失われ、二度と取り返せない。そんなふうにして僕たちは生きている」 という感覚が春樹の持ち味だが、 この夫婦は泣きもせず叫びもせず静かにその感覚を味わっているように思える。 自分たちの若さであったり、肉親の命であったり…。 それが独特の美しさを感じさせるのだろう。 もちろん春樹と比べられて織田作之助は迷惑かもしれないが、この読みはたぶん間違っていない。
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頼りない旦那に逞しい女房という夫婦の話の表題作はやはり面白い。他にもあまり見本的とは言えない家族の話が数編。その中で少し毛色の変わった、作者の少年時代から現在の話「木の都」が好きな作品。
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「楢雄は生れつき頭が悪く、近眼で、何をさせても鈍臭い子供だったが、ただ一つ蝿を獲るのが巧くて心の寂しい時は蝿を撮った」 そんなキュートな書き出しで始まる「六白金星」という作品がたまらなく好き。 何をやっても上手くいかない主人公の半生を描く小品で、話の中での出来事はことごとく悲惨。...
「楢雄は生れつき頭が悪く、近眼で、何をさせても鈍臭い子供だったが、ただ一つ蝿を獲るのが巧くて心の寂しい時は蝿を撮った」 そんなキュートな書き出しで始まる「六白金星」という作品がたまらなく好き。 何をやっても上手くいかない主人公の半生を描く小品で、話の中での出来事はことごとく悲惨。しかし、主人公をみつめる織田作のまなざしは優しく、書きぶりは粋で鮮やかで流石のもの。決して暗くさせない。 繰り返し読んでいるの。
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