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不実な美女か貞淑な醜女か の商品レビュー

4.2

132件のお客様レビュー

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2024/02/20

「いいかね、通訳者というものは、売春婦みたいなものなんだ。要る時は、どうしても要る。下手でも、顔がまずくても、とにかく欲しい、必要なんだ。どんなに金を積んでも惜しくないと思えるほど、必要とされる。ところが、用がすんだら、顔も見たくない、消えてほしい、金なんか払えるか、てな気持ちに...

「いいかね、通訳者というものは、売春婦みたいなものなんだ。要る時は、どうしても要る。下手でも、顔がまずくても、とにかく欲しい、必要なんだ。どんなに金を積んでも惜しくないと思えるほど、必要とされる。ところが、用がすんだら、顔も見たくない、消えてほしい、金なんか払えるか、てな気持ちになるものなんだよ」(14p) これが米原万里の師匠から授けられた「通訳者=売春婦」理論である。以降、米原万里は通訳料金の前払いを胸に刻み込んだという。 ずっとレビュアーの間から高い評価を勝ち得てきた米原万里さんのエッセイを初めて読んだ。通訳のあれこれだけで、1冊を書き通した。訳するということを全方位から解体しながら、面白いエピソードだけで繋いでゆくという荒技を、難なく成し遂げる真の知識人の魅力を満喫した。 本書の執筆は、1994年であるが、74pに、既にPC翻訳の進歩について言及している。 London has knocked some of corners off me. という訳は、「機械翻訳で次のようにまでは処理できる」と、米原さんいう。 ロンドンは私から角の幾つかを叩き落とした。 しかし、それでは意味をなさない。どうしても次のように訳する必要があるという。 ロンドンに来たお陰で角が少し取れた。 これが「機械翻訳の限界」だと米原万里さんは胸を張る。それから30年、いくらなんでも機械翻訳は人間に近づいているんではないかと、iPhone所蔵のアプリで翻訳してみた。以下である。 ロンドンは私からいくつかのコーナーをノックしました。 良かった!全然進歩してない。米原万里さん、未だ大丈夫ですよ。 著者あとがきの後に、文庫本編集者の後書きが載っている。そこに彼女の「絶筆」が載っていた。エッセイでもなく、小説でもなく、本書の間違いを指摘した読者へのお礼の手紙だった。亡くなるたった15日前の誠実な文章だった。米原万里。かけがえの無い人だったのだと思う。

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2023/07/17

うーむ、思っていたのと違ってよい意味での軽い文体感がないかな、個人的には。 これまで読んだこの作家の本はもっとリズムが良かった気がするんですが、体調のせいもあったりしたのかなぁ。。。と思ってみたり。

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2023/05/06

第78回アワヒニビブリオバトル「嫉妬」で紹介された本です。オンライン開催。チャンプ本。 2021.08.15

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2023/04/12

翻訳をしていることから、通訳の仕事に興味を持って読みました。 お話することに大変慣れているような書き振りで、さすが、と思わされる生き生きした文章がぎっしり詰まっています。 あとがき以降に添えられた、絶筆となる手紙の受け答えにも感銘を受けました。

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2022/12/27

【305冊目】著名な日露通訳者による通訳、ひいては言語に関するエッセイ。知人に薦められて読んだが、興味深いだけでなく、笑える!裏表紙に「通訳を徹底的に分析し、言語そのものの本質にも迫る、爆笑の大研究」との紹介は、この手の紹介文にしては正確! タイトルは、通訳をめぐるジレンマをた...

【305冊目】著名な日露通訳者による通訳、ひいては言語に関するエッセイ。知人に薦められて読んだが、興味深いだけでなく、笑える!裏表紙に「通訳を徹底的に分析し、言語そのものの本質にも迫る、爆笑の大研究」との紹介は、この手の紹介文にしては正確! タイトルは、通訳をめぐるジレンマをたとえたもの。原文に忠実か裏切っているかということを「貞淑or不実」と、文章として整っているか否かを「美女or醜女」としている。もちろん最高なのは貞淑な美女だか、現実の通訳では、不実な美女か、貞淑な醜女かの間で悩むことが多々あるとのこと。ちなみに、醜女はたいてい「しこめ」と読むが、本書ではわざわざ「ブス」とルビを振っているあたりから、著者のユーモアと思い切りの良さが伝わってくる。 主に、公共交通機関での移動中に読み進めたが、顔がにやけるのを止められず、マスクをしているためか更に大胆に声をあげて笑うことを禁じ得なかったことも幾度とあった。 しかし、一方で通訳という営みへの洞察は非常に深く、通訳と翻訳の違いから分け入った探求の道は、ときに言語学や哲学の領域まで足を踏み入れている。それでいて、通訳の現場での笑える小咄が最後まで頻回に散りばめられているから、飽きずに読み進められる。 特に印象に残ったのは2点。1つは、「どの国の言語であれ、話し言葉ではこの冗語性、すなわち余計な言葉の含有率が、60〜70%という数字がある。」というくだり。(143頁)そして、この冗語性を上手く利用して時間的余裕を作ることにより、同時通訳が逐語通訳が成立しているとのこと。通訳の中には、逐語的に訳す「貞淑さ」を大事にしている方もいるようだが、それは時に「貞淑な醜女」になってしまうとのこと。とはいえ、貞淑な醜女も必要な場面があると著者は語っている。 私自身は、話し言葉が冗語性にあふれていると知り、話すことへのプレッシャーが少し和らいだように思う。職場環境柄、書いた文章を読み上げているのかと思うような密な話し方をする人もおり、彼我の差に若干のコンプレックスを抱くときもあったが、私の無駄で冗長な話も話し言葉としては合格点なのかもしれないと思えた。 もう一つは、政治から商売から考古学から宇宙から、あらゆる話題を通訳しなければならない通訳者は、新たな現場に出向くたびに膨大な量の勉強を必要とするらしい。これにまつわり、「馴染みの概念から組み立てられた話は、記憶のキャパシティーが驚くほど大きい。ベテランの会議通訳者が、専門用語を一つでも多く覚えることよりも、その専門領域に関する本を少なくとも一冊読み切ることに力を注ぐのは、そのほうが結局その領域全般を理解することに、というこたは、用語を覚えることにも役立つからだ」と述べている。(151頁)これは、未知の分野について、まずは一冊通読するという自分の勉強法と共通するところがあり、「広く浅く」というか、「ものすごーーーーく広く、ちょい深め」に学ばなければならない通訳者の方々と共通することに少し安心。

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2022/12/20

タイトルに惹かれて購入。 顔の美醜、性格の話と思いきやまさかの通訳についての本。 翻訳の正確さと日本語への翻訳の文体の美しさのバランスの難しさが書かれていて面白い。 全く違う文化圏の翻訳だからこそ、互いの基礎が異なるから、ちょうどいい具合の翻訳は本当難しいんだろうな…

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2022/09/04

通訳という知らない世界と職業の方々の仕事ぶりや頭の中を垣間見ることができる一冊。 原文に忠実かどうかを貞淑と不実、訳した文の整いぶりを美女と醜女にたとえていて、ああ確かに不実な美女と貞淑な醜女のどちらがよいかはケース・バイ・ケースなのだろうなと思った。

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2022/06/16

気が遠くなるような資質が求められる通訳の仕事、所謂人間力というのだろうか、機転が効き、豊富な語彙、幅広い知識.....逐一言葉を訳すのでは無く、話者の言わんとしていることを素早く汲み取る力も必要...本当に惜しい人を早く無くしてしまった。今のロシアのウクライナ侵攻について彼女の見...

気が遠くなるような資質が求められる通訳の仕事、所謂人間力というのだろうか、機転が効き、豊富な語彙、幅広い知識.....逐一言葉を訳すのでは無く、話者の言わんとしていることを素早く汲み取る力も必要...本当に惜しい人を早く無くしてしまった。今のロシアのウクライナ侵攻について彼女の見方をどのように発信してくれただろうか。

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2021/12/23

ロシア語の同時通訳の米原万里が、通訳にまつわるエピソードなどを紹介するとともに、同時通訳とは何か、ひいては、コミュニケーションとは何か等の深いテーマについても語った本。 題名が面白い。「不実な美女か 貞淑な醜女か」。同時通訳の現場には通訳のスタイルを決める2軸がある。ひとつは、...

ロシア語の同時通訳の米原万里が、通訳にまつわるエピソードなどを紹介するとともに、同時通訳とは何か、ひいては、コミュニケーションとは何か等の深いテーマについても語った本。 題名が面白い。「不実な美女か 貞淑な醜女か」。同時通訳の現場には通訳のスタイルを決める2軸がある。ひとつは、原語、すなわち発話者の発言をどの程度忠実に訳すか。発話者の発言に忠実に訳すことを貞淑といい、忠実にではなく意訳をしたりしながら訳すことを不実と言う。もうひとつの軸は、訳す言葉の、例えば露日通訳であれば、日本語の表現文章がきれいなものかどうか。文章表現がきれいであれば美女、きれいでなければ醜女。 「不実な醜女」、すなわち、発話者の発言内容を正確に伝えず、かつ、ぎこちない文章で訳すというのは、論外である。「貞淑な美女」が一番良い訳であるが、文化的な背景や物事を表すときの言い回しの仕方が異なる2言語の間では、それはなかなか難しい。勢い、「不実な美女」か「貞淑な醜女」かの間で同時通訳者は迷うこととなる。ではどうするか。それはTPOによる、というのが米原万里の解説だ。例えば、パーティーの席でのスピーチには正確性はさほど求められないが、一方で、座を白けさせないような流暢な訳が、すなわち、不実な美女が求められるのである。一方で、例えば大きなお金がからむ契約交渉の通訳の場では、当然、通訳の正確性が何よりも求められる。文章の華麗さは二の次であり、すなわち、貞淑な醜女が求められる訳である。 米原万里は、本書をユーモアたっぷりに書いているが、本質的には、プロが自分がプロである分野のことについて、かなり分析的に語った、真面目な本である。例えば適当かどうか分からないが、イチローが野球について語り、あるいは、三浦カズがサッカーについて語るのと本質的には同じだ。専門性とは何か、プロとは何かを考えるきっかけになる本であるが、何より通訳者を目指す人が読むと、自分の専門性を培っていくための方法論に関しての大きなヒントを得られるのではないかと思いながら読んだ。

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2021/09/04

「美女」とはすばらしい訳文「貞淑」とは忠実な訳文のこと。 同時通訳者の米原万理がその職業から見えてくる、職人技と心意気とを冷徹な頭脳で看破したエッセイである。また、民族が発生する言葉の裏にある文化を意識させてくれる。 同時通訳ってこんな仕事だったのか!とユーモアがふんだんにあ...

「美女」とはすばらしい訳文「貞淑」とは忠実な訳文のこと。 同時通訳者の米原万理がその職業から見えてくる、職人技と心意気とを冷徹な頭脳で看破したエッセイである。また、民族が発生する言葉の裏にある文化を意識させてくれる。 同時通訳ってこんな仕事だったのか!とユーモアがふんだんにあるこの文章からはじめて知ることばかり。もうこれからはテレビの同時通訳に「わけわからない」などとゆめゆめ思うまい。 専門的なことの裏話も失敗談もおもしろかったが、通訳の常として異なった言葉の架け橋となって異文化を理解しつつ、言葉に対する深い洞察を述べているのがすばらしい。うなずくことばかりである。 実に頭のいい人なのだろうことは、神業に近い同時通訳をしているだけでも尊敬してしまうのだが、時に言葉に論理を与え、時に人生訓のようでもあり、プロローグから「通訳=売春婦論顛末」などとくすくす笑いで読み進めさせる、そのうまい文章にさすがと思う。 その少々硬めな内容をユーモアにつつめる彼女の筆力、早世が惜しまれる。

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